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次元電神グレートマックス  作者: ごしいちご
第1話 始動 ~鎌腕食人種シックルリザード 登場~
4/4

変身! グレートマックス!

 「食わせろ……食わせろ……」


 異形の姿――食人種となってしまった鮫島は、くぐもった声で人語を話しながら、ゆっくりとクラスメイト達に近づいてくる。その呼吸は荒く、まるで本当に飢えているようだった。


 「さ、鮫島が……!」

 「そんな……こんなことが、現実におこるわけ……」


 人間が化け物に変化するという事態を受け入れられない生徒たち。

 しかし現実は非情だ。化け物は確かに目の前にいるし、その化け物は確かに彼らのよく知る人間だった。


 「ば、化け物……!」

 「来るな! 来るなあっ!」


 大きく四つに分かれた巨大な口を開く、食人種となってしまった鮫島。明らかに、クラスメイト達を捕食しようとしている。


 「く、くそおおおっ! し、死ねえええっ!」


 竜也がみんなを食べようと迫ってくる鮫島に向けて拳銃を発砲する。

 しかし、化け物となった鮫島に、銃弾は全く効かない。

 何発撃っても結果は同じだった。


 『はーい、そこの君、食人種には拳銃くらいじゃ傷をつけられませーん! でも腕か足を一本食べさせてあげるとおとなしくなりまーす! すごーく経済的でーす! ただし二十四時間だけ』


 ベリガブラーの口から食人種に関する恐ろしい事実が明らかにされる。


 「うがああああああっ!」


 食人種となった鮫島は、強烈な空腹による衝動をぶつけるように巨大な鎌に変化した腕を振り下ろす。その場にあった机が真っ二つになる。

もはや拳銃やナイフでどうにかなる相手じゃないことは明白だった。

 

 「お……おい……どうするんだよ!」

 「だ、誰か食べられてよ!」

 「お前あの箱最初にあけたよな? お前が食べられろよ!」

 「な、なんでだよ! お前もだろ!」

 「誰でもいい! 腕の一本ぐらいいいだろ!」


 誰が食人種となった鮫島に食べられるのか、醜い押し付け合いを始める二年三組の生徒たち。


 (ああ……あああ……!)


 人を食べる恐ろしい異形の化け物となったクラスメイト。

 さっきまで友達だった人を犠牲にしようとするクラスメイトたち。

 何もできない自分。

 静香はこの地獄のような状況に絶望した。

 立つ気力すらも失い、崩れるようにして床に座り込む。


 もしも、希望があるとすれば……


 「グレートマックス、鮫島君を元に戻せそうか?」

 『保証はできない。理論上は可能だが、後遺症が残ることもある。それに、できれば直接接触してあの怪人の構造を解析する必要がある……できるか、カオル?』

 「ああ! ……行こう! グレートマックス! これが俺たちの初陣だ!」


 左手から響く電子音声――グレートマックスと話をしながら冷静な態度を崩さない少年・天野薫。今もこのグレートマックスという謎の存在と一緒に、何か対策があるようなことを口にしている。

 この地獄のような状況を何とかしようという、熱意にあふれている。

 もしかしたら、彼が何とかしてくれるかもしれない。


 「天野……天野くん!」

 「橋本さん?」


 涙で顔をぐちゃぐちゃにした静香は、座り込んだまま縋りつくようにして薫の手を握る。


 「助けて……私たちを……助けて……!」


 今まで何も考えずにおもちゃにしていた彼に、冗談で命を奪いかけた彼にこんなことを頼むのは虫が良すぎるかもしれない。本当なら、今まで迷惑をかけてきた彼に代わって自分が犠牲になるべきかもしれない。

 でも、静香にはその勇気がなかった。

 だから、こうやってお願いするしかなかった。


 「お願いします……何でも言うこと聞くから……私たちを、助けてください……!」

 「橋本さん……」


 薫はしゃがみこむと、座り込む静香に目線を合わせて、安心させるように両手で彼女の手を握り返す。


 「大丈夫。俺とグレートマックスが、何とかするから」


 やはり、静香の知っている今までの薫とは雰囲気がまるで違う。

 こんなに意志が強くて、優しさにあふれて、頼もしさを感じる人物ではなかった。


 静香の手を離した薫は、食人種となった鮫島に対峙した。


 「コネクション!」


 叫び、薫は両手を交差するようにして前に突き出す。

 金色と銀色のブレスレットに埋め込まれた水色のクリスタルに右手をかざす。

 クリスタルが水色に輝く。

 同時に、薫の体も青い光に包まれる。

 髪は銀色に、目は金色に輝く。


 「アジャスト! グレートマックス!」

 

 薫の『変身』が始まった。

 大きく両手を広げた薫の周囲に、無数の水色のクリスタルが出現する。

 ウエットスーツのような黒いスーツが薫の全身に張り付き、その上に金色のラインが入った銀色の装甲が装着される。

 頭には西洋の騎士の兜に似た、金色の目と金色のV字型の角を持つフルフェイスのヘルメットがかぶさる。

 最後に、薫の周囲を漂うクリスタルが全身を覆う装甲に埋め込まれ、変身は完了した。


 『おーっと! 現れました、お邪魔虫の次元パトロールシステム!』

 『今の俺はグレートマックスだ! ベリガブラー、これ以上お前の好きにはさせない!』

  

 天野薫と一体化したことで、実体を得た次元パトロールシステム1378号。

 その姿は、まさに天野薫が憧れた変身ヒーロー。

 正義のため、平和のため、人の命を守るため、人々の希望となる存在。

 その名は、グレートマックス。

 今ここに、二年三組の生徒たちを救うべく新たなヒーローが誕生した。


 「天野も……変身した……」

 「嘘だろ……夢でも見ているのか……?」


 鮫島に続いて薫も異形の姿に変わる。非現実的な事態の激しい状況の変化に、一部のクラスメイトは理解や判断がついていけなくなる。


 「足りない……おなかすいた……食わせろおおおおおおっ!」

 

 食人種となった鮫島は、飢餓感に苦しむようなうなり声をあげてグレートマックスと一体化した薫に襲い掛かる。両腕の巨大な鎌を振り上げる。


 「天野君! 危ない!」

 『なんのっ!』


 静香の心配は杞憂に終わった。

 変身した天野薫――いや、グレートマックスは巨大な鎌の根元、鮫島の両手首をつかんだ。


 『解析開始……!』


 グレートマックスは直接触れた部分から、食人種と化した鮫島の構造の解析を開始する。

 

 『うおおおおおおっ!』


 解析が終了するまでの間、グレートマックスは食人種の強力なパワーに耐える。薫と一体化したことにより得た人間の感情の力も借りて、グレートマックスはスペック以上のパワーを発揮する。

 すべては鮫島を、そしてクラスのみんなを助けるため。


 「頑張って! 天野君! グレートマックス!」


 たった一人、応援してくれる静香の声が、食人種のパワーに押し負けそうになるグレートマックスをギリギリのところで支える。


 『解析完了! ここから反撃開始だ!』


 ついにグレートマックスによる食人種の解析が完了した。

食人種の存在構造は細かく解析され、人間に戻すための応急プログラムも完成した。

あとはこれを食人種となった鮫島の中に流し込むだけだ。


 『てやああああああっ!』


 グレートマックスは鮫島の体を蹴り飛ばし、黒板にたたきつけた。

 鮫島がひるんだ隙に、グレートマックスは準備を始める。


 『マックスダイナマイト!』


 グレートマックスの右手に、水色のクリスタルが埋め込まれた筒状のアイテムが出現する。グレートマックスはそれを、左手のブレスレットに近づける。


 『チャージ・アンド・ブースト!』


 筒状のアイテム・マックスダイナマイトに食人種を人間へと存在変換する応急プログラムが流れ込む。マックスダイナマイトのクリスタルがまばゆい光を放つ。


 「おなか……すいた……何か……食わせて……!」

 『少し我慢してくれ、サメシマ・ヒロシ……すぐに人間に戻す!』


 飢餓感に苦しみ、悲鳴を上げて襲い掛かる鮫島にそう宣言すると、グレートマックスはマックスダイナマイトを素早く右足の装甲に装着。


 『グレート・キックインパクト!』

 技名を叫ぶと、グレートマックスは流れるような動きで、食人種の体の鮫島にキックを叩き込んだ。

 

 「あ……がっ……!」


 鮫島の体が青い光に包み込まれる。

 しばらくすると、存在変換プログラムの効果で、ゆっくりと異形の姿から元の人間の姿に戻っていく。


 「俺……は……」


 光が消えると、鮫島は人間の姿に戻り、気を失った。


 『あーあ……負けちゃいましたかあ……』


 教室のスピーカーから、残念そうなベリガブラーの声が響く。


 『まあ、次元パトロールシステム……いえ、グレートマックスの邪魔があったほうが、ゲームも盛り上がるかな? それじゃあ、今日のところはここまででーす! それじゃあ、また明日!』


 ベリガブラーの声が途絶えた。

 しばらくは何もしてこないだろう。

 そう判断したグレートマックスを、青い光が包み込む。

 光が消えると、そこには変身を解除した天野薫がいた。


 「ふう……」


 薫は大きく息を吐いた。

 変身した……というよりはグレートマックスと一体化した薫。

 何とも不思議な感覚だった。

 自分であって、自分ではないみたいな。

 でも、みんなを守れてよかった。


 「天野君!」

 「橋本さん……わっ!」


 初めての戦いを終えた薫のもとに静香が駆け寄ってきて、そのまま薫に抱き着いた。


 「ありがとう……本当に……ありがとう……」

 「橋本さん……こちらこそ、応援してくれて、ありがとう。橋本さんの頑張れがなかったら、今頃俺とグレートマックスは倒れていた」

 『君の応援に感謝する、ハシモト・シズカ。人間の感情の力は時として計算外の力を発揮する。私は今日、それを強く実感した』


 薫は静香に笑いかける。

 グレートマックスも電子音声で静香に感謝を伝える。

 ベリガブラーの仕掛けたデスゲーム。

 薫とグレートマックスは犠牲者を出さずに一日目を乗り切った。

だが、まだ戦いは始まったばかりだ。


 「グレートマックス、あなたの力でこの亜空間から脱出できないのか?」

 『難しいな……この亜空間は、これまでベリガブラーが作ったものの中でもとりわけ複雑な構造をしている。実空間との距離も大きい。下手をすれば亜空間ごと中にいる私たちも消滅する危険がある』

 「そうなると……この亜空間の構造を十分に把握しないと、自力での脱出は難しい……」

 『そうなるな。できれば二時間ほど構造解析に時間が欲しい』

 「わかった。グレートマックス、頼む」


 薫とグレートマックスが亜空間からの脱出のための策を練っているのを呆然と眺めながら、浅野竜也は考えていた。


(このまま、あいつに大きい顔をさせていいのか?)


 もし、このまま薫がグレートマックスと一緒にこの空間からみんなを救出したら、薫は間違いなく英雄になるだろう。

 ちびで女にしか見えない、それでいてオタクな薫が――自分よりも劣っている薫がちやほやされるのが、竜也は許せなかった。

 竜也の手には、まだ拳銃がある。

 銃弾は、化け物になった鮫島には効かなかった。その化け物を倒した、変身した状態の薫にも効かないだろう。

 だけど、今なら?

 変身していない、生身の人間である今なら?

 薫は今、泣きわめく静香に抱き着かれ、クラスメイトからも質問攻めにあっている。

 完全に自分から注意がそれている。


 やるなら今しかない。


 竜也は薫の頭に照準を合わせると、拳銃の引き金を引いた。

 頭から血しぶきをあげて、天野薫は倒れた。


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