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ある異能者の備忘録  作者: 鷹沢綾乃
第八話 迫りくるモノ
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18.決意

 その夜も、次の夜も、その次の夜も、さらにその次の夜も、妖は姿を現した。

 そのたびに、霊能者四人が順番に泊まり込んで対応し、笹丸の術もあって何とか持ちこたえていた。

 しかし、笹丸の術の効き方が、徐々に悪くなってきているのが感じられ、それが対応している者たちの焦りや不安を呼んでいた。

 一応持ちこたえてはいるのだが、いつ破られるかわからない状態だからだ。

 夜に備えてひとまず日中に事務所に集合した四人は、顔を突き合わせて考え込んでいた。

 結城や和海は難しい顔で時折唸るのみで、打開策が出てこないのがよくわかる。法引と昭憲も、眉間にしわを寄せたまま黙りこくっていた。

 唯一の明るい材料は、入院中の晃の肺炎の症状が大体収まり、もうすぐ退院の目処が付くといったことくらいだ。

 ただ、それまでの間をなんとかしないといけないだろうし、退院直後の晃に頼るのも、申し訳ない気がして仕方がない。

 「……結局我々では、根本的解決まで持っていけないんだな……」

 結城が、片手を額に当てながらぼそりとつぶやく。

 「……早見さんが、規格外すぎるのですよ。確かにあの人は、普通の人ではありませんが……」

 言いながら、法引が大きく溜め息を吐く。

 「オレたちじゃ、結界を支えるのが精いっぱいだもんな。()()()を祓うどころの騒ぎじゃないし……」

 昭憲が、天井を仰ぐ。

 和海も大きく息を吐きながら、悄然とうつむいた。

 「しかも、わたしたちは笹丸さんの力がなければ、今結界を維持出来ていない。ほんとに自分の存在意義ってあるのかしらって思ってしまうわね……」

 それを聞いた全員が、がっくりと肩を落とした。

 それでも、これからのことを考えると、落ち込んでばかりはいられない。脅威は目の前に迫ってきているのだ。

 一応、万が一の場合には、アカネが対処してくれるはずだが、そうすると結局晃が残してくれた戦力に頼ることになる。

 あの妖の正体が判然としないのが、一番の懸念材料だ。

 霊能者としてそれなりの経験を積んでいる結城や和海、法引さえも、今まで出くわしたことがない存在なのだ。

 結界に込められた力を、外から奪って取り込んで変化(へんげ)していくなどというモノは、()()()()()()()()()

 徐々に笹丸の術さえも効かなくなる傾向が見えつつある今、完全に効かなくなった時にどうするかを考えなければならない。

 一時は、いっそアカネに結界の外に出てもらい、ひと暴れしてもらうか、という話にまでなったが、さすがにそれは博打(ギャンブル)だろうということになり、立ち消えになった。

 しかし、何らかの形で対処する必要があるのは間違いない。

 結局、『遅かれ早かれ結界が破られてしまうのなら、それを前提として対策を立てよう』ということになり、その方向で話し合うことになった。

 戦闘になってしまった場合、一番戦闘力があるのは当然法引で、次が和海、結城と昭憲は、純粋な能力者としての力はほぼ互角だが、戦闘力では昭憲のほうがわずかに勝る。

 アカネは法引よりも強力で、笹丸は法引の次くらいだろうか。

 ここに晃が入れば、普段の力でもアカネの次くらいで法引より頭一つ二つ上であり、本気になればアカネをはるかに凌駕する。

 今はその晃をカウント出来ないので、他の者たちで何とかするしかない。

 あとは、アカネと笹丸も当然戦力には入っている。

 笹丸の場合、戦闘能力だけではないもろもろがあるため、場合によっては戦闘補助的な役割を担ってくれるかもしれない。

 「でも、本当に結界が破られるようなことになった場合には、あの妖は姿を変えているでしょね。どんな姿になっているか……」

 和海のつぶやきに、誰もが考え込む。あまり考えたくはないが、相手が“結界の力を削ってそれを取り込んで変化(へんげ)する”などという真似をするだけに、人型になりかけたあの姿が完全に変化(へんげ)し終わった時、どんな姿になり、どんな力を持つか、まだ予想がつかないのだ。

 出来ればそうなる前に潰せればいいのだが、結界の外、つまり表で迎え撃って、撃退出来る保証はない。

 万が一迎撃に失敗して誰かが倒れるようなことにでもなったなら、事態は最悪の方向へ向かう可能性さえあった。

 結界の内側で結界を維持しながら持ちこたえ、破られた場合にのみ戦闘に入るというやり方もある。

 ただし、この方法を取ると、『相手の妖が完全に変化(へんげ)し切って別な何かになってしまう』というリスクが存在する。

 どちらがいいか散々話し合った末に、まだ完全に変化(へんげ)しないうちに全員で迎え撃った方が、何とかなるのではないか、ということになった。

 晃が復帰すれば、それこそ局面が大きく変わるだろうが、まだもう少しかかるのは間違いない。

 それに、晃ばかりに頼っていては、自分たちが情けない。晃だって、ゆっくり療養など出来ないだろう。

 「あの妖はいつも、庭のある居間の窓に向かって攻撃してきておりました。ならば、庭で迎え撃てば直接遭遇出来るでしょうな」

 法引は真顔でこの場に集まる全員の顔を見回した。

 「改めて伺います。“覚悟”はよろしいですかな?」

 法引の言葉に、皆黙ってうなずいた。

 「どうせなら、早く決着をつけたほうがいいでしょう。今夜、全員で泊まり込みますか?」

 結城の問いかけに、法引はうなずき返し、口を開いた。

 「そうですな。笹丸さんの術も効き目が落ちているのが明らかな今、ここで食い止めねば、あの妖は再び結界の力を取り込もうとしてくることでしょうな」

 今夜にも全員で迎撃を、という結城の案に反対する者は、いなかった。

 皆思っていたのだ。あのまま変化(へんげ)を続けさせた方が危険だと。

 訳を話せば、笹丸がアカネに伝えて二体とも協力してくれるだろう。

 そうと決まれば、さっそく準備に取り掛からなければならない。

 決戦というのではないが、ここで相手に打撃を与えて、完全に浄化出来ないにしても、しばらく出てこられないほどに痛打を与えて撃退出来れば、一気に情勢はこちら有利になる。

 例の妖が姿を現す時刻まで、あと半日ほどだ。それまでの間に、出来る限りの準備をしておかなければならない。

 一応、結界強化のための新たな護符は、作成済みだった。

 その他に、使い捨てで相手の力を削ぐ御札の類も、少しだが用意はしてあった。

 それを、特に戦闘力に乏しい結城と昭憲が受け取り、以前渡された白木の霊具も現場に忘れず持参することとし、後は体力の温存を図るため、川本家に集合する宵の時まで、仮眠などもしておくことになった。

 そしていったん解散となった後、四人は再び夜の川本家の前に集合した。

 法引親子は当然電車で最寄駅までやってきたが、探偵事務所組まで電車でやってきていた。疲労困憊になった場合、車を運転して帰るのは危険だという判断だった。

 事前に皆で訪ねる旨の連絡は入れてあり、家族全員での出迎えを受け、四人は改めて家の中に入った。

 まず最初にすることは、居間に面した結界を特に強化するため、新しい護符を以前の護符の隣に貼り、全員総出で力を込めることだった。

 そして、法引は笹丸に今回のことを打ち明けた。

 (なるほどの。確かにあの妖が変化(へんげ)し切る前に追い払うというのは、賛成であるぞ。あのまま放っておくには、やはり危険であると我も考えるしの)

 (笹丸さんもそう思いますか。わたくしも、放置は危険であると思い、今回の総力戦で一気に追い払おうということになったのですよ)

 笹丸はうなずき、アカネに何か話をしているようだった。

 (アカネには、そなたたち四人を助けて、妖と相対するように話しておいた。アカネも、ずいぶんと鬱憤(うっぷん)が溜まっておったようでの、“やっと暴れられる”というておったぞ)

 (ああ、そうですか。それは……心強いというべきでしょうなあ……)

 アカネの力は強力だが、今まで共闘したことがないだけに、うまく噛み合うかどうかだけが案じられた。


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