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第1章 幼稚園時代
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第96話 Girl with Gun その一

(このブースト深度一か)

(ちがう。気持ち悪いのだ。得体の知れない根源的に気持ち悪い何かだ。わからないのかっ)

(すまん。まったく。それより解析をかける。この瞬間は逃せない。もう二度とない機会だ。だからお前は真理ちゃんを頼むぞ、恵風)

(わかった。俺がやるしかないようだ)



 ならば真理ちゃんは恵風に任せて、オレはチラと上を見上げた。頑丈そうな天井が頑としてある。これもセプトの建築基準仕様なのだろうな。位相のずれには地球の物とまったく同じような物になってしまうが、それでも頑丈そうだ。


 けど言いたいのはそこじゃない。弟さまのことだ。

 まだかかってるのか。

 その思いがオレにはあった。


 もちろん弟さまの位相の拒絶のことだ。弟さまが律儀に張ってたことに驚いたのだ。オレとしてはもういいと言葉だけは残しておいたのに届かなかったらしい。

 だがかかっていたら身動きが取れなくなってるところだった。


(さんきゅー弟さま)


 だが相も変わらず返事はなかった。とりあえずお礼に状態回復と状態固定をまた送っておく。

 するとセプトの中で動きがあった。アミックがミランダさんに思うところを言い渡していたのだ。


「悪いがミランダ。お前の言うことは信用できない」


 ミランダさんがアミックに流し目を流した。


「アーノルドは本名を名乗っていた。でなければこの子供がフルネームを知ってるはずがないだろうが。機密も機密。重大な機密だぞ。陸戦隊の副隊長の本名は」

「それは…………」

「それをこの子供が無視するのは作戦かと指摘してたが、子供の戯れ言で押し通そうとしたお前を信用なんか出来ないだろう?」

「子供の言葉の方を信用するのですか」

「別に子供の言葉を信用するわけではない」


「こども子供とうるさいな。オレの名前は知ってるだろうが」

 ボソッとつぶやくとミランダさんが首を振って、それからオレを窘めた。


「報告に上がっていたけど醍醐なんてどうせ偽名でしょ。セプトを概念だけで説得できるなんて思わないでほしいわね。魔法だけは本物だと認めているけど、子供は黙って大人の話を聞いておきなさい」


 要は邪魔だと言うことかな?


「まあ話をすり替えてごまかそうとするのは頂けないがな」

「アミック隊長?」

「結局君は、そこの子供に何一つ答えを返していない。話を寄せてくこともしなければ、話に乗って上げることもしない。してることといえば、自分の利益になるとこだけをピックアップするのみ。

 君を見ていると、セプトはいつからそんなに貧乏性になったのかと思うよ」

「な。それはパワハラですよ」

「今度は弱者の振りをして相手を思い通りに動かすか? 俺はそういう作為的な選択をする者より、きちんと不誠実なところを指摘した連立相手を信用するということだ」


 ミランダさんとアミック隊が理解に至らず反芻してるようだが、そうか、訂正のやり方でわかった。

 アミックはオレの何かしらを忘れている。ど忘れではない。忘却の彼方だった。

 でなければミランダさんの言葉からでしか反論しないと言うことはないはずだ。

 ダブルのことを明かして、魔気の塊かも知れないが通信機の可能性もあると指摘することも出来たはずなのだ。

 だがアミックはそれをしなかった。それどころかたった今その口で信用すると宣言した連立相手に、地下五階に入って以降一度も通信をしてきていないし、呼びかけに応えたこともない。


「忘れてるのか?」

「忘れてることもありそうだな。今日は幾度かそういうことがあったようだ。だが覚えてることもある。お前とはやはり何か約束を交わしたようだな」

「ああ」

「なるほど。色々と確認しながら注意深く見てたが、俺は自分のことを気でも触れたのかと思ったが、どうやらそうではないようだな」


 なるほど。言葉を交わさなかったのはそういうことか。半信半疑だったわけだな。お前はおそらく超臨界水にオレの名前と、そしてダブルという能力の記憶を消されてる。


「隊長の気が触れてない?」


 グレンが意味がわからないと言った声を上げた。


「ああ。俺も、そしてそいつもな」

 アミックがオレを指差した。


「オレはアミックが動かないから何を考えてるんだと思ってたよ」

「それはこちらの台詞だ。ミランダが小さい魔気の塊をそのまま返さずにネコババ決め込んで仕舞ってるのに、お前は何も言わないんだからな」


 あちゃー。そう来たか。

 あれはあれで持たせてたかったんだよな。ダブル由来ならただの鉄だろうと精素の塊のようになる。だからこれを魔気の塊として渡しておいて、ミランダさん達が喜び勇んで鉄の塊に夢中になって研究を始め、その際には通信機能を持たせてあるその鉄の塊から情報を抜こうと思ってたわけで──。

 だからこちらとしては、さりげなくネコババされてもむしろどうぞどうぞと思ってて咎めなかったわけだが、そこがアミックには危険に思えたらしい。

 そう言えばアミックが止めに入ったのはその瞬間だったな。


「どうせ大きいのを渡すんだ。小さいのは前金みたいな物だと思ってたよ」

「これだから子供は常識を知らない。太っ腹すぎるぞ。交渉で渡す内容に含まれてなかったんだろうが」

「うん」

「なら渡すな」

「じゃあ今度からそうする」


 その光景をアミック隊の隊員達は、信じられないものでも見るような眼で見ていた。


「みんな聞いてくれ。見ての通り、オレはこの少年と連立を組んだ」

「連立…………」「同盟じゃなくて」

「同盟だと互いの目的が一致するわけだがそうではないからな。オレたちは浸透戦略を。彼らは戦争の回避を。それが目的だ」


「隊長、ドワイト艦隊長からの命令は排除ですよ」

 アッチから信じられないといった非難の声が上がった。


「アッチもだ。ちょっと話を聞いてくれ。彼らとは本当に連立を組んだんだ」


「アミック隊の名誉が…………。もう本当にどうしようもなくなりますよ」

「隊長。ホース艦長への明白な命令違反です」

「それならそちらのアーノルドも命令違反だな」

「それはっ」

「それにホースも別に俺の上司ではない。同僚だ」

「ですが命令系統ではドワイト艦隊長からの命令を受けてます」

「俺も残留艦隊長ではない、総艦隊長からの任務を拝命している」


 うわー、またがちゃがちゃやり合いだした。ちょっと放っとこう。


 オレは天井を見上げた。別にその先が見えるわけではない。

 だが新たに状態回復と状態固定を施したのに、先程から弟さまからの連絡がやはり来ない。相当に忙しそうだ。そんな気配がする。


 弟さまがかかりっきりになるような相手か──。


 そしてオレは気がついた。敵の本陣は、アミック隊をまとめてこの階に集中させようとしてるのだろう、と。


「それよりアミック気をつけろ。何かをしかけてるぞ。でなければミランダさんがマークとワルテールを止めた理由が不明なままだ。そしてオレはさっきから気持ち悪いのを感じてるんだが、お前の部下は大丈夫なのか」


 ハーッとミランダさんが溜息を吐いた。オレからも距離を取る。

「ここまでのようね」

「何がここまでなの」

「交渉決裂ということよ」


 ミランダさんが逃走に移る。だがミランダさんは荷揚げ場の奥まで引き込んだ。

 逃走なのか?

 真理ちゃんの予想では主砲が来ると予測してた。そしてティリオーダウンが脈動した。煌子力をオレたちにもわかる場所へと集中してるのだ。


「深度一」


 このフロア全体へとオレは深度一を展開した。そこにミランダさんは入れない。これで通常空間にいるミランダさんの時の流れだけが遅くなる。

 ミランダさんは横にステップを切ろうとしていた。


「やはりそうか」

「そうかとは何だ?」

「ミランダさんには空間操作銃がある。それで壁を消して隣の荷揚げ場に逃げ込むつもりだったんだろう」


「隊長、どういことですか」「隊長」「隊長っ」

 アミック隊が集結している。


 オレも真理ちゃんを迎えに行った。その道すがらに気づいた。


 ミランダさんが先の交渉で見逃すと言ったのは悪辣な罠だった。

 確かに見逃されてる。

 だってミランダさんがこの場所から去れば、即座にティリオーダウンから総攻撃を食らうだろうから。

 主砲なんかを撃ち抜かれたら、オレたちを殺すだけでは終わらず、地球の地殻を破壊して地球が三日月みたいになっちゃうぞ。


 するとこそっとアッチが何か魔法を放った。なので深度一で防ぐ。オレは今日一日でさんざん上からブースト深度一で邪魔されてる。それがオレを学ばせた。オレがそれをしようにもブーストはかけられないので、逆にミランダさん同様深度一から排除する。途端に時軸のずれでアッチは時の流れが遅くなった。

 アッチの放った魔法の軌跡がゆっくりと通常空間に漂っている。


(アミック。揉めてる場合じゃないぞ。上から来るお仲間を押さえろ。皆死ぬぞ)


 おそらく陸戦隊本体が来る。アッチの狙いは今はどうでもいい。


(ミランダとアッチは)

(殺さないから安心しろ)

(おいっ)


 殺すわけがない。殺したら途端にティリオーダウンの主砲に撃ち抜かれる。


(いいから行け。悪いようにはしない。ついでにオレの親にも顔を出してこい)

(わかった)


 アミックが通路へと踵を返すと、魂の回廊が浅く開いた。


(そんな面倒臭いことはする必要ない。奴の仲間をこれなくすればいいだけの話だ)

(恵風?)

(この深さなら奴には聞こえてないのだろう)

(ああ。それはそうだが)

(じゃあ真司。セプトの連中全員を状態固定をかけて守ってやれ)

(オレが敵を?)


 オレに彼らを殺す気はなかった。特にミランダさんは人質だし、アミックには悪いようにしないとも言った。だが無傷で助ける気もなかったのだ。

 ある程度傷を負わせてでもきちんと負けを認識させるのは、ストーカー被害を受けてるこちら側としてはとっても大事な作業だ。

 ましてや真理ちゃんの件もある。


(弱めでいいぞ。しかしお前は真理を守ることしか頭にないな)

(そりゃそうだ。弟さまから引き継いでるんだぞ)

(だがそれはお前たち兄弟だけのエゴだよな。真理が決めたわけではない)

(うん?)

(だーかーらー、いいかげん真理にもスッキリさせろってことだ。そして自分の得た力を理解させろ。それはお前達兄弟の義務だろうが。ちがうか?)


 そういうことか。


(そういうことだ)


 そういうことなら致し方ないか。

 真理ちゃんの気持の快復が狙いならば。


(りょーかい)

(行くぞ真理)

(わかった。私たちも行こう)


 この荷揚げ場に追い込まれた際には、真理ちゃんは恵風と一緒になってミランダさんの攻撃を防ぎきった実績がある。今なら風壁にはちょっと自信があるはずだ。恵風が手ずから憑いて、精素の動かし方を教えてくれたのだ。


(そうだよ。それに今なら真司くんを攻撃したブースト深度一だって…………)


 と真理ちゃんの意気揚々とした声が聞こえて来たと思ったら、恵風の声が無慈悲に上書きした。


塵風(じんぷう)


「え? 風壁じゃなかったの?」


 真理ちゃんのビックリした声がした。それはそうだろう。オレもビックリした。

 だがその時にはもう真理ちゃんは踊り出していた。無慈悲である。

 これはたぶん型の舞だ。あれあれと目を回してる真理ちゃんが哀れだ…………。

 だがこの型の舞をすることで、魔法の威力を自分の思う通りに底上げすることが出来るのと、型の部分の強化点に魔気を濃く集めることで、魔気の通りを良くし、自分の狙ったところへピンポイントに魔法の威力を集約できると、誰かの基礎知識にあったのを覚えてる。

 がんばれ真理ちゃん。


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