2-33 魔女の末路 其之二
横薙ぎの雨が窓を叩く音がする。
元凶が封じられたことで勢力を落としたものの、冬の嵐は依然としてマルクトの空を覆っていた。
外に広がる街並みはすっかり雪に塗り潰されており、屋根の淵から氷柱が垂れる様などは、寒冷地帯もかくやといった光景である。
市長からの勧告によって住民たちが建物の中へ避難したこともあり、普段は活気に満ちた大通りにも今は人影一つ見当たらない。
この異常気象がどこまで拡大しているかは定かではないが、飛行船も姿を消している辺り、マルクトに繋がる交通網は軒並み麻痺していると考えて良いだろう。
ならば経済的な損失は計り知れず、今頃交易商などは頭を抱えているに違いない。
ここに星霊の出現まで重なれば正に踏んだり蹴ったりの様相となるのだが、幸いと言うべきか、今の所その心配は必要なさそうだった。
何でも最新の計器による観測でも、彼らが発生する前兆は一切検知できていないらしい。
魔導士の視点からすれば酷く不気味な状態ではあるものの、休息できる点は素直にありがたい。
来る決戦の時に向けて、今の内に少しでも失った霊素を補充しておかなければ。
「それにしても……」
と、ヘイズはそこで苦笑を浮かべると、傍らの寝台に視線を落とす。
「先月とは立場が逆だな」
真っ白なシーツの上で、漆黒の魔女が眠っていた。
『カジノ・アヴァリティア』の医務室である。
身動ぎもせずに横たわる女の姿は、人形めいた美貌も相まって命の温度を感じさせない。
しかし実際には微かに胸が上下していることが認められるし、耳を澄ませば穏やかな寝息が聞こえてくる。
ここに運ばれてきた当初は瀕死の重体であったが、容態は随分と落ち着いたらしい。
称賛すべきは現代医療……というより、ヘイズも服用させられた霊薬の力だろう。
枕元に置かれた台には、空になった小瓶が数本。ヴィクターの説明によると、イヴが作った逸品なのだとか。
製造に莫大なコストがかかる分、効力は折り紙付きで、マリアンとの闘いで負った傷もすっかり癒えていた。
「"魔女"、か……」
女性の寝顔を余り凝視するべきではないと承知しつつも、ヘイズはついイヴの端麗な顔に目線を留めてしまう。
彼もまた魔導士を名乗る以上、"魔女"という肩書が持つ意味を知っている。
空想を現実に顕す秘術と、それを太古の時代より紡ぎ続けてきた神秘の申し子たち。
現代に至るまで数多くの術式系統が開発されてきたものの、道具作りの分野においては未だに"魔女"の右に出る者はいまい。
霊薬を始め、細やかな装飾品から日常で用いる雑貨に至るまで。彼女達が手掛けた創造物は摩訶不思議な効果を持つことで知られ、稀に市場に流れた際には気が遠くなる程の値打ちで取引される。
要するに魔術という概念に対する適性や知見が、凡人とは根底から異なるのが"魔女"と呼ばれる存在だった。
中でもイヴは、夜と暗黒を従える力を受け継いだ一族の生まれなのだという。ヴィクターの言を信じるならば、歴代で最も優れた才覚の持ち主なのだとも。
実際、イヴがヘイズの前で披露した技前から判断するに、その評価の妥当性については疑う余地もない。
しかし今は皮肉なことにそんな彼女の実量の高さが、異変の元凶の――亡霊の騎士の脅威を裏付ける証左となっていた。
あの尋常ならざる怪物を相手にどう闘う?どうすれば勝てる?
賭博場に戻ってからと言うもの、ヘイズの脳内ではその問いが絶えず繰り返されていた。
「……う、ん」
不意に、イヴがか細い息を零した。
瞼が緩やかに持ち上がり、隠されていた艶やかな瑪瑙の瞳が露になる。
「おはよう、魔女殿。よく眠れたかい」
「……ヘイズ君?」
気取った調子で声をかけると、イヴの目が一気に焦点を結んでいく。
彼女はそのまま視線を周囲に走らせると、自分がどこにいるのかを悟ったらしい。枕により深く頭を沈め、ぽつりと呟いた。
「そう……私、生き延びたのね」
どこか白けたような、寒々しい色を乗せた声。そこには敢えて触れず、ヘイズは訊ねた。
「体の具合はどうだ?表面上の傷はあらかた塞がったと聞いてるが」
「……痛みとかはないけれど、起き上がれるようになるにはもう少し時間がかかるでしょうね。私の霊薬を使ったの?」
「ご名答。ただ俺も含めて結構な量が必要だったみたいでな。品切れになっちまったとさ」
「……考えなしに消費するから、そんなことになるのよ」
物憂げに嘆息するイヴ。とは言え今回ばかりは、貴重な霊薬を惜しむ余地などなかったのだろう。
何しろイヴが身を臥せる寝台も、ほんの一時間前までは赤く染まっていない箇所を探す方が難しい程だったのだから。生半可な術式、道具では彼女の傷を癒す所か命を繋ぐことすら絶対にできなかったと断言できる。
「それで、今はどういう状況なの?」
「とりあえず市長がマルクトに籍を置いている結社やら無所属の魔導士やらに依頼を出し回っている最中だ。まだその兆候がないとは言え、いつ星霊共が現れるか分らんからな。軍警局と共同で警備に当たらせるつもりらしい」
そこからヘイズはこれまでの経緯も含め、出来るだけ簡潔に説明を並べていった。
ヘイズ達の窮地を『竜狩の騎士団』が救ってくれたこと。
亡霊の騎士は彼らの手によって一時的に封印されたこと。
ヴィクターの策によって『不凋の薔薇』が味方となり、セリカ達が『ゴスペル』の幹部を退けたこと。
そしてこの異変を解決するための準備が着々と進んでいること。
一頻り聞き終えた所で、イヴが問いかけてきた。
「ヘイズ君はどうしてここに?聞いた限りでは、アンブラも忙しくしているのではなくて?」
「俺?お前程じゃないが、俺もどこぞの傭兵にぼろ雑巾にされたからな。治療を終えたは良いが、しばらく安静にしてろと言い渡されてね。暇潰しがてら、一応お前の様子を見に来たって訳だ。……まあ、要らん世話だったみたいだが」
説明の最中にイヴの反応を観察していたが、意識は常にはっきりしていたし、発声の際に苦痛を感じている様子もなかった。
無論、戦線への復帰は当分見送るべきだろうが、この短時間で会話が可能な域にまで回復できただけでも充分だろう。
"魔女"の道具。聞きしに勝る出鱈目ぶりである。
ところが驚異の生還を果たした当の本人の顔には、昏い翳が差していた。
イヴは長い睫毛を伏せると、しばしの沈黙を置いた後、
「ごめんなさい」
と、謝罪の言葉を口にした。
「いきなりどうした。俺、何かされたか?」
「私が余計なことをしたせいで、貴方を危険に晒してしまったから」
「……あー、なるほど」
完璧主義に由来する潔癖症ゆえか、はたまた自罰的な傾向が強いのか。
要するにイヴは自分を助けるために、ヘイズを亡霊の騎士と対峙させたことを気に病んでいるようだった。
仮に彼女が奴に単身で挑まなければ、現状は全く異なる様相を呈していただろう。
イヴが深手を負うことがなくなるため、ヘイズが怪我を押して死線に飛び込むこともなくなる。引いてはヴィクターとの合流も早まることが予想され、迎撃の準備も今頃には完了していた可能性が高い。
以上のことから合理性という観点から見ると、彼女の行動は確かに余分だったと評価できる。
だが、それが謝罪に値するかと問われれば、ヘイズの答えは断じて否だった。何故ならば、
「あれと闘うことが、お前のやりたかったことだったんだろう?なら仕方がない。死にそうな目に遭ったのは全部、無鉄砲に首を突っ込んだ俺のせいだ」
慰めるためではなく、ただ本心からの考えを述べる。
発端はイヴが担ったのかもしれないが、窮地と知りながら踏み込んだのは徹頭徹尾ヘイズの意思によるものだ。
ならばそれによって齎された結果は全て選んだ側が受け入れるべきで、他者に責任を擦り付けるなど言語道断、筋違いにも程がある。
「でも、もしあの時命を落とすことになっていたとしたら。貴方はきっと私を恨んだでしょう?」
「どうだかな。多分、未練は山ほど思い浮かんだだろうし、後悔もしただろうが……少なくともお前に文句を垂れるようなことはしなかったと思うよ」
あくまで仮定の話であるため断定はできないし、幾らかの願望も混じっているが。
例え本懐を果たせずとも、誰かへの怨嗟を喚いて死ぬ無様は晒さなかったと信じたい。でなければ今まで張り続けた意地が無為に帰してしまうから。
「別に過ぎたことを悔やむなとも、独りで抱え込むなとも言わん。そんな説教が出来るほど、真っ当な生き方をしちゃいないんでね。ただまあ――」
穏やかな口調で、諭すように。
冬の水底を思わせる瞳を真っすぐに見据えて、ヘイズは告げた。
「俺の不始末は俺だけのものだ。お前が勝手に肩代わりするのは辞めてくれ」
漆黒の双眸が驚いたように僅かに見開かれる。イヴはしばらくヘイズの顔を眺めると、やがて安堵するように柔らかく相好を崩した。
「そう……ヘイズ君はやっぱり、そう答えるのね」
「……?」
まるで以前からヘイズの為人を知っているかのような言い草。もしやイヴと自分はどこかで会ったことがあるのだろうか。
だが記憶を掘り返してみても、それらしき場面はとんと思い出せない。イヴほど抜きんでた美貌の持ち主ならば、ただ目の前に現れただけでも強烈に印象に残ったはずなのに。
となると考えられる可能性としては彼女が一方的に自分を知っているか、或いは何らかの要因によって回想が困難な状態に陥っているかに絞られるが……。
「……一つ、聞いても良いかしら?」
不意に、イヴが躊躇いがちに訊ねてきた。
「お好きにどうぞ。お望み通りの答えを返せるかは保証できんが」
「そんなに身構えなくても良いわ。これは……そう、単なる世間話の一環だから」
「はあ」
些か胡乱な雰囲気を感じ取りつつも、ヘイズは先を促す。
「これはあくまで、仮定の話なのだけど。ヘイズ君の人生の終点が、最初から決まっていたとして。そしてそれが救いようのない、絶望に満ちた悲劇であったとして」
普段通り抑揚の乏しい声で語るイヴ。
しかして茫洋と天井を見上げる冷たい横顔には、どこか諦念の色が滲んでいるようにだった。
「ヘイズ君は、その運命を覆したいと思う?いつか必ず訪れる最期の時を、幸福なものにしたいと願う?」
「……とりあえず一言良いか?」
「なに?」
「世間話どこ行った?」
「……はぁ」
物凄く億劫そうな嘆息を返された。でもただの雑談と気楽に構えていたら、恐ろしく重い話題を振られたこちらの気持ちも察して欲しい。
ともあれ答えると決めたからには真面目に考えるのだが。
「約束された悲劇……悲劇ねぇ」
その言葉を口の中で反芻する。
生憎、ヘイズはイヴの生い立ちに関する情報を一切知らない。だから彼女が内にどんな懊悩を秘めていて、何を望んでいるのかも不明である。
ただイヴにとって、自分からの答えが非常に重要な意味を持つことだけは漠然と理解できた。
ゆえに己の過去の経験を踏まえて、率直な意見を口にする。
「俺の答えは簡単だ。特に何もしない」
「……それはどうして?」
心から意外そうに、イヴが首を傾げる。どうやら自分の答えは、彼女の予想から大分外れていたらしい。
正直、胸の内を明かすのは得意ではないのだが、毒を食らわば皿までか。若干の気恥ずかしさを覚えつつも、ヘイズは言葉を紡ぐ。
「前提を覆すようで悪いんだが。絶望だ悲劇だとお前は言ったが、それは一体どこの誰が決めるんだ?」
「……その人の死を見届けた者、かしら」
「だろうな。じゃあ重ねて問うが……なんで他人の勝手な解釈に、見届けられた側が付き合ってやる必要があるんだ?」
ヘイズの言わんとしたことを悟ったのだろう。イヴが息を呑む気配が伝わってきた。
「要は視点の違いだな。端からは報われていないように映っても、本人が多少なりとも満足できたのならそれが全てだ。誰に憚られることなく、そいつは自分の最期に胸を張って良いんだよ。……まあ外道にそれをやられた場合は、腸が煮えくり返るのが難点だがな?」
「だから、何もしない?自分の死に対する評価は、自分で決めるものだから」
「そんな格好良いもんでもないけどな。単に部外者からごちゃごちゃ採点されるのが気に食わないってだけの話だよ」
自嘲の笑みと共に、ヘイズは締めくくった。
彼は知っている。志半ばで倒れたにも拘わらず、安息の中で散っていった魔導士達の顔を。
皆一様に確固たる目的があり、何を置いても叶えたい願いがあった。その全てが水泡に帰す様は、なるほど確かに非業の死と形容して良いだろう。
されど影一つ遺すことなく退場した彼らの姿が、美しく尊いもののように見えたから。それを生者が陳腐な言葉で片付けてしまうのは、傲慢が過ぎるようにヘイズには思えるのだ。
「けれど実際にそう潔く終わるケースは稀なのではなくて?だからこそ亡霊などという存在が生まれるのだし」
「そうだな。だがそれでも、拘ってみるだけの価値があると俺は思うよ」
「……理解できないわ。現実的に考えて、明らかに分の悪い賭けでしょう?」
大真面目に頭を捻るイヴに、ヘイズは皮肉っぽい調子で告げた。
「だってほら、上手くいった時のことを想像してみろよ。運命だか神様だか知らんが、お前はこんな奴だからこんな風に死ぬのがお似合いだって。さもルールのように偉そうに決めてくる輩に、お生憎様を叩きつけて勝ち逃げできるんだぜ?きっと最高に胸がすく」
直後にイヴが見せた反応は、普段の淡白な印象からは遠くかけ離れたものだった。
彼女はまず唖然と無防備な表情を晒すと、ややあってから唐突に、
「――ふ、ふふ……あははっ……」
と、堰を切ったように声を上げて笑い出したのである。
「胸がすく……、そうね、それは……ええ、とても大切なことよね……っ」
口元に手を添え、必死に優雅さを取り繕おうとしているものの、肩の震えは一向に治まる気配はない。
それどころか目尻には薄く涙すら浮かぶ始末で、魔女としての威厳などもはや完全に吹き飛んでしまっていた。
特別な意図を籠めたつもりはなかったが、どうやら今のヘイズの主張は見事にイヴの壺に嵌まったらしい。
しかし不快な印象は抱かなかった。何故ならイヴの声音には嘲弄ではなく、童女めいたあどけなさを漂わせていたため。
寧ろ氷のごとき相貌を自分が崩してやったのだという事実に、ヘイズは不思議な達成感すら覚えていた。
「……どうやら勘違いをしていたみたい」
ようやく落ち着きを取り戻したイヴが、澄まし顔で咳払いを一つする。
「ヘイズ君は、私が考えていた以上に悪い人なのね」
「どうかな。探せば案外、善良な所もあるかもしれないぜ」
おどけて肩を竦めれば、つられてイヴも破顔する。
それはヘイズでさえつい見惚れてしまうような、晴れ晴れと華やぐような笑みだった。
『ヘイズ、いますか?』
不意に、扉の向こうから呼びかけられた。
セリカの声だ。こちらの返事を待たずして、つかつかと部屋に入ってくる。
「ああ、こちらに来ていましたか。貴方にも怪我をした同僚を見舞うだけの仲間意識が芽生えてくれたようで何よりです」
「お前の中で俺はどれだけ薄情者だったんだよ……」
揶揄するような台詞に、思わず苦言を呈する。
まあ実際、セリカと出遭うまでは徒党も組まず一匹狼を気取っていたので、そう捉えられても仕方がない面もあるが。
「テオドアから軽く聞いたぞ。そっちもそっちで大変だったらしいな」
「ええ、まあ。とは言えこちらは予め用意した罠に敵を嵌めるだけでしたからね。マリアンに絡まれた挙句、亡霊の群れに単身突撃した貴方と比べれば、大したことはしていません」
「……改めて事実を並べられると、よく生き残ったよな俺」
「全くです。無茶をするなと言ったのに、貴方も懲りませんね」
などと肩を竦めつつも、セリカの口元は愉しげに弧を描いている。相変わらず琴線が謎な女である。
「それにイヴも、無事に生還できて何よりです。正直今回ばかりはかなり肝を冷やしましたが、貴方を失わずに済んだのは僥倖……って何ですその目?私、おかしなことを言いましたか?」
「……別に。何でもないわ」
先程までの可憐な微笑は何処へやら、気付けばイヴはいつもの冷淡な面相を取り戻していた。より一段と温度の欠けた声音は、心なしか拗ねているようにも聞こえる。
当然、顔を合わせるなり邪険な態度を取られたセリカは、困惑の表情を浮かべるばかりであった。が、それはすぐに新しい玩具を前にしたような、悪戯っぽい笑みへと変化する。
まずい。ヘイズは焦った。
理由は見当もつかないが、何やらイヴはセリカに不満を抱いており、そしてセリカは友人のらしからぬ反応を面白がっている。
このままではヘイズを間に挟んで、恐ろしく不毛な火花が散り兼ねなかった。最悪である。
「あー……セリカ。俺を探してたんだろ?何か用があるんなら、早くした方が良いんじゃないか?」
「おっと、そうでした。イヴ、雑談はまたの機会に」
強引に割り込むと、セリカはあっさりとこちらに関心を戻した。
「オーナーからの招集です。市長の対応が一区切りついたので、異変の主を討つための作戦を立てたいと」
「分かった、すぐに行こう」
即座に了承を返し、ヘイズは椅子から立ち上がる。
「待って」
背後から服の裾を引かれる感触。
怪訝に思って振り返ると、イヴがイヴが脂汗を浮かべながらも上体を起こそうとしていた。
「おい、無理するな」
肩を支え、背中に枕を当てがってやる。それに目礼を示してから、イヴは改めて口を開いた。
「あれと闘うのなら、少しでも情報が必要なはずよ。ヘイズ君だって、そのために私を助けたのでしょう?」
「否定はしないが、だからと言って怪我人に無理を強いるのは俺の主義に反する。大人しく寝てろ」
「別に同行させろと言っている訳ではないわ。ただ直接力になれない代わりに、この子を連れて行って欲しいだけ」
イヴが指を鳴らすと、彼女の影から何かが勢いよく飛び出してきた。
黒曜の毛並みを備えた小鳥である。それは天井近くを悠々と旋回した後、ヘイズの肩に軽やかに着陸した。
「その子の中に、私が見聞きした光景を切り取って複製しておいたの。命令すれば投影してくれるから、作戦を練る時に役立てて頂戴……」
ただでさえ枯渇していた霊素を無理やり絞り出した反動だろう。糸が切れた人形のように、イヴは寝台へと再び横たわる。
「助かった。代わりと言っちゃなんだが、お前の分も精々仕返ししてきてやるよ」
「ええ……期待してる」
そう頷くイヴの眼差しには、ヘイズに対する無心の信頼が宿っていた。




