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ある異能者の備忘録  作者: 鷹沢綾乃
第一話 凍れる願い

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06.情報

 ひとまず車に戻ると、異常がないかを一通り点検した。咄嗟の操作でドアはロックされており、特に異常はない。

 ほっとしたものの、キーを持っていない晃は、そのまま車の外で二人が帰ってくるのを待つことになった。

 程なくして、聞き込みに出ていた結城と和海が戻ってきた。そして、車の外に立っている晃の姿に、首をかしげる。

 「どうしたの、晃くん。わざわざ外に出て、待っているなんて」

 「ちょっと、車を離れたんです。その時、ドアをロックしていったので、締め出されたんですよ」

 「まあ、そういうことなら仕方がないが、どうして車を離れたんだ」

 和海がドアを開けている間に、結城が問いかけてくる。晃は、先程の出来事を一通り説明した。

 「……なるほどな。それでは、斎場の前を通りかかったサラリーマンを、次の標的にするつもりだったということか。ではやはり、あれは関係あるんだな」

 結城の言葉に、晃はぴんと来た。

 「では、何か関係がありそうな話があったんですね」

 「ああ。直接ではないが、かなり関係がありそうなものだ。詳しいことは、小田切くんの情報とも突き合わせる必要があるので、車内で話そう。やはり、月極駐車場に無断駐車というのは、落ち着かんからな」

 そこへ、運転席に乗り込んだ和海が声を掛けた。

 「さあ、早く乗って。事務所へ帰りましょう」

 行きと同じように、晃が後部座席に乗り込み、助手席に結城が座って、車は駐車場の敷地を出、帰途に着いた。

 問題の斎場を通り過ぎる頃、結城が口を開いた。

 「……例の斎場の関係者に聞いたんだが、あの斎場では、最近、夜勤の警備員の中に、白い人影をたびたび目撃する人がいたそうだ。それだけなら、ああいう施設ならよくある話だが、最初の目撃例が出た頃というのが大体二ヶ月前。後輩から相談された、一連の事件と同じ頃なんだ。しかも、その目撃者が出る直前、穏当でない葬儀があったそうだ」

 「穏当でない葬儀、とは……」

 晃の質問に、結城が少し顔をしかめながら答えた。

 「荼毘に付されたのは女性で、大きな声では言えないが、殺人事件の被害者だそうだ」

 さすがに、晃はもちろん横で聞いていた和海も驚きの表情を浮かべる。

 「とんでもないことを聞きつけてきたんですね、所長。わたしは、全然違うことを聞き込んでいましたけど」

 和海の話では、時折建物の中が物凄く冷えた感じになるときがあったという。職員の中でも数人の、いわゆる“霊感”のある人のみが、そう感じたというのだ。

 「それだけ聞いても、その冷気が普通のものではないとわかるでしょう。その冷気を感じるときって、いつも週の後半なんですって」

 「それも妙な話だな。何故週の後半なんだ」

 結城が怪訝な顔になる。

 「あそこの斎場は、パートさんがシフト制で入っているのだそうだけれど、不思議なことに、ある特定の組み合わせのときにしか、それが起きないのだそうよ。それが、週の後半なんですって」

 「それも、何かありそうだな。あとで、もう少し、シフトの組み合わせについて、調べる必要があるかも知れんな」

 さらに結城は続けた。

 「さっき話したことの続きだが、例の殺人事件の被害者というのが、死因が凍死だったんだそうだ」

 和海も晃も、驚きを隠せなかった。今から二ヶ月前といえば、暑い盛りの八月だ。その時期に凍死とは、通常では考えられない。

 「……妙な話だと思うだろ。実は被害者は、首を絞められて仮死状態のまま、大型冷凍倉庫に閉じ込められたんだそうだ」

 ことがことだけに、職員の口はえらく重かったが、こっそり能力を使ってわかったことでかまを掛け、ここまでは何とか聞き出したという。

 「調べれば、この事件の詳細はすぐわかるはずだ。小田切くんが聞き込んできた奇妙な冷気の話といい、ここまで一連の事件と一致点があると、繋がりがあるとしか思えないからな」

 「そうですね、所長。事務所に戻ったら、さっそく検索してみます」

 和海が、助手席の結城の顔を見た。直後、後部座席の晃が声を上げる。

 「前を見ていてください。前方不注意ですよ」

 和海は慌てて前に向き直った。直後に、すでに目前に来ていた対向車とすれ違う。

 「しっかりしてくださいよ、小田切さん。運転しているのを忘れないでください」

 晃が安堵の息をついた。結城も、どことなく顔が引き攣っている。

 「こんなところで事故を起こしては洒落にならん。別に、余計な連中がついて来ているわけではなかろう」

 「済みません、つい……」

 和海が首をすくめた。

 それから程なくして事務所に帰り着いた三人は、さっそく新聞社のサイトで問題の凍死事件を検索した。

 事件の発生時期がわかっていると、特異な内容の事件だけに、そう時間はかからないと踏んだのだ。

 しばらく探して、過去のデータベースから該当する事件を見つけ出す。その概要は、次のようなものだった。

 『事件の被害者は松崎淑子さん(30)。容疑者は西尾利光(29)で、二人の関係は恋人同士だった。

 ところが、西尾容疑者のほうに良家の娘との見合い話が持ち上がり、男は別れ話を持ち出した。急な話に激怒した松崎さんが、“見合いなどぶち壊す”と言い出して口論となり、激情のあまり西尾容疑者が松崎さんの首を絞めた。

 そして仮死状態になった彼女を死んでしまったものと思い込み、死亡推定時刻を狂わせるためにシーツに包んで職場の大型冷凍倉庫に運び込んで人目につかないところに隠したのだが、中で息を吹き返した彼女が苦しさと寒さで通路に倒れ込んできて、そのまま亡くなったため、第三者が倉庫に入ってきて亡くなっている松崎さんが発見された。

 倉庫の鍵が掛けられていたため、倉庫を管理する関係者が疑われ、わずか二日後に西尾容疑者が逮捕された』

 そして、事件が起きた場所自体はここから電車で一時間以上かかるほど離れた街だったが、被害者の実家が問題の斎場からそう離れていないところだったらしいということもわかった。

 喪主が父親であったということもあり、実家に程近く、忌まわしい事件現場からはほどほど離れたあの斎場にて、葬儀が行われたようだ。

 「この女性が、悪霊の正体と考えてよさそうですね。現場で感じたことと、事件の状況が一致します」

 晃がそう言うと、二人もうなずく。

 「確かにな。だが、何でこんなことをしているのかが、わからんのだが。確かに、亡くなり方を考えると、『温めて欲しい』というのは感覚的にはわかるんだが……」

 「それはきっと、本人に聞かなければわからないでしょうね。でも、わたしはあまり会いたくないわ。あのポルターガイストのことを思い出すとね……」

 和海が顔をしかめた。

 「会いたくないとは言っていられませんよ。最終的には、直接会うしか、解決の道はないんですから。頑張ってもう少し調べましょう」

 晃に励まされ、和海はにっこりと笑った。

 「そういえば、この容疑者の男、今どうしているんだ。裁判中か」

 「せっかくだから、調べてみますね」

 結城の言葉に再び検索を始めた和海は、そのうち怪訝な顔になり、驚きの声を上げた。

 「……この容疑者、起訴される前に、留置所内で亡くなっています……」

 晃と結城が、思わず顔を見合わせる。

 「ちょ、ちょっと待て。そのあたりのこと、もう少し詳しく調べたほうがいいんじゃないのか。もしかしたら、もしかするぞ」

 「でも、これからさらに詳しく調べるとなると、通常の方法ではいろいろと厄介ですよ。時間がかかります」

 和海が、少し困惑の表情を浮かべる。

 「時間がかかってもいい。亡くなった日とか、死因などは、きっちり調べて確認しておかなければ。何か、とんでもない事実が出てくるかも知れん。私の名前やコネを使っても構わんから」

 結城がすっかり真顔になっている。晃も、何か嫌なものを感じている表情だった。

 「事務所のほかのメンバーも総動員だ。斎場近辺の情報の洗い出しと、亡くなった容疑者の、死亡前後の状況を徹底的に調べなおそう」


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