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ある異能者の備忘録  作者: 鷹沢綾乃
第六話 贄の巫女
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10.“神”というモノ

 川本家で夜を明かしてから数日。結城探偵事務所の三人は、晃が大学から帰る途中を車で拾って、法引の寺である妙昌寺に来ていた。“贄の巫女”の一件を相談するためだ。三人とともに、日中を石に封じられた状態で過ごした笹丸もやってきている。

 「……なるほど、そういう存在が現実にいらっしゃるというわけですな」

 法引が、そう言いながら腕を組んで考え込んだ。厄介な案件だと、わかっているためだ。

 その傍らには、神妙な顔で昭憲も話を聞いていた。

 「確かにそれ、年単位で関わらないといけない話だよなあ。しかもこれから先、どんな奴がやってくるか、わからないんだろう?」

 昭憲が、溜め息混じりで天井を仰ぐ。

 「そうですね。笹丸さんの話だと、“神”や“神に匹敵する力を持つモノ”なんかが、彼女の力を手に入れようと、接触してくる可能性があるそうです」

 そして、一度笹丸のほうを見、笹丸がうなずくのを確認してから改めて話した。

 「しかも、重大なことがありまして」

 一旦言葉を切り、晃はいつになく真剣な顔で決定的なことを口にした。

 「『その神の元に行く』と口に出してしまえば、それでその神との契約が成立してしまう。たとえ本人が心の中ではどう思っていようと、です。神との契約は、言霊(ことだま)の力を介して行われるものですから。そして、一度契約が成立してしまえば、覆すことは出来ない。つまり、川本万結花さん自身や、その家族に危害を加えると脅す、あるいは本当に実害を及ぼすことによって精神的に追い詰め、無理矢理その言葉を言わせようとする存在が現れかねない、というのが一番の問題なんです」

 それを聞き、事態の深刻さに改めて全員が考え込む。

 「とりあえず、今張っている結界は、早見くんが一人で張った物。それを強化する必要はあると思うのだが……。それだけで、本物の“神”とされる存在を、何日防げるんだ?」

 結城が考え考えそういうと、晃は目を伏せながらぼそりと答える。

 「……持って、一日です。相手の力量にもよりますが、それ以上は持たないと思ってくださって結構です。僕個人の推測ですが、一度防ぎきったらもうボロボロだと思ってください。一度で破られる可能性もあります」

 強化したところで、人間が張れる結界の強さには限度があって、大勢の人間が長時間の儀式を経たうえで張った、というものでない限り、そういう圧倒的な力を持った存在が破ろうと攻撃してきたら、そう長いこと持つものではない。

 「さすがに、いきなり“神”が接触してくるとは思えませんが。わたくしが神の立場なら、まず自分の配下にいるモノを、使者として送り込んでくるのではないかと思います」

 法引の言葉に、笹丸もうなずく。

 (そうであろうの。“神”たるもの、いきなり自分から出向くというのでは、あまりに威厳というものがないであろう)

 (まあ、そうでしょうね。でも、その配下たちがどういう存在か読めない。眷属クラスなら、そこらの悪霊や物の怪の比ではありませんからね)

 (いい神様なら強引に迫ってくることはないだろうが、悪神とか邪神とか呼ばれる存在なら、“力”を手に入れようとする方法にも容赦がないだろうからなあ……)

 遼もまた、頭が痛いと言わんばかりの口調でつぶやく。

 「とにかく、ここでグダグダと悩んでいても、仕方がないでしょうな。結界に関しては、わたくしも協力いたしましょう」

 法引の言葉に、結城も和海も心なしかほっとした表情になる。しかし晃は、難しい顔をしたままだった。

 「和尚さんの協力は心強いですし、感謝します。でも、基本的に結界は長持ちしないと考えるべきだと思います。そして、結界が破られたその時、何とか時間稼ぎをして相対することが出来る時間を作る必要があります。そのことについてなのですが……」

晃がその案を言うと、皆そんなことが出来るのかと驚いた顔をした。

 「一応、理論上は……ということなので、ちょっと試してみる必要はありますが、確認が取れたらやってみる予定です」

 それはそれとして、と晃は話題を変えた。

 「実際、結界を張るための呪符などは、どのくらいの力を込められるでしょうか?」

 晃の問いかけに、法引は少し考え、答えを返す。

 「そうですな、以前アカネの時に張った結界に使ったものより、五割増しが限界でしょうな」

 「五割増し……ですか」

 あまり力を込め過ぎても、逆に呪符としては使いづらいものになりかねない、とのことだった。

 「呪符自体が強力すぎると、いざ結界を張ろうというときに、互いが干渉しあう場合があるのです。それで、全体のバランスを考えると、五割増しが限度であろうと思われるのですよ」

 「それでも、相当力使うから、おそらく一日一枚作るのが限度だと思うよ。オレは手伝うことは出来るけど、最後に力を込めるのは、おやじにしか出来ないからなあ」

 昭憲が、少し残念そうに会話に加わる。

 「お前がもう少し強い力を持っていれば、だいぶ状況が変わっただろうが……それは仕方のないこと。ないものねだりをしても始まらない。確実に出来ることを、きちんとやっていくほかはない」

 法引は、息子の昭憲に言葉をかけた。昭憲は、わかっているとばかりにうなずく。

 「しかし、一日一枚とすると、結界が張れるだけの枚数を作るのに、数日かかることになりますよねえ」

 和海が少し心配そうに、溜め息を吐いた。

 「まあ、そう悪い方へ悪い方へ考えても、どうしようもないだろう。まだ可能性の段階なんだしな」

 結城が場を落ち着かせるようにそう言うと、法引も同意した。

 「そうです。まだ何も起こっていないのに、悲観的になる必要はありませんからな」

 確かにその通りなのだが、“贄の巫女”がこの世に生まれ出たとなったなら、力ある“モノ”たちは遅かれ早かれ気が付くはずだ。

 笹丸の話によると、霊力を隠蔽するなどということが出来ない限り、巫女の存在はそういうモノたちの間で噂として広まり、必ずその存在を確認しようとするモノが現れる。

 その時に、やってきたモノを打ち倒して情報を持ち帰らせないように出来れば時間が稼げるが、ひっそりと調べるだけで去るモノがいたりすれば、それに気づいて止めることは難しい。

 だから、絶対に楽観してはいけないのだ、と。

 とにかくこの場では、法引が結界強化のための呪符づくりを始めること、川本家とはこまめに連絡を取り、今張ってある結界の様子を教えてもらうことなどを決め、各次解散となった。

 晃は車で送ってもらいながら、これからどうしたものかと考えていた。

 先程話した対応策はもちろん取るつもりだが、そのためには多少材料がいる。車で送ってもらうついでに、材料が売っているショッピングセンターへ連れて行ってもらうことにした。

 「いつもすみません。僕のわがままで、余計な寄り道をさせてしまって」

 「いいえ、構わないわよ。必要なんでしょ?」

 ハンドルを握る和海は、快く車を向かせる。ほどなく車は、晃が徒歩で帰宅出来るところにあるショッピングセンターへ着いた。

 晃はそこで結城や和海と別れ、中へと入っていく。

 そこで、以前来たことのあるパワーストーンを売る店舗にやってくると、再び石を選んで購入、他にも、革紐なども買った。

 そして帰宅後、実際にその通りになるかどうか確認してみた。

 やってみると、思いのほかうまくいったので、この作戦を実行することに決める。

 この日はそのまま自宅で過ごし、翌日もしかしてという思いもあって、その品を持って大学へ行った。


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