変身
お待たせしました
「白露、戻ってきて」
「!?」
困惑しながら戻ってきた。当然だ。こういう場合は相手の集中を切らすために何かしらするのが鉄板。
悪あがきにしかならないけど、攻撃し続けて一瞬の隙を作り何とかする以外、この状況ではまともな手がない。
と思っていた。でも、今相手は動いていない。その上、今仕留める事は出来ない。この状況で出来る事が一つだけある。
「耳貸して、呼吸整えながら聞いて」
「っはぁ……はぁはぁ……」
「どうした?死ぬ間際に愛でも囁いておるのか?気に入らぬ!よりにもよって妾の前で愛を囁くなどッ!不遜も大概にせよッ!お前達の片方を消し去ってくれるッ!その後じっくりともう片方を嬲り殺しにしてくれるッ!」
長々と話してくれたおかげで白露の呼吸が整った。良いことを聞いた。目論見が外れても何とかなりそうだ。
「圧倒的な力の前に屈服し、絶望の中で死ねッ!魂すら残さぬッ!!」
魔力を収縮し、放つ。たったそれだけなのに眼前に迫るこれは濃厚な死の匂いを放っている。
「くかかかかかかっ!灼け死ねッ!!」
当たる瞬間、跳躍する。眼下で街が一つ消し飛んでいる。奴は死体を探して動き回っている。こちらには気付いていない。
「……小癪な真似をしよって!!じゃが、次は逃げられぬ。今度こそ死に晒せッ!」
白露は隕石を落とせる。正確には、武器にそういう機能が付いている。前に6番街領主に使った時には通じなかった。
それに、隕石でトドメを差してしまうといずれ復活してしまう。だから忘れてたんだろう。だが、今は状況が違う。
「シャルルッ!!」
「隕石?くかかかかか!妾にそんなものが当たるわけがなかろう。避けるまでもないわ」
確かに、こんな街一つ覆える大質量隕石は避けようとするだろう。加速度を考慮して落ちるまでに30秒はかかるだろう。
そんな時間的制約、問題にならない。未来の先取りは今の軌道のまま進んだ場合の結果が手に入る。
そして、動きの制約を受けるのは未来を先取りした対象……隕石に限られる。それはつまり……
「お前はここで終わりだって事だ!!お前はただのカスとして、ここで死ねぇぇぇぇ!!」
「くかかか……何を言って、な、なぜ全身にこれほどの損傷が……!!う、動けぬッ!」
当たった!全身に罅が入っている!!……?奴の水晶の中……何かある。本体っ!!この姿は変身した姿なんかじゃなかったのか!
「白露!」
「しっかり踏みしめてくださいねっ!ふんっっっ!!」
「ぐっ!ぅぅぅぅ!!」
身体への負荷が尋常じゃない!しかし!そのおかげで目前に本体が迫っているッ!この速度で刺突されてただで済むはずがない。
「何じゃ?っ……!!来るな……来るな!来るな来るな来るな来るなぁぁぁぁ!!」
奴がこんなに動揺するのは初めてだ。そうか、本当にただでは済まないらしいな。体を無理やり引き摺っているが、もう遅い。
「ぎゃぁぁぁあぁぁぁあぁぁあ!!」
「ぁ、がっ……!かはっ……うぐっ……」
全身が猛烈に痛い……首が折れてるし肋骨も終わってる。傍から見れば凄まじい事になっているだろう。
だが、こっちには白露が居る。どんな惨状だろうと命ある限り何とかなる。だが、偽神は違う。呪具の傷は修復不可能。
「はぁはぁ……ごほっごほっ!、良くも……やってくれたのぉ……」
「ま、だ……」
「このような……醜い姿に……しよって……美と勝利の女神である……この妾を……絶対に許さぬぞ!このドブカス共が!!」
まだ、動けるのか。ここからだと地面しか見えない。だが、大きく傷付いているのは間違いなさそうだ。
「そうですか。これから死ぬ貴様に一体何が出来るのか、教えてもらいたいですね」
「が、ぁッ……!!」
「ふぅ……主様!今治しますからね!!」
「おねが……い」
ちょっと待ってなんで体掴んだ。まさか、複雑骨折してる体をわざわざ真っ直ぐにするつもりなのか?それ大────
「っは!」
「体は大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫。それよりも記憶が少し飛んでるみたいで……何があったか」
「今はそれより大事な事があります。死体を確認しに行きましょう」
そうだ。死体の確認をしないと。体はよく動く。さっきよりも調子がいいくらいだ。ただ、怨念はリセットされている。
これからしばらく虚仮威し程度の攻撃しか出来ない。死体をバラバラにするのも手間取るだろう。
早めに出します