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第1章 幼稚園時代
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第85話 連立

「やはりないな」


 研究棟の外から見ててもアミックへの援護はなかった。弟さまの深度一を引き継いでオレは今加速状態に入っているが、アミックは通常空間のままだった。

 ティリオーダウンからの援護はそれなりにあったはずだった。だが今はその形跡がぱったりとない。そのくせ自ら深度一に入ろうとする素振りさえない。

 オレがアミックと対峙してから援護してたのは、おそらくノーラだけ。

 そしてオレと真理ちゃんに逃げられてからは、アミック自身も深度一に入る必然性を感じていないので、自分からもエー・トゥールを起動していないようだ。


 分岐点はやはりアーノルドだろう。アーノルドが情報を流さないからティリオーダウンからの援護も出来なくなった。

 この出来ないの意味はいろいろと考えられる。

 援護したいのに出来ないのか、別にどうでもいいから援護しないのか。

 アミック隊ではないアーノルドは、やはりアミックを重視していなかったのだろうか。そもそもアミックのことを馬鹿にしてたティリオーダウンとその陸戦隊の面々である。(はな)から協力的なわけがないと見るべきだろう。

 むしろ利用されている、か。


「不憫な奴だな、アミック」


 オレは農場から消え去った真理ちゃんと恵風を放置して、研究棟の前に戻って来ていた。真理ちゃんのことは深度一に入ってるし状態固定もかけているので、どこで何が起ころうとも影響は一切ないはず。

 だからその点ではオレは安心していた。

 さて、それならば早速この部屋に解析をかけさせてもらおうか。


 オレは左手を前に出して研究棟の外壁に触れた。

 実は是が非でも解析をかけねばならないとずっと思っていた。この部屋には真理ちゃんの強靱な精神があったのだ。別に弟さまを疑うわけではないが、オレ自身の手でもしなければ収まりがつかないと、そう胸に鬱屈を抱えていた。


(クロスチェックは基本だよ)


 いや、そうじゃなくてな。まあいい。兎に角そのすべてを、血の一滴までを把握してオレは送還をかけるつもりでいた。


(解析)


 遮る物は何もなかった。そして全容を自らの手で知る。


(さすがは弟さまだな。ここにはもう真理ちゃんの痕跡はない)

(応、がんばりました)


 真理ちゃんの精神は昇華してオレのダブルが全て掌握した。そう思うことにしよう。


 オレを待っていたアミックのためにも。

 そう、アミックがいたのだ。誰も居なくなった元の部屋で、人質を奪い返されたその部屋で、オレたちを捜すこともなくひたすらオレが来るのを待っているようだった。


「アミック。お前は何故オレを待っていた」


 壁を透過しながらそうアミックに投げかけた。

 だが特にアミックは驚いた様子もなく、話に乗ると言ったのはお前だろうと気のない返事をした。


「そうだな」


 とオレも返事だけを返した。

 だがこのやりとりはある意味アミックのわかりやすさを表していた。敵だが味方以上にわかり合える可能性のある人物。それがオレとアミックの今の関係性だと互いに認識していることがわかったということだ。そしてそれをどう構築、発展させるのか。それを話し合うためにその席に着くと云うことだ。


 すると弟さまから魂の回廊を通して連絡が来た。


(開示しないで後戻りして、以前の状況からシラを切ろうってんだから兄さまも悪い奴だな)

(オレってワルだからな。ようやく解いたオレたちの苦労を、そのままアミックに流してやる必要はない)

(それに恵風のお仲間だったからってのもあるだろ?)

(まぁ、そういうことだ)

(あー…………)


 何か気づいたかな? 弟さまは流石に鋭い。

 だが今はアミックだ。

 オレはアミックに手をひらひらと示して手ぶらであることを伝える。その上でアミックにどんどん近づいて真理ちゃんが拘束されていた場所にオレは座る。

 アミックの眉が少しだけ刎ねた。

 真理ちゃんのことを許す気はないというメッセージは多分届いているのだろう。届いていなかったら困る。その程度もわからぬ相手なのかと。


「手抜きか。こちらの攻撃を見極めるためか知らぬが、本当に大したものだ。その年で相手の手の内を丸裸にする行動を選択できるとはな」

「そうかな?」

「時々深度一をこちらの有利なように動かして、俺を食いつかせようとする。うまそうな隙だと突っ込めば蠅でも追い払うかのように手でぺしりと追い払われる。そして今は拘束される気もないのにその席に座る。そうではないか?」

「そうだね」


 そう言ってオレは左手を掲げてテーブルに触れた。


「風刃」


 オレとアミックを隔てていたテーブルが霧散して消えた。


「さてアミック。返事は聞いてなかったがお前は待ってたんじゃないのか? アーノルド・ムックを」

「勧誘されたと言ってたな。それは事実か」

「オレが彼のフルネームを知ってるんだ。そこらへんを考慮してもらいたいな」

「なるほど。確かにそれは変だ。それで、醍醐は勧誘に乗るのか?」

「破談前提での勧誘だったからな。アミックが彼女に拷問してるのを知っていてオレをここに素通りさせたと、オレはそう思っている」

「アーノルドは元々我々浸透戦略部隊の監視役だった。それがお前に壊されたエー・トゥールの代わりに陸戦隊のエー・トゥールを、我らの部隊に貸し与える条件だった」

「大丈夫か? そんな事を教えて」

「話に乗ると言ったのは醍醐の方だろう。そして裏切りを教えてくれた」

「伝わったようで安心したよ」

「それは何よりだ」


 とりあえずの関係は構築できた。とっかかりに過ぎないが、アミックの予測を聞ける可能性を広げられたのはプラス要素だ。

 オレは交渉などまだ二度目の小僧にすぎない。

 下手に迂回せずに真っ直ぐ切り込んで、その結果を受け止めて反省すべきだろう。どうせやるなら一番槍だ。最初は真っ直ぐ。

 口火を切った。


「オレがそちらにやったことは、総攻撃のためだと思うか?」

「足がかりだろ。ひと当てしてそちらの戦力の偵察。そして実地確認。もうすぐ陸戦隊の誰かが来るだろう」

「こちらの手の内を吐き出させて、観察してたわけか。で、総攻撃だがどう思う」

「オレを裏切った以上、話は進めてるだろうな。もしかしたらお前達諸共、我々浸透戦略部隊は滅ぼされるかもな」

「おっかない連中だな」

「否定はしない」

「手を組むわけだからな。お前には特別に教えてやる」


(おい、(あに)さま?)


「オレの名は最上真司。これをどうするかは超臨界水に問え。いいかげん気持や記憶をいじくられるのにオレはうんざりしてるんだ」

「超臨界水? それはあの伝説のことか?」

「伝説なんぞ知らん。オレはお前の科学技術の使い方には全く賛同しかねるが、魔法には敬意を表そう。オレの能力はダブル。ドッペルゲンガーを初めとする、あらゆる物の存在を創造する力だ」

「な?」

「真理ちゃんの手を断ったのは憎たらしいが、命を守ってくれたことには感謝しよう。お前が拷問をしなければ、真理ちゃんは殺されて母船に連れてかれていた」

「まさか、お前の先祖が現地人化したのか?」

「それは違う。オレは日本人だ。悪かったな、くるる人の名を騙って」

「ならば魔法は?」

「お前が見た通りのままだ。なかなかの威力だろ。でもさっきのテーブルを粉々に分解した風刃にしろ、全く本気を出してないよ。お前らに追っかけられた旧ビルでも小指を振って威力を見せて上げたが、風刃はあんな物じゃない。それを証拠にお前らのいう魔気か。

 その魔気をオレは全くと言っていいほど使ってない」

「その情報は本当か?」

「こんな程度で驚いてるんじゃねー。セプトの大部分は浸透侵略をやめて地球に侵略する気満々みたいじゃねーか。それを止めるためならお互いの利害は一致するはずだ」

「確かにその通りだ。そのための同盟か」

「同盟じゃないな。連立だ。仲間に関しても紹介などしない」

「よかろう。まずは俺とお前で始めるということだな」

「そうだ。連絡手段を渡す」


 そしてオレは目の前で通信装置をダブルで創造した。オレたちの通信機より回廊の領域をほんのちょっと深度を浅くした代物だ。恵風たちよりはちょっと深い。


「鉄塊のようだな」

「これをお前が持てば思念波を飛ばす。オレたちだけの通信手段だ。他に洩れることはない。通信範囲は地球上だったら多分大丈夫だろう」


 恵風は精霊世界ではこれで仲間を呼んでたと云っていた。ならばこの星ぐらいには通るだろう。通れ。通ってくれ。


「繋がらなかったら?」

「その時は繋がる場所を探せ。そこまでは面倒見切れん」

「了解した」


 あー恥ずかしい。

 さっき実験もしないで真理ちゃんに移動船を渡して大失敗したばかりだからな。

 タイプとしては先程の簡易移動船に付けたのと同じタイプだ。ただし形はアミックの言った通り、ただの鉄塊にしか見えない。誰から見てもただの無骨な鉄塊であり、無駄な物にしか見えない。好んで盗もうとする奴はいないだろう。

 オレはその鉄塊をアミックに手渡した。

 オレから通信機を受け取ってアミックが頷きを返して来る。そのまま手を差し出さないのがいいとオレは思った。真理ちゃんの左手の件がある以上、オレがその手を握ることはないからな。


「しかし凄まじいほどの情報量をくれたな」

「そうか? 協力するに際しての必要最低限だろ」

「俺は絶対に負けないという随分と鼻が伸びた姿を垣間見たがな」

「だったらお前と手を組もうなんて思わないと思うがな」


 アミックが顔を顰めた。

 その通りだと納得したのだろう。


「部下の紹介はしてもらわないが、掌握ぐらいはしてくれよ。これから陸戦隊というか、ティリオーダウンの連中と一戦交えるのがほぼ確定してるのに、アミックの部下にまた追いかけ回されるのはゴメンだ」

「お前こそ、仲間に魔法を向けるなよ。お前の親にも云っておけ」

「伝えておこう」

「こちらからの情報で聞きたいことはないのか?」

「ティリオーダウンのすべて」

「そんなのを説明する猶予があるわけ無いだろうが」

「それがわかってるならそんな質問をするなよ」


 アミックが顔を顰めた。子供に言い負かされるのは思うところがあるか? まぁあるだろうな。常識的に考えれば。

 だがな──。


 お前は地球人にもいないオレたちの協力者。

 その前提だ。

 でもこの前提は一筋縄ではいかないぞ。お前の身内の前に、お前には大きな壁がある。

 だからオレに問うな。己に問え。超臨界水に問え。

 お前の記憶が消えていた時には、その時はオレもまた考えよう。

 オレたちだけなのか、お前らもなのか、そしてノーラはどうなのか。

 確かめるための賽は投げた。取り返しがつかなくなっても、その時はオレの命だけで賄えるだろう。簡単に死んでやる気はないがな…………。


 そしてオレはアミックを置いて逃走に入った。



 ◇



「あいたたたー」

「ちゃんと飛ばないからお臀ぶつけるんだよ」

「私は精霊じゃないっての」


 やたらと固い地面にお臀をしこたまぶつけてしまった。痛みを散らそうとお臀をさすっていると、今日またもや奇跡が起きた。

 なんかチャッター人生最高潮?

 とりあえずキューロに教えて上げる。


「神託が降りたよー」

「なになに」

「私たちの正体がばれたので一度あの子たちの記憶を飛ばしたって」

「飛ばしたって? すごい神様ねー」

「でもまた辿り着いたってー」

「えーっ。意味ないじゃーん」

「意味あるみたいよ。おかげで殺されずに済んだって。そこは確定したって」

「誰がよ」

「私達が守ってたあの人じゃない?」

「うわ。なーんか私達を出汁にして私達に怒りが向くように仕向けてない?」

「あ、神様。私じゃありません。キューロです。神罰はキューロだけにお願いしますー」

「うらぎりものー、いちれんたくしょーだー」


 でも私はいちいち取り扱わなかった。神様からの神託も降りてるし…………。


「え? 何ですか」

「何、どうしたの? あたしゃ神罰なんか受けたくないよ-。そう言ってー」

「あ、そうじゃなくて。よく見とけって」

「よく見とけ?」

「なにをだろ?」

「さあ?」


 急に消えてしまったのだ。

 とりあえず、神様は忙しそうだってことが何となくわかった。


 連立ができてようやく超臨界水対策が打てます。アミックくんを利用するところが真司くんの腹黒いとこですな~と思いながら書いてました。

 楽しんで頂けたら幸いです。

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