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ある異能者の備忘録  作者: 鷹沢綾乃
第五話 怨嗟の獣
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25.最後の打ち合わせ

 話し合いの結果、瘴気を祓う試みをする晃が、囮も兼ねて化け猫を牽制し、その間に他の三人が、法引が作った御札を使って化け猫を抑え込み、笹丸が『従属の術』をかけて法引を“あるじ”とすること、などが決まった。作戦決行日は明後日である。

 晃の役割としては、まずは瘴気を祓うのを最優先で試してみるが、だめだった場合ただちに化け猫に対して囮として注意を向けさせるため、わざと少し攻撃的な態度を取って牽制することになったのだが、それに最後まで難色を示したのはほかならぬ和海だった。

 「これって、あまりにも晃くん一人が余計な危険を背負い込んでますよ! あの化け猫に、危うく命を奪われかけて、今だって義手もつけられないほど痛めつけられてて……。わたしたちだけ割と安全なところにいて、晃くん一人危険にさらすなんて……」

 興奮気味に言い募る和海に、結城が声をかける。

 「言いたいことはよくわかるが、この作戦を言い出したのは、早見くん本人だ。本人が承知の上で言いだしたんだぞ」

 「それはそうですけど……」

 「小田切さん、心配してくれる気持ちはありがたいですけれど、僕だって勝算なしでそんなことはしませんよ。この間は、不意を突かれてどうしようもなかっただけで、真正面から対峙するなら、そうそうやられたりしませんって」

 晃がそう言いながらなだめにかかると、和海は改めて晃のほうを向き、心配そうな態度を隠そうともせずにさらに口を開く。

 「そんなこと言っても、あなた一人飛びぬけて危険なのよ!? わたしたちは、御札の最初の一枚目を使うときにちょっと危ないだけで、御札を使えば使うほど危険が減るわ。でも、あなたはその最初の一枚目を使うまで、事実上たった一人で化け猫の相手をしなくちゃならないのよ! それがどれだけ危険か……」

 「わかっています。でも、誰かがやらなければならない役目です。それなら、言いだした僕が、責任をもってその役目を全うするべきだと思うんです。どちらにしろ、瘴気を祓う試みをすれば、化け猫に攻撃対象にされますからね」

 晃は、すでに達観したように答える。それを見て、和海も諦めたように肩を落としてうつむいた。

 (なんだかなあ。心配してくれるのはわかるんだけど、前よりしつこく絡んでくるようになったのは気のせいかなあ)

 (気のせいじゃないと思うぞ。前々からうっすらお前に気があるとは思ってたんだが、この間お前に助けられたっていうか、かばってもらったという意識から、一気に気持ちが傾いたのかもなあ)

 (ええー!? ちょっと待ってよ! それ、マジ?)

 (こんなところで、冗談は言わないぜ、俺)

 (だよねぇ……。どうしよ、これって予想外だ……)

 (諦めるのだな。一刻(いっとき)のことかも知れぬ。それに、そなたが応じるつもりがないのなら、初めからそういう態度でいればよいことだ。相手とて、口で言うておるわけではあるまいて)

 (はあ、そうですが……)

 「ところで、さっきから微妙に百面相してるような気がするんだが、何やっているんだ?」

 結城に問いかけられ、晃は苦笑しつつ答える。

 「ええ、ちょっと、頭の中で今回の作戦のシミュレーションを……」

 「ずいぶんと熱心ですな。しかし、シミュレーションもよろしいですが、実際に決行するまでに、出来る限り体調を整えてください。わたくしとしては、そちらを優先していただきたいです」

法引にそう言われ、晃はもう苦笑さえできずに神妙にうなずいた。

 「わかりました。明後日まで、体調を整えるのに専念します」

 晃としては、能力を使うのに問題はないのだから、ということで今日の午後でも構わないと口にはしたのだが、他三人から猛反対を受け、結局明後日に落ち着いた。

 それでも、三人にとってはギリギリの譲歩のようなものだ。

 本当は、晃に万全の体調で臨んでほしかった。だが、本当に万全になるまで待っていたら、工事が始まってしまう可能性もあった。

 明後日というのは、その折り合いをつけた妥協の結果である。

 相手は、いくら不意を突く形であったとはいえ、晃に身を護る余裕を与えさせずに一瞬にして打ち倒す力の持ち主だ。

 だからこそ、矢面に立つ形になる晃には、何とか無事に生還してほしい。そのためには、少しでも体調を整え、より万全に近い形で臨んで欲しいと誰もが思ったのだ。

 いくら言い出した張本人が晃自身で、危険を重々承知の上でのことであっても。

 そこで、せめて少しでもこちらが有利になるような形で化け猫を迎え撃つことが出来るよう、『従属の術』を行う場所を吟味し、不意を打たれないようにする必要がある。

 四人とも、何度か足を運んだため、大体の位置関係や地形は頭に入っている。高岡家からは少し離れ、丘の斜面にかからない場所が選ばれた。

 だが、机上で打ち合わせは出来ても、実際に現地へ行って確認することは難しい。行けば、下手をするとそのまま戦闘に突入する可能性さえあるからだ。

 事務所でまとめることが出来るだけの内容をまとめ切ると、晃の体調を考えて、当日まで下手に動かないでこのまま解散し、各自準備を整えることとなった。

 「わたくしは、予備の御札を書いておきます。ほかにも、考えつくことは全て準備しようと思っております」

 法引がそういうと、結城も和海もうなずいた。

 「私たちは、このまま事務所に残り、ひとまず急ぎの仕事を出来る限り終わらせてしまいます。明後日にはまた、一日事務所を空ける仕事になりますから」

 「さすがに、事務仕事がちょっとありますからね」

 「僕は……」

 晃が言いかけた途端、他の三人からすごい勢いで制された。

 「早見さんは、家に帰って静養に努めてください!」

 「早見くん、体を休めてくれ。君は主戦力なんだから!」

 「晃くん、万一のことがあったら、本当に大変なことになるから、ちゃんと休んで!」

 言葉は違えど、皆から揃って休めと言われたら、さすがに家に帰らざるを得ない。

 晃は止むなく、皆に挨拶をして事務所を出、バスに乗って自宅へと戻ってきた。

 途中コンビニで昼食を買い、自宅へと帰ると、帰宅の挨拶もそこそこに二階の自室へと上がる。下で智子の声が聞こえるが、聞こえなかったことにした。

 自室で、少し遅めの昼食を、笹丸とともに取ることにする。

 (笹丸さん、どうぞ。僕も食べますから)

 (いつもすまぬな。しかしあの三人、少々神経質になっておったの)

 (まあ、仕方ありませんけどね。僕が今、義手をつけられないくらい肩が腫れてるのは事実ですし)

 昼食を食べながら、晃は何とか現場の様子を見に行けないかと考えていた。もちろん、実際に出向けば十中八九襲われるだろうということはわかっている。

 こういう時に、〈遠隔透視〉が苦手という自分の弱点が、ピンポイントで効いてくるものだと、晃は天井を仰いだ。


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