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第1章 幼稚園時代
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第92話 降伏勧告における交渉材料

 降伏を勧告された。

 話が通じないというのは困った物だ。

 こちらとしてはいつもの、解析してからの風刃と技を叫んで実際には送還するという必殺コンボをしないのは、ミランダさんがアミックの片腕だという前提があるからだ。そうでなければ受けてばかりでその攻撃に対処しないわけがない。

 もし仮に今、風刃の名の下に送還してミランダさんの武装解除をしてしまったら、その後アミックと合流してからミランダさんには再びエー・トゥールを取りに行ってもらわなくてはいけなくなる。

 それは武力行使ではなく浸透戦略を遂行したいミランダさんの思惑とも合致しないだろう。それがわかってるから(ひとえ)に攻撃を受け続けているのだ。


「くるるの子供がセプトに負けることに思うところがあるのかも知れないけれど、これは別に恥ではないわ。我々がそれだけ進歩したと言うことなのだから」


 いや、だから連立を組んだんだよな。マークとワルテールからも何か言ってくれたらいいのにと思うが、彼らは動かない。

 彼らからの評価は所詮オレは子供で、子供の戯れ言にしか聞こえないから今はもう気にもしてないのだろう。


 とりあえず火傷をダブルで状態回復して、と。

 ふう。


 こっちから攻撃してないのを変に思わないのかな?

 もう一回最初からやり直すか──。


 と思ったら真理ちゃんからエー・トゥール越しに連絡が入った。


(真司くん。自分の用件だけじゃ嫌われちゃうよ)

(え? でも今のこの状況って向こうの一方的な誤解だよ)

(だったらなおさら相手の話を聞きながら、こちらのことを話に織り交ぜてかないと)

(はあ)

(用件だけならこの場合、殺し合うのが目的になっちゃうでしょ)

(んー参ったな。連立相手の部下なのに)

(でも今のままじゃそれは無理だよ。だってミランダさん、私たちを殺すつもりでここに来てるんだよ?)

(それはそうだけど)

(ここで真司くんが自分の用件しか言わないと、ミランダさんも話す甲斐もなしと見て、殺す攻撃しかしてくれなくなっちゃうよ。彼女の要件は殺すことなんだから)

(げ…………)


 それは困る。

 そして言われてみると真理ちゃんの仰ることはごもっともな事だった。

 自分の話に耳を貸すこともなく一方的に説得されるのだ。気分が良かろうはずがない。


 あー。


 多分オレはこれまでも交渉で色々と失敗していたのだろう。そんな事を突き付けられてる気がする。そして真理ちゃんの教えてくれた知恵は、まさに目から鱗の交渉術だった。おそらく真理ちゃんにとっては基本的なことなのだろう。だがオレにとっては言語化されて理解ができる手法としての交渉術とか、そんなのは叡知の塊だとしか思えなかった。

 オレは体系だってこういうのを教えてもらったことがないから…………。

 子供は全力でぶつかって覚えていく物だというのが最上家だし。


 振り払うようにしてオレはミランダさんに話しかける。

 他意はないとばかりに、にこやかに。


「ねぇミランダさん。アミックに話を聞いてくれないかな」

「アミック隊長に? なんで?」


 聞く耳を持ってくれないのも相変わらず。だが疑問には思ってくれたようだ。

 さて、どうしたらいいものか。


(んー、誉めるとか?)

(了解)


「アミックって人気ありますか?」

「はあ?」

「ほら、一応特殊任務帯びてるわけだし」

「そんなこと教えるわけないでしょ」


(真理ちゃん。誉めるとこまで行けない)

(ミランダさんを誉めてっ)


「あー、それじゃあミランダさん、強いですよね。女性に銃だし。エー・トゥールにエー・トゥール乗っけるなんてこの組み合わせは凄いなーとか」

「くるるだってみんな魔法の杖を持ってるし、地球でも女の人が銃で武装してるでしょ」


 くるるはどうだか知らないが、外国なら銃を持ってる人は普通にいるな。それも間違いない。

 つまり誉めどころが誉めどころになってない? あー…………。


「でも格好いいですよ、ミランダさん」

「そう。それはどーも」


 何と言う気のない返事。オレもうくじけそう。


「あ、じゃあ食べ物は? ちょっとこの倉庫のお菓子を攻撃するのはもったいないかなーなんて」

「そう?」


 すると後ろから救いの手が入った。

「お菓子は好きじゃないんですね」

 真理ちゃんだ。真理ちゃんが参戦した。これは心強い。


「私は地球の食べ物に興味ないわ。ましてやお菓子だなんて、こんな物は食べちゃだめでしょう」

「うわ、なんかお母さんみたいなこと言うね」


 オレが真理ちゃんに同意を求めてにこりとすると、

(真司くんちは和菓子屋だからでしょ)

 と真理ちゃんから冷静な指摘が入った。


 そしてその脇でミランダさんは冷静どころか怒っていた。


「何よそれっ」


 なぜか攻撃が始まった。てかさっきより激しくなってない? 降伏勧告の行方はどうなったんだろう。

 でもそれに答える人はいない。

 何かがミランダさんの琴線に触れてしまったらしい。

 マークとワルテールも元シャッターのあった横壁に退避して、壁の残骸の物陰に隠れながら、完全に彼女から距離を置いている。


 オレは手を繋いでる真理ちゃんを見やると、ペコリと頭を下げた。

 すると真理ちゃんからギュッと手を握り返された。返す返すも申し訳ない。

 とりあえず──。



 降伏勧告による交渉は失敗に終わったようだ。

 失敗した理由がわからないまま攻撃が再開されたことがまた悩ましいが、とりあえずここは防ぐしかない。

 今は恵風が防いでくれてるけれど、もっときちんとした時間が欲しい。深度一には潜った瞬間上から狙われるから、選択肢を一つ潰されてるのも地味に苦しい。

 弟さまの位相拒絶で防げるだろうけど、これ以上ミランダさんに仲違いしてるとか、そういう視線で観察されたら(たま)らない。



 致し方ない。


「スイッチーオーンッ」


 オレはダブルでティリオーダウンのと同じ外壁を、上から下へと隔壁を落とすような形で作ってみせた。恒星間航行をも可能にしたその外壁を盾にすることで、ミランダさんの目をごまかしつつ、とりあぜず今いる場所を要塞化してみたのだ。

 このダブルが元からあったスイッチを押したように見えてくれれば万々歳なのだが。


(その前に防御できるかどうかだろ、真司)

 恵風だった。恵風もハラハラしてたらしい。

(イライラだ。とりあえず俺が防ぐからさっさと降ろせ)

(そうだな。それまでもうひとがんばり頼むよ恵風)


 余裕のある応対をしたが、実は結構追い込まれている。既存の設備を使ってると思わせるために重厚感のある動きをしてるし、シャッターのように降りる速度は、この荷揚げ場の煌子力ドアの開け閉めのスピードを参考にしている。

 結構神経を使ってそれらしく見えるよう苦心してるのだ。

 そしてこれだけ苦労しててもこの壁が壁になり得ず、空間操作銃のスペックがこの壁を上回るほどの性能でミランダさんに壁を突破されたなら、その時はもうダブルを駆使して戦う他ないとも思っている。


「なに、この荷揚げ場、あんな仕掛けあったの?」


 どうやら勘違いはしてくれたようだ。そして閉まりきる壁の隙間から空間が破裂している状況が見える。床は爆ぜるが、壁の貫通は出来ないらしい。

 ミランダさんが荷揚げ場だからって頑丈に作りすぎでしょと悪し様にぼやいている。

 でもこちらとしてはセプトの科学万歳である。よくこんな合金を開発したものだ。

 そうホッとひと息吐いてたら真理ちゃんから話しかけられた。


(真司くん、あれ、あれをこっそり私にも作ってよ。あのエー・トゥールを)

(もしかしてミランダさんの?)


 真理ちゃんがこっくりと頷いた。


(それね、作ってもいいけどいまいち大雑把なんだよな、アミックの奴。部下の武器ぐらい構造まで把握しとけって話だよ。詳しく調べてもろくな情報が出て来ない)

(それは無茶でしょう。スペックとかそいう細かなところはエンジニアさんのお仕事だろうし。うちのお父さんだって大雑把だと思うよ)

(そりゃ真理ちゃんのお父さんの孝介さんに、部下のこと全て把握しろってのは無理だと思うよ)


 真理ちゃんのお父さんは金沢財閥の社長だ。グループ企業も含めたら部下なんてそれこそ万人の単位でいるかもしれない。

 それを把握出来るだろうか。ましてや部下の持ち物まで。


(あれ? そう言ってるようなものなのか)

(そんなの絶対無理でしょ)

(うん。無理だ)

(大体大変なのよ。部下の書類ひとつを見ることだって。誰の下でどんな事をしてたのか。どんな夢を持ってるのか。今のスキルの状態はどうだとか。チェックしてはどこが最適かを考えてくんだから)

(へー、そうなんだー)


 大いに納得してると壁の向こうからミランダさんの声が聞こえた。


「そんな。必殺の空間操作銃が効かない?」


 ミランダさんは壁に対して攻撃をしてるらしい。それも結構な出力のようだ。

 これはちょっと急ごう。膠着しすぎても相手に艦砲射撃の口実を与えることになる。


(じゃあ作るよ)

(よろしく)


 オレはチャッチャとダブルでミニミニな空間操作銃を創造して、真理ちゃんの右手に潜らせた。ちょうど恵風が憑くような感じだ。

 こうすることで実体化を素早く行え、恵風が銃その物に憑くことも出来るわけだ。いわば百発百中となるようミランダさんのとは仕様をちょっと変更したわけだ。

 ミランダさんの空間操作銃と同じ機能なのは、震動波と熱波、それから真空にするだけである。あとは全て恵風の腹づもり次第。恵風が弾丸に何を込めるかによる、いわば丸投げ仕様である。

 恵風が真理ちゃんに憑くと言い出した以上、今後はこの方がいいとも思うしね。


(真司くん。壁を消して)

(いいけど、気をつけて)

(大丈夫。真司くんなら凶悪にはするけど弱くは作らないから)


 えっと、それはそれで語弊がある気がするんですけれど。


(はい、消して下さい)


 わっかりましたー。真理ちゃんはお急ぎのようです。口実を与えないというのは本当に大変だな。

 そして苦労して作った壁が、天井に収納されてくように送還して行く。

 結構な手間だが、致し方ない。騙すなら最後まで騙しきらないと、後々面倒になる。その上がってくように見える壁の隙間から空間破裂が撃ち込まれた。

 だがその空間は破裂しなかった。

 飛散する空気を風が瞬間的に包み込んだのだ。


 オレはギョッとするが、ミランダさんも向こうでギョッとしてた。


(私だって対抗するんだから)

(何に? 真理ちゃん、交渉中だからね。倒すような攻撃はされちゃ困るんだけど)

(うん、わかってる)


 そう言って真理ちゃんがなくなった左手を振った。

 オレは空間操作銃もどきは右手に沈めたつもりだったんだけど──。


(こっちのがいい。利き腕はフリーにしとくべきだ)


 あ、恵風がやったのね。真理ちゃんの反対がないならそれでもいいけど、オレとしては恵風に祈るような思いだった。頼むから物騒な物を込めないでくれよ、と。


(するか。真司じゃないんだ)


 恵風が精霊魔法の風を込める。真理ちゃんがそれを発射すると時間差で対象が刃に崩され、風刃が乱舞して暴風になる。


「これはっ」


 向こうも追って来られない。それどころか相殺されて消えた。これまでのような逸らしたり散らしたりといった小手先の対処ではない。

 真正面からぶつかってその威力を消したのだ。しかもこちらがその空間破裂の威力を食い破っている。

 ミランダさんが口をうっすらと開けていた。

 理知的な人がこういう表情を晒すのは珍しい。その落差にオレが驚いてると、ミランダさんが心底感心したようにつぶやいた。


「煌子力に反応しない魔法。本当だったんだ」


 未だに空間破裂を防がれた空間をミランダさんはジッと見やっている。そんなに凄いことだったのだろうか。


「煌子力までバラバラに分解しただけみたいですよ」


 真理ちゃんが丁寧に説明をしてあげた。そしてそれは本当のことだ。精素が元だが風刃は対象の構造をバラバラ切り刻んでしまう。それをやった。やったのはただそれだけのことだ。

 だがミランダさんは気持悪い物を見るような目で、真理ちゃんを見た。


「自分でやっといてその言い種とは。左手も拷問を受けたようなのに、随分と余裕があるのね、あなた」


 それはいつでもオレが治せるわけだしね。普通の生活にもどった時に左手が元通りならセプトも真理ちゃんが真理ちゃんだとは気づけないでしょ。

 だからこの件はこれ以上喋りません。秘匿です。

 すると真理ちゃんが口を開いた。


「ミランダさんは何が知りたいんですか」

「君たちが使うその魔法。そのすべて」


 ミランダさんの目がかつてないほどキランと光った。


 なるほどそこか。そこだったのか──。


 どうやらオレたちは、ようやく交渉材料を見つけたようだった。

 見つけたのが丸投げされた真理ちゃんだってのは内緒だ。誰に内緒なのかは知らないが。


 勘のいい人はもうお気づきでしょう。

 次回次々回辺り、幼さ全開からの不屈の魂をお届けできたらと。


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