ええ?絵姿のカード??それにファンクラブ?驚いたわ。
フローラ・フォルダン公爵令嬢は、友のマギー・エスタル伯爵令嬢と、休日、王都でショッピングを楽しんでいた。
マギーが思いだしたように。
「そう言えば、ローゼン様の絵姿のカードが発売されているってフローラ様。知っていました?」
「噂では聞いたことがあるけれども、どんな物か見た事がないわ。」
「でしたら、買いに行きましょう。興味ありますでしょ?」
「それはもう、ローゼン様がどのように描かれているか、興味があるわ。」
ローゼンシュリハルト・フォバッツア公爵。マディニア王国一の美しさで有名な金髪碧眼の騎士団長はフローラの婚約者でもあった。
愛しい婚約者がカードになっているという事は噂で聞いていたけれども、どんな物か見て見たい気もするわ。
少し離れてついてきている、メイドのサラと護衛のルシア。
メイドのサラに向かって聞いてみる。
「ローゼン様のカードを売っているお店はどこか、サラ、知っているかしら?」
「ここを右に曲がって先にある赤い屋根の店がそうです。」
「ありがとう。さっそく行ってみましょう。」
マギーと共にそちらへ向かえば、赤い屋根の店は女性客であふれていた。
青い屋根の隣の店は男性客が何故か沢山いる。
ふと、右側を見れば、見知った青年たちに出会った。
「あら、よく会うわね。クロード。それからギルバート様にカイル様。」
3人の青年は焦ったような顔をして。
クロードが慌てて聞いてくる。
「こんな所になんの用だよ。」
「あら、慌てている所を見ると、このお店は何かしら…?」
マギーがマジマジとその店の看板を見て、
「ギルバート様ったら、このような物に興味を??」
胸の実っている女性達の絵姿がランダムで封印されているカードを販売している店だった。
ギルバートはマギーの婚約者である。
ギルバートも慌てて。
「付き合いだよーー。同期の騎士達で、胸の実った女性のカードを交換する会っていうのがあって、収穫祭って言うんだけど。ちゃんとカードを持っていかないと付き合いが悪いって言われるんだ。」
カイルが袋を開けて、クロードに何やら話しているのが聞こえてきた。
「これ、レアだよ。レア。胸が…胸がぁーーーーー。」
「凄いっ。レアだよね。いいなぁ。」
フローラがチラリとクロードを見やり。
「奥様に言い付けますわよ。」
「グリザスさんは知っているからいいんだよ。」
クロードは新婚さんである。(相手は死霊の黒騎士で男性であるが)
今、幸せ絶好調だ。
まぁこんなアホどもは、ほっておいて、フローラはさっそく赤い屋根の店で売っているローゼンのカードを買う事にした。
マギーはギルバートとイチャイチャしているようなのでそのままにしておいて。
女性達が群がって、10枚入りのローゼンの絵姿カードの袋をあさっている。
ランダムに封入されているので、どんな絵姿が来るのか解らないのだ。
フローラが5セット程、手に取ると、隣で袋を見ていた女性に怒られた。
「ちょっと、貴方。一人3セットまでって書いてあるのが見えないの?」
「ごめんなさい。数量制限があるのね。」
「そうよ。私達、ローゼン様ファンは、お店にも迷惑をかけてはいけないのよ。」
「解りましたわ。」
「まぁ、私などはローゼン様ファンクラブの一員に晴れてなった新参者ですけれど。」
フローラは驚いた。
「ファンクラブなんてあるんですの?」
「ええ、そうよ。なかなか入るのも大変で。ローゼン様への愛が深いと認められないと入れないのよ。でも、貴方みたいにルールを破って5セットを買ってはいけないわ。」
「反省しているわ。」
他の女性達がこちらに来て。
「ローラ。早く買って、交換会しましょうよ。」
「そうよ。レアが入っているといいわーー。」
フローラは驚いた。
「交換会なんてあるんですか?」
「ええ。良ければ隣のカフェで行う交換会に入れてあげてもよくてよ。」
「是非。よろしくお願いしますわ。」
フローラは、カードを買うと、離れた所で控えているサラとルシアに理由を話して、
二人にカフェに入って貰い、離れた席でお茶をして待って貰う事にした。
女性3人と共にフローラはカフェに入り、交換会に混ぜて貰う。
女性達は自己紹介をまず始めた。
「ローラ・シャルナーク。シャルナーク商会の娘です。」
「レディナ・ミルトン。ミルトン男爵家の令嬢ですのよ。」
「ミレーユ・ナテラ。劇団で女優をしておりますの。」
男爵令嬢に、商人の娘、女優だなんてなんてバラバラな身分というか…
フローラは驚いた。
「私は…」
とっさに姓を偽る事にした。
「フローラ・アイルディン。アイルディン伯爵家の娘ですわ。」
アイルディン伯爵家…確か子沢山で、娘が大勢いたはずだから、それに、王立学園でこの男爵令嬢を見た事がない。王立学園に行く金が無くて、他の学園に行っているのであろう。
「まぁアイルディン伯爵家の。」
「凄いですわ。」
ローラが皆に向かって。
「それではカードを交換しましょう。」
皆、袋からカードを出してどんなローゼンの絵姿か確認する。
白銀の鎧を着けている騎士の姿。
黒と金糸の貴族服を着て正装している姿。
ゆったりとしたガウンを着てくつろいでいるような姿。
馬に乗って走っている姿。などなど。
まぁ、凄いわ。この絵師、上手ね。でも、どれがレアなのかしら…。
ミレーユがいきなり叫んだ。
「やったーーー。レア、出たわーーー。」
上半身裸でシャワーを浴びているような姿。とても色っぽく描かれている。
フローラもその絵姿に釘付けになる。
「まぁ、凄いわ。羨ましい。」
「そうでしょ。そうでしょ。でもこれは交換しないわ。めったに出ないレアなのよ。」
他の女性達も。
「羨ましいわ。ミレーユ。」
「私もレア出て欲しかったーー。」
しばらくカードを見せ合って、交換したりして。
ひと段落すると、お茶を飲み、ケーキを食べながら、いかにローゼン様が素敵か3人の女性達は話をしだした。男爵令嬢のレディナが。
「前に王宮の庭で行われた演武会。ローゼン様の演武は素晴らしかったと、聞きましたわ。」
ミレーユがうっとりと。
「見たかったですわーー。平民じゃとてもじゃないけど演武会場に入れませんし。フローラ様はどうでしたの?」
フローラは思い出す。あの時は勇者ユリシーズに出会った事で、見逃したんだったわ。
「去年の演武会の事ですわね?私も用事が入ってしまって、見ることが出来ませんでしたわ。」
商人の娘、ローラが。
「でも、演武会に招待されていたのでしょう?伯爵令嬢ですもの。羨ましいですわ。」
皆に、羨望の眼差しで見られる。
レディナが思い出したように。
「ローゼン様の婚約者の女性って、フォルダン公爵家のフローラ様。凄い我儘らしいわよ。王弟殿下令嬢のマリアンヌ様の婚約者であったローゼン様をフォルダン公爵家の権力を使って無理やり奪って…」
ローラも頷いて。
「酷い女よねーー。ローゼン様も気の毒。二度も婚約者を変更されて。私なんて慰めのファンレターを毎日、騎士団事務所に送っていますわ。」
ミレーユはケーキを食べてから力強く。
「私も私も。ファンレター、毎日送っていますのよ。そう言えば、ローゼン様って童貞のうわさが…。ああああ、私なら慰めて差し上げるのに…」
レディナがミレーユの肩を叩いて。
「やだっーーー。ミレーユって大胆っ。」
フローラは思った。
このテンションについていけないわ…。まぁ、確かにお父様に頼んで無理やり、ローゼン様と婚約を結んだのは確かなのだけれども。
レディナがため息をついて。
「ああ、王宮の夜会…。私、社交界デビューまだなのよ。男爵家でも夜会に出ることが出来るから、遠目でもローゼン様が見れるかもしれないわ。」
他の二人の女性達が羨望の眼差しで。
「いいな、レディナ。」
「私もローゼン様を見たいーーー。」
レディナはえへんと胸を張って。
「いいでしょう。ああ、フローラ様は王宮の夜会に出た事あります?」
「え?ええ。まぁ…」
「それなら、ローゼン様を拝見した事あるでしょう?」
「それはもう…美しかったですわ。」
婚約者だから、拝見どころではない…。エスコートから、ダンスから…もう、甘々に甘やかして貰っているんですけど…
それに…ローゼン様の素っ裸を見た事がある身と致しましては…(婚前交渉に及んだわけではないのよ。)
絵姿以上に美しかった…でも、あのシャワーのローゼン様のカード、欲しいわーー。後でサラとルシアにも3セットずつ買って帰って貰おうかしら。
レディナがフローラに。
「フローラ様もローゼン様ファンクラブに入りませんか?会長に認められなければいけませんけれども。認められれば、ローゼン様の日常がこまごまと書かれているローゼン様日報とか、ファンクラブ通信とか、王都のフォバッツア公爵家の前で写真を取ったり、騎士団入り口の門の前で写真を撮る事が出来るツアーとか、色々と楽しめますわ。如何です?」
何それっーー。凄い怖いっ…いえいえ、何だか萌えるわ。って会長って誰よ。
「あの…会長ってどなたですの?」
「アンリエッタ・シャルマン公爵令嬢様ですわ。」
あ、あの女ね。って私の顔知られているし、ローゼン様と別れろと言ったあの女じゃないっ。
こんな(萌え)ファンクラブ立ち上げてたなんて、油断も隙もあったものじゃないわ。
「ええ。喜んで。今度、会長様を紹介して下さらないかしら?」
ローラ達は、フローラに向かって嬉しそうに。
「ええ、こちらこそ。紹介して差し上げますわ。」
「仲間が増えて嬉しい。フローラ様。よろしくお願いしますわ。」
「一緒にローゼン様を愛し抜きましょう。」
「え、ええ…そうですわね。」