異次元からの来訪者
新ヒーロー グレートマックス とうじょう!
二年三組のみんなを守れ!
天野薫は目を覚ました。
薫という名前と低い身長、さらに童顔と幼い声でよく小学生の女の子と間違えられるが、男の子、しかも男子中学生だ。
目の前には青い空に白い雲。
背中には硬い感触。
そして全身には激しい痛み。
「痛い……」
薫はゆっくりと起き上がる。
どうやら校舎の裏の地面の上に寝ころんでいたらしい。
傍らには自分の生徒手帳が落ちている。
(なんで俺はこんなところで寝ているんだ?)
ぼーっとする頭で思い出そうとするが、思い出せない。
給食を食べてからの記憶が……いや、そもそも記憶全体が曖昧な感じだ。
家族の名前とか、クラスメイトの名前とか、授業の内容とかは覚えているのだが。
何か大事なことを忘れているような気がする……
『起きたか、アマノ・カオル』
「わっ!」
突然、自分を呼ぶ声がして薫は驚く。人の声じゃない、感情の起伏のない電子音声だ。
あたりを見回す。
誰もいない。
『ここだ、君の左手だ』
「左手……?」
言われてみると、左手から声がする……何かが腕に巻き付いている?
薫は恐る恐る学ランの長袖をまくる。
透明な水色のクリスタルが埋め込まれた、金色と銀色の大きな腕輪が薫の左手首に巻き付いていた。
「これは……?」
『私は次元パトロールシステム1378号。ベリガブラーを名乗る次元犯罪者を追ってこの次元にやってきた』
クリスタルが点滅し、いつの間にか巻かれていた腕輪から低い声の電子音声が鳴る。
薫がハマっている特撮変身ヒーロー・次元戦士グレートレッドの変身ブレスのようだ。
「次元犯罪者……? もしかして、俺たちのいるこの次元を侵略しに来たとか?」
『いや、ベリガブラーは次元侵略者よりも厄介な存在だ。君たちの次元でいうところのゲームに近い感覚で大勢の人間を亜空間に閉じ込めている』
亜空間……ゲーム感覚……まさか……!
薫のオタク知識が総動員され、最悪の結果を弾き出す。
「もしかして、そのベリガブラーは亜空間からの脱出をちらつかせて、閉じ込めた人間たちに殺し合いをさせたりしているの?」
『よくわかったな、その通りだ』
「そして、あなたはその犯罪を防ぐためにこの次元にやってきた……あなたはこの次元では何らかの理由で実体を持つことができない。だから、俺の体に憑依した」
『……驚くほど察しが良いな。この次元ではそこまでテクノロジーは進歩していないと聞いていたが……』
「いや、こういうのアニメや漫画でよくあるシチュエーションだから……」
『なるほど、創作か』
(あんまり話しちゃいけないんだけどな。俺がアニメや漫画が好きなこと)
……あれ?
薫は唐突に違和感を覚えた。
(なんで俺がオタクだって他人に話しちゃいけないんだ?)
何か理由があったような気がする。
だけど、思い出せない。
『君の言う通り、私はベリガブラーの次元犯罪を防ぐためにこの次元に来た。だが、この次元ではエネルギー体である私は単独で実体化することができない。そこで、適合率の高い君の体を借りることにした。意識を失っている時に勝手に憑依しておいてすまないが、君の力を貸してほしい』
(本当にアニメか漫画みたいな話だな……)
普通に聞けば信じがたい話ではある。
百人に聞けば、百人全員が信じないだろう。
だが、薫にはその話が嘘だとは思えなかった。
どんなにSFやファンタジーのような話でも、この電子音声の創作だとは思えなかった。
自分がオタクだからだろうか?
突然湧いて出た非現実的な話に、わくわくしている自分がいる。
「……わかった。俺なんかでよければ、協力するよ」
『協力に感謝する、アマノ・カオル。危険を伴う任務だが、私の存在に替えても君の生命は絶対に守る』
「薫でいいよ……えーと、あなたのことは何て呼べばいい?」
『私は次元パトロールシステム1378号。固有の名前はない。君の好きな名前で呼んでほしい』
「それじゃあ……」
薫は考える。
左腕に巻かれているブレスレットは、十中八九変身アイテムだろう。
ということは、薫の体を使って変身する可能性が高い。
(変身ヒーローか……)
真っ先に思い付いたのは、現在テレビで放送中の特撮変身ヒーロー『次元戦士グレートレッド』だった。このヒーローも別の次元からやって来たという設定だった。
「グレート……グレート……マックス……グレートマックスって呼んでもいい?」
『了解した。グレートマックス……この次元では、私はその名前を名乗ろう……カオル、よろしく頼む』
「こちらこそよろしく、グレートマックス!」