恐慌
次は一週間後になりそうです
「始めるぞ」
「へいへい」
アネーモとアンテーが魔法陣を展開し、町人に扮していた人形が擬人の喉を掻っ捌いていく。
人々は何も分からないまま血を吹き出して死んでいく。それを見た人々は逃げ惑う事もなく頭をかかえて蹲っている。
「しっかり錯覚させろよ」
「分かってるって。お前こそ心臓取ってるのかよ?」
「抜かりない」
穏やかな会話が繰り広げられている中でも抜き取られた心臓が街に血を撒き散らしている。頭を抱えた人々は震えていた。
だが、殺人に恐怖しているのではない。彼等には今まで食い潰してきた奴隷達の悪霊が見えているのだ。
「あのお方も肩入れ激しいよな〜心臓全部白露のなんてさ」
「それだけの実力を見込んでるんだろ。あのお方を疑うのか?」
「そうじゃねぇけどよ〜」
人形達の催す狂乱の宴は終わらない······擬人は今も街中に血を撒き散らし続けている。人形達が松明を手に街を燃やすていく。
「弱かったら糾弾すればいいだけ」
「それもそうか」
錯乱した人々が松明やクワを手になりふり構わず周りの人々を殺してゆく。消化に来た警備隊も暴徒に殺されていく。
人々の心には神への祈りなど無かった。あったのは圧倒的な恐怖だった。恐怖が恐怖を呼ぶ、狂乱の宴は終わらない。
「そろそろ潮時ね」
「ずらかるぞ」
──戻ってきた──
悲鳴が聞こえてくる……見ていなくとも分かる。理不尽を呪う怨嗟の声が聴こえてくる。憎しみの連鎖は今、断ち切る。
全殉神教徒に憎しみすら抱けない程の恐怖を刻み込み、赤子も女も男も、老人も全員、圧倒的な力で殺す。
それを神が許さないというのなら、そんな神はいらない。こんな不健全な世界を許容する神は許さない。
「主様、あの二人場所分かってますかね?」
「おっと······ありがとう」
「いえいえ!」
危ない危ない······連絡を忘れては心臓を回収しそびれるどころか作戦が失敗していた所だ。助かった······。
「聞こえるか?」
『はっ、聞こえております』
「狩場の落とし穴だ」
『了解であります』
これで戻って来られるだろう。あの二人なら探し当てる程度わけはない······そうでなくては困る。
「戻ってこれますかね?」
「来れるさ······目印になる魔力を撒いているからな。気付けなければ困る」
「なるほど」
魔法や魔力強化を実際に行う際、魔力の波長は一定。だが、純粋魔力の波長は違う。
純粋魔力は個々人で魔力の波長がはっきりと異なっている。それを見分けられなければこの先生きていく事は不可能だ。
「主様は魔法使えないんですか?」
「残念ながら魔力強化以外の才能が無かったようでな······ようやく肉体が追いついた」
「魔力強化······いいですねぇ〜。私は回復魔術しか使えませんよ」
「魔力強化は誰でも出来る。そこまで羨む物でもない」
魔力を体に循環させるだけの身体能力の強化と現実を捻じ曲げる魔法とではレベルが違うのだ。
「ただ今戻りました」
「首尾は?」
「30程です」
「滑り出しとしては順調だな」
心臓を受け取り白露に食べさせる。鯉の餌やりのようで楽しいな·······癖になりそうだ。
後4日もあれば健全な成長を迎える事が出来るだろう。作戦決行時に治らないのは残念だが仕方のない事だ。
「疲れただろう。ゆっくり休め」
「はっ、ありがとうございます」
「了解です」
俺も睡眠を取りたい所ではあるが、体が眠ってくれない。まだ実験の影響が残っているのだろう。
「主様は寝ないんですか?」
「脳が睡眠を拒絶していてな······白露も寝てよいのだぞ?」
「睡眠を拒絶······?いえ、大丈夫です」
「成長には睡眠が肝要だ······気にするな」
俺に行われた実験は戦闘人形を作る実験、こうして自我が残っているだけでも奇跡なのだ。贅沢は言っていられない。
「完全なる肉体、自我の喪失······完成させてはいけない」
出来る事ならもっと触れ合いたい。だが彼等は友人ではない······。急にそんな事をすれば困惑するだろう。最悪殺し合いになる。
どこで間違えたのだろうか?どこが違えばあの日々が続いていたのだろうか?教えてくれ······サリア、有紗。
もっと血生臭さを増加させられるように頑張ります!




