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第1章 幼稚園時代
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第95話 お前はどこに立っている

 オレの魔法の秘密だと匂わせたら、ミランダさんはおろか、アミック隊の面々までもがオレの手に持つ鉄の塊に食いついて来た。散々オレにやられてるかな。そのオレの秘密となったら食いつくのも無理はない。

 いい食いつきだ。

 そうでなくては頑張ってきた甲斐がない。


「論より証拠だ。よく見ててね」


 そしてオレは右手に持った鉄の塊をよく見せながら、ミランダさんによって破壊された傍らの段ボールの残骸に左手をかざした。


「風刃」


 刃が段ボールを粉微塵にしてしまう。


「これがオレの魔気の塊だ」

「おぉっ、それが」

「そういえば魔気切れを起こしてないよな、アイツ」


 アミック隊のオレに退けられたばかりの二人が興味深そうにこぼした。


「ちょっといろんな角度から見せて」


 ミランダさんからのリクエストにオレは持っていた鉄の塊を、上に下に、右から左から、丹念に眺めてよく見えるようにする。ミランダさんはそれを、どれぐらいの密度で詰まってるのかといった感じで目を(すが)めつつ丹念に眺める。


「いいわね。それを持ってたから魔法が強化されてたわけなのかな?」

「見ての通りですよ」


 魔法を発動させた姿はすでに見せたはずだ。そういう意を込めてオレがミランダさんに訴えてると、ミランダさんが納得して頷いた。


「いいわ。交渉成立で。いえ、交渉の前段階は成立と言うことかな。まだ実物を手にしてもいないわけだし。それを確認してからね」

「わかりました。こちらもそれに異存はないです。ただし、同じ物で小さいのもあるので、確認はその小さい方でお願いします。大きいのを持ち逃げされたら堪らないので。無礼は承知です。信用ないと腹を立てますか?」

「いいわよ。それぐらいなら」


 事前準備は完了と言ったところだろうか。オレは小さく息を吐いた。

 こういう交渉事は疲れる。特に今は真理ちゃんの無事を確保しなければならないから尚更だ。弟さまはこのプレッシャーをずっと引き受けてくれてたんだな。

 オレは一番槍だとぬかして好き勝手やってきたようだ。


 まあいい。今はとにかくだ。集中しよう。


 大失態の挽回なのだ。せめてこれを持たせてセプトの陸戦隊の内情をつつ抜けにする。あわよくば艦隊の中枢で保管されたら言うことなし。

 いわゆる魂の回廊を通して会話する力を付与した、単なる通信機だ。でも恵風も憑けるので嘘ばかりを並べてるわけでもない。立派な精素の塊だ。

 魔気の塊というのは真っ赤な嘘になるが。

 それでも敵を騙す算段としてはアリだろう。


 さて──。

 渡すか。取りに来てもらうか。

 その間に位置を入れ替えて、ミランダさんを荷揚げ場の奥に封じて利点の効力を増すよう画策するか。


(私は反対。このままの方が良いと思う)

(真理ちゃん? 聞いてたの?)

(うん)

(その、ごめん。色々と致命的なミスを)


 オレはまだ状況の報告をしただけで、真理ちゃんに致命的な勘違いをしていたことを謝っていなかった。

 オレがミランダさんをアミック隊だと勘違いしていなければ、わざわざ降参することもなかったのだ。アミックの仲間だと思ったからこそ、後でアミックからの介添えが入ると虫の良いことを考えてたわけで、それはすっかり取らぬ狸の皮算用となり、間抜けな状態を甘んじて受け入れることになってしまった。

 それでも話を進めないと時を逃す羽目になるから、謝ってる暇もなかった。

 ここも相当謝らないといけないところだよな。


(大丈夫だよ。私もわかってなかったもん。組織表を見たわけでもないし、普通の人には絶対にわからないことなんだから。そもそもミスったことさえわからないからね。それより通信機をミランダさんの目によく見えるよう掲げて食いつかせて)


 オレは真理ちゃんに言われるままポッケに手を突っ込むと、小さな精素のインゴットをダブルでいつも通りに創造し、念のために通信機能も付与すると、それをミランダさんに見えるよう掲げて見せた。

 ミランダさんが歩み寄ってくる。


(大丈夫。これでいいよ)

 真理ちゃんからのOKも出た。オレはこの場に留まってミランダさんの到着を待った。


「それがあなたたちの秘密」

「小さいのだけどね」

「そういう話でしょ」


 うんとオレは肯いた。そして尋ねてみた。


「ほしい?」

「子供じゃないんだから、そんな言い方はやめてほしいわね」


 ミランダさんがジリッとにじり寄ってきた。ちょびっと緊張する。離れてる時は中背にしか見えなかったけど、近寄るとやっぱり大きい。気がつけばオレはミランダさんの姿を見上げていた。


(大丈夫。この位置なら主砲からの攻撃はないよ。この位置関係は崩さないように注意してね、真司くん)


 そこまで言われてオレも納得した。

 オレはこの場にいる全員の攻撃に注意を払っていたが、真理ちゃんはそんな些末な攻撃じゃなくて、それこそ致命傷となるティリオーダウンの主砲がこちらを向かないよう気を配っていたのだ。言わばミランダさんは人質だ。オレのような偶然の産物ではなく、真理ちゃんは意図してその場に置こうとしてるのだ。そして向こうのカメラが生きているならば、この光景はミランダさんがオレたちを追いつめてるように見えることだろう。

 それは、主砲の発射が決して為されないことを意味する。

 だって味方がいるというわけでもあるし、何より味方が有利な状況なのだから、というのもある。


(真理ちゃん、すげー)

(間違っても今までみたいに武装解除しちゃダメだよ。その瞬間主砲が飛んで来ちゃうからね。私嫌だよ。いきなり風壁と主砲のどっちが強いか競争なんて)

(な、なるほど。それは確かに嫌だね。特に精霊魔法を覚えたての真理ちゃんは)

(そうじゃなくて。純粋に負けちゃうだろうから嫌だなって言ってるの)

(ごもっとも)


(負けないぞ)


 お調子者が何かを言ったが黙殺。

 今は大精霊のプライドより大事な任務がある。オレはミランダさんに小さな鉄の塊を手渡した。


「これがそうなのね。結構重いのね」

 ミランダさんは小さい割りには重く感じたようだ。オレは肉体強化してるからわからなかったが、ミランダさんも攻撃型エー・トゥールを着てるから大して変わらないだろうに。

 思ったより攻撃型エー・トゥールは繊細に出来てるんだな。

「ミランダさんには約束を守ってもらうよ。安全は担保してもらうし、今後セプトにはオレたちに関わってもらわないようにしてもらうからね。それも全力で、ね」


 ミランダさんは何を今さらと言った顔をしていた。

 そしてその小さな鉄の塊を、背中の収納スペースに入れた。

 攻撃型エー・トゥールの背中にはあんな機能もあるのか。便利だ。機能美としてよく練られてる。



「やめろミランダ」

「アミック隊長?」

 ミランダさんが不思議そうな返事をして動きを止めた。


「やはりアーノルドの件は無視するわけにはいかんな」

「だから言いました。私は関知してないと」

「ジェラルド隊長に問い合わせてくれ」

「それも無理です。あなたのエー・トゥールだって壊れてるでしょ?」

「壊れてない」

「あ、それは農耕用のエー・トゥールでしたものね」


 なーんか棘のある言い方である。


「ミランダ副隊長は俺の方ばかりの不手際を責めるが、ジェラルドだって通信出来ないんだろうが。だからジェラルドのいる場所まで副官である貴官が行って聞いてきてくれと言っているんだ」

「私はアミック隊長の命令を聞く立場にはありません」

「アーノルドが我々の任務から逸脱した行為をしていたとしてもか?」

「仮定の話ではお答えできませんね」


 それはもう何度も話したろうといった感じで肩をすくめると、補佐する者の権限として行使するといった風体で、ミランダさんがハッキリと拒絶した。


「アーノルドが、そこの子供たちにセプトに入れと勧誘していてもか?」


 アミックがオレたちを指差した。

 あ、とミランダさんの後ろで声がする。

 フランス人のマークとワルテールだ。彼ら二人はオレからその話を聞いている。信じてはくれなかったが、果たして今はどうなんだろうね。

 元はデモンストレーション会場の警備兵だった二人だし、アミックは言わば表の上司になる。


 だがそんなアミックに対しても一切の予備動作すら示さず、ミランダさんは全く隙を見せないでいた。そんなミランダさんにオレは話しかけた。


「ミランダさん。アミックの言ってることは本当だよ」


 ミランダさんが振り向いた。動きにいちいち色香の薫る人だ。オレには子供すぎて効かないけれど。


「何がです?」

「だからアミックの言ったことだよ。アーノルドは本当にオレを勧誘したんだ。セプト側に入らないかって」

「ありえないわね」

「ありえないってのは同感だよ。だってアーノルドはオレを誘ったその口で、その間にオレの連れに拷問をする時間を稼いでたんだもん。アミックはまんまと陸戦隊の拷問する役どころを押しつけられた上に、オレたちからの恨みを一身に背負うようアーノルドに嵌められてたよ。オレも含めてね」

「子供の空想癖は成長するうえで大事だけれど、今この時にしていいような適切な発言ではないわね」

「戦うだけの関係だったら、オレたちがアーノルドの名前を知ってるのはおかしいと思わないの?」

「私たちの会話を聞いただけでしょう?」

「アーノルド・ムック。それが自分の名前だと彼は言ってたよ。ジェラルド隊の副隊長だともね。それはつまり、あなたと同じ隊に所属していて、同格の立場であるってことだと思うんだけど。そこらへんはアミックから訊いてね。オレはそっちの組織図なんか知らないし」


 だがミランダさんは顔色ひとつ変えなかった。


「そちらの話した通りだ。ミランダとアーノルドは同格だ」

「隊長っ」「まずいですよ」「「「!!!!」」」


 まずいのか。

 セプトの内情を開示したらまずいということは、やっぱりまだアミック隊の面々に連立のことを話してないのだな。そのことが確定した。

 だがオレはお前のその秘密主義のおかげで余計な苦労を背負い込んでるんだが、そこんところをどう考えてるのか、そこは後でじっくり聞かせてもらうぞ。

 だが部下に疑念を持たれたこの状況でミランダさんの追求はしづらいよな。すれば部下の疑念が大きくなる。そして疑念を大きくしてからの連立と、ミランダさんの立場を悪くさせてからの連立の発表とでは、どちらがオレたちにとって得になるか、と言う話になる。


 この野郎、これも貸しだぞ。本来お前のやることなんだからな。


「そう言えばミランダさんてさ、オレからアーノルドの話を聞いた時、オレたちの確保に向かわせたマークとワルテールの動きを止めたよね。止めろと言って命令を覆したよね。あれは何で? 別にアーノルドの話を信じてないなら止める必要もないよね。そして今は不思議なことに知らない振りをしている」


 そんなオレの指摘にも、ミランダさんはどこ吹く風だった。


「子供の戯れ言作戦か? でもマークとワルテールも止められたのは聞いてるよ。何せ命令だからな」

「マーク、ワルテール」

 アミックが問うと二人が壁の向こうで肯いた。


「だからその間に絶対何か考えたよね。アミック隊が来て中断させられてからだ。でなければアミック隊と一緒になって今頃オレたちと殺し合いをしてるんだろうし」

「それはもう決着がついたはずよ。あなたたちは降伏交渉に乗った」


 アミックがギョッとしてこちらを見た。

 別にどうと言うことはない。勝とうが負けようが、オレたちに大事なのはそこではないのでね。お前が連立を行使しないのなら、オレはオレで話を進めるだけだ。

 とりあえずこれでジェラルド隊との交渉が成立する。そうすれば当座の安全は確保されるわけだ。その後の地球の平和に関しては、追々ゆっくりと考えようじゃないか。

 お前が浸透戦略をしたいのならそれもよし。マークやワルテールのように受け入れてるフランス人もいる。その浸透戦略の邪魔になる、戦争を仕掛けて来そうなそちらの上司に関しては、それはその都度話し合って対処することにでもするさ。

 他ならぬお前がそういう手段で、オレたちだけに今負荷をかけてるんだからな。後から文句を言われても受け付けない。

 もっともその際にはうちの爺ちゃんや浅野の小父さんを紹介してあげてもいいけどね。オレみたいな子供より、きちんとした立場のある大人を相手にした方がそっちもいいだろう。もちろんこちらの情報は秘匿させてもらうが、そこはお互い様だ。

 お前にはもうすでにオレの情報は全て渡しているし、それで満足しておけ。


 そしてアミックは未だひと言も言葉を発しなかった。

 ひと当てしてチャンスを作って上げたのに、それにアミックは乗ってこなかった。もういいだろう。

 ならば進めるよ。


「ミランダさん」

「何だ」

「交渉は生きてるんだよね」

「ええ。もう一度確認する?」

「もういいよ。話が進まないし、とっとと済ませたい。じゃあ交渉成立の握手だということで、この大きい方の鉄の塊を渡すよ」

「ええ。交渉成立ということで」


 そして手を差しのばすミランダさんの手を握ろうと、オレも手を差しのばす。

 待ちに待った解析タイムだ。直接接触でダブルを発動してミランダさんに解析をかけるのだ。すると手が触れあおうとしたその瞬間、上からブースト深度一がものすごい勢いで飛んで来た。オレとミランダさんとの間に楔を打つようなそんなブースト深度一だ。そのブースト深度一がオレの頭上で綺麗に四方に散って行く。


(おい真司。何か動いてるぞ、気持ち悪いのが)


 珍しく恵風から通信を開いてきた。それも相当焦ってる。

 ブースト深度一をぶつけられてる真っ最中だというのに、それほどの案件か?


(このブースト深度一か)

(ちがう。気持ち悪いのだ。得体の知れない根源的に気持ち悪い何かだ。わからないのかっ)

(すまん。まったく。それより解析をかける。この瞬間は逃せない。もう二度とない機会だ。だからお前は真理ちゃんを頼むぞ、恵風)

(わかった。俺がやるしかないようだ)


 ブースト深度一は十数秒は続いただろうか。やがて音もなく突然に途絶えた。

 完全に見張ってるぞというオレへの警告だったが、オレはその警告は頭から無視した。

 防いでくれている弟さまへの感謝しかなかった。


ようやく撒き終えました。

次回お楽しみに。

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