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第1章 幼稚園時代
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第91話 厳かな降伏勧告

 ミランダさんの空間操作銃で空間が破裂する。ごっそり入り口の壁がえぐり取られて見通しがよくなった。一時的に深度一を解除して様子を探ってみてみると、こちらの動きを通常空間に戻して、その間に距離を詰めたり、味方への指示をてきぱきやっつけたりしてる。


 こんなことをしてたのか。


 オレたちが時間の流れの速い深度一に潜ってる間に、直接の部下ではないマークやワルテールに対し、指示という雑務を的確にこなしてたようだ。


 攻撃型エー・トゥールを身につけたミランダさんは、そのボディラインの美しさがこれでもかとわかる形なので、合金製の光具合と相まってやたらセクシーだった。オレは子供だから全く興味がないので脅威にはならないけれど、大人になったらそういうのばっかり目につくようになっちゃうんだろうか。


 こればっかりは大人にならないとわからない。


 そのミランダさんの攻撃型エー・トゥールだが、主要な武器である空間操作銃を手にしてることからもわかるように、攻撃型エー・トゥールとはまた別の攻撃手段である。右手に一体化してるように見えなくもないので、攻撃型エー・トゥールにエー・トゥールを付けてるのだろうか?


 オレも初めて見る構造だ。


 その過程で真理ちゃんと恵風が協力して、真理ちゃんに憑いた恵風が、向こうの空間操作銃の力を吸収する。振動波が見えてない真理ちゃんが棒立ちだから、恵風が真理ちゃんの身体に憑いてうまいこと風壁で逸らしている。

 さすが自称、風と土の大精霊。

 本家本元の精霊魔法の使い方はさすがにうまかった。

 恵風はミランダさんの振動波を風で受けて、その風の流れに乗せて、流して、空間が破裂するのを前倒しさせたり吸収したりしてるのだ。そのうえ衝撃が縦横に流され散ってしまう。

 空気の流れを糸のように細かく縒り分けて、それこそお手本を真理ちゃんに見せているのだろう。オレも当然勉強になる。


 不意にミランダさんの空間操作銃から攻撃が途絶えた。マークやワルテールも牽制しないし、ミランダさんが完全に二人をコントロール()に置いているのだろう。

 アミック隊の副隊長なのだから当然か。

 そのミランダさんが距離を保ったまま再び銃を構えた。

 随分とタメがあるな。強力な武器はそれだけタメがいると言うことか。

 オレは真理ちゃんを助けるために、万が一に備えて身構える。


「あ」

 とその瞬間に声が洩れた。


 オレの眼前を一瞬のブースト深度一がよぎったのだ。青いきらめきをキラキラと残して一迅の風が塊となって去って行く。

 オレが上空を見上げて、視線の先を天井に遮られていると、


(まずい。ノーラのがうまい)


 と恵風の感嘆がボヤキとなって伝わってきた。

 恵風からすると名前すら忘れてしまった元上司の攻撃は、こちらが攻撃に転じようとした瞬間いつでも邪魔するよという威嚇であった。つい先程までは好き勝手に深度一のなかに潜らせてくれてたのに、いざ戦闘が始まったら容赦ないこの一撃である。

 そんなことをされたらレクチャーしながらなどという悠長なことは言っていられなくなる。ボヤキたくもなるだろう。

 それにミランダさんもミランダさんだ。ミランダさんの攻撃には間違いなく一撃必殺の威力がある。はっきり言って子供に向けていいような攻撃じゃない。(あた)ったら死ぬぞ。

 そのミランダさんが訝しげに口を開いた。


「もしかして第三勢力なの?」


 ミランダさんが問いかけてきた。そりゃそうだ。とても援護には見えないもんな。

 だが話しかけて来てくれたのは、ある意味ありがたい。これで話の流れでアミックとの連立のことや、降下してきたティリオーダウンの本当の狙いなどについて話し合うことが出来る。

 そう思った矢先に空間操作銃から、振動波が連射で放たれた。


 真理ちゃんが避けようとしたら、また意に反して腕が振るわれて風壁を張っていた。そのちぐはぐな動きにミランダさんが嫌そうな顔をする。

 だよなぁ。真理ちゃんのやろうとしてることがわからないよなぁ。

 避けてるのに手は無様に防御しようと動いてるんだもん。

 そりゃそうだ。

 だってオレから見ててもわけがわからないもん。


 内実を知ってるオレから推測すると──、


 おそらく恵風の出来ることと真理ちゃんが理解してる恵風の動きとが、完全に噛み合っていないのだろうと思う。だから腰の入ってない無様な動きでエー・トゥールの攻撃を防いでいるのが奇妙に映る。それでも腕を振るだけで風が吹いて防ぐんだから、風の精霊はほんとうに便利である。


 それでもミランダさんの攻撃は続く。

 振動波で確実に真理ちゃんの行き場を限定する。この間にも空間操作銃に煌子力をチャージしてるらしく、攻撃型エー・トゥールが補助として扱われている。振動波は使い勝手のいい攻撃手段なのだろう。(あた)れば怪我をする。撃つにはタメが大して必要ない。通常のエー・トゥールが攻撃のメインになっているのだが、まったく上位機種と遜色がない。普通なら逆になる。だが強い。


 真理ちゃんがミランダさんに困った顔を向ける。

 すると、ミランダさんがニコリとした。


「魔気切れでしょう? わかってるのよ。でかいのをポンポン撃つから」

「あの、ミランダさんがやめてくれれば、こんな事もしないで済むのですが」

「魔気切れのあなたにそんな容赦をすると思う?」


 真理ちゃんが首を横に振ると、正解と言ってミランダさんが振動波を連射してきた。真理ちゃんは風壁と言うより風の盾といった感じで懸命に振動波を防いでいる。

 散らしたり、吸収したり、振動波は空気の振動なので風の防御と相性がいい。恵風の示してくれたお手本を、今は真理ちゃんもちょっとずつ実戦してるようだ。

 それにしてもミランダさんからの攻撃が途切れない。


 するとオレの心の声が聞こえてたのか、真理ちゃんが話しかけて来た。


(どう思う、真司くん)


 一向に魔気切れを起こしそうもないミランダさんの空間操作銃のことだろう。オレはあの銃は魔法ではないと思ってる。


(たぶんあれは煌子力由来だよ)

(つまり途切れることはないというわけね)

(おそらくね。エー・トゥールが小さいから充填に時間がかかってるだけで、バイパスを太くしたらあっという間に連射が効くようになるんじゃないかな)

(じゃあ小技も重視してるから、空間炸裂弾みたいなのは連射できないわけだね)

(たぶん、そう。さっきも調べたけど、もうちょっと詳しく調べてみるよ。彼女の武器ならアミックの情報にも入ってるはずだから)

(お願いします。その間真司くん、私、試してみるよ)


 何をとは聞き返さなかった。風壁がんばるってことだろうから。


(了解。心おきなく。恵風、補助をしっかりな)


(言われんでもわかってるわ)

 恵風はプンプンしてた。


 ミランダ副隊長の空間操作銃。ダブルで解析した情報を分析してみると、それは簡単に見つかった。隊長であるアミックの副官だ。そりゃ連携や武装についても詳しくわかる。

 ミランダさんの空間操作銃は、煌子力を充填して空間破裂をするのが基本だった。

 伏せてるカードとして、相手の虚を突いて、それぞれの能力を封じた特殊な弾丸をセットして、深度一であったり、魔気を微妙に混ぜた空間破裂であったり、真空であったり、重力源であったり、十五秒ほど疑似空間を作れたりすることもわかった。

 詳しく調べてもさっきと大して変わらない情報量だった。

 でもなるほど、これは空間操作銃だ。


(真理ちゃん聞こえた?)

(うん。わかった。伏せてる手口に気をつけて防御がんばるよ)


 そう言って真理ちゃんは懸命に振動波を防いでいた。

 ミランダさんも真理ちゃんの魔気切れを狙って小出しな出力で完全に真理ちゃんがへばるの待ちの攻撃をしていた。


「オレ、邪魔かな?」

「なんで?」

「戦ってるのはそっちなのに、前に出てるのはオレの方だから」


 するとエー・トゥール越しに恵風から連絡が入った。


(真司、しばらくお前が止めててくれ。真理に復習させる)

(了解)


 返事をして魂の回廊を閉じる。

 オレにはわかっていた。恵風はこう言ってるけど本当は真理ちゃんが疲れてきたのだ。普段の生活でこんな事をすることはないからね。慣れてきたところで大事を取って休ませることにしたのだろう。


 そしてオレが前に出る意識を示すと、ミランダさんが本気の一撃を放ってきた。

 オレの眼前で空間が破裂する。とっさに風壁を展開したが破裂の幅が大きい。

 これでは真理ちゃんの時とは扱いに違いがありすぎる。オレには魔気切れを狙ってくれないのか?


 ならば──。


 オレは深度一に潜る。

 その瞬間、上層からブースト深度一の奔流を浴びせられた。

 やばい。動けない。

 オレは深度一に潜ることを咎められていた。もちろんやったのはノーラだ。少ない手数で嫌らしいことをしてくれる。

 だがそのブースト深度一も、弟さまらの位相拒絶をかけてもらって事なきを得る。ナイス援護だ。


(さんきゅー弟さま)


 礼を述べながら荷揚げ場に残ってた段ボールの陰に身を隠す。

 だが息つく暇もなく空間操作銃から何かが発射された。

 今度は何だと思ってる間に、荷揚げ場の荷物の影に隠れると段ボールの前面がえぐられたようだ。でも貫通はしてこない。


「威力を下げたの?」


 質問への返事は速射で返ってきた。

 明らかに先程より充填の時間が短い。どうやら少ない煌子力でもそれなりの機能を果たすようだ。

 また一発放たれた。

 着弾と同時に上段の荷物は完全に粉砕され、中段の荷物は積み上げられた形を維持できずに崩れて床に散らばった。


「うへっ。そんなの(あた)ったら死んじゃうよ」


 風槍を床の底に発現させて、床そのものを引っぺがすようにして盾にする。

 その盾もあっさりと爆散した。

 マジで打つ手がないぞ。威力も強弱も自由自在だ。こちらの目論見は全部叩き潰されている。ミランダさんつえー。


「深度一へっ」


 真理ちゃんが叫んだ瞬間に、そこへまた奔流が降って来た。ブースト深度一がキラキラと輝きながらオレを床へと押しつんとする。だがその奔流はオレたちに到達することはなく、オレたちの頭上で四方に散って行った。まるで円錐にぶつかったかのようにキレイに分かたれて行く。

 その光景を見て、少し後ろに退避していたミランダさんが口を開く。


「どうやらそちらも仲間割れのようね」

「そんなことないよ」


 オレは即答したが、その答えをミランダさんは信用していないようだった。


「私達に(くみ)した方がいいと考えてる人がいるんじゃなくて?」

「いないよ」

「そうなの? でもそう思ってるのはあなただけで、本当は彼女の左手が失われたことで意見を(たが)える人が出て来たのでしょう?」


 ああー、そういう推察か。


 心がそこに向けられてしまった瞬間、ワルテールからの牽制が来た。オレは為す(すべ)もなくその場に釘付けにされると、ミランダさんからの空間操作銃から何かが放たれ追い打ちをかけられた。


「ちょっと早いよ」


 と文句を言う暇はなかったようだ。オレが文句を言ったその数瞬で、ミランダさんの攻撃はオレに到達していた。

 振り払おうとした右手にもう着弾してて、オレは右手を火傷していた。


「アチッ。アチチッ」


 状態固定をかけてたのに、何でこんなに熱いんだ? ここには弟さまが(おく)れを取ったアッチはいないのに。

 そして気がついた。

 ノーラの最初のブースト深度一の奔流で、状態固定を引き剥がされてたのだと。

 まともに食らったのはアレしかない。それとも超臨界水が何かをしたのか?

 いや、ありえないな。ブースト深度一だ。

 そう確信して手をバタバタと振るオレに、ミランダさんが銃を引いてみせた。腰元に手をやり、オレに目を向ける。その仕草がやけに艶めかしい。

 だが出て来た言葉には色気の欠片もなかった。


「もう無理よ。投降しなさい」


 実質上の降伏勧告だった。

 殺さないようにするのも大変なのだろう。隠し球もふんだんにある。

 だからミランダさんは厳かにそうオレに告げたのだ。


 読んで頂きありがとうございます。

 それと投降する際にまたブックマークしてくれた方がいたようで、本当に嬉しい限りです。ありがとうございます。幼稚園編はこれから佳境に入ります。仕掛けも幾つもあるので、堪能して頂けたら幸いです。

 がんばります。

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