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ダブル  作者: 茶の字
第1章 幼稚園時代
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第90話 精霊からの提案 その三

(真司。もしかして移動船に攻撃する隙間がなかったのはそのためか?)


 恵風に、オレが密かにほどこしていた真理ちゃん用簡易移動船の目的の一つに辿り着かれたらしい。

 もうダブルで送還したので再現しない限り現物はないが、あの移動船には鉄砲狭間のような物をオレは特につけなかったのだ。攻撃するよりも誰も追いつけない速度で逃げることと、装甲を厚くすることしか重視していなかったからだ。

 おかげで操縦がピーキーになり、速度も出すぎて真理ちゃんは扱いに困ったようだが、オレの意図としてはむしろ大成功の部類だった。

 しかし実用的でないのは問題なのもわかった。物を作るということは使い手が使いこなせなければ意味がないのだ。

 そしてこれは人にも、精霊にも言えることだと思うのだ。

 魂の回廊を浅めに開いて問う。


(何で真理ちゃんのためにお前がそこまでするんだ)


 恵風を使いこなすとか、そう言った傲慢な気持はさらさらないが、精霊世界がそこまで実用的で、困っているオレたちに救いの手を差し伸べてくれるような、そんな情にあふれた世界だとはオレにはとても思えない。

 むしろその逆だ。

 現にノーラは今この時になってもオレたちに攻撃を続けてるではないか。恵風は精素を使い切る寸前まで行って記憶を失ったとはいえ、恵風がノーラと違うとは言い切れないだろう。

 そもそも今言うべきことではないのだ。これまでどれだけ我慢してきたと思ってるんだという話だ。

 戦力となる者をひた隠しにひた隠して来たのだ。

 アームのために。今後のオレたちの生活のために。

 それをもっとも身を潜めねばならないこの時に、これまで隠し通して来たその身を晒そうというのは、利敵行為に他ならない。

 そもそもオレと手を繋いでるので、最早真理ちゃんの額に傷などない。ダブルの状態回復で今さっき治してしまった。だから恵風が激昂した原因など、もうとっくに取り除いてあるのだ。


 疑惑の目を向けるのは何も恵風だけではない。オレだって突然のお前の物言いに胡乱(うろん)なものを感じてるのだ。


(真理は、初めて会った時に、俺のことをキレイと言ってくれたんだ)

(それが理由か)

(そうだ)


 頭のネジが飛んでるヤツは時々おかしなことを言う。自分の身体の精素を削ってまで精霊魔法を放ったのだ。その代償としては恵風も甘んじて受け入れてるだろう。

 そしてそんな恵風を見て、真理ちゃんはキレイと言ったわけか。

 案外恵風は自分のことが客観的に見えてるのだろうか。それは確かに自らのボロボロな姿を見てキレイと言われたら、真理ちゃんのためにって気持にもなる、か…………。


 聞いただけだと理解出来ないと思ってたはずだが、ちょっと考えてみたらわからないでもないことになっている。オレもチョロいのかな?

 チョロくてもいいか。


(なら鉄の棲み家の球体のまま、真理ちゃんの左手に憑いてろ。オレが精霊魔法を撃つとき時々そうしてたよな。真理ちゃんに何かしたらその時点で送還するからな)

(それは出来ないぞ)

(無理か)

(無理だ。それをしたら真理を守れなくなる。真理はお前と違って相手を排除しようとか考えないからな。オレに伝わらない。やるなら付与しろ)

(付与?)

(それを可能にするなら鉄の棲み家自体に細工をするべきだと言ってるんだ。鉄の棲み家を、深度一にも潜れるようにな)


 今いちわからんが、やれというならやってみるか。

 オレには恵風が憑いたから憑いたのを憑かせるようにしか思えなかったんだが。

 うん、鉄の棲み家に憑いて、その状態でオレに憑いて、という二重の意味で憑いてるといった感じを早口で説明するとそんな感じなのだが、ダブルで憑くような物だな。

 オレの能力といった意味でなく、言葉の綾での言葉なので誤解なく。


 いかん。オレも爺ちゃんみたいになってきたな。

 オレの歳で爺ちゃんみたいになったら、ある意味終わりだ。あれは年を経てるから許されることであって、笑いにもなったりするが、幼稚園児のオレがやったらただの嫌味なヤツに成り下がる。


 オレは真理ちゃんの肩に手を置いた。

(ゴメン真理ちゃん、鉄の棲み家を貸して)

(はい)


 真理ちゃんが右手をポッケに入れて鉄の棲み家を取り出してくれた。その鉄の棲み家にオレはオレの左手で触れてみて、深度一に潜れるよう付与してみる。

 それからとりあえず恵風に連絡した。


(やってみたが、出来てるかどうかは自信ないぞ)


 オレに恵風が思ってる概念は伝わってない。言葉の表層だけでしか物事を捉えてないとわかってる。だからそのことを恵風に伝えたのだが、そんなオレの心配をよそに、恵風は鉄の棲み家を簡単に深度一の中に潜らせて、時々消えている。


 位相がずれてるのだ。だから見えなくなる。


(おい。深度一にいるのにそこから更に潜って、今どんなとこにいるんだ)

(別に変わらんぞ。俺からは見える。真理の中に入ってるんだ)

(だ、大丈夫なのか?)


 一瞬の空白があって返事が来た。


(大丈夫だ。ここなら発狂しない)

(嫌な冗談を言うな)


 こっちは信じて送りだそうとしてるんだぞ。それで今以上に恵風のオツムが残念なことになっちゃったら、オレは間抜け以外の何者でもない。

 すると弟さまから連絡が来て引き戻された。


(それから兄さま。念のために聞くが)

(なぁに?)

(場所を移す気はないのか?)

(ない)

(セプトを正面から叩き潰すつもりなのか?)

(そんな大それた考えじゃないけど、今ならティリオーダウンの艦砲射撃は水平だ。これがちょっとでも上を向いてみろ)

(なるほど東京壊滅だな)

(オレたちが対処できなければな)


 東京駅の地下深くにこれだけの地下空間を作られたのだ。宇宙人の攻撃が地下から行使されたら誰も何も対処できないだろう。


(現状でひとつずつ封じてく。この地道な作業がまた続くわけだな)

(ストーカーの処理は大変だよ)


 と言ったところで弟さまとの話を止めた。

 もう少し話をして詰めたいところだがもう無理そうだった。

 ミランダさんが動き出してどこかに連絡を取っていた。動作は遅いがあれはミランダさんも深度一に入った証拠だ。ついでに後ろにいるマークとワルテールも潜ったようだ。てっきり所持してないと思ってたのだが、自分のエー・トゥールで深度一に入ったらしい。


(マークさんとワルテールさんのは、ミランダさんからの補助だね。私も拷問の時にアミックさんに腕に付けられた)

(そうなんだ。その、ごめん)

(ううん。ありがとうだよ。さっきほど不安じゃないもの。今はエー・トゥールでみんなとお話もできるし。大丈夫)


 真理ちゃんの物の見方は本当にありがたい。必要な方向に心を向けさせてくれる。

 オレも真理ちゃんの話を聞いて少し落ち着いた。


 オレは改めて周囲を観察し、状況を思い返す。


 そうだ。今は真理ちゃんが言うようにお話が出来るようになったけれど、そもそも東京駅近郊は電波を封鎖されていたんだった。

 オレたちみたいな子供にはまだ携帯電話の(たぐい)を持たせてもらえないけど、大人みたいに携帯電話を持っていればと、セプトのオーバーテクノロジーからダブルで作るという着想を得たわけだ。

 この便利な道具は、映像機能も付けたからあとで超臨界水に対処されてしまうかも知れないが、持っておく分には構わないだろう。

 地上で逃げ回ってた時は、自分たちを録画している映像に介入して消去することを(たっと)しとしてたが、今ならばこちらから映像で残すということも一つの手法かも知れないと思うのだ。

 生き延びたら、映像を分析できるし。

 むかついたヤツを忘れないで済むし。

 それにオレたちの思念に反応するようにした、オレたちだけつかえる専用補助具だから、ストッパーがかかってる分、超臨界水にも考慮する余地はあると思うんだ。だからたまには頼むよ。見逃してくれ。


(でも兄さま。

 携帯電話代わりだからって携帯電話の形はやめてくれよ。これから戦闘するかもしれないってのに、携帯電話の形をしたエー・トゥールを掲げてパンチだキックだなんてことになったら目も当てられない)

(うっ)


 オレの呻き声に微妙な間が空いた。

 やっぱり、と言った感じだ。


(まじかよ。真司センスねーな)(ど、どんまい)(頼むぜ、兄さま)


 よし。話を進めようか。時間がないんだぞ、キミたち。

 この機械、元は補助具という意味のエー・トゥールなんだけど、最早補助の領域を超えてるとは思わないか。だからとりあえずこの補助具をダブルでオレが三つ作成だ-、こんちくしょー。それを寛司、真理ちゃんにと渡し、オレはオレで自分に装備する。


(出て来たか? 弟さま)

(ああ、右腕に付いてる)


 これには情報の共有機能もつけるし、会話の機能もつける。しかし名前はまだつけない。今はそれどころではないしね。準備が優先だ。

 試しに深度を浅くしてアミックに呼び出しをかけてみる。だがやはりアミックとは連絡がとれなかった。最早こちらを忘れて連立相手のオレたちに攻撃をする気満々なのだろうか。

 不穏なものが胸をよぎっていると弟さまからまた連絡が入った。


(それと(あに)さま。こいつに状態固定もつけといてくれ。それから恵風にしたみたいに深度一にも潜れるよう付与してくれ。あと精素の補充もね。頼む)

(えー? 何それ。自信ないぞ)

(それでもいいから)

(りょーかい)


 と話してるオレたちの耳に、真理ちゃんと恵風が話してる声も飛びこんで来た。

 今、真理ちゃんと恵風は一心同体だ。

 ろくな戦闘が出来ないことを恵風が真理ちゃんに詫びていた。


(大丈夫だよ。憑いた状態なら良いんだよ)

(真理…………)

(気を使わなくていいよ。私も精霊魔法はちょっとは出来るようになったんだから)

(…………提案だ、真理)

(なぁに?)

(俺が憑いたままでレクチャーするから、風壁を覚えろ)

(風壁を?)

(奴等程度の攻撃ならほぼシャットアウトするが、自分に直撃させないで流すことも出来る)

(へー)

(相手を閉じ込めたりして時間稼ぎも出来る)

(そうなんだ。わかった。頑張ってみる)

(あの女は真理を狙ってるからな。まずは防御だ)

(わかりました。よろしくね、先生)

(お、おう)


 恵風が可愛げのあるところを見せていた。

 和む。

 いや、ダメだろ。開戦直前だぞ。

 オレはとりあえずいつも通りに真理ちゃんには後ろにいてもらう。恵風はああ言ってたが安全なのに越したことはない。そもそも真理ちゃんの視点はオレたち全員に有意義なので、今回も司令塔をよろしくと言うことだ。



(兄さまが一番槍が好きなだけだろ)



 何か聞こえたが聞こえなーい。開戦直前なのである。

 相手のミランダさんは、荷揚げ場のガシッとした扉をも消し飛ばすエー・トゥールを装備してる猛者なのだ。始まる前にアミックから部下のミランダさんに連絡が入ればいいんだけれど、最早その望みも薄いだろう。仮に間に合ってアミックが説得を開始したとしても、連立したと聞いて果たして信じるかどうか──。

 今のミランダさんは恐ろしくやる気になっている。

 魔気なんて危険な物をばらまいたのがオレだと思ってるのだろうな。

 煌子力と反応させたらそれほどやばいのかと思わないでもないが、実体験として経験しながら宇宙を旅してきた人たちの見解だ。


 無視はできない。



(風の大精霊さまよ、真理ちゃんが思ったら、すぐにお前が真理ちゃんの左手からエー・トゥールを出して上げろ。宿主のために働けよ)

(言われるまでもない)


 いきなり実戦だが、いざという時に深度一に潜れるというのは、位相のずれに身を隠せるということだ。異世界からの来訪者であるノーラが、深度一に対して何もしてこないとは限らないが、ノーラがダブルでオレがそんな補助具を作ったと知らない今なら、虚を突けば逃げることは出来る。

 数瞬でも時間が稼げればいいのだ。

 いわばとっておきの秘策が、ダブルで作ったばかりのエー・トゥールなのだ。


 恵風のボヤキが聞こえて来た。


(あいつがいてくれたらな)

(ノーラのこと?)


 真理ちゃんが尋ねた。


(もう忘れてしまったけど、俺を異世界に送り込んだ友達だったはずの存在だ)


 さっきはガチギレしてたのに、多感なヤツだ。

 おそらく恵風はいま、東京駅界隈の巨大地下空間の上層を眺めやってるのだろう。

 はてさてノーラは今はどこに潜んでいるのやら。

 盛大な勘違いからさんざんオレたちの邪魔をしてくれてるが。

 このノーラという人物がどういう人物なのかは、恵風を見てればわかる。果たしてどれぐらいお調子者なんだろうか。なにせ恵風のこんな態度を許してきた存在なのだから。

 それはつまり、こういうことなのだろう。


(なぁ恵風)

(なんだ)

(オレたちからすれば、お前が異世界で、オレたちが世界だからな)

(……ああ)

(だから前を見ろ。ミランダさんが来るぞ)

(んっ)


 恵風に気合いが入ったのが伝わってきた。


 オレたちの眼前で、彼女がゆっくりと空間操作銃の銃口をこちらに向け始める。

 オレたちより遅い深度一の中から動いてるのに、大した速度だ。そしてミランダさんが空間操作銃の轟音を轟かせた。


 開戦だ。


今日は仏滅ですか。ヘロヘロになってから見ると強烈です。

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