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星辰のマギウス  作者: 空蝉
第一章 彼方に捧ぐ哀歌
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1-9 影に踊る隠者達 其之二

 魔導士マギウスの世界に身を置く者は、多かれ少なかれ目的を持って行動している。

 例えば未だ謎に包まれた神秘の探究、或いは不可能とされている命題への挑戦、はたまた真っ当な手段では決して成し遂げられない何か。

 つまるところは個人的な願いを叶えることこそが、魔導士を突き動かす原動力と言って良い。

 しかし、魔術という超常の力を振るう事ができたとしても、個人で出来る事には限界がある。知識や資金、人手といった現実的な問題は枚挙に暇がない。

 それを解決すべく、いつしか魔導士達は同志を募り、相互扶助を行う組織を形作るようになった。

 そうして誕生したのが、『結社』という概念である。

 一言『結社』といってもその性質は様々だ。人々の助けになる事を信条とする組織もあれば、魔術の研鑽のため積極的に犯罪行為に手を染める組織まである。

 何れの場合も共通しているのは、長の座につく者には相応の実力が求められるという点だ。

 高い魔術の技量と、癖のある構成員をまとめあげるだけの度量。実力主義である魔導士の世界だからこそ、この二つが結社の頭領として強く求められるのだ。

 ……そう、それが通例の筈なのだが。

「いやはや、会えて嬉しいよ。偉くなると中々若者と言葉を交わす機会も無くてねェ。さあさあ、遠慮なく座ってくれたまえ!」

 このように、結社『アンブラ』の総帥を名乗る老人は、余りにもフランクな調子であった。

 勧められるまま、とりあえずヘイズは彼の対面の席に腰を下ろす。途端、ふわりと柔らかい感触が背中を包み込む。調度品こそ全くない部屋だが、家具は相応の品を備えているらしい。

 セリカはヴィクターの斜め後ろの位置に立っている。仮にヘイズが不穏な素振りを見せたとしても、一歩踏み出せば即座に首を落とす事の出来る距離だ。彼女の表情に険は無く、こちらを警戒している様子は見受けられない。だが、いざとなれば躊躇なく鯉口を切るであろうことは容易に想像がついた。

「そう堅くならないでくれたまえ。まずは軽く世間話と行こうじゃないか。飴、食べるかね?」

「……遠慮します」

 どこからともなく取り出される飴。断ると、ヴィクターは目に見えて残念そうに肩を落とした。

 その姿に、どうも調子が狂って仕方が無い。巷を騒がす事件を隠蔽出来てしまうあたり、それなりの社会的地位を持つ人物である事は予想していた。けれども実際に顔を合わせると風格というか、威厳というか、そういった上に立つ者特有の雰囲気が感じられず、逆に彼の胡散臭さを際立たせている。

 もしや、また何か試されているのだろうか。ヘイズは思わずセリカの方に訝し気な視線を送るが、彼女はただ微笑みを返すだけであった。

「君は確か、この街に来て半年程になるのだったかな?どうだねマルクトは、西と比べても中々楽しめると思うのだが」

「……よくまあ、ご存じで。その口振りからして、俺に関する情報はあらかた知っているようですね」

「もちろん。大切な客人のプロフィールは、ある程度知っておくべきだろう。せめて君がこの街に至るまでの経緯くらいは、ね」

 意味ありげなヴィクターの言葉に、ヘイズは眉根を寄せる。

 この老人はどこまで知っているのだろう。ヘイズの来歴を知る者は、マルクトにはほんの一握りしかいない。順当に考えるならば、またぞろシャロンから情報を買ったと考えるのが妥当だが。

 そんなヘイズの疑念を察したのか、ヴィクターはお道化るように肩を竦める。

「おっと、そんな怖い顔をしないでくれたまえ。これは別にシャロン君が漏らした訳ではないよ。確かに彼女は良き相談相手ではあるけれど、この程度は私独りでも調べられる範疇さ」

 そう事も無げに言ってのけるヴィクター。だが、それを実行するのが如何に難しいかは考えるまでもない。何せヘイズはこれまで大陸西方を中心に各地を転々とし、紆余曲折の末にマルクトに辿り着いたのだから。にも拘らずその道程を調べ上げるのを『この程度』と評してしまえるのは、驚くに値する。

 戦いの場であれ、交渉の場であれ、『情報』は分かりやすい武器である。相手の実情を知っているだけで、物事を自分に有利な状況に運ぶことすら可能だからだ。

 故に『情報』を広く、深く集められる者は最も警戒すべき類の人種だ。

 シャロンがその良い例である。商売柄恨まれても仕方がない事を山ほどしているのに、報復しにくる者は滅多にいない。もちろん彼女の抜け目なさも十分あるのだろうが、何よりちょっかいを出した時に何をされるか分からない、という得体の知れなさに起因する恐怖が最たる理由だろう。

 どうやら認識を改める必要がありそうだ。見たままの姿に惑わされてはいけない。今、自分が対面しているのは正真正銘、魔導士を統率する者だ。

「それで、俺に何の用でしょう?」

 警戒心を表に出さない様努めつつ、尋ねる。

 会話の主導権は既にヴィクターに握られてしまった。目的がはっきりとしない以上、相手の出方を待つしかない。

「うん、まあ。単刀直入に言うとだね」

 ヴィクターはどこか言葉を探すような素振りを見せ、次いではっきりとこう言った。

「君さ、結社ウチ入らない?」

「…………」

 セリカといい、ヴィクターといい、この結社の人間は話相手の意表を突かなければならないルールでもあるのだろうか。

 踏むべきあらゆる過程を吹っ飛ばした唐突な勧誘に、ヘイズはたっぷり十秒ほど沈黙し。

「え、嫌ですけど」

 とりあえず、率直な気持ちを口にする事にした。何せこちらは『アンブラ』とう結社の詳細を全く知らないのである。検討以前の問題であった。

 流石に見兼ねたのか、僅かな呆れを滲ませながら、セリカが会話に割って入る。

「オーナー、流石に話が飛躍しすぎです。もう少し賭博場カジノの経営者らしく、駆け引きを経てから勧誘してください」

「む、そうかな。いやすまない、歳をとるとついついせっかちになってしまってねェ」

 ヴィクターは自嘲気味に笑い、どこから話したものか、と視線を真横に投げる。そこには大きめの窓があり、飛行船が街に影を落とすのが見えた。

「君は、このマルクトという街をどう思うかね?」

「……どうって、普通に活気があって良い街だと思いますが」

 それはヘイズの偽りのない感想であった。

 マルクトは良い都市だと思う。少なくとも、風来坊であったヘイズが腰を下ろしても良いか、と考える程には。

 ヘイズの返答に、ヴィクターは満足そうに、それでいて誇らしげに同意を示す。

「そうだろうそうだろう。市場は常に賑わっていて、娯楽なんかも事欠かない。昨今は機械化も進み始めているから、色々と利便性も高くなり始めているね。ああ、良い街だろうとも」

 だが、とヴィクターはヘイズの方に視線を戻す。まるで試すかのような目付きだった。

「君もシャロン君の下で働いているなら、何度か目の当たりにした事があるのではないのかな?マルクトが抱える裏の事情をね」

「……まあ、多少は」

 物資が集まる場所には人が集まり、同時に技術と富が集い、それが更に人を呼び込む。都市や国家はそうした循環を経て活気づき、発展を遂げていくものだが、同時に退廃に満ちた欲望を生じさせてしまうのもある種の宿命である。

 とりわけマルクトという都市においては、それは顕著だと言えよう。何せここは世界最大の貿易都市、華々しい喧騒の裏に跋扈する悪徳の数は他の追随を許さない。

 商人達による権謀術数、血みどろの利権争いすら可愛いもの。時には人命すらも一山幾らで取引され、倫理観の外れた魔導士達が目を背けたくなるような凄惨な所業を繰り広げる。

 無論、軍警局が厳しく取り締まってはいるが、結局はいたちごっこの様相で、抑止力としての域を出ない。

 善良な市民であったとしても他人事ではなく、例え本人にその気はなくとも、ふとした弾みで道を外してしまう事もある。そうなれば後は坂道を転がり落ちるがごとし。悪意の手に絡め取られ、破滅に向かって一直線だ。

 それが建立時からマルクトが抱え続ける闇であり、魔都と称される所以である。

「我々『アンブラ』の目的は至極単純だ。マルクトに混乱をもたらさんとする、あらゆる脅威を排除すること。ただ、それに尽きる」

「……つまり、秩序を守ることだと?」

「まあ、最終的にはそこに行き着くのかもしれないね。個人的には別に法の目を掻い潜るのも、享楽のまま倫理を踏みにじるのも構わないと思っている。だけど、何事もやり過ぎは良くない。無法者たちが好き勝手に振る舞い続ければ、待っているのは荒廃しかないのだからね。表社会で取り返しのつかない事態が起きる前に、その元を断つ必要があるのさ」

 あくまでも滔々とした口調でヴィクターは語る。しかし、声音には隠しきれぬ熱が、決意が秘められている……ようにヘイズは感じ取った。

「では貴方達は差し詰め『正義の味方』という訳ですか」

 彼らの目的を額面通り受け取るならば、正しく古今東西の小説や劇に登場する義賊の行いそのものだろう。

 自分で言っていてむず痒くなり、ついつい皮肉っぽく評してしまう。だが、

「いいや、それは違う」

 と、ヴィクターは間髪入れずにそれを否定した。

「何を以て正義とするかは議論が分かれる所なのでさておき……社会の枠組みから見れば、我々は断じて『正義』ではない。何せ結果的に丸く納まりさえすればそれで良い、というのが基本的なスタンスでね。仕事の達成方法なんかはメンバーに一任しているくらいだ」

 ヴィクターの言葉が示すところは、要するに目的のためなら手段を選ばないという事に他ならなかった。

 ならば。『アンブラ』という結社の在り方は、決して清廉で善良なものでは決してなく。

「毒を以て毒を制するというやつだよ。『正義の味方』なんて背中の痒くなる役割は、軍警局に任せておけば良いのさ」

 どこか茶目っ気を含ませながら、結局は自分たちも同じ穴の狢なのだと、彼は恥じるでもなくむしろ誇るようにそう締めくくった。 

「よくもまあ、そんな組織が今まで軍警局から目を付けられずに済んでいるものですね」

 紛れもない関心を含ませて、ヘイズは胸中に湧いた感想を素直に口にする。

 己の見出した正義を信じて剣を振るう。

 字面だけを見れば立派に思えるかもしれないが、結局のところ裏稼業には違いない。例えどれだけ志が崇高であったとしても、例えどれほどの人を救っていたとしても、だ。『アンブラ』の存在を肯定する事は、即ち法の敗北を認めているようなものであり、治安を司る軍警局がそれを許すとは到底思えなかった。

 そんなヘイズの指摘に、ヴィクターは痛い所を突かれたとばかりに肩を竦めた。

「いやあ、君の言う通り、結社を立ち上げてからずぅっと目は付けられているんだよねェ。因縁を吹っ掛けられたことも数えきれない。とは言え軍警局はあくまでも市民の味方、法の執行者であらねばならない。彼らは彼らであるからこそ、選べない行動が数多くあるのだよ。だから、汚れ仕事を進んで片づける我々は、所謂『必要悪』としてお目溢しをして貰っているのさ。彼らが持て余すような案件を片付けることを引き換えとしてね」

「……なるほど」

 ヘイズは得心して頷く。恐らくは軍警局所か、公社からも半ば黙認されているのだろう。まあ、真実は単純にヴィクターが都市最大の賭博場カジノの経営者であり、経済的な事情から迂闊に手を出せないだけかもしれないが。この老人の場合、そこまで見越して立ち回っている可能性も否めない。

「とりあえず、貴方がたが何者なのかについては理解しました。ですが解せませんね。何故そこまでして結社を存続させているんです?聞けば聞くほど、危ない橋を渡っているようにしか思えないのですが」

 例え今は見逃して貰っていたとしても、度が過ぎれば軍警局も黙っていまい。そうなった時、先程ヴィクター自身が述べた様に、彼らは法の執行者としての役割を果たすだろう。公社も蜥蜴の尻尾切りよろしく、知らぬ存ぜぬを貫くに違いない。

 正に綱渡りだ。そんな少し考えただけでも分かるようなリスクを常に負いながら、結社の活動を続ける理由がヘイズには皆目見当がつかなった。

 けれどもヴィクターは、何を当然の事をと言わんばかりに目を瞬かせ、そして迷いなく答えた。

「それは君、私がこのマルクトを好きだからだよ」

「……納得しました」

 この都市が好きだから、好き勝手荒らされるのは我慢ならない、と。

 反論などしようもない。人によっては単純で陳腐と思えるかもしれないが、ヘイズにとっては何よりも説得力のある理由だった。

「さて、ここまで聞いて分かってくれたと思うが、ウチは職務上荒事がとっても多くてねェ。お陰で欠員も出がちで、少しでも戦力が欲しいのさ」

 そこで言葉を区切り、ヴィクターは居住まいを正す。今まで浮かべていた胡散臭い笑みを消し、真摯な表情と共に真っ直ぐヘイズを見据え、

「改めてどうだろう。ヘイズ・グレイベル君、我々の結社に君の力を貸してくれないか?」

「お断りします」

 即答であった。寧ろ食い気味ですらあった。

 それなりに会話が弾んだ事もあって、ここまでばっさり切り捨てられるのは流石に予想外だったらしい。ヴィクターの表情が一瞬完全に硬直した。

「う、うーん……いやはや、まさかの即答とは。理由を聞いても?」

「別に、大した話じゃありません。俺は結社だの派閥だの、そういったものには肩入れしないようにしているだけです」

 ヘイズとて仕事の中で他の魔導士と手を組むことはある。ただそれは必要に駆られての行動であり、組織に所属する事は一度たりともしてこなかった。

 一匹狼を気取っている訳ではない。ましてや過去に心的外傷トラウマを負っている訳でもない。これは単なる性分の話。

 誰の味方もせず、己の為すべきと思ったことを為す。

 それが例え怠惰と謗られようとも決めた、ヘイズ・グレイベルという男の生き方である。

「そもそも、何故俺を勧誘するんです?自分で言うのも何ですが、俺より優れた魔導士なぞ五万といるでしょうに」

 混じり気無しの本音である。魔導士としての才覚という括りで見れば、ヘイズは際立って優秀と言う訳ではない。胸を張れることが無いではないが、探せば代わりは幾らでもいる程度だ。

「いやいや謙遜することは無い。セリカ君から聞いたよ、彼女と正面から競り合ったそうじゃないか。それに吸血鬼を容易く撃退せしめたとも。実力に関しては疑う余地はないと思っているのだがね?」

「……買って頂いている事に関しては、素直に感謝します。ですが、俺の答えは変わりません」

 ヘイズの態度は揺らがない。それを感じ取ったのか、交渉の糸口を探るでもなく、ヴィクターは諦めたように肩を落とす。

 話はこれで終わりのようだ。長居は無用とばかりに、ヘイズはソファから腰を浮かせかける。

 その時だ、無言のまま佇んでいたセリカが唐突に口を開いたのは。

「では、ヘイズ。貴方に依頼を出しましょう」

「依頼、だと?」

 止せばいいのに、ヘイズは律儀に聞き返してしまう。

「覚えていますか、ヘイズ?昨晩、別れ際に貴方が私に言った言葉を」

 嫌な予感を感じつつ、ヘイズは記憶を掘り起こす。はて、あの時自分は彼女に何と言ったのだったか。

「『借りはいつか返す』、と。貴方は確かにそう言いましたね」

「……言ったな」

 嘘ではない。色々と思う事はあるが、セリカに助けて貰ったのは事実である。だから折りを見て礼をしあければ、とは考えていた。

 だが今、その話を持ち出す事に何の意味があるのか。沸々と嫌な予感を覚え始めたヘイズに対し、セリカはにっこりと華が咲くような良い笑顔を浮かべ、こう言った。

「今がその時です」

「……は?」

「貴方には貴方の信条がある事は分かりました。ですから結社に入れとは申しません。ただこの吸血鬼事件を解決するまで、に雇われませんか?」

「…………はぁ?」

 つまり、なんだ。『アンブラ』という組織・・ではなく、あくまでもセリカ()()に手を貸せと、そう言っているか。

 紛う事なき詭弁である。取り合っていられるかと、ヘイズはすげなく突っぱねようとする。だが、それを遮るように今度はヴィクターが口を挟んできた。

「まあまあ、セリカ君。君の言いたい事は分かるけれども、ヘイズ君にだって事情があるだろう。それに、結社への勧誘を断った以上、魔導士と言えど彼はマルクトに住まう一市民でしかない。口約束・・・とは言え、我々の事情にこれ以上巻き込んでしまう訳には……」

 さもヘイズを慮っているかのような台詞だが、清々しい位に芝居がかっている。

「いいえ、オーナー。私はヘイズを信じています。彼は自ら口にした約束・・を反故にするような不義理な男ではないと!」

「こ、こいつら……」

 やたらと約束という言葉を強調する二人のやりとりに、ヘイズは頬を引き攣らせる。

 ここまで露骨に茶番を繰り広げられれば嫌でも分かる。

 恐らく、勧誘が断れる事は想定していたのだろう。だから、ヘイズが頼みを断りにくい状況を作り出す事に移行したのだ。

 商人達の都であるマルクトであるからこそ、信頼とは金銭より勝る価値を持つ。その損失は、ヘイズの様なこれといった後ろ盾のない魔導士にとっては最も避けなければならない。

 この場で白を切ってしまうのは簡単だ。しかし、約束を反故にする事に変わりはない。そんな弱みを目的のためには手段を選ばぬと標榜する相手に握られるなど、何に利用されるか分かったものではない。

 彼女たちのやり取りは、ヘイズにその危惧を抱かせるには効果的過ぎた。

「貴方は事件の黒幕に用があり、こちらとしても早々にこの事件を片付けたい。もちろん依頼ですから、きちんと報酬は出します。結社が集めた情報も共有しましょう。貴方にとっても、悪い話ではないと思いますが?」

「まあ、私は先程振られてしまった身だからねェ。君の選択を尊重しようじゃないか」

 台詞とは裏腹に、ヴィクターは愉快そうに口元を吊り上げる。そこに浮かぶ笑みは胡散臭くも紳士然としたそれではなく、内に秘めた悪意を隠そうともしないものだった。

 ここに至り、ヘイズは目算が余りにも甘かった事を悟る。つまりはこの部屋に入った時点で、自分は蜘蛛の巣に絡めとられた獲物だったのだ。

 そうしてこの絵図を描いたであろう、結社『アンブラ』が総帥ヴィクター・ガスコイン。

 この男は、今まで出会ってきた人物の中でも指折の悪党だ。それも自分の指先一つ動かさず、他者を巻き込み、本人すら気付かぬ内に駒として使い潰してしまう邪知に長けた類の。

「狸爺め……」

「さて、何のことかね」

 素知らぬ顔で惚ける黒幕をヘイズは忌々しそうに睨みつけ、やがて自棄気味に嘆息するのだった。


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