強制合意お世話
お待たせしました!
白露に顔を洗われる事になった。片腕では上手く泡だてられないのだ。しかし、ここで甘えているといつまでも白露に依ぞ……
「主様、いつまでもここに居ていいんですよ。私はずっとここに居ますから、ね?」
「だが」
「はい、泡付けますね」
「……」
否定する隙を封じられた。泡を口に入れるのは健康にも味覚にも良くない。依存というのは恐ろしい。
依存出来ている間は……気分がいい。しかし、相手に愛想を尽かされれば自分の生活が一気に崩壊してしまう。それが恐ろしい。
「はい、出来ました」
「ありがとう」
「お礼は体で……」
白露に顎を持ち上げられた。当たり前といえば当たり前だが身長差が大きい。2mはあるのではなかろうか。
「却下」
「まぁ、夜は長いですしね♡」
「……」
今日も寝られないようだ。最近は眠気も増して久しく昼にうつらうつらしてしまいそうだ。朝に弱いなど何年振りか……。
「ご飯楽しみにしててくださいね♪美味しい物たくさん拵えたんですよ」
「期待しておこう」
こちらに振り返り、少し姿勢を落としてこちらに微笑みかける女が……天使。無邪気に言われると断われない。悲しいなぁ。
「こ、これは」
「少し肉が多いですが……バランス良く揃えました!どうですか?」
「……とても美味しそうだ」
雑穀、野菜、茸、スープ、どれもそれなりの量だ。だが……肉が多すぎる。手羽先、獣肉の丸焼き、魚……。
席に座るとやはり圧巻。これだけの量を俺の胃袋が蓄えられるか?いや、それでも食べなくてはいけない。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
美味しい。野菜と胡椒が意外にも合っている。食欲はあるが胃がついて来ない。一、二口で満腹になってしまう。
「もういいんですか?」
「美味しそうだが……食べれない」
「そうですか……」
白露が残念そうに肉を囓る。蜘蛛の糸はタンパク質で出来ている。だから沢山摂らなければいけないのだろう。
「ん……」
「!?!?」
「大人しくしててください。ん……」
口移しされている。確かに大きさは小さくなっているが、料理の味は楽しめない。唾液から風味は感じるが美味しくはない。
「うっ……ちょっと、休ませてくれ。ごちそうさまでした」
「そうですか……」
どれだけ美味しそうであれ、胃が受け付けないのだ。成長期の白露とは違う。俺の成長期もとっくの昔に終わってしまった。
「ふぅ……よいしょ」
「白露、これは?」
「膝枕です」
「そうか」
毛はふさふさしているが結局は外骨格。硬い枕アンチの身からすればあまり寝心地のいいものではない。
膝枕よりも頭を撫でられている方がありがたい。だが、わざわざそれを言うほど俺は馬鹿ではない。
「寂しい思いなんて二度とさせませんから。私が一生側に居てあげます。これからはずっっっっと一緒です」
「……」
白露の言葉が心臓を掴まれたかのような奇妙な感覚を起こさせた。呼吸は若干辛い。
快ッ感ッ……!!抱かれるのもいい。だが、これはもっといい!!もっと、もっと欲しい!!
息が荒くなる。心臓が甘く痺れている。嗚呼……これだ。この感覚、覚えている。そう懐かs
「白露、ここはどこなんだ?」
「私と主様が二人で生きていく場所です。これからずっと……素敵でしょう?」
「あぁ……それは分かっている。どの世界かと聞いたのだ」
「……天上界、地下。零番街です」
零番街……天上界1から7番街までしかこの世界にはないはずだ。ないはずの零番街、一体どういう事だ?
「少し散策しないか?」
「……出たいんですか?」
「外の様子が見てみたい。何故零番街なのか実に興味がある」
「そうですか……仕方ないですね」
どうやらお許しをいただけたようだ。しかし、外に出るのに許しがいるとはどれだけ危険なのだろうか?
「ごめんなさい」
「っは……!!」
何が……急に意識が消え……頭でもぶつけてしまっ……た……か……。
「おそようございます。お風呂で私にしますか?それともご飯の後に私にしますか?それとも、わ・た・し?」
「選択肢があるようでないのだが?」
変な夢を見ていたせいで寝起きが悪い。そう、重い言葉を聞いて正体不明の快感に襲われる夢だ。
そんな夢を見なければいけないほど寂寥感に見舞われていたのだろうか?……白露に甘えよう。それがいい。
「お腹も空いているでしょうし最初はご飯にしましょうか」
「あぁ……っ」
片手でベッドから起き上が……れない。そのままベッドに落ちる事はなかった。白露が手を掴んで引き上げたからだ。
「大丈夫ですか?」
「お陰様でな」
夕焼け空が見える。だが、そこに生き物の姿はない。夕焼けといえば烏だが……天敵でもいるのだろうか?
「さぁ、どうぞ」
「あぁ……いただきます」
椅子に座り、僅かな麦と獣肉と向き合う。飲み物が牛乳というのに底知れない悪意を感じる。だが量は完璧……素晴らしい。
「はい、あ〜ん」
「ん……」
素材の味がする。品目はみすぼらしいが、美味しい。それに味付けが懐かしい。ずっと昔から食べていた、そんな気がする。
「もう一口どうぞ」
「ん……」
あ〜んは確かに気恥ずかしい。だが、恋人特有の甘い雰囲気はない。介護を受けているのに近いだろうか?
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした。立ちますか?」
「流石に立つ程度は出来る……どうだ?」
「主様は本当にかわいいですね〜。そんなに心配しなくても私はずっと側に居ますよ。よしよし」
白露の胸にぐっと引き寄せられた。依存性のある触り心地と共に心臓の鼓動を感じる。
俺が何を心配していると……愛想を尽かされる事を心配していたとでも?そうだよ。
「さて、お風呂にしましょうか」
次は一週間後です、たぶん




