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7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】〜百年戦争に勝利したフランス王は少年時代を回顧する〜  作者: しんの(C.Clarté)
第九章〈正義の目覚め〉編

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勝利王の書斎09「北を見失う」

 第八章が終わり、第九章が始まる直前である。

 勝利王の書斎(・・・・・・)は、歴史小説の幕間にひらかれる。


 さて、今回のサブタイトルは次のとおり。


 "Perdre le Nord."


 フランスの慣用句で、直訳すると「北を見失う」

 その意味は、「途方に暮れる、どうしていいか分からない、気が動転する」である。


 船乗りや旅人にとって、「北=北極星」は道しるべである。

 北を見失うことは遭難を意味する。生きるか死ぬかの瀬戸際だ。

 モントロー橋上の事件の後、私はまさしく「北を見失った」状態になっていた。


 自分自身を弁護するのは無粋だが、シャルル七世の名誉回復——復権のためにあえて言わせてもらおう。


 私は、14歳で王太子になるまで政治権力とは無縁の環境で育てられた。

 15歳で命からがらパリを脱出し、16歳でモントロー橋上の事件に巻き込まれた。


 ブルゴーニュ派は王太子を首謀者と名指ししたが、冷静に考えてみてほしい。

 政治に関わるようになって二年目の王太子が「計画的な謀略殺人を主導した」説は、どう考えても現実的ではない。仮に、計画的な犯行だとしたら、内乱の発端となった「無怖公のオルレアン公殺害」を大義に掲げれば十分に支持を得られただろう。


「知らなかった。こんなことになると思わなかった」


 当時、私が残した証言である。

 政略などまったく考えていない、一言一句すべてが愚かである。

 狡猾な「勝利王」として振り返ると、経験の浅い王太子をフォローできる重臣がいなかったことが悔やまれる。子供らしい稚拙な声明は、揚げ足を取るのにちょうどいい。政敵の思う壺だ。


 事件の混乱に乗じて王太子の悪評が広まり、私はしばらく表舞台から遠ざかる。


 その間の出来事については、本作連載前に書かれた短編小説「追放された王太子のひとりごと 7番目のシャルル -étude-(旧題:悩める王太子のディマンダー)」をご参照願いたい。

 なお、「étude(エチュード)」とは、練習曲・試作品という意味だ。


 そして、悩める王太子と同じく、新章の主人公も「北」を見失い、迷いの境地にいた。


 さて、時間が来たようだ。

 これより第九章〈正義の目覚め〉編を始める。


(※)王太子シャルルは第八章ラストで心が折れたため主役交代です。王太子視点から見たエピソード(第八章の一年後)は下記の短編小説をご参照ください。


▼追放された王太子のひとりごと 7番目のシャルル -étude-

https://ncode.syosetu.com/n1713ez/

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