第97話 Girl with Gun その二
「ノーラ見て。ケーフがいる」
「ケーフが?」
神様を見てたら恒星十二精のひとり、キューロに呼ばれた。
御神託で見てろと言われた神様を見ていたかったけど、さすがにそれは聞き捨てならない。
キューロは議会を振り切るようにして異界に渡った私に付いてきてしまった、大事な友達の一人だ。そのキューロがこの異世界に来てから初めて心の底から弾んだ声を聞いてしまったのだ。
指で指し示すその姿は本当に喜んでいた。
「ほら、あの型の舞」
ああ……。
言われるまでもない。
フウの組み上げ方だ。自分の周囲に精素を置いて、それをつなげて行ってるのだ。威力と範囲を決める繊細な儀式だ。しかも要に置いてるのは土の精霊魔法の印だ。いつものケーフは鼻歌交じりに恒星十二精のその強大な力を振るって、型の舞なんて見せもしないくせに、誰もいないと思って油断したな。
「本当だ。あんなのが出来るのは精霊世界広しといえどもケーフしかいない」
こっちは私もキューロもしっかり見ているぞ-。
「ケーフだ、ケーフだ、ケーフを見つけたー」
そして私は女の子を見た。左手のない女の子。まだ幼いのに痛々しい姿だ。
だからだろうか。
「ケーフが憑いてるのか、あの子に」
相変わらずケーフは優しい子のようだ。
「さて何を出すのか」
「あの型。塵風だっ」
「塵風ってあんな型なの?」
「知らないの?」
「知らないわよ。あんたらいつも適当だし」
「一、二、三、それも百分の一も力を出するつもりだよ。…………あー、あたしら終わったわ」
「でもケーフ。生きてたんだ。ようやく一人見つけた」
「あ、もう一つ、二つ重ねた。万分の一だ。これならなんとか」
「丁寧に踊ってるよね。あの女の子の性格かしら」
「ってノーラ、見とれてる場合じゃないぞ。うわ。やばい。もう出すよ。私たちも早く退避しないと」
◇
風が物凄い速さで流れているのだが、それはただの風ではない。風の中には大小様々な塵芥が混じっているの。それも金属のような物や石くれや岩塊、中には巨岩とも言っていいような岩までと、メテオ攻撃とも言えるような物までを含んだ色々な種類の塵芥だ。
それがただ流されるのではなく風の中でコントロールされていた。
(これが塵風か。恵風が自信を持つだけはある)
(ちょっとえげつすぎなくない? 中にいてもちょっとおっかないんだけど)
(おい、恵風。そこらへんはどうなんだ。真理ちゃんが怖がってるじゃねーか)
(そこらへんはいずれ真理がアレンジしてくれって話だな)
だがそういった途端に塵風がその形を集束していった。今はオレたちの頭上二十メートルぐらい先で、風が卵形のような形となって、余裕を持って縦横無尽に行き交ってるように見える。
あくまで下から眺めた姿だから上層部ではどうなってるのかわからないが、それでもただ事じゃないのはわかる。
そして恵風は言及しなかったが、恵風の憑いた真理ちゃんが、完全に狙いをミランダさんだけに絞ったのはアッチを見逃したことでオレに伝わった。
オレも深度一を解除する。あの塵風から逃れ得る手段があるとは思えないからだ。そして珍しくブースト深度一の邪魔が入らなかったことに気づき、オレはその異常性にちょっと驚いた。
「それにしても初めて見る奉納ダンスだな。アッチ知ってるか?」
「いえ」
オレの上空で無造作に答えたアッチも、真理ちゃんに目が釘付けになっている。
土壁に張り付いているアミックはアッチを見もしない。だが実際はどう思ってるんだろうな。アッチが何かをやろうとしたのは確実だ。だがその魔気の流れは塵風によって散り散りにされて、今はその痕跡すらも消えてしまっていた。
手助けしてたのか、裏切ってたのか──。
まあここはアミックに任せよう。アッチはアミックの部下だ。
そもそもアミックには弟さまのいる上に行ってもらいたかったのだが、塵風で頭上を抑えられてる以上、今となってはもう上には行けない。あの塵風の中に突っ込めというのはお前死ねと言ってるようなものだ。
そう言えばアミックが奉納ダンスとか聞き慣れないことを言ってたな。
オレはその意味が気になったので解析を辿って調べてみた。すると型の舞は奉納ダンスとも呼ばれてるようだった。呼び方が色々あるのは世の常というか、セプトでもそうなのだなとオレは思った。
その真理ちゃんは中空を浮かびながら相変わらず踊っている。あれは自分で身体を浮かせてるのだろうか。空中散歩とはまた違った浮遊方法のようだから、後で真理ちゃんに感想を聞いてみよう。
それにしてもキレイな踊りだった。真理ちゃんは目を回してるようだが、それでも美しい物は美しい。
つと、これまでの流れと違って真理ちゃんの足が何度かステップを踏み換えていた。そこにどんな意味があるのかは知らない。だがそのステップの意味を読み取ったらしいアミックがエー・トゥールを解除していた。
そして指示を出す。
「全員、エー・トゥールを解除しろ。その方が安全だ」
この面子の中では魔法の専門家とも言えるアミックの指示だ。上司ということもあるだろうが、アミック隊はその指示で、全員がそれぞれのエー・トゥールをあっさりと解除していた。
オレと連立を組んだことをつまびらかにしたことで、もっと激しい抵抗が起きるのも予想してたが意外と指導力はあったらしい。
(勘のイイ奴だ)
恵風がアミックを誉めていた。
つまりそういう型の舞を踊っているのだろう。車会社に勤めてる叔父ちゃんのお仕事で言えば、車の性能をプログラミングしてるような物と言ったところだろうか。
よく知らんけど。
そして恵風に憑かれた真理ちゃんの行使する塵風が更に発動した。オレの頭上すれすれにまで一気に領域が広がる。
真理ちゃんの周囲を覆うようにまずは風が回り出した。風の中には相変わらず塵芥が混じっている。それも本当に色々な種類の塵芥だ。
その中でも小さな金属がキラキラ光りながら風に乗って一気に拡散した。オレにその風は当たらなかったが、オレのすぐ脇を通過して拡散したその風は、荷揚げ場の固い天井を床がサラサラとした砂のように削り取ってしまっていた。
オレは土台を失って崩れた床を蹴って、更に後方へと飛ぶ。
塵風に削られて剥き出しとなった土に手をかけて落下を食い止める。
天井の消失と共に光源がなくなって一気に辺りが暗くなるが、恵風が円状に塵風を展開したのがわかる。
「お、落ちる」
グレンが騒いでこちらへと駆けながら落ちて来る。
アミックとアミック隊たちがいる場所は床が抜けたらただの空間だ。
こちらに来て壁面に取りついたオレと同じようにして、しのぐつもりなのだろう。
オレはへばりついた土の壁から下の方へとずり落ちて、水平な場所に立った。
塵風が卵形の形だから底まで降りればそこは立派に土の大地だった。
すると真理ちゃんが気を遣ってくれたのか、塵風がオレの頭上数メートルへと後退した。崖を降りてくるアミック隊も律儀に真理ちゃんは避けていた。オレならこれだけの威力があるならコントロールミスしちゃったと、アミックの手足ぐらいはもぎ取ってたかもしれないのだが、真理ちゃんは優しい。
(お、おっかないから冗談はやめて。真司くん)
(おっけ~。がんばって真理ちゃん)
(おい真司。もうちょっと広げてもいいか。やっぱこれじゃ窮屈だ)
(好きにしろ。真理ちゃんに何かやらせたいってことだろ?)
(よくわかったな)
(いいかげん真理ちゃんにスッキリさせろって言ってたじゃないか)
(おー、言ってたか)
(言ってたよ。こっちの身を守りながらやってくれ。一応オレもお前に言われた通り状態固定はかけてるから)
(りょーかい。よく見てろ。見えるようにしてやるから)
(いやそれ、オレが主じゃなくてアミック隊への脅しが大半だろ)
(なぜばれた?)
(バレバレだろ。まぁいいからやれ。お前も真理ちゃんに憑いてからの肩慣らしもそろそろ済んだんだろ?)
(そうだな。真理はすごいぞ。今からその一端を見せてやる)
そして塵風が爆発的に拡大した。これ、ティリオーダウンの外装も一部削り取ってないか? オレは改めて塵風のその威力に舌を巻いた。
それは新たに底まで降りて来た地球の同胞にも思えたことのようだった。
「本当に日本人なのか?」
「リーダーはくるる人とか言ってたなかったか。たぶんあの子もくるる人なんだろ」
余裕ぶってる会話に聞こえるが、マークとワルテールは両手を繋いで身を寄せ合い、ガタガタと顫えている。
「うええ」「俺も泣きそう」「これだけの魔法を行使して魔気切れを起こさないのか?」「一体どうなってるんだろうな」
ハナダとグレンは打ち震え、アッチはその魔力量に驚いてるが、アミックまでもがそこに感嘆の声を重ねているのに驚いた。
こんなの簡単に出来そうだが。
魔法はそんなに持続しないものなのだろうか。いやでも科学立国のセプト出身の魔法使いの言い分だからな。本場の言い分とはまた違ってもくるだろう。
そして今やそのアミック隊の全員も、塵風の中にいる。
足下が削られて領域が広がっているが、それでもオレたちは塵風に巻きこまれていないのは、風の流れをコントロールしてるからだろう。さらに恵風がそれぞれに一メートルぐらいの予備空間を確保してくれているようだから、多少の動きには柔軟に応えてくれてるようだった。
もっともここらへんは真理ちゃんの意向かも知れないが。
そしてそんなオレたちから、ミランダさんのいる位置はよく見えていた。
ミランダさんはオレたちのように地面に落下されることを許されず、風に良いように浮き上がったり落ちたりと風に翻弄されていた。
真理ちゃんのように安定はしておらず、まるでスカイダイビングの訓練施設に参加してる初心者が、練習で懸命に浮かんでるような危なっかしい浮遊状態だった。
そしてミランダさんの周囲には空間がある。塵風というその名の通り、凄まじい勢いで金属や岩塊が荒れ狂う空間の中に、ミランダさん専用とも言える、ぽっかりと風だけが吹き抜ける縦横十五メートルはありそうな広い空間が別に内包されてるのだ。
だがオレが専用と思うだけあって、ミランダさんはこの空間からは出られない。
出たらその瞬間に岩塊と金属片が縦横無尽に吹き荒れるこの塵風によって、切り刻まれながら押し潰されることになるだろう。
攻撃型エー・トゥールの装甲など物ともしないという証拠は、恒星間航行行も可能な惑星制圧艦のティリオーダウンの外装をそっと撫でただけで削り取ってしまったことでも既に立証されただろうし、ここはもう問答無用だろう。
オレがもう一度ティリオーダウンの外装を見やると、やはりカンナ掛けされたように外装は削り取られていた。
しかも中に浮くミランダさんからもその光景は見えるよう、その一帯だけ塵芥は飛んでいない。これは真理ちゃんではなく恵風の主導だろう。キッチリミランダさんに恐怖を与えるつもりでいるのがオレにはよくわかった。
すると大サービスのつもりか、ミランダさんの声がオレたちの元へ通るように恵風が風を操作したようだった。
「嘘でしょ。アミック隊はこんな子をどうやってやっつけたの」
とミランダさんが驚きつつ四肢を振り回して体勢を変えて浮かんでいた。
その丸聞こえの声にアミック隊の面々がオレの方を見る。
「彼女のサービスだろ。ミランダさんの本音を聞いとけよ」
「わかった」
アミックがオレに返事を返した。その気持をオレは推し量らない。恐くても受け入れろとそう思ってしまうからだ。
一つはっきりしてるのは、連立を組んだ以上、この場から逃げることは許さんということだ。
「どうやって捕まえて」
真理ちゃんが唇を真一文字にキュッと引き結んで巨岩の上に立っていた。ついさっきまで塵風の中をただ飛んでいたはずだったが、いつの間にその体勢になったのだろう。不思議なことに真理ちゃんが立つ巨岩には岩がぶつかったり風が襲いかかったりせず、その身体ごと身を守るようにして周回していた。
「ましてや拷問なんてしたの」
それはそのままアミックが感じてることだろうとオレは思う。だが知らん振りした。ここは恵風の好きにさせたほうがいい。あいつは真理ちゃんの気持の快復をしたいと提案してたが、あいつ自身も真理ちゃんが拷問されて頭に来てたのだろう。
そこへオレが勝手に連立を組んでしまってもいたからな。
オレの謝罪とは別に真理ちゃんも納得しちゃってるし。
せめてもの己が心情の表明なのだろう。
そして圧倒的だった。
荷揚げ場では散々対処に困らされたミランダさんの空間操作銃がまるで意味を為さない。空間を操作しようとしても塵風に散らされてそれでお終いだ。単純な攻撃をしても塵芥が増えるだけでまた普通に塵芥が次にはその場所を埋めている。
「対人では無敵だな」
オレは思わずつぶやいていた。
するとそのオレのつぶやきをアミックが即座に否定した。
「対艦でも無敵だぞ」
「それはどういうことだ。すまんが要説明求むだ」
「ティリオーダウンの外装があんなになる魔法をオレは初めて見た。対くるるの魔気対策で建造された強襲制圧艦の外装だぞ。それをこうも容易く削ってしまうとは…………。
今頃本艦では大騒ぎになってるんじゃないかな?」
「魔気の持続はどうなってる。どうしてこんな大魔法をこんなにも長く維持出来てる?」
アッチが性懲りもなく質問してきた。
まあいいけど。
「アミック」
オレが釘を刺させようとしたら肩をすくめた。仕方ない。付き合ってやろう。これも貸しだぞ。借金だらけのアミックくん。
「こんなの全く疲れないぞ」
「「何?」」
「一日中でもやってられる。面倒臭いからやらないだろうけど」
「それは本当か」「さっきのミランダ副隊長がほしがった魔気の塊のおかげなのか?」
隊長が返事をもらってないのに、それに質問を被せてくるなんて正直アミックはのさばらせすぎだぞ。
「知りたいか?」
「ああ」「もちろんだ」
「こんな魔気の塊なんて別に要らない。彼女は純粋に彼女の持ってる力をお使い程度に行使してるだけだ」
「そんなバカな」「ちょっと信じられない」
(とそんなことを言ってるが、どうする。真理ちゃん、恵風)
(え? よく聞いてなかった。恵風に任せるよ)
(恵風はどうだ)
(そうだな。今真理に色々レクチャーしてたんだが、その実験を見せることで理解してもらうのも手かもな)
(大丈夫なんだろうな)
(それなら大丈夫だよ。私もどんな物か体験しておきたいなと思ったし)
(了解した。アミックに聞きたいことを聞いたらお願いするかも知れないから)
(応)(わかりました)
ふたりの返事を聞いてオレはアミックの方へと戻った。
「アミック。対艦でも無敵と言ってたが、それの根拠を聞かせてくれないか」
「根拠も何もお前も見ていただろう」
「さて?」
オレがとぼけるとアミックはアッチに話を振った。
「アッチはわかったか」
「いえ」
「ちょっと勉強不足だな」
「勉強不足ということは型の舞ですか?」
「そうだ。あれは見慣れない奉納ダンスだったが、面白いことをかなりしていた」
「それは何でしょう? 申し訳ありませんが本当にわかりません」
「精神系だけではいずれ限界が来るぞ。せめて相手が何をやろうとしてるのかぐらいはわかるようにならないと」
「……申し訳ありません」
なかなかに皮肉の効いたことを言う奴だとオレはアミックを見直した。
「彼女は踊りながら威力をどんどん下げて行ってたな」
オレに向けて放たれた言葉だったが、その言葉を聞いて茫然としたアッチがみるみる顔を青ざめさせていた。その意味がゆっくりと染み渡ってきたのだろう。
「それは、冗談ですよね」
「冗談ではない。俺が気づいただけで、少なくとも十分の一ぐらいまではまず間違いなく威力を削いでいる。しかも効果範囲も狭めてるな。それも相当に」
「そんな…………」
「俺も生まれて初めて見たからな。しかも前代未聞だ。くるるの中でも突出してしまった魔法使いを我々は、いや、好戦派は相手にしてしまったと言うことだ」
「何が前代未聞なんですか」
「アッチ。おまえ、あの子ぐらいの年齢で魔法の威力を抑えたことがあるか?」
アッチが完全に押し黙った。
「しかも俺に拷問されて左手を切られた。それでもあの時彼女は魔法を使おうとはしなかったぞ。もし使われてたら、俺はもう生きてはいなかっただろうな」
アミックがチラリとオレを盗み見たが、あえてオレは無視した。
オレたちの連立は、そんな甘いもんじゃないだろう。もしそれでも甘えて来るようなら、子供に甘える大人となど手を組む気は毛頭ないので、連立は解消させてもらう。
そもそもアッチを嵌めるためにオレを利用しようとしてるのがチラチラ透けて見えて、せっかくの真理ちゃんの大魔法に集中できないのが業腹だ。
そしてそれが連立は甘くないぜと突き付けられてもいるようであり、そこもまた業腹だったりする。
アミックの視線は視界の端に未だ時折感じるが、オレはひたすら無視をした。
要するにアミックは、平気な顔をして大人を振りかざす大人だと言うことだった。
ちょっと長いですが楽しんでもらえてたら幸いです。
朝も早いので見つけてもらえないかも知れませんが、見つけてくれた方、どうもありがとうございます。熱心に読んで下さってる方ももちろんありがとうございます。
ふー。
頑張ります。
書くのを忘れたので追記します。
スカイダイビングはしたことあります。高度三千数百メートルからアメリカ人のおっさんに問答無用で飛び出されて、この世最後の眺めと思いつつハワイを堪能しました。今回は描写しませんでしたが、いつかダイビングも描写できればなと思ってます。




