予言者とUFOと侵略戦争
その予言者は当初、ただの狂人扱いされていました。しかし、予言通りに複数の大型未確認飛行物体が大都市の上空に現れてから、各国首脳は手のひらを返して彼に接触し、助言を乞いはじめました。
人類の数百年先を行くであろう科学技術を持ち合わせた宇宙人の苛烈な侵略も、彼の未来予知のおかげで何とか次々と先手を打つことで辛うじて対抗することができたのです。
数か月に渡る攻防の末、ついに諦めて撤退を始めた様子の宇宙船を前にして、涙を流し手を取り合って喜ぶ人類。しかし安堵していた彼らに、予言者は重大な発表があると告げて、全世界に中継を繋ぐよう要求しました。
「……まずは皆さん、大変お疲れさまでした。これだけの大規模な戦争を行いながら、たった一人の死者さえ出なかったというのは、私の予言を信じ、全人類が協力してくださったからこそ成し得た奇跡だと思っています…………だからこそ、非常に申し上げにくいのですが……私は皆さんに嘘を吐いていたことがあります」
「……実は私も、あの宇宙人の仲間なのです。ああ、くれぐれも早まったことをしないでくださいね。できれば危害を加えたくないので。さて、順を追って説明しますと……皆さんが先日まで必死に戦っていたのは息子が夏休みの自由研究で作った宇宙船のオモチャなんです。せっかく一生懸命作ったのだから、実際に動かしてみたいなんて我儘を言い出しましてね……まあ、たまには家族サービスをしてほしいなんて妻にも催促されたものですから……」
「でも、さすがに死人が出てしまい、息子のトラウマになってしまうと困るでしょう? だから予言者という形で皆さんのサポートをすることにしたんです。できればもう少し文明が進んでいると有難かったんですけど……まあ、そんなことを言っても仕方ないですね」
「おかげさまで息子も十分満足したようですし、多少建造物や自然を破壊してしまったみたいですが、死者も出なかったようですし、皆さんにとっても地球外生命体により侵略の良い訓練になったのではないでしょうか」
「では、そろそろ迎えがくるころなので、失礼しますね。できるだけ阻止したいとは思うのですが、一応、念のため、来年の夏に備えてもう少し科学を発展させておいてもらってもいいでしょうか。これは予言というより、あくまでも私からの忠告です」
屋外でスピーチをしていた彼の真上に、今まで全地球軍が総力を結集して戦っていた宇宙船の、数千倍はありそうな巨大戦艦が現れ、降り注ぐ光に包まれて、笑顔で手を振りながら予言者は去って行きました。
当然のことながら、その場に居合わせたものは誰一人として、手を振り返す気力など持ち合わせていませんでした。