表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある異能者の備忘録  作者: 鷹沢綾乃
第九話 踊る愚者
244/345

18.感知

 遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いします。

 

 ちょっと緊迫した場面が続きますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。



 最初に異変に気付いたのは、アカネだった。石に封じられた状態で、騒ぎ出したのだ。

 辺りは、もう少しで万結花の自宅に帰り着くという住宅地の道路。

 万結花は、突然騒ぎ始めたアカネに困惑した。

 昼休みに、突然笹丸から話しかけられ、事情を説明された時より、今のほうが困惑度が強い。

 「待って、もうすぐ家だから、家に着いたら話してね、アカネちゃん」

 そう小声で語りかけると、万結花は自宅まであと数分の道を急いだ。

 このあたりは、散々行き来してきただけに、頭の中に万結花なりの地図が出来ていた。

 それだけに、気にはなったが今は家に着いた方がいい、と考えたのだ。

 皆が張ってくれた結界の力を、気配として感じる。やっと自宅に着いた。

 手探りで、鞄につけた鍵を取り出すと、玄関のドアの鍵を開け、中に入る。

 靴を脱いで自室に入り、そこで初めてアカネに出てきていいと告げる。

 アカネは、慌てた様子で飛び出してきた。彼女が焦っている気配が伝わる。

 続いて笹丸も出てきて、アカネの近くに降り立ったようだ。

 しかし、アカネの様子が本当におかしい。

 「どうしたの、アカネちゃん。今なら、しゃべって大丈夫よ」

 万結花にそう言われ、あたふたしているのがよくわかる状態で、アカネが念話をぶつけてくる。

 (あるじ様、大変!!)

 アカネは、今にも泣き出しそうに感じられるほど焦り、混乱しているようだった。

 (あるじ様の声、かすかに聞こえた。『助けて』って言ってた!)

 「えっ!?」

 誰かに頭を殴られたような衝撃だった。

 晃の身に、何かが起こった。あの彼が『助けて』と口走るような、何かが。

 笹丸が、何とか冷静さを保った声で問いかける。

 (アカネよ、もっと詳しく話すのだ。どのような様子であった? 場所はわかるか?)

 (苦しそうだった。どこかはわからない……)

 落ち込んでいる様子のアカネに、万結花も動揺していた。

 異界に閉じ込められたときでさえ、死力を尽くして自力で戻ってくるような晃が、どうなったというのか。

 誰かに知らせないと、と思ったとき、万結花の頭に浮かんだのは、やはり兄の雅人だった。

 今日は、就活で会社説明会に行っているはずだ。

 万結花は、部屋に置いてある時計に手を伸ばす。それの上部を軽く叩くと、音声が現在時刻を告げる。

 『ただいま午後三時四十二分です』

 確か、兄の行った説明会は、午後三時半には終わるはずだ。今なら、終わっているはず。

 兄に連絡を取ろうと思ったその時、玄関のインターホンが鳴った。

 動揺は続いていたが、今は家に自分しかいない。

 万結花は、震えそうになる足を踏みしめ、部屋の外のインターホンに出る。

 「……はい、川本です」

 「ああ、万結花さんか。ちょうどよかった。結城です」

 インターホンから聞こえてきたのは、聞き覚えのある結城の声だった。

 万結花は、相談出来そうな人が現れたことに気づき、急いで玄関のドアを開けた。

 ドアの外には、結城と和海の二人がいた。

 二人は中に入ると、結城が鞄を玄関の上がり口に置く。

 「いや、あれからいろいろ考えて、新しいお守りを……」

 言いかけた結城の言葉をさえぎって、万結花が叫ぶように言った。

 「大変なんです! 晃さんに、何かあったみたいなんです!」

 「えっ!?」

 二人の気配が、驚きに揺れる。

 「どういうことなの!? 何があったんですか?!」

 和海が、やはり動揺した様子で訊ねてくる。

 「と、とにかく、上がってください」

 万結花に促され、結城も和海も家に上がった。そして、万結花の部屋に行くと、そこにはおろおろしているアカネと、それをなだめている様子の笹丸がいた。

 「なんで笹丸さんがここに?」

 思わず訊ねた結城に、万結花は経緯を説明した。

 “嫌な予感”を感じた晃としては、戦力を集中させることによって、万結花を護ろうと考えた。それが、どうやら裏目に出たらしい。

 しかも、本来ならアカネと繋がっているはずの(ゲート)を、笹丸が無理矢理通過してきたため、受け手側、つまり晃の持っている石が完全に使い物にならなくなり、アカネが晃のところに飛ぶことが出来なくなっていたのだ。

 「……晃くん、前に自分が狙われた時にだって、嫌な予感はしてたはずなのに……」

 「早見くんだって、時に判断ミスをすることはあるだろう。今回は、悪い方に事態が動いてしまったんだな……」

 和海はもちろん、結城も焦りを隠せない有様になる。

 とにかく連絡だけはしておこうと、和海はアプリを立ち上げて法引に向かって事の次第をメッセージとして送った。

 すると、法引からはメッセージではなく電話がかかってきた。

 「小田切さん、第一報はわかりました。もっと、詳しい状況はわかりませんか?」

 やはり、いつもの法引の声ではない。相当に慌てているようだ。

 すると、笹丸が和海の足元にやってくる。それを見て、和海がスマホを笹丸のほうへと向けた。

 (法引殿、聞こえるかの)

 (はい。聞こえます。笹丸さん、何か詳しいことはわかりますか?)

 (我とて、直接感じたわけではない。感じたのはアカネだけだ。そのアカネに訊いたところによると、晃殿の“声”が聞こえたのは一瞬だけ。『助けて』の一言であったそうだ。それも、相当に苦しそうであったというから、ただ事ではない何かが起こったとしか思えぬ)

 笹丸の言葉に、電話の向こうの法引が一瞬押し黙る。

 (……それは……かなりまずい状況のようですな)

 (おそらくの。霊的なものであるならば、晃殿が対処出来ぬはずはない。以前話したことがあったが、覚えておるか。男を色香で惑わし、操る、女の鬼がいたことを。そ奴に操られたらしい男どもに、以前襲われたことがあったそうではないか)

 (ああっ! まさか……)

 (そうならば、合点がいくのだ。操られた男どもに、今度は晃殿が直接襲われたとしたら……)

 念話が終わり、法引が呼びかけて、和海が再びスマホを耳元に当てる。

 そこで法引が、笹丸の推測を和海に伝えると、彼女の顔色が変わった。

 「所長! 和尚さんから、笹丸さんの推測なんだそうですけど……」

 和海が内容を話した途端、結城の顔も青ざめる。もちろん、側にいた万結花も。

 皆、晃が体力的には人並み以下であること、肺活量が少なく、すぐに息切れするような体質であることは知っていた。

 襲われる前に<念動(サイコキネシス)>などで撃退出来なければ、例えば集団で掴み掛られたりしたら、その時点で勝ち目がなくなるのだ。

 相手を金縛りにする力も持ってはいるが、本性を現していなければ、視認出来た相手のうち一人だけにしか使えない、と以前本人が言っていた。

 前に大学構内で襲われた時は、相手がまだ離れた位置にいる間に<念動(サイコキネシス)>を使って弾き飛ばして難を逃れたというが、その時はつけられていることに気づいて、警戒していたようだ。

 もし無警戒のところをいきなり襲われたら、ある程度心得のある者でも、無傷での撃退は難しいだろう。

 ましてそれが、晃だったら……

 「晃くん、今どこにいるのかしら。早く見つけないと、大変なことになりそう」

 和海が、青い顔をしたままつぶやく。

 結城が、一縷の望みをかけて、晃のガラケーに電話をかける。だが、いつまで経っても呼び出し音が鳴るばかりで、そのうち自動的に『電話に出ることが出来ない』というアナウンスとともにメッセージを残すように案内がされたところで、結城は電話を切った。

 「だめだ、電話に出ない。出ないのか、()()()()()()()がわからんところだが……」

 そういう結城の顔は、すっかり曇っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ