表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダブル  作者: 茶の字
第1章 幼稚園時代
86/182

第86話 動揺

(真司くん戻して。無理)

 通信機を通して魂の回廊に真理ちゃんの声がした。不評のようだったので、地下五階へと向かう階段の途中にいるオレの所まで真理ちゃんを誘導する。


(酷い目に遭ったぜ)

 と恵風がこぼしてる。

(しっかり聞こえてるぞ)

(とりあえず出して、真司くん。ドアの開け方を聞いてなかったの)

(あ、ごめん)


 思わぬことを指摘されてちょびっと動揺した。オレとしては真理ちゃんのためを思って、せめて楽をして下さいとこいつを創造してみたのだが、そう言えば操縦方法以外を全く説明していなかったようだ。

 大失態である。

 セプトは生体認証で勝手に開け閉めしてくれるけど、こっちは簡易移動船だからな。そんな面倒臭いのは省いて創造してしまっていた。

 これは反省点だな。今度から気をつけよう。

 そう自らを改めて、くぼみに手を入れて扉を開けると、中から出て来た恵風に容赦ない罵声を浴びせられた。


「おい、真司。速すぎるぞ」


 とりあえず恵風が空を偵察する時に飛行機よりも速く飛んでるのを知ってるから、恵風はスルーして、次に出て来た真理ちゃんに目をやった。真理ちゃんのために簡易移動船は作ったわけだしね。

 重要なのは真理ちゃんだ。


「どこが駄目だった?」

「あの、ゆっくり進めないからちょっと困ったかな。地面を突き抜けて眼下に東京駅まで見下ろしちゃったし」

「え? マジ?」


 真理ちゃんと恵風がうんと頷いた。


「高さは?」

「高層ビルの屋根が小っちゃく見えた」


 そんなに高く飛んじゃったのか……。真理ちゃんは飛翔時間のことはあえて言わないでいてくれてるみたいだけど、多分一瞬でなんだろうなぁ。


「深度一にいるとわかっててもお空に止まってると人目に付いちゃまずいと思って、慌てて操縦桿を引いたらものすごい勢いで今度は地下に向かっちゃうし、もうどうしようかと」

「ご、ごめん」

「だからとりあえず土の中の止まったところで止めて、お前が手隙になるのを待ってたんだ」

「か、重ね重ね申し訳ない。それと恵風はとりあえず憑いとこうな。丸見えだぞ」

「りょーかい了解」


 恵風が真理ちゃんに憑きなおすのを見てから、オレはこの真理ちゃん専用簡易移動船をどうしようかと思った。


「あの、歩くよ」

「え?」

「ちょっとおっかないし」


(そりゃそうだろ。いきなり実戦ばかりじゃ悪いところのあぶり出しが出来てないからな。叔父ちゃんに車を作ってすぐに乗れって言われると思うか?)

(なるほど。納得した。作ってから色々と不具合がないか確かめるのが基本だろうしな)

(そういうこと)


「わかった。じゃあ真理ちゃん、とりあえずこれは送還するよ。また後で。乞うご期待ってヤツだな」

「うん。お願いします」


 オレは踊り場に止めた簡易移動船の外装を撫でた。

 固くて冷たい外装だ。この外装はセプト準拠だから相当高性能なはずだ。今回は駄目だったけれど、次は改装してもっと良くしよう。


「送還」


 真理ちゃん用簡易移動船が塵となって空間に送還されて行く。その光景にオレと真理ちゃんが目を奪われていると、階下で靴音がした。


「真司くん」


 真理ちゃんがボソッとつぶやいた。


「わかってる。上に行って。下からだ」


 下から来ると言うことは研究棟のどこかにいた人物ということになる。アミックならいいのだがと思っていると、現れたのはジゼル電気のデモンストレーション会場で見た男だった。

 制服ではなくスーツ姿で右手にはステッキを突いているが、確かマーク・ブノワと言っただろうか。オレは自分とアミックの記憶を辿ってその認識で間違いないと確定する。

 そのマークが簡易移動船を送還するオレの姿を見て、


「お前、それセプトの」


 と、あらぬ事を言った。

 マークはセプトの物と思ったらしい。でもそれは誤解だった。これはオレがダブルで作った物だしそれは違う。

 でもその説明は出来ないので、最後まで送還しきろうと送還速度を速めたら、後ろからもう一人現れた。


 真理ちゃんが息を飲んでいる。すぐに呼びかけた。


(踊り場を上がって真理ちゃん。地下五階まであとちょっとのはずだからそこに逃げ込もう)


 だが真理ちゃんは動かなかった。移動船を出たから通信機能がないのだ。

 オレをジッと見たマークが口を開いた。


「あの時の子供、ですよね?」

「どなたですか」

 マスクで変装してるのでオレはすっとぼけて尋ねてみたが、

「どのみちここにいる時点で怪しすぎるから関係ないですな」

 とぶった切られた。


 ごもっとも、と思った時にはステッキで足を引っかけられて転ばされていた。

 立ち上がろうとしたら、またブースト深度一がマーク目がけて放たれたようだ。オレだけ通常空間でマークのステッキが狭間で加速する。


 オレの頬からバキッと音が鳴って、壁までよろめいてしまった。つぶらな子供の瞳をして見せたのに、よ、容赦ないのね。頬がジンジンする。ブースト深度一に気を取られて思わず状態固定していなかったわ。状態回復をかけてすぐ治したけれどもさ。

 酷いよ。

 だがマークは紳士面をしているが子供を叩いたという気後れもなく、職務を全うするという男の生臭さに溢れていた。

 紳士という者は、こういうところで微塵も揺るがないところからも来ているのだろう。


「逃げろ」


 オレは真理ちゃんに逃走を促す。

 階段を駆け上がる真理ちゃんに、それをさせるわけがないとマークが追いかけたので、オレは眼でカッと睨むことで位相拒絶をぶつけて、マークを通常空間に無理矢理もどした。

 急に動きが遅くなってマークが自分の身体を持て余した。たたらを踏んでいる。その隙を狙ってオレはマークの脇をすり抜けて、真理ちゃんにティリオーダウンが鎮座する地下五階の駐機場を管理するスペースに行けと、手振りで誘導する。

 そのオレの手を、別の男のステッキが咎めた。


「余計なことですな」


 ベシッと叩かれて痛い。


 だがこの時間が作れたことで、うまいこと真理ちゃんが地下五階の廊下へと走りこむことが出来た。

 このまま人のいない部屋を見つけてほしいもんだ。気を揉むが、それでも真理ちゃんならそのぐらいの知恵は回るだろう。

 とりあえず真理ちゃんを深度一に入れた。弟さまが合流地点で位相拒絶を張ってるので、この時点で真理ちゃんの安全は確保されたも同然だ。


 さて──。


 そうしてオレはアミックに連絡しようと思った。階段を駆け上がったところでマークともう一人を迎え撃つ形を取る。

 二人は階段を上っては来ず、踊り場にとどまった。


 深度一展開。


 オレも深度一に潜る。これでマークともう一人を相手にしても時間を稼げる。

 しかしハタと思った。

 もしここでアミックと連絡を取ろうにも、アミックが深度一に入っておらず通常空間にいたならば、オレの言葉など聞き取れるかどうか怪しいと思ったのだ。オレがこのまま深度一で浅い回廊を通して話しかけても、時間の流れが違いすぎて通じるとは限らないのだ。

 やはり実験は重要だ。

 そしてアミックはほぼ間違いなく深度一にはいないはずだとも思った。なぜなら言っちゃ悪いがアミックは強襲艦のティリオーダウンからは半ば見捨てられている状態だったからだ。場合によっては事故を装って、陸戦隊あたりがアミックを始末してもおかしくない状況でもある。

 アミックなら用心してるはずだ。仲間から嵌められかけてることを知ったアミックならば、初めから手札を切らずに、通常の行動を取るようにするだろう。


「深度一」


 オレは深度一の障壁を展開した。これをマークともう一人の前に展開しておけば攻撃をしようとした瞬間に、その攻撃は位相のずれに弾かれるだろう。

 学ぶことは大事だ。オレたちもブースト深度一には本当に苦労した。


 そしてオレはオレ自身も通常空間に戻してアミックに連絡を取った。

 そもそもマークはデモンストレーション会場でアミックと一緒に警備をしていたアミックの関係者でもあるはずだ。


(おいアミック。マーク・ブノワをどうにかしてくれ)

(マーク? マークが来てるのか)


 読みはバッチリだった。すぐに状況を説明する。


(ああ、いるぞ。ステッキで引っぱたかれた)

(マークはフランス人だ。そしてジャンの部下だ)


 オレがやられたところはスルーらしい。さすがは敵だ。おもねる素振りがない。


(つまり?)

(俺に裁量権はない)

(もうひとりは? 同じような武術の使い手のようだが)

(ならばワルテールだろう。ジャンの護衛隊長をやっててサバットの達人だ。マークには劣るが)

(やっつけていいか?)

(やめてくれ。いや、武装解除にとどめてくれ。ジャンとは波風を立てたくない。特にこれからの境遇を鑑みればな)


 何を動揺してるんだか、とオレは思った。


(了解)


 オレは短く返事だけをした。指摘してオレが気づいたと教えてやる必要はない。子供が大人に対してする行動でもないしね。

 でも今のやりとりで、オレはアミックとはうまくやっていけそうな予感がした。陸戦隊とティリオーダウンの押さえを任せる一方で、こちらに配慮した形の情報がやって欲しいこととして伝わってくる事になるからだ。それは便宜上殲滅派とするが、殲滅派と浸透戦略派の考え方が、オレたちに理解できるようになることを意味する。

 もっともこれとていつまで続くのかは見通しが利かないわけだが──。


 もちろんアミックの裏切りも考慮にはある。それも考慮にはあるのだが、見通しの利かない一番の理由はやはり超臨界水の存在が大きい。アレがその気になればアミックの記憶なんかすぐに消される。

 アミックには悪いが、それは近いうちにあるだろうとオレは思っている。

 その際には何処までが許されてどのラインを超えたら記憶を失うことになるのか。そのラインをしっかり見極めさせてもらおうと思っている。いわば実験台だ。

 人道に悖る行為だということは重々承知してる。だが真理ちゃんの一件がある以上、そこに良心の呵責はない。

 そちらからも存分に連絡してくれ給え。フハハハハ。


 そしてここまでシステムが組み上がると、アミックが仲間にどこまでオレの情報を話すかを、オレたちにどこまで情報を流してくれるかを、その境界線をオレたちに教えてくれるのが楽しみになって来る。

 これを拒むことはアミックには出来ない。

 これから始まるお前たちの内紛に、言わば力を貸して上げる立場にいるのが連立のオレたちだからだ。

 浸透戦略を続けたいのならば、オレたちの力を借りなければ、今日この日にお前たち浸透戦略部隊の任務はここで瓦解する。


 借り物のエー・トゥールと本当の攻撃型エー・トゥールでは、どちらが有利かはアミックの眼から見れば自明の理であろう。


 おそらくティリオーダウンが地球を破壊するために特攻してきたのだと、今のお前ならわかってるはずだ。

 オレたちが深度一を張らなければ、あの時点でおそらく地球は終わっていた。

 それは自分たちもが終わっていたのだと、オレの情報を押さえた今となってはもうわかっているのだろう?

 とっくの昔に自分たちの部隊は残留艦隊に見捨てられたと、怒りを買ったとわかっているのだろう?


 猿に負けたと思ってるお前の上司たちを、お前は再び説得しなければならない。


 そしてそんなお前の動揺が伝われば伝わるほどオレたちもピンチになってくところが如何ともしがたいわけだが、地球を破壊されたくない点と、穏便であってほしいと願ってる点では、完全にお前たちとオレは合致している。

 アミックのやり方ならば、魔気さえきちんと管理すれば、地球に計り知れない恩恵を与えてくれるのもわかってる。

 そこは以前にも言った通り、基本邪魔をする気はない。


 だからアミック。動揺なんかしてる暇はないぞ。


裏打ちされてたはずの仲間がいなくなると辛い立場ですな、アミックさん。

それと応援をありがとうございます。投稿しようとして気づいたので、本当に疲れた身体の清涼剤となりました。頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ