飛んで巣に入る
就活が終わり申した
「主様、手貸してくれます?」
「……後で返して」
「倍にして返してあげますね♡ふぅ──アミノハバキリ・彼方」
主様と私の混じり合った魔力を纏った矢を天に向けて放った。能力が能力……街の構造的に教会に引きこもらざるを得ない。
と普通は考えるけれど、私はそこら辺の女とは違う。私達がどこに居るのか把握出来てようと無駄……なぜなら。
「追いなさい」
「ご、っ!!」
まず、力の弱いものには無数の矢が突き刺さって死ぬ。そして、私の糸でできた特別製の矢が力の大きいものめがけて飛んでいく。
そうして出来る光景はまさに伝承で見たような地獄そのもの。擬人の死体は罪人達が責め苦を浴びせられている様によく似ている。
「主様♡んちゅ♡ちゅっ……♡」
「ん……んん」
状況が飲み込めずに現実逃避をしている様もとってもかわいい〜。首に片腕を回して一生懸命抱きついてきてる。
かわいい〜。主様の体に手を回して抱き締めやすくしちゃう〜♡はぁ……絶対に勝てないのに挑んでくる……まさに邪魔の極み。
「シィィィィィィイ」
「ぁ、ぁぁ……」
「んちゅ♡ちゅっ♡ちゅっ♡」
「が、ぁっ」
領主はそろそろ殺せただろうか?愛をいくつにも分けるなんて気に入らない。そんな中途半端な事をするから弱いんだ。
領主本人は恐らく戦えない。自分の力を分け与える能力の関係上、素の戦闘力自体はあるかもしれないけど、技術は確実にない。
愛を集中的に戦闘のスペシャリストに注ぎ込むのが最高な形……なのにわざわざ分割してそこそこの雑魚を量産するなんて……
「ふぅ……ぎゅうううう♡」
「んぇ」
「かわいい♡かわいいですよぉ♡ぎゅううううう♡っと……はぁぁぁ」
そういえば面倒なのがまだ死んでいなかった。でも、面倒なだけだ。どこをどう攻撃すればいいのかわかる。
「……よちよち♡どうちたの♡あぁ……なるほど。そっかそっか。」
「ぎ、っ!!はぁはぁ……」
「チッ」
呆然としているということは知り合いだったということ。主様の意識は私のものなのに注意を向けられやがって。気に入らない。
アミノハバキリが防がれた?吹っ飛んでいるからエネルギー自体は伝わってるはず。傷が極限まで小さくなった?
「こ、ォッ!!」
「んちゅ♡んちゅううううう♡」
周りを飛び回る虫を叩き潰し続けて主様とキスをする。顔がとろんとしてきた。かわいいい。
まだ倒れないのか?しつこい……片腕だけでは主様を甘やかすのには足りない。空気を読んでそろそろ倒れろ。
「ん!んん!!」
「んちゅ♡何にも心配はいりません。大丈夫でちゅよ~♡」
諦めたのか教会並の大きさにした石を飛ばしてきた。でも、ここで大事なのはどう石を砕くかじゃない。
主様が怖がって正気を取り戻しかけているから何とかするのはもちろんだけど、今重要なのは攻撃が雑になっているという事。
攻撃の向き……つまり私の背後には領主がいないということを攻撃が雄弁に語ってくれている。
「シィィィィィィィ」
「こっ、がっ」
肌で感じる気配を頼りに邪魔な羽虫を地面に叩きつけ、がれきに埋もれさせる。どれだけ被害が小さくなろうと関係ない。
そんな大きさならがれきに埋もれるだけで酸素が遮断されるのは明白。そろそろ我慢できない頃だ。
「姿を見せたな」
「ごべらぁっ」
我慢できずに元の大きさに戻った羽虫の腹部を貫き、首を折る。勝っ……おかしい。柔らかすぎる。
ここの人間は入った時より確実に強化されているはずなのにこんなに簡単に腹を貫けるわけがn
「ははは……ごぼ!かかっ……ぐぶっ!たな。原子レベr──」
「……!!」
思い出した。こいつは有名な脱獄囚だ。能力を制限する技術は未確立……こいつのような能力なら簡単に逃げられるだろう。
脱獄の快感が忘れられなくなったか?まぁ、そんなのはどうでもいい。一般人だと分かってしまえば……
「シィイィィイィイイ」
「ぁ──」
「はぁ……主様〜♡終わりまちたよ♡ちゅっ♡ちゅっ♡」
さて……こいつが場所を教えてくれた事だし、矢の方向を変えてさっさと残党を殲滅するとしm
「おっと……」
「ご、ぁ、ぁぁ!!お、前……何故……たした……しあわ……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
「私達の幸せの邪魔をするからですよ?ここの下等生物達だってそうでしょう?貴様らが邪魔をしなければ今も主様とひっそり暮らしていたのに……シィィィィイイ!!」
「ぁ……」
はぁ……さて、終わったかな?さて、これでしがらみはぜ~んぶ無くなったことだし主様と祝いの交尾を……
「……!!よしよし。大丈夫ですよ♡んちゅ♡ちゅぱっ♡れろれろ……♡」
「ぐ、ッ……よくも……よくも」
街に放った矢を全て首にぶつけても倒れない。ぶつける前にも既に無数の矢が刺さっていた。それなのに死なない?
主様を抱えながらで勝てるか?いや、主様は今、戦場で打ちのめされた所を私に付け込まれて混乱しているだけだ。
主様を降ろしてしまったら正気に戻ってしまう……主様を甘やかす片手間に以外の選択肢はない。
「よくも……私の楽園を……私の愛の園を」
「ッ……っと♡よしよし♡ゆれちゃったね」
「ご、ぉ」
街の人間全員に分け与えた力を取り戻しているだけあってやはり早い、早いのだけれど私からすればランニング中にしか見えない。
そんな速度でまっすぐ突っ込んで来たところで地面に叩きつければ終わり。確かに他の追随を許さない圧倒的な身体能力がある。
それこそ掠っただけで私の上半身が吹き飛ぶ程の力が……で・も、速度が足りない。
「んちゅ……ちゅっ♡帰りましょうね……♡」
「か、ァッ……はぁ、はぁ……F……ごぉっ!!」
「もう大丈夫でちゅよ〜♡安心していいでちゅからね♡」
「が、ッ……ご……ぎ、ッ……」
延々と浮遊するように魔力を纏わせた呪具を振るっているのに倒れない。無駄に耐久力がある。
領主の面倒臭さと異常な力……シンプルイズ面倒臭いの極み。その証拠に今も力で無理やり復帰しようとしている。
「あ、ご、ッ……ぎィッ……」
「んちゅ……♡ぎゅうううう♡帰りましょうね♡」
「ご、ぁ……まだ、死、ィ――」
ひと月以内に出します