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寝落ち

お待たせしました!


「さて、運動は堪能しましたし帰りますよ」

「そうだな」

「肺の回復早くないですか?」

「何故なんだろうな」


 前々から思っていたがこの体は全体的に性能が高過ぎる。生理的機能が弱い代わりに性能が高くなったのか?


「舌を噛まないように注意してください。戻ったらご飯にしましょうね」

「ん、あぁ……」


 何故そんな注意を?特に舌を噛むような要素があったようには思えないのだが。あと一つ言うなら、準備体操中は下ろしてほしい。


「よし……シャインッ、スパァァァアクッ!!」

「おおおおおおおおおっ!!」


 体に強烈なGが掛かる。どんな速度でジャンプすればこんな速度が出せるのか不思議で仕方な……唇に強烈な痛みッ!!


「よっと……唇を噛んでしまいましたか?はい、これで大丈夫ですよ」


 白露の手が唇に触れた瞬間、噛まれて傷付いた口内粘膜がみるみる内に修復されていった。回復魔法ッ!!

 魔法とは体内で魔力を変質させ起こす現象の名、故に使い手により性質も異なる。人口の1割にも満たない回復属性とは……。


「驚きましたか?」

「……まぁ、な」

「前は驚いてくれなかったので嬉しいです」


 驚かなかった?そんな馬鹿な。人口の1割がそれ程珍しくない界隈などそうそう存在しないはず……。


「さて、ご飯にしましょうか」

「むぐっ」


 昼食を詰め込まれた。この肉特有の食感とマヨネーズの味は……マヨネーズ鶏肉丼か。

 よくこんな場所でマヨネーズのような調味料を入手出来……自作か?自作マヨネーズで作ったのか?


「自作マヨネーズです。主様が寝ている間に最高の配合比を発見したんですよ〜」

「そうなのか……」


 ドヤ顔がかわいい、かわいいがそれは重要ではない。マヨネーズの錬成など数日で出来る事ではない。

 俺は一体何年寝ていた?俺は今いくつなんだ?……あまり気が乗らないが白露に聞くしかないか。


「白露」

「なんですか?はい、あ〜ん」

「ん……美味しい」


 美味しがっている場合ではない。白露も合いの手的にあ~んをしただけだ。聞く意志はあ……駄目だ、次の一手が用意されている。


「ちょ、んむ……マヨネーズとご飯が最高。ではなく質、んん〜、タレもいい」

「それはよかった」


 白露はニコニコしている。だが、その中に確かに圧を感じる。質問は食べ終わってからにしよう。時間はたっぷりある。


「はい、あ〜……もうないですね」

「ごちそうさまでした……」


 古いソファーに倒れ込むと綿があちこちに飛び散った。寝返りですらうてないほど胃が重い。


「主様……お腹を満たしたら何かしたくなりませんか?」

「お腹が重くて何もする気にならない……」

「よいしょ」


 このふさふさした毛と妙に暖かい甲殻特有の触覚、そして頭皮から伝わるゆったりとした指の動き、膝枕か。

 もし動けたのなら最高の状況になっていただろうに……残念ながら膝枕では胃の重さには勝てない。


「ふ〜ふ、ふ~。ふ〜ふ、ふ〜」

「……」


 落ち着いた声が響き渡る。胃が落ち着くにつれて瞼が降りてくる。食後すぐに寝ると牛になるという言……


「おはようございます。いや、こんばんわですかね?」


 目の前がくらい。だが、いい匂いがする。そしてこのふさふさとした感触は一体何なのだろう?

 ……どうやら膝枕をされたまま寝落ちしてしまったようだ。それもこれも子守唄が心地いいのが悪い。


「……今何時だ?」

「6時くらいです」


 6時か……睡眠並に寝ていたというのか。確かに昨日はあまり睡眠出来なかった。だが、それでも長くないだろうか?

 そろそろ起こしてはくれないだろうか?片腕だけで起き上がるなど至難のわ……ざ……


「っ……と」

「……!?」


 白露が驚愕に包まれている。まるでドッキリ企画に出演する人間が呼ばれた時点でそれに気付いたのを見たような……そんな顔だ。

 今何かしたのだろうか?確か白露の膝から起き……片手で起き上がれた?俺に片手で起き上がる筋肉があるというのか?


「主様大丈夫ですか!?」

「あ、あぁ……」

「今日は念には念を入れて早く寝ましょう。ええ、そうした方がいいです」


 焦った様子で俺の顔を両手で挟み、早口でまくし立てた。力が入り過ぎて頬が軋むのを鑑みるに本当に慌てているのがよく分かる。

 白露のこんな顔は初めて見る。そこまで慌てる事なのだ……軋むっ、歯が軋むっ!!


「なら今から湯」

「今すぐ寝てください。早くッ!!」

「え、あ、はい」


 白露にベッドに寝かされた。さっき起きたばかりなのにそう都合よく眠くなるはずもない。というかトイレに行きたいのだが……。


「あの、トイレに行きたいんですけども」

「我慢し……仕方ないですね」


 白露がガサゴソ布団の中に入ってきた。まさか、コップか何かに排泄しろというのか?

 人間の尊厳としては安い方だがあまり進んで捨てたくはない。それだけはどうにかならないだろうか。


「いいですよ」

「……」

「どうしたんですか?」


次も日曜日です!

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