不安
「······」
「退路は既に断ってある」
薄ら寒い······これだけの力と優秀な同士が居てなぜ漠然とした不安が消えない······何故ッ!!
······簡単な事だ。擬人共のうのうと生きているからだ。そう、一匹残らず消せばこんな不安も消えてなくなる。
「······頭を冷やさなければ」
この8年、ずっと漠然とした不安に襲われている。この痛みももう今日で······そう、今日で終わりだ。
8年も待った、それが今更1日や2日増えたところで誤差の範囲内だ。何を今更不安に襲われる必要がある。
「ん〜、おはようございましゅ」
「······もうこんな時間か。朝日でも浴びてくるといい」
「はい·······」
まただ······思索に耽っているだけだというのに夜が終わってしまう。ここ5年ずっと寝れていない。
「この二人はどうしますか?」
「起こすのは10時でいい。初めてのオールナイトは疲れただろうからな······」
「分かりました」
糸電話からは相変わらずどうでもいい話が聞こえてくる······頭がおかしくなりそうだ。
なぜこいつらが生きられている······家畜たる擬人ごときが何を幸せになっているッ!!
「あと一日······一日だ」
「えぇ······頑張りましょう!」
「あぁ······そうだな」
そう、こんな思いをしているのは俺だけではない······自分だけ感傷に浸っている場合ではないのだ。
「······はっ!おはようございます!!」
「なんだよ朝かr······オハヨウゴザイマス」
「起きたか······食事は用意できていない。街に繰り出すなら繰り出すがいい。財布は強奪しているのだろう?」
「いえ······はい、向かいます」
それでいい······過酷な環境に耐えうる体に改造されているからか、味覚も食欲もほぼ無いに等しい。
「主様は行かなくていいんですか?」
「俺はこのミミズで十分だ······白露は行かなくて良いのか?足りないはずだが······?」
「いえ、残した分がありますから」
「そうか······ならば構わない」
本当に大丈夫なのだろうか?白露は何の実験も受けていない上に飢餓状態なのだ。心臓30個程度で2食分カバーできるのか?
「にしても質の悪い心臓ですね」
「やはり一般市民の高次元エネルギーなど雀の涙か······」
「濃厚さが足りないです」
「所詮一般市民などその程度か······」
奴等はあまり加護を受けていない。辛うじて結晶は出来るだろうが······その質は粗悪の一言に尽きる。
それを白露流で表現したのが濃厚さが足りないという言葉なんだろう。
「肉が足りない······出来れば羊肉を調達したいところだ」
「別に私は······」
「白露、これは先行投資なのだ。その気持ちは成長して返してほしい」
「······はい、頑張ります」
こんな白露の顔は見たくはなかった······だが、何もしなければ彼女は申し訳なさを抱え続けていただろう······仕方のない事だ。
「······やってくれたな。擬人の分際で」
「どうしたんですか?」
「······カルウェナンが既に領主に持ち出されてしまっていた」
「そんな·······」
カルウェナンはこの街攻略の最重要理由。ないと分かればこんな街は後回しだ。
わざわざここにいる必要はない。だが、ここまで進めて後戻りすれば······負ける。
「教会騎士団は勘づいているか?」
「検証は始まりましたが討ちもらしと判断しました······脱町者は居ません」
「分かった。続けるぞ」
「了解です」
一瞬不安そうな顔をしたがすぐに会話を拾い始めた。理由が無いというのに居るのだから無理もない。
だが、この街を野放しにする訳にはいかない。中途半端にしておけば気付かれる。そう、奴等だって馬鹿ではないのだ。
「討ちもらしと判断······一体どこまで腐敗しているというのだ」
「なぜ分かるんですか?」
「自作自演、マッチポンプ······言い方はどうでもいいが、擬人からすれば無辜の民を放逐するのを放置している」
「ですね」
きょとんとした顔をしないでくれ······顔が気持ち悪い事になってしまうだろう。
それはさて置き、この事実が意味する事はただ一つ······どこまで生物を馬鹿にするッ!!
「······意図的に放置している可能性が高い」
「それは流石にないんじゃないでs」
「処理が早すぎるのだ······そして、残された家族はより偽神に縋るだろう」
「考えすg」
「本当にそう言えるか?」
黙った······目は口ほどに物を言うと伝わっている。だが、沈黙もまた口ほどに物を言うのだ。奴等は俺達を侮っている。
だから放置してこちらが尻尾を出すのを待っているのだ。罠きかけた気になっていればいい。それが擬人最後の幸福な時間になるのだから……
申し訳ありません。相次ぐテストラッシュで書く暇がなかったのです




