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みずくみ

おまたせしました!

 こんな場所にカメラがある訳でもない。これは判定できないという事で豪華賞品は俺の物かな。


「主様、判定出来ないと思ってますね?」

「何故分かった……」

「判定出来るんですよこれが」

「嘘だろ……?」


 白露の体内時計とでも言うのか……?そういえば俺の時も時間のはかり方は言われなかった。まさか本当に体内時計なのか?


「これです」

「なぜ胸から取り出す……」

「ロマンですよ。女子たるもの一回はやりたくなります」

「そうか……」


 胸から物を取り出す……そんなにやりたいものなのだろうか?大事なのはそれではない。取り出した物だ。

 白露の手には懐中時計が握られていた。懐の中の時計とは書くがまさか谷間に保管されるとは思っていなかっただろうな……。


「主様のタイムもこれではかりました」

「なるほど、それでどう得点を出すんだ?」

「距離−切れるまでの秒数×100です。私の残り時間は0.09秒なので91ポイントです」


 白露が胸を張っているが、そんな事はどうでもいい。よくよく考えればこのゲーム白露に有利に出来ているのでは?

 自分の糸なら切れるまでの時間は大体分かる。それに白露の反応速度なら切れるギリギリに合わせるなど造作もない。


「さて、豪華賞品こと揚げパンは私のものです!はい、拍手〜」

「くっ……」


 白露がドレスの端を持ち上げた後、盛大に揚げパンに喰らいついた。口の端に砂糖が付着している。

 甘味が……貴重な甘味が……。せめて砂糖だけでも食べられないだろうか?いや、流石に人間には超えてはいけない一線が……


「ん〜、美味しかったです」

「……そろそろお昼にしないか」

「そうですね。今日は珍しい物沢山拵えたんですよ」

「そうか……楽しみだな……」


 白露がどこからともなく弁当箱を取り出した。枯れ草のような物で編まれた風情ある逸品だ。

 甘味が食べられないなら別に珍しい物など食べたところで大して嬉しくない。砂糖……砂糖をこの舌に……。


「はい、あ〜ん」

「むぐっ!」

「そんな顔をしてるとせっかくのサンドイッチも美味しくなくなりますよ?」

「……美味しい」


 サンドイッチは美味しい。久しく食べる半熟の卵は至高だ。最後までたっぷり入っているのにもこだわりを感じる。

 確かに珍しい。珍しいがやはり砂糖が食べたかった。決してサンドイッチが悪いわけではない。気分の問題だ。


「仕方ないですね〜」

「っお!?」


 後ろから衝撃が走った。柔らかい感覚から思うに、白露に抱え込まれたのだろう。胸が万能だと勘違いしていないか?


「はい、あ〜ん」

「んんっ……」


 照り焼きサンドイッチは美味しい、美味しいのだが、甘味には代えられない。生まれてこのかた甘味など食べた事がなかった。

 それが目と鼻の先に有ったというのにみすみす逃した。それをすっぱりサンドイッチの口に変えられるわけがないのだ。


「主様、折角のピクニックなんですから笑って笑って」

「むぎゅう」


 白露の手が頬を掴み、口角を上げた。いつまでも駄々をこねている訳にもいかない。切り替えなくては……


「やっぱり笑ってる方がかっこいいですよ」

「そう、か……?」


 笑っている顔が格好いいなんて人間いるのか……?美の観点から言えば崩れている、とか良くて無垢程度のものではないか?


「ええ、かっこいいですよ」

「……ありがとう」

「どうしたんですか?当たり前の事を言ってるだけですよ?」


 白露の表情はいつも通りいや、少しきょとんとしているだろうか?また正面からこういう事を言う……。

 こういう部分にやられたのだろう。いや、絶対にこれにやられた。自分の性癖だ。手に取るように分かる。


「どうですか?サンドイッチは」

「美味しい……やはりサンドイッチは陽光の(もと)でなければ……」

「そうですね」


 チーズとハムが美味しい……こんな味とは知らなかった。昔はこれが当たり前に食べられていたとは信じられない。

 陽光が染み渡る……自然光はいい。厳密に言えば核融合反応を起こす高温の物体からの光ではあるが。


「人工光の元で食べても虚しくなるだけですすからね」

「何故そこまで行間を……」

「顔に出てますよ」


 白露の指が頬に触れた。意外と冷たい。本当に顔に出ているのだろうか?表情が変わらないと思っていたのは自分だけだったのか。


「思っているより顔に出てますよ」

「そうか」

「はい。表情筋が鍛えられてるから老化が遅くなりますけね。良かったですね!」

「そうだな」


 表情筋を鍛えたところで老化が遅くなるかどうかは疑問しかないが、白露が楽しそうな顔をしているならいいだろう。

 青空に適度な雲。そこからから差す陽光、最高のピクニックと言わざるを得ない。既に日は傾いてきているがな。


「さて、テントを貼りますよ」

「泊まりなのか……?」

「……?えぇ、そうですよ」


 白露が胸からテントの骨格を取り出し、水平な地面を探し始めた。一体その胸の中はどうなっているんだ……。

 そもそも普通ピクニックは日帰りでは?いや、エアプ勢の俺が言うことではないか。ひっょっとすると最近は泊まりが普通なのか?


「主様〜」

「あ、あぁ……今行く、少し待っていてくれ」


 白露の居る場所には既にテントの骨組みが立てられていた。これ以上俺が手伝えることがあるのだろうか?


「主様はこのタンクに水を貯めてくれませんか?水場はそこにありますので」

「あぁ、分かった」


次もカットなさそうです

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