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次元電神グレートマックス  作者: ごしいちご
第1話 始動 ~鎌腕食人種シックルリザード 登場~
3/4

亜空間デスゲーム

 教室全体を覆っていた赤い光が消える。

 廊下に野次馬のように群がっていた他のクラスの生徒たちや、自分たちを助けようとしていた先生たちの姿は消えていた。

 

 「夜……?」

 「いつの間に……」


 窓からのぞく空は月も星も見えないほどに真っ暗。

 ついさっきまでは――赤い光に飲み込まれる前までは確かに昼だった。

 今は暗闇の中で教室の明かりだけが煌々と輝いているに過ぎない。

 不思議な状態だった。まるで夜の学校だ。


 「ちょっと……どうなってんのよ、これ?」

 「くそ、やっぱり外に出られないのか!」


 陽子が震える声でつぶやく。

 竜也が教室の外に出ようとするが、やはり見えない壁に弾かれる。

 意味の分からない非現実に直面して、二年三組の生徒たちは混乱状態に陥っていた。


 「なんとか、滑りこめた……グレートマックス、大丈夫?」

 『私は問題ない』


 そこにいないはずの人間の声が聞こえて、静香は振り向いた。

 天野薫が床に倒れこんでいた。


 「天野……?」

 「橋本さん! みんなも、大丈夫?」


 屋上から落ちて、おそらく死んだはずの天野薫がゆっくりと起き上がり、心配そうな表情で静香の方に駆け寄ってくる。

いや、大丈夫なのかどうか心配なのはお前のほうだよ! 屋上から落ちたんだぞ!

 という言葉を静香は飲み込んだ。

 いつもの天野薫と雰囲気が違う。

 電子音声を発するブレスレット型のおもちゃなんかつけていたっけ?


 「あ、天野……なんで……!」

 「お前、死んだはずじゃ……?」

 「……? 何言ってるの? 俺は生きている。それよりも、みんな落ち着いて!」


 外が真っ暗になって、教室に閉じ込められるという非常事態にもかかわらず、天野薫は冷静だった。


 もしかして、自分が屋上から落ちたことも忘れている……?


 「うるせえ! これが落ち着いていられるか!」

 「そうよ! スマホも通じないのよ!」

 「わかっている! でもこのままだと、ベリガブラーの思うつぼだ!」


 いつもは何も言い返せないはずの竜也と陽子に対しても、薫は毅然とした態度をとる。


 「ベリガブラー……? なにそれ?」

 「今回の事件の首謀者……らしい。俺もついさっき知ったばかりなんだけど……」


 薫がベリガブラーの名前を口に出したその直後、教室のスピーカーから声がした。


 『あー……マイクテス、マイクテス……初めまして! 東田中学校二年三組の皆さん! 僕は先ほどそこの次元パトロールシステムが取り憑いた少年からご紹介のありました、ベリガブラーでーす! 以後お見知りおきを』


 薫が明かした事件の首謀者の名前――ベリガブラーを名乗る者が校内放送を使って話しかけてきた。その恐ろしさに悲鳴が上がる。


 『はーい皆さん落ち着いてねー、話聞いてくれないと寂しいから……さて、さっそくですが、これから皆さんにはデスゲームに参加してもらいます! わかりやすく言えば殺し合いをしてもらいまーす! イエーイ!』


 テンションの高い声で『殺し合い』という恐ろしいワードを口にするベリガブラー。


 「だ、誰が殺し合いなんてするもんか!」

 「そうよ! 絶対にみんなで生きてここから出るんだから!」

 『美しい友情ごちそうさまでーす! でも無理でーす! ここは亜空間、現実の世界とは断絶しておりまーす! この次元の技術では脱出できませーん! 僕の命令通りに殺し合ってくださーい!』


 ベリガブラーは楽しそうにここが亜空間であること、二年三組の生徒たちの力では脱出できないことを告げる。


 『ここにいる皆さんは全部で二十四人……いや途中参加の次元パトロールシステムまで含めて合計二十五人。この数が十二人まで数が減らないと、皆さんはここから脱出できませーん!』


 生徒たちの絶叫が教室内に響き渡る。

 絶望、怒り、恐怖、悲しみ……様々な感情が叫び声となって洪水のようにあふれ出す。


 その中でも、天野薫は一人黙って教室のスピーカーをにらみつけていた。


 なんでこんなに冷静でいられるんだろう?

 天野ってこんなキャラだったっけ?

 自分自身も絶望して涙を流す中、静香にはそれがとても不思議だった。


 『はーい! それでは基本的なルールを説明しまーす!』


 泣きわめく二年三組の生徒たちをよそに、ベリガブラーがテンションの高い声で話を続ける。


 『スタートの人数が二十五人しかいないので、いわゆるバトルロワイヤル方式はとりませーん! ……僕も飽きちゃったし。皆さんには一日に一回、皆さんの手で処刑する人間を選んでもらいまーす! この次元でいうところの人狼ゲームってやつですね!』


 人狼ゲーム。

 『人狼』側と『村人』側に分かれ、毎ターン『処刑』する人間を多数決で選び、それぞれの勝利条件を目指すゲームだ。

 ベリガブラーはこれを現実にやってしまおうと企んでいた。


 『とはいってもですね、中学生の皆さんでは処刑する人を選んでも、実際に処刑するのはなかなか大変だと思います。そこで、皆さんが処刑をしやすいように道具をご用意しました! 後ろの掃除道具入れを開けてみてください』

 「うわっ!」

 「これって……!」


 掃除道具入れの近くの席の生徒が掃除道具入れを開けると、ベリガブラーの言う『道具』が出てきた。


 手錠、スタンガン……それに、ナイフと拳銃。

 それぞれ一つづつ。

 とてもおもちゃには見えない。


 ……処刑対象に選ばれた人間を、スタンガンと手錠で身動きが取れなくしてから、ナイフと拳銃で確実に殺す。


 「いやああああああっ!」

 「嫌だあ……嫌だあっ……!」


 生徒たちは処刑用の道具の本来の使い方を理解した。

 教室は再び悲鳴に覆われた。


 (落ち着け……落ち着くんだ橋本静香……!)


 涙をぬぐっていち早く冷静さを取り戻した静香。スピーカーに向かって、ベリガブラーに質問をぶつける。


 「もし……処刑する人間を選ばなかったらどうなるの?」

 『いい質問ですね! 掃除道具入れの奥のほうに大きな箱がありますので、それを出してください』


 ベリガブラーの指示に従い、掃除道具入れの奥から金属製の大きな箱が取り出される。


 『もし処刑する人間を選ばない場合には、この箱を開けてくださーい! 箱を開けた時点でその日の処刑者は無しと判断されまーす! それと一日のうちに誰も処刑しなかった場合にも処刑者無しと判断されて、その時は勝手に箱が空きまーす!』


 おかしい……

 その説明を聞いて、静香は異変に気付いた。

殺し合いを強要しているのに、誰も殺さなかった時のペナルティが無いなんて……


 「だ、誰も殺さない! 殺したくないし、死にたくない!」

 「そうよ! さっさと箱を開けちゃいましょう!」


 殺し合いをしたくないという恐怖にも似た強い思いに駆られた生徒たちが、箱を開けた。


 「あ、ちょっと……!」


 静香の制止も間に合わず、箱が開かれる。

 箱の中には、大きなフライドチキンが入っていた。

 数は三本。

 出来立てのように温かい。

 おいしそうないいにおいが、教室内に広がる。


 「チキンだ……おいしそう……」

 「食べて……いいんだよな……」


 まるでフライドチキンに操られるようにして、フライドチキンの乗せられた皿を箱から取り出し、机の上に置く生徒たち。


 「ちょっと待って! なんか怪しいよ! 食べないほうが……」

 「うるさいっ! これは俺のもんだ! 誰にも渡さない!」

 「きゃつ!」


 静香の制止を振り切って、クラス一の食いしん坊、鮫島弘が机の上のフライドチキンの皿を強引に奪い取る。


 『カオル! あの鶏肉のようなものから高いエネルギー反応が検知されている! 絶対に食べさせるな!』

 「鮫島君! それを食べちゃダメだ!」


 ブレスレットの電子音声に従い、薫も鮫島を止めようとする。


 「邪魔するなあああっ!」

 「うわっ!」


 鮫島は薫の小さい体を蹴り飛ばし、ついにフライドチキンを口にした。


 「うめえ……うめえ……!」


 鮫島はむさぼるようにフライドチキンにかぶりつく。そして、あっという間に三本のフライドチキンをすべて食べつくしてしまった。


 「足りない……足りない……」


 フライドチキンを食べつくした鮫島の様子がおかしくなる。

 目が虚ろになり、まるで食べ物を見るかのような目で、クラスメイト達を見つめている。


 「お、おい……どうしたんだよ、鮫島……?」

 「な、なんか変だよ……なんかキモイ……」


 竜也と陽子も鮫島の異様な雰囲気に思わず後ずさる。

 鮫島はゾンビのような不気味な足取りで、クラスメイト達に近づいてくる。


 「おなかすいた……おなかがすいてしょうがないんだ……!」


 鮫島の目が赤く光る。


 「危ない!」


 危険を察知した薫が鮫島を蹴り飛ばした。

 後ろの机と一緒に倒れこんだ鮫島が、赤い光に包まれる。


 「グレートマックス、これは……?」

 『私も初めて見るが……おそらく彼の食べた食料内のエネルギーが存在レベルで彼の体を変換している……おそらく、極めて危険な存在に……』


 薫のブレスレットがよくわからないワードを並べる中、光の中で鮫島の体は変化していく。

 人の形を失い、異形の姿に……


 『あーあ食べちゃいましたかあ……』

 「鮫島君に何をした、ベリガブラー!」

 『これこそ本日初公開! 人食いに特化した新型怪人! 名付けて食人種! 存在変換プログラムを埋め込んだ特殊なエネルギーを、食べやすく大手企業のLサイズのフライドチキンに注入したことで、簡単に人食い怪人を生み出せました! 処刑する人間を選び出さないと、こいつに食べられちゃいまーす!』


 問い詰める薫の声に、何の罪悪感も見せない調子で、楽しそうに解説をするベリガブラー。そしてその解説通り、赤い光が消えるとそこに鮫島の姿はなかった。


 「いやああああああっ!」


 陽子の悲鳴が響く。

 そこにいたのは、両腕が巨大な鎌、四つに分かれた巨大でグロテスクなあご、そして爬虫類のような硬い皮膚に覆われた怪人だった。教室の天井まで届きそうな大きさの獣のような姿の化け物だった。


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