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7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】〜百年戦争に勝利したフランス王は少年時代を回顧する〜  作者: しんの(C.Clarté)
第四章〈王太子デビュー〉編

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4.6 調査報告書

 無怖公ブルゴーニュ公が追放されて以来、一年ごとに王太子が死んでいく。

 不穏な状況下で、アルマニャック伯が宮廷の舵取りをしていた。


 フランス南西部・ガスコーニュ地方の中心地アルマニャックの領主で、名をベルナール・ダルマニャックという。

 ガスコーニュ地方は、優れた軍人を何人も輩出している。

 例えば、私の治世より後になるが、アレクサンドル・デュマの小説「三銃士」の主人公ダルタニャンは実在の人物で、軍人として成り上がった代表的なガスコン人だ。

 アルマニャック伯も同じく。

 私の祖父・賢明王(ル・サージュ)シャルル五世に仕えた名将ゲクランから、若きベルナールはさまざまな戦略・知略を叩き込まれた。

 後年、兄の死でアルマニャック伯の称号を継いだ。


 私が王太子として王都パリへ来たとき、ブルゴーニュ公の粛正とアジャンクール敗北の影響で、賢明王時代を知る者はほとんどいなくなっていた。

 宰相アルマニャック伯は、賢明王時代の英知を引き継いだ貴重な宮廷人だった。



====================


前略

第五王子シャルル・ド・ポンティユ伯について、現在までに知り得たことをご報告申し上げます。


1403年2月22日、王宮内のサン・ポール城で誕生。

生母は、王妃イザボー・ド・バヴィエール。

称号は、ポンティユ伯。


侍女(ラ・ピュセル)オデット・ド・シャンディベールにより王宮から連れ出され、以後、王立修道院にて生存を確認。


1413年、アンジュー公妃ヨランド・ダラゴンから、長女マリー・ダンジューとの婚約の申し入れがあり、国王代理・王太子ルイ・ド・ギュイエンヌ公が受諾。

以後、アンジュー公領アンジェ城に身柄を預けられて養育を受ける。


第四王子ジャン・ド・トゥーレーヌ公の逝去にともない、1417年4月5日付けで王太子(ドーファン)の身分を継承。同時に、ベリー公の称号を贈与。

宮廷入りに備え、アンジューから王都パリへ身柄を移送中。



注記事項

王太子シャルルに、肉体異常および精神異常の兆候はありません。

アンジュー公一族のほか、王立修道院にて王弟オルレアン公の庶子ジャン・ド・デュノワ伯との接触を確認。

その他、特筆に値する情報はありません。



追伸

アンジュー公とヨランド妃の宮廷入りにつきましては、ご懸念無用と存じます。

近年、イングランドの圧力により、アンジュー領内で小競り合いが多発中。

自領の治安を置き去りにして、宮廷で影響力を行使する余力はないと推察されます。


====================



 狂人王(ル・フー)シャルル六世に統治能力がないため、王太子が実質的なフランス王だった。

 無知で無垢な少年が、王国の最高権力者としてまもなく宮廷入りする。

 王子たちはみな死に絶え、唯一の王位継承者でもある。


「新しい王太子殿下は14歳。難しい年頃だな」


 子供のように言いなりにはならない。

 大人のように賢く立ち回ることもできない。


 平和な王国ならまだよかった。

 国内は内乱状態で、対外的にはイングランド王国の攻撃にさらされている。

 この重責を、王太子はひとりで背負わなければならない。

 補佐役(サポート)が必要だが、王も王妃も当てにできない。


「いまから帝王学を施せば、あるいは」


 戦略上、まだ手垢のついていない手駒である。

 野心ある貴族たちは何かと理由をつけてすでに王都に集結していた。

 虎視眈々と、王太子をかどわかして意のままに操ろうと狙っている。


「何としてもお守りしなければ……」


 宰相の脳裏に、兄王子たちの不審死がよぎったのかもしれない。


「たとえ、どんな手を使ってでも……」


 王太子到着の一報が届き、アルマニャック伯は出迎えるために重い腰を上げた。

 すでに57歳である。そろそろ隠居したい年頃だが、老身に鞭を打たなければこの国は滅んでしまうだろう。


「王太子殿下が成人するまでは……せめて、あと5年……!」


 新しい王太子は、宮廷を知らない。

 宮廷の人々も、王太子を知らない。

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