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ある異能者の備忘録  作者: 鷹沢綾乃
第八話 迫りくるモノ
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23.確認

 皆で、クリーム色の軽自動車に乗り込むと、息子の昭憲にも声をかけておくという法引を寺に送った後、探偵事務所に向かった。

 事務所に帰り着いたところで、一旦事務所の奥のダイニングキッチンに三人で集まることになった。

 置かれているテーブルセットの椅子に腰かけると、晃は大きく息を吐いた。

 アカネは晃の足元で、晃の脚にぴったりとくっつくように座っている。笹丸は、少し離れたところからそれを見て、苦笑しているような雰囲気になっていた。

 結城や、車を駐車スペースに入れてきた和海も加わって、三人で再度話し合いとなる。

 「早見くんの霊視で、一応は()()の正体は突き止められたわけだが……」

 「僕としては、あれだけでは済まない気がするんですよ。ちょっともやもやしたものががあって、なんだか落ち着かないというか」

 「そうよね。晃くん自身が、『あんな形にする必要ない』って言ってたもんねえ」

 やはり、あの雑霊や妖の集団の異様さは、いくら考えても腑に落ちない。

 「ところで、あの変化(へんげ)しかかっていたという黒い物の怪というか妖は、あれから姿を現していないんですよね?」

 晃が、確認を取るように問いかける。

 「そうだな。君以外の総がかりで何とか追い返したっていうところだ。ただ……ボロボロにはしたが、祓いきれなかった。力不足で、申し訳ない」

 結城が頭を下げると、晃は少し慌てて頭を上げてくれるように頼んだ。

 「所長、それを言うなら、体調不良で入院して戦力外だった僕が、一番申し訳なく思ってますから」

 これには、結城も和海も首を横に振る。

 「何言ってるのよ! 晃くんが入院したのは、万結花さんたちを護って全力を出し切ったせいじゃない。お見舞いの時にも言ったけど、誰も何にも言ってないわよ。あなたが気に病む必要なんかないわよ」

 「そうだぞ。それに、君が力を使いすぎて倒れることは、前にもあった。おそらく、操れる力と、体力とがうまく合っていないんだと思う。無理する必要はないんだ」

 二人に言われ、晃は再度溜め息を吐いた。

 結城に言われたことは、自分でも自覚していた。

力を使ったとき、特に“本気”の力を出した時、体がそれに追いつかずに消耗してしまうというのが、最大の弱点だということを。

 それと、まだ誰にも言ってはいないが、自分が持つ最強の力である『魂喰らい』も、実は少し嫌な予感を感じていたのだ。

 相手を“喰らう”ということは、異質の力を取り込むことでもある。使うたび、取り込んだ力を相手に返すなり、浄化の力として放出するなりしているが、ほんのわずかに違和感が残る。

 放出しきれなかったものが、残ってしまっているのだと感じる。

 それが、何とも気持ち悪かった。

 そうそう使う力ではないと思うが、使わざるを得ない局面は、これからも必ず出てくるだろう。

 万結花を護るためならば、躊躇(ためら)うことなく使うつもりだが、それを続ければどうなるか、自分でもよくわからないというのが実情だ。

 少なくとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは確かなのだから。

 晃は、ここで悩んだところで結局使うときは使うのだから、今考えこんでも仕方がない、と気持ちを切り替えた。

 「……所長、これからも時に体力が追い付かなくて迷惑かけるかもしれませんけど、よろしくお願いします」

 晃にそう言われ、結城は微苦笑を浮かべながら応える。

 「そんなこと、気にしなくていい。いままで通りで、構わないさ。私たちだって、君の力に頼ってるからね。その結果がそれだから、本当に気にしなくていい」

 その言葉に、晃は多少は気持ちを落ち着けた。

 とにかく何か食べようと、デリバリーでハンバーガーのセットメニューを頼み、それが届いたところで昼食になった。

 食べながら、晃がポツリと言った。

 「……また、神社めぐりを再開したいですね。僕絡みのゴタゴタで、しばらく行けなかったですから」

 それを聞いた二人は、一瞬顔を見合わせてから、改めて晃に聞き直した。

 「神社めぐりって、あれか。川本万結花さんが、使えるべき神を決めておくための……」

 「あれも、禍神への対策みたいなものだったはずよねえ。晃くんのことがあって、頭から飛んでたけど……」

 「そうですよ。これからだって、何らかの形で禍神からの圧力があるはずです。今回のこれだって、絶対それに連なるものだと思いますから。なら、やはり取れる対抗策は全て取った方がいいでしょう? もうすぐ年も改まりますし、初詣という形で再開するのが、一番自然だと思いますけど」

 神社めぐりは、元々万結花に仕えるべきと感じる神をあらかじめ定めてもらい、そのことによって禍神の魔手をはねのけるための一つの手立てを得るためのものだった。

 晃の本性が知られることになったきっかけにもなったものだが、晃本人はずっと続けるべきだと考えていたのだ。

 自分の本性が知られてしまい、それに気兼ねして間が開いてしまったが、間もなく年が明けるという今、新たに初詣という形で神社めぐりを再開しようと思ったのだ。

 晃の“初詣”という発言に、結城も和海もうなずく。

 「そうだな、ちょうどいいかもしれない。もうクリスマスも目前だし、それを考えるといい時期だろうな」

 「そうね。クリスマスを過ぎたら、一気に年越しムードになるし、それで年明けに神社をめぐるのは気分的にもちょうどいいかも」

 二人の賛同を得て、晃はなんとなくではあるが、内心でプランを練り始める。

 それでも、川本家の周辺で起こっている異変がこれからどうなるのか、それが見通せないのが不安な気持ちにさせる。

 晃にとっても、やはりそれは同じだった。

 (どうも引っかかるんだよね。川本家の周辺で起きているあれ、あのままで済むとは思えないんだ)

 (確かにな。あれはなんだかおかしいぞ。それに、俺たちが直接関わらなかったあの黒い妖、あれもどうなったのかわからないしな)

 遼の言葉に、晃も改めてアカネを通じて“視た”あの妖のことを思いだしていた。

 実際、あの妖は滅んだわけではない。確かにボロボロにはなったが、間違いなく逃げ延びた。

 滅んでいないなら、再び姿を現すと考えたほうがいい。

 だが、いつどこで再び姿を現すか、それは皆目見当がつかない。

 直接“視て”いないので、元々秘めていた力がどのくらいで、あの時どのくらいのダメージが入ったのか、読み切れないからだ。

 こればっかりは、いつ何があってもおかしくないと気を引き締め、油断なく過ごす以外の方法がない。

 「それとあともう一つ、あの黒い妖が、どう動くのかわからないのが、ずっと気にはなっているんです。年明けの神社めぐりまでに、ケリが付くといいんですけど」

 晃がつぶやくようにそう言うと、結城も和海も『あぁ』とばかりに一瞬天井を仰ぐ。

 「……確かにな。それは私も思っていた。アレが、我々がすぐに介入出来ない状況で暴れ出したら、と思うと、ちょっとなぁ……」

 「そうよねえ。結局逃げられちゃったし。今頃、どこで何してるかわからないし……」

 それを聞いて、晃が肩を落として頭を下げる。

 「すみません。あの時、関われなくて……」

 それには、結城も和海も先程言ったばかりのセリフを、再び繰り返す羽目になった。

 それで一通り落ち着いたところで、三人はひとまず昼食を食べるのに専念し、後片付けをしたあと、今度は事務所のほうに場所を移し、パソコンを操作しての事務作業をしながら、再度今後のことを話し始める。

 とはいえ、川本家の周辺で起きている異常も、姿を消した黒い妖も、現状では手を付けられないため、どうしたら何かあった時に速やかに現場に駆けつけることが出来るか、というはない話になる。

 そうなると、やはり晃が遠隔で介入するか、幽体離脱して飛ぶかのいずれかの方法を取るしかない、ということになってしまう。

 晃に負担をかけたくはないが、こればかりはどうしようもなかった。

 晃は念のため、その場で川本家の様子を少し確認してみる。気配を探るくらいだが、特に異常は感じられない。

 「一応、渡したお守りを通じて、向こうの様子がわかるかどうか、ちょっと確認してみました。ちゃんと気配を感じられたので、いざという時は遠隔で介入することも、幽体離脱で飛ぶことも可能ですね」

 晃がそう言うと、和海が慌てて声をかける。

 「ちょっと! 遠隔でいろいろやったら、消耗しちゃうんじゃないの!?」

 「今は、気配を探るくらいでしたし、大したことはありませんよ。はっきり“視える”ほどには、意識を飛ばしていませんでしたから」

 晃の返事に、まだ完全には納得していない様子ではあったが。和海はうなずく。

 「ほんとに、気を付けてよ、晃くん」

 「わかってます」

 それを見ながら、結城は何とも言えない表情で溜め息を吐く。

 「早見くん、無茶だけはするな」

 それだけ言うと、結城はパソコンに集中し始めた。


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