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ある異能者の備忘録  作者: 鷹沢綾乃
第五話 怨嗟の獣
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09.打合せ

 四人は再度、これからのことについて話を始めることになった。自分たちが狙われる可能性が出てきたからには、自分たちも当事者ということになるからだ。

 「まだ直接対峙したわけではありませんから、化け猫がどのくらいの力量の持ち主かはわかりませんが、並大抵の相手ではないと思ったほうがいいでしょう。麻紀さんのような子は例外です」

 法引がそう告げると、三人がうなずく。

 「そうよねえ、うちの事務所の村上くんの能力でも、もしかしたらだめかしらねえ」

 和海が思案顔で村上の名前を出すと、晃がさすがに否定する。

 「いくらなんでも、あれだけの瘴気をまとえるような怪物の力を、中和できるとは思えませんよ。村上さんを巻き込んだら、冗談抜きで本当に死にかねないのでやめてください」

 「巻き込まないわよ、いくらなんでも。彼の能力、本人がコントロール出来る力でもないし、そもそも自覚できているわけでもないんだから」

 和海としては、出来ればいいな、程度のものだったらしく、晃に真顔で『死にかねない』と言われ、それはあっさりと引っ込めた。

 「そういえば、この高坂家の親類縁者はどうなっているんだ? いくらなんでも、親戚ぐらいいるだろう。そっちは大丈夫なのか?」

 結城が問いかけると、それには法引が答えた。

 「今のところ、ここの家の者が直接訪ねなければ大丈夫でしょう。化け猫は、まだ蘇ったばかり、やっと自分を封じた神主の直系の子孫と思しき家を確認しただけです。その一族の他の者たちの手がかりは、つかんでいるわけではありません。今の世の中、直接動かなくても、いくらでも連絡手段はありますから、当分直接の行き来は避けていただく方向で、ご親族間の意思統一を図っていただくことにしましょう」

 現代の幽霊はネットの世界にすら出没するというが、江戸時代から封印されて、いきなり現代に蘇った化け猫が、ネットを通じてのやり取りを知覚できるとは思えない。

 「そうすると、我々もメールでやり取りしたほうが安全ということですか、和尚さん」

 「そうですな、確実性を取るなら、その方がより安全だと思います」

 一応、全員互いの携帯のメールアドレスは登録済みである。いざとなれば、誰かに空メールを送るだけでも、何かがあったと知らせることは出来るだろう。

 それを確認した後、改めて、化け猫がいつここを襲ってくるかということを皆で考えた。

 「遅かれ早かれ、化け猫は必ずここにやってきます。この家の者に災いをもたらすために。今日和尚さんが張った結界は、応急処置的な物ですから、本格的なものにする前に力づくで破られる危険がないわけではありません。相手の力量がわからないので、何とも言えないんですが」

 晃はこういうと、化け猫は突然現れた自分たちを警戒して、様子見をしているかもしれない、と言い出した。

 「今だって、どこからか様子をうかがっているかもしれない。僕たちが動くことで、相手も動く可能性がある。少なくとも、僕たちがここを離れれば、化け猫にとっては“邪魔者”はいなくなるわけですから」

 「確かにそうよね。あとに残るのは、高坂の家の人たちだけ。結界は張ってあるけど、化け猫の力がわからないから、何とも言えないわねえ」

 「それで、結界が破れなかったら、腹いせにこっちに攻撃の矛先が向く可能性もある、と。まあ、半分は覚悟の上だが、厄介だ」

 結城が唸りながら腕を組んだ。そこへ、佳子が声をかけてくる。

 「皆さん、よろしければ、支度しましたので夕飯いかがですか?」

 考え込んでいた四人は、はっと我に返ったように佳子のほうを見た。

 気が付くと、辺りはうっすらと暗くなり始めている。そして皆で顔を見合わせ、暗黙の了解のうちに法引に判断を一任した。

 「……せっかくですから、よばれていきましょう。こちらから、お伝えしたいこともありますからな」

 その一言が決め手になって、四人は夕食のご相伴にあずかることになった。

 あり合わせだというそれは、大皿に盛られた根菜と厚揚げの煮物に、同じく大皿に盛られた冷凍食品だという鶏のから揚げ。銘々のところには、割りばしと取り皿と青菜のおひたし。それと、胡瓜の糠漬け。法引にだけは、一品少なくなる計算なので、青ジソと茗荷の千切りを乗せ、ポン酢をかけた豆腐が付けられている。

 さらには、佳子曰くただの塩むすびだというおにぎりがやはり大皿に乗せられていて、一人三個食べられる計算になっていた。

 「普段は夫婦二人だけですので、今日は賑やかだな、と思って」

 お茶を入れながら、佳子は穏やかな顔でそう言った。

 息子夫婦は子供たちとともに、別棟の家で食事をしているから、いつもは本当にあり合わせのものしか作らないという。

 博興のためには、それぞれの料理を細かく刻んだものを専用に用意してあるが、さすがに客である四人と一緒に取るわけにはいかないということで、介護ベッドが置いてある部屋で、夫婦二人で食べるという。

 法引は、まず佳子に夕食を用意してくれた礼を言い、そしてうかつに親族のもとに行かないこと。親族もまた、ここを訪ねてこないこと。連絡を取るときには、極力通信系アプリやSNS、メールなど、()()()()()()()()()()()()()()()で連絡することを提言した。

 「一応、電話までは大丈夫だとは思いますが、直接の行き来は控えてください。化け猫にわざわざ、一族に属するほかの人の存在を教える必要はありませんからな」

 「はい、承知しました。ありがとうございます。肝に銘じます」

 「それにしても、いくらあり合わせとはいえ、急に四人分も 用意していただいて、申し訳ないですね。大変だったでしょう?」

 和海が問いかけると、佳子は笑って否定する。

 「いえいえ、お祭りの時などは、氏子さんと一緒に煮物を作ったりおにぎりを握ったりしてますから、結構慣れてるんですよ。お気になさらず」

 結城も晃も口々に夕飯の礼を言うと、佳子はにっこり笑って部屋を出て行った。

 四人は改めて夕飯を食べながら、先程の続きを話し始めた。

 「しかし、封印されていた場所に残されていたあの瘴気、あれは相当なものだ。あれより強力な瘴気をまとっていると考えたほうがいいんでしょうね、化け猫本体は」

 結城が法引に確認するように問うと、法引はうなずいた。

 「間違いないでしょうな。だからこそ、危険な相手であるとわかる。わたくしどもとしても、きちんと対策を取っておかないと、不意打ちされたら危険な事態も予想されます。特に……」

 一旦言葉を切ると、法引は改めて結城と和海の顔を順番に見た。

 「残念ながら、お二人はご自分の身を護る力がやや弱い。ご自分でも、自覚なさっているとは思いますが」

 法引に言われ、結城も和海も溜め息をついて肩を落とす。


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