次の街へ
次も一週間後です
下世話な視線を浴びるのは久しぶりだ。だが、8年間の補正があったとしてもやはり好きにはなれない。
「主様、これを·······」
「神肉を食らうモノ······どうして?」
「これだけ残っていたので拾いました。大事な物なんですよね?どうぞ」
「いや、俺には使えない。白露が持てるなら持っておけ」
遺物は使い手を選ぶ。意味も理由も分からない。そういう物だ。暗い······今はどの辺りなのだろうか?
「1番街からか?」
「ええ、ここなら売れ残りの奴隷達も買ってもらえるし再教育もできるでしょ?」
「あなたも勤勉の街の評判を聞いた口?ようこそ!勤勉の街へ!!」
2番街、通称勤勉の街。ここは擬人であろうと奴隷であろうと等しく労働している······違うのは待遇だけだ。
「使わない正式名称に何の意味が······?」
「偽神に分かりやすいように、だろうな」「なるほど······悪趣味、ですね」
「この世界には悪趣味な奴しか存在しない」
悪趣味な偽神が作った悪趣味な擬人の治める歪んだ世界。良心のある存在はすぐに搾取され死んでいく······。
「到着しました」
「あぁ······下ろしてくれ。今回はアネーモが視察員、俺が奴隷魔獣使いとして工場に潜入する。革命を起こしてくれる······!!」
「はっ!」
「また難しい事を······善処しますよ」
アンテーに頑張らせるのは確定として、まずやらなければならない事がある。潜入する地区長の暗殺だ。
「白露、動けるか?」
「消化はバッチリです」
「行くぞ······暗殺だ」
「ええ」
馬車の外は夜だった。今日は運がいいようだ。この時間帯、この街の擬人は寝ている。
そして、この街はほぼ家屋で埋め尽くされている。地面から生える煙突も今は機能していない。
「目標がどこにいるか分かるんですか?」
「そこの一段高い場所だ。殉神教において権力は分かりやすく誇張するよう出来ている」
「そうですか······理解に苦しみますね」
「敵が居ないなら役に立つ······せいぜい利用してやろう」
俺達を敵と見ていないのだろう。たかだか4人なのだ。無理もない······いや、情報すら伝わっていないのかもしれないなぁ?
「行きましょう!」
「さて、この構造にはお灸を据えてやらなければな」
「えぇ······もちろんです!!」
屋根から屋根へと跳躍し、一段高くなっている屋根に着地、同時に切り抜いて寝室に侵入した。
「白露、少し面倒になるが······死体は傷付けないでくれ」
「?はい、分かりました」
剣を首に突き刺し一瞬で上に振り上げ頭を固定する。これで脳組織以外は無事だ。
「白露、縫い合わせてくれ。心臓を取り出すのはその後だ」
「分かりました」
白露が頭を縫い合わせ、慎重に死体の心臓を取り出し始めた。死体を損壊させたくないのを察したのだろう。ありがたい。
「聞こえるか?」
『はっ!』
「区長を操れば楽だろう?頼んだぞ」
『はっ!』
よし、これで明日から堂々とマッチポンプ出来るというもの。弱者に食われて死んでいけ······クククク、はーっはっはっはっはっ!!
「フフフフフフ······白露、行くぞ」
「はい!」
馬車に戻り目を閉じた。周りからは寝息が聞こえる。だが、それでも眠りに落ちる事はない。
「朝か······」
「ん······おはようございます」
「おはよう。早起きだな」
「主様はちゃんと、ふぁ······寝てます?」
寝癖が付いていても白露は変わらず美しい······少し背が伸びたか?ガリガリだった体も健全になってきている。
「寝てはいる。すぐに目は覚めるが·······」
「段々戻ってきてますね。何よりです」
「水がないのだ。すまない」
「いえ······ふわぁ、きにしないでください」
白露がおもむろに外に出て馬車のそばにある瓶に頭を突っ込んだ。な、何をしているんだ······?
「ふぅ〜!スッキリしました。主様もどうです?朝露を集めたんですよ」
「いや、遠慮しておこう」
目が覚めているのにわざわざ突っ込む必要はない。水のせいでセンター分けのようになっている。
······これはこれで悪くない。だが、個人的に前髪があったほうがいいな。
「おはよう、ございます。今から潜入しておきます······」
「あぁ······頼むぞ」
「大丈夫ですよ。寝ぼけてても俺と違ってアネーモはやる事はやりますから······ふぁ」
アンテーはしっかりやらないのか······死体が綺麗とはいえ不安だ······。なるようにしかならない、か。
「すっかり目が覚めました。今から潜入なさりますか?」
「あぁ······頼む」
「はっ!」
アネーモもセンター分けになっている。水に顔を突っ込むのが若者の流行りなのか?
それなら若者認定されなくていい。むしろしてほしくない······馬車に乗ろう。
「ようこそお越しくださいました!」
「今回はいい労働者も手に入ったの。分かるわよね?」
「えぇ、えぇ、もちろんです。豪華な引き出しを用意しておりますとも·······」
揉み手をした門番が扉を開けた。不愉快な態度もあと数日の寿命なのに最後の最後まで下手にでて死ぬと思えば愉快に見える。
「お前達はここだ」
「入れっ!そして大人しくしていろ」
アネーモに魔獣使いの居る部屋に押し込まれた。押し込まれた、という割には広いが魔獣の檻と布団がその空間を圧迫している。
ワクチン3回目……中々緊張します




