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ある異能者の備忘録  作者: 鷹沢綾乃
第七話 狭間に立つ者
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12.神社めぐり

 そして、神社めぐり当日の週末の日曜日。

 その日は、朝から秋晴れの爽やかな青空が広がっていた。朝の九時半に川本家の近くの公園付近の路上に集合したのは、川本家の一家五人と、結城探偵事務所から所長の結城、和海、そして晃。応援として法引と息子の昭憲が参加していた。

 合計十人の大所帯である。この大所帯で、これから乗用車三台に分乗し、すでに案内する結城探偵事務所側で決めた神社に向かうことになっている。

 もっとも、本当に禍神絡みで事が起こった時、この中で実戦に耐えうる実力の持ち主といったら晃だけだろう。

 そういう事態になったなら、他の者たちは結界を張って川本家を護ることに徹する、という手筈になっていた。

 先週皆で集まった時に、襲われた際にどうするかという話は当然出て、ああだこうだと話し合った末、結局護符を持って結界を張り、晃が敵を牽制しながら邪神の眷属が入り込めないであろう神社の神域まで逃げ込もうということで話はまとまった。

 当然晃に負担はかかるが、全員が結界の中に入ってしまうと、緊急で張る仮初の結界では破られる危険があるため、かえって危ないという判断で、晃が自ら囮というか、牽制役を買って出たのだ。

 誰も、それが出来るのが晃しかいないとわかっていたため、反対しようにも出来なかった。

 そして今日、改めて結城と和海には文庫本ほどの大きさの木の板に何やらびっしりと墨で経文のようなものが書き込まれている護符が、法引の手により渡された。いざという時に、結界を張るためのものである。

 そして、息子の昭憲も交え、結界を張るときの手順を改めて四人で確認した。何故昭憲まで連れてきたのかといえば、張る結界の形が護符の数によって決まってしまうため、密集体形が取れる四角形とするため、四つ目の頂点を受け持つ者として昭憲を抜擢したのだ。

 息子に霊能者としての場数を踏ませる、という意味もあったのかもしれない。

 「出来れば、使わずに済めばそれに越したことはないものだがなあ」

 言いながら、結城がスーツのポケットに渡された護符をしまう。和海も、サコッシュにそれをしまった。

 「何とか初回ぐらい、平穏無事に終わってほしいですよねえ」

 「まったくだ」

 それを聞き、法引もまた溜め息交じりにつぶやいた。

 「わたくしも、それを願っておりますが」

 その様子を見ながら、晃は胸元にある二つの石に右手を触れる。そこには、いつものように笹丸とアカネがいる

 (すみません。万が一の時は、アドバイスをお願いします。アカネも、よろしくね)

 (うむ。我は、そなたほどの力は持ってはおらぬが、知恵や知識なら貸せる。遠慮せず、尋ねるとよいぞ)

 (あるじ様、わたい頑張る。いつでも、あるじ様のためなら、わたい嫌な奴やっつける)

 すると、遼が溜め息を吐きながらぼそぼそと話す。

 (……なあ晃。無茶するなよ、お前。いざとなったら、馬鹿正直に立ち向かい続ける必要はないんだぞ。適当に躱して逃げろ。お前時々、頑張りすぎるときあるからな)

 (わかってるよ。神域に逃げ込むまでの、牽制役なんだから。無理はしないさ)

 (……お前の『わかってる』は、いまいち信用出来ないんだよな。今まで、()()()()()()()()()()からな)

 (……)

 遼の指摘に、晃は反論出来なかった。確かに、口では『わかってる』と言いながら、無茶をしたことは一度や二度ではない。

 今回も、一応出来る限り無茶はしないつもりだが、時と場合によってはどうしようもない時もあるだろう、とは思っていた。そこのところを遼に見抜かれての、先程の発言になったのだろう。

 元々、隠し事など出来ないのだから、仕方がないが。

 とにかく、護衛側の段取りが終わると、改めて川本家の五人とあいさつを交わした。

 「川本家の皆さん、今日はわざわざご足労いただき、ありがとうございます。これから今日は、二つの神社に参拝に行きます。どちらも、大きな神社ではありませんが、由緒のある神社であり、場所も近いところにあります」

 結城の説明に、父の俊之がうなずく。

 「慌てて回る必要もないので、午前に一か所、午後に一か所で、早めに帰宅する予定です。ばらばらになるのもあまりよくないので、一応昼食はみんなでまとまってどこかの店に入ることにしますが、希望があれば、ここで言っていただければ今のうちに予約取りますが。ファミレスぐらいなら、予約なしでもなんとかなるでしょうし」

 それを聞き、川本家側では一家五人が集まって相談を始めたが、結局『ファミレスでもいいか』ということで話がまとまり、特に予約はなしでいいということになった。

「いろいろお手数かけますが、よろしくお願いします。こんな、大人数で押しかけてしまって、申し訳ありません」

 俊之は、そう言って本当に恐縮したように愛想笑いを浮かべた。

 始めは、晃と万結花本人と、立会人の雅人の三人で回るはずだったのが、結局家族全員でついてくることになり、護衛する側も人数を増やすことになったのだ。

 父親としては、家族会議で決めたときは、場の勢いとノリだったが、今となってはちょっと大げさになりすぎたか、と反省する気がないでもないらしい。

 もう、今更だが。

 そして、それぞれが車に乗ると、いつものように和海が運転する結城探偵事務所のクリーム色の軽自動車を先頭に、次に俊之運転の川本家の乗るスカイブルーのハイブリッド車、その次に昭憲運転で法引が乗るガンメタリックのスポーツセダンが続く。

 並んだ三台の車を見たとき、率直に『探偵事務所の車が一番ボロい』と誰もが思ったが、さすがに誰もそれを口には出していない。

 走り出して間もなく、さすがに比較対照する車があったせいだろう、結城がボヤキとも何ともつかないことを口走る。

 「……ウチの車だけだろうな、十年落ちなんて……」

 それを受けて、和海がやや苦笑気味に笑う。

 「もともと中古だったのを、さらに使い倒してますからね」

 「あ、これ中古だったんですか? でも、その割にはしっかりしてるような……」

 「もちろん()()()()は買ったりしないさ。ヤバそうな車はわかるから」

 「……まあ、『祓ってくれ』と依頼されたわけではないですもんねえ……」

 「ガチでヤバかったら、僕はお店の人には知らせますが」

 晃の言葉に、大人二人は苦笑いを浮かべる。

 「いやあ、案外お店の人は知ってるケースが多いんだよ。そういうヤバい車って、すぐに出戻ってくることが多いからねえ……」

 「それでもたまに、本当に何にも感じない極端に鈍感な人が、そういうのをものともせずに買っていったりするから、敷地の片隅に置いてあったりするのよ。またそういういわく付きの奴って、状態に比べていやに安かったりするからね」

 「不動産の“事故物件”と同じですね」

 晃がなんとも言えない表情を浮かべた。

 稀に起こる、信じられないような状況の交通事故などは、そういう“事故物件”というべき車両が絡んでいたりするのでは……

 晃の中で、嫌な想像が頭をよぎったが、とりあえずは頭の中からそういうのを追い出して、これから向かう二つの神社のことを改めて確認することにする。

 一つ目の神社はやや郊外にあり、二つ目の神社はより都市部に戻ってきたところにある。

 先に郊外の神社のほうに行き、都市部に戻ってきたほうが、帰宅の動線に無理がないという判断だった。

 これから向かう『紫穂(しほ)神社』は、有名ではないが地元の人々の信仰を集めるいわゆる“氏神様”であり、約千年の歴史を誇る由緒ある神社であるという。

 午後から向かう予定の『佐久良(さくら)神社』も、知る人ぞ知るというタイプの神社だが、八百年にわたり、その地に鎮座しているという神社であった。

 三台の車は、ひとまずは一時間半ほど走り、何事もなく『紫穂神社』に到着すると、境内近くのコインパーキングに車を停める。

 ある程度の規模の神社なら、駐車場として使える敷地があったりするのだが、ここは郊外とはいえ住宅地にあり、コインパーキングに停めるしかなかった。

 地元の人以外、ほぼ参拝客などいないだろう神社に、十人という集団がぞろぞろ歩くとそれなりに目立つが、中でも先頭に立つ晃はひときわ目立つ。本人も、それは覚悟のうえで先頭切っているのだから、仕方がないが。

 今回、結城探偵事務所がこの二ヶ所の神社を選んだのは、半ば観光地化している有名どころは敢えて外したのと、無名でも古くから地域に馴染み、地元の人々から深い信仰を集めている神社の中から選ぶようにしたからだ。

 「実際のところ、気配を感じられればいいので、もし億劫なら無理にお参りしなくても構いませんよ。鳥居をくぐれば神域に入ったことになります。そこで気配を感じてみてください」

 晃が、万結花に声をかける。もちろん、出来ればきちんとお参りしたほうがいいとは思うが、“贄の巫女”が正規の手順で神社に参拝して、そこの御祭神に余計な期待を持たせてもまずいという配慮もあった。

 彼女は、普通の人とは違うのだ。無自覚だったならまだしも、今はもう、そうだという自覚がある身である。

 それを受け、万結花は周囲の人と一緒に鳥居をくぐり、そこで立ち止まってじっと気配を感じるために深呼吸をする。数十秒後、彼女はぽつりといった。

 「……気配は感じました。落ち着いたいい神様だと思いますが、ちょっとピンときません……」

 「おい、万結花……」

 思わず眉間にしわを寄せた俊之だったが、それを晃がさえぎる。

 「いえ、いいんです。“贄の巫女”は、その一生を神に奉げる代わりに、仕える神を選ぶ権利があるそうなんです。ピンとこないのなら、それはそれで次を当たればいいだけです」

 ここの神社の神は“違う”。それが確認出来たのなら、それでいい。

 一行は引き返し、鳥居をくぐって神社の敷地の外に出た。

 「少し早いですが、お昼にしませんか? 今なら、ちょうどお店がランチタイム営業を始めたところで、まだ混んでいないでしょうから」

 結城がそう声をかけると、特に異論は出なかった。何せ十人の大所帯である。ファミレスでも、まとまった席に着くのは至難の業だろう。

 簡単に話し合い、このまま車でファミレスへ移動。それぞれ探偵事務所組、川本家、法引親子の三組に分かれて入店。それぞれで食事。

 その後、ファミレスの駐車場の入り口近くで他の組を待ち、全員揃ったところで午後の打ち合わせをし、車へ向かう、という段取りとなった。


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