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散歩

お待たせしました!

「さぁ、ご飯にしましょうね」

「……いただきます」


 片手だけでは合掌は出来ない。だが、祈りの本質は心。手が無くとも感謝は伝わる。

 白露はニコニコしながらこちらを眺めている。人種間では当然、食事への思いには差が生まれる。

 白露からすればこの挨拶は珍し……くはない。ならば、片手でも尚合掌している儚さに笑みを溢しているのだろう。


「はい、あ〜ん」

「ん……」


 大人しくあ~んしなければ口移しされる。嫌ではないが、そういう事もしすぎると有り難みというものが薄れる。

 何事もメリハリが大事なのだ。そうする事で一つ一つの物事に長く取り組める。にしても本当に美味しい。


「美味しいですか?」

「何故美味しくないと答えると思った?」

「ですよね」


 白露が首を上下に振りながらうんうんと言っている。擦られた肉体言語も白露がやると絵になるものだな……。

 上下に揺られる度に舞う銀白の光、そして目を閉じる事で改めて分かる長い睫毛、腕を組むことによってたわむ胸……芸術だ。


「はい、あ……もうないですね」

「そうか」


 正直胃が限界を迎えていたから助か……いや、そうなるように量を計算して作っていたのだろう。

 普段の白露の並外れた勘、そして朝のような地味だが高い技術。その程度の事は出来るだろう。


「今日は何をしますか?耳かきにしますか?ぱふぱふにしますか?それとも日向ぼっこにしますか?」

「日向ぼっこが気になる」

「核エネルギーが恋しくなりました?」

「……そうだな、そうなる」


 正確に言えば太陽の核融合反応によって発生した熱エネルギーだが。言い方は置いておいて、地下に居れば太陽が恋しくもなる。

 後は自然光下での白露も見てみたい。きっといい目の保養になることだろう。芝生はあるのだろうか?


「そう言うと思ってましたよ」


 腰に手を当てて胸を張り、口をニンマリと開く。いかにも子供っぽい動きだが白露がやると洗練されたマナーにしか見えない。

 こういった現象は何と言ったか?は、波浪効果?そうだ、ハロー効果だ。見た目と言うものは恐ろしいな。


「さて、準備といきましょうか。まずは着替えですね」

「それで、どこに服を置いているんだ?」


 白露が後ろを向いて棚辺りで何か作業をし始めた。俺の目の前で蜘蛛の腹部分が揺れている。糸壷が見えそうで正直目に毒だ。

 糸壺の何がいいのか、だと?これだから魔物娘を知らない人間は……突けば糸が絡みつく……そんな特殊なプレイが出来るんだぞ!?


「あぁ……!!私が作ってますからね。外に出る必要性は感じなかったので同じのしか作ってないんですよ」

「なるほど……いや、それはそれとしてその服はどこに」


 そう、俺は別に服が一着しかない理由を聞いたわけではない。どこにその服が置いてあるのか?ということだ。

 こちらを向いた白露の手には亜麻色のダボッとした服が握られていた。服があるだけでもおかしいというのに亜麻色だと?


「さ、手を上げて、ばんざ~い」

「あ、あぁ……」


 白露に服を着せられた。こんなに甘焼かされる事など何年振りだろうか?もう……11年にもなるのか。


「主様、行きますよ」

「おっと……分かった」


 白露に手を引かれて玄関らしき場所に連れて行かれた。だが、あるべき扉が無かった。

 代わりに何か円状に橙褐色に光る一段低くなった地面が存在していた。……一体何をすれば外出出来るのか分からないのだが?


「さぁ主様、ここに立ってください」

「見るからに怪しい床にか?」

「えぇ、見るからに怪しい床にです」


 笑顔の中からは特に害意は感じられない。本当に大丈夫かどうかは乗った後に考える事にしよう。


「歯を食いしばってくださいね」

「n……!!」


 乗った瞬間、地面が急上昇を始めた。強烈なGが掛かる。歯を食いしばれというのはこういう事か。


「主様、周りを見てください」

「こ、れは……」


 周りを見渡すと眼下に街が見えた。意識をすればこの床中心に魔力的な障壁が発生している上に導線のような魔力が通っている。

 他にも同じような導線が多数ある事を考えるとこの床は移動施設なのだろう。行き先をどう変えるかは分からないが……。

 美しい街だ。中央にそびえる帝国風の城、そこから同心円状に広がる鈍い銀色の建造物群……素晴らしい。


「そろそろ森が見えてきますよ」

「おぉ……」


 眼下で森がざわめいている。一つ一つ色が違う葉が風に揺られる様、見ているだけで寝てしまいそうだ。


「眠くなっちゃいましたか?」

「牧歌的な光景を見るとついな……」

「寝るにはまだ早いですよ?」

「分かってはいるが逆らう事は、ふぁ……」


次も日曜日です!

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