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第1章 幼稚園時代
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第77話 ブースト深度一

 オレの足を掴んだジェラルドが、オレを片手でぶんぶん振り回し始めて、片手ジャイアントスイングなんて本当にバカげた人だと思った。

 躊躇なくオレを研究室の壁にぶつける。壁面がゴッソリと削り取られてた。オレがそれだけの勢いで叩きつけられたのだろう。状態固定をかけてるので痛くも痒くもないが、精神的にはこのおっさんやべーとしか出て来ない。ていうか恐い。

 こんな風に子供を虐げる大人は地球上にはいないんじゃないだろうか。片手でジャイアントスイングがそもそも出来ないか。そう思ってる矢先に二度目の壁が近づいて来た。今度はもっと勢いをつけて回そうとしてる。そこまで念入りにしなくても良いだろうに、自称バカな人は加減を知らない。

 そして次の回転で再びオレは壁に叩きつけられた。

 今度は鉄骨も入っていたらしく、鉄骨も含めてごっそり壁がえぐり取られていた。


「アウチ。オッサン痛いよ」

「あたりめーだ。殺すつもりでやってんだからな」

「研究室めちゃくちゃになるよ」

「ここは大規模迎撃層だからな。事務室やら司令所なんて飾りだぜ」

「いや、むしろ本丸でしょ。一番大事なとこじゃん」


 と言ってる間にぶんぶん振り回されてる間にコンソールをえぐるように削り、それでも回転がゆるまず隣の部屋の扉と壁面をごっそり破壊した。


「物を壊しすぎだよ、オッサン」

「まだ話せるのかよ、このガキ」

「話せないとコミュニケーション取れないでしょ」

「じゃあ命乞いでもしろ」

「じゃあ風刃」


 オレの足を掴むオッサンの手から全身の攻撃型エー・トゥールへと巡らせるように風刃を送り込む。

 するとジェラルドの肩まで形状が崩れたところで、オッサンがオレの足を掴んでいられなくなった。すっぽ抜けるように手から離れる。オレはジャイアントスイングの勢いのままに戸棚や地球の研究資料をグチャグチャに壊しつつ、数十メートル飛ばされた。

 ようやく止まって自分の現状を目を開けて確かめると、冷蔵庫に自身の身体の半ばまでもが埋もれていた。


(おい恵風、大丈夫か。いるか?)


 ポッケに手をつっこむと鉄の棲み家がちゃんとポッケにあった。とりあえずめり込んだ冷蔵庫から身体を起こそうと思い立ったら、そこで動けなくなった。肉体的なダメージではない。状態固定をかけている。

 視界の片隅にいるジェラルドを見やるが、ジェラルドも止まってた。だがオレも止まってる。どうやらオレたち二人とも動けないようだ。


 何だろう。動けなくなる状況に心当たりがない。

 もしかして弟さまがやったのだろうか。

 魂の回廊はオープンにしたままだな。そういう約束したし。


 どれと思って珍しく弟さまの魂の回廊を覗いてみると、弟さまはもう動けてるようだった。拘束隊の面々とも会話も交わしてる。よかったよかった。弟さまは無事拘束から脱出できたようだ。

 そこでオレは気がついた。真理ちゃんのところで魔物の放つ魔気という存在のことを。あいつらとやり合うならこの知識は必要だ。

 ん? 何で必要なんだ?

 わからない。でもそう感じたなら必要なのだろう。オレは頃合いを見計らって弟さまに魔気の情報と諸々の情報を投げかけた。

 受け取った弟さまも素直に受け取ったので一件落着。


「さて、とりあえず脱出しようか」


 オレは向こうに見える加減を知らないオッサンの手から逃れようと、冷蔵庫から身体を外そうと思ったわけだが、やはり肝心の身体が動かない。全くと言っていいほど動かない。弟さまがやってないならすぐにでも動けるはずだが動かない。

 本当何なんだろう。

 向こうを見やるとジェラルドも一向に動く様子がない。

 埒が明かないので周囲に眼を配ると、さっきも青い世界がより青くなった気がしたが、そのさっきよりも今は透明度が増して…………、青みが光ってないか?

 何だろう、この深度一。


(おい恵風)


 もう一度呼びかけたが返事がない。

 恵風も動けないようだ。動けないだけなのかは知らない。返事がないし。

 しかしこれは深度一だろ。何だ、このブーストをかけたような状態は。

 深度一と精霊の相性は良いんだろうが。

 何をしてるんだと入れたままの手でポッケを確認してたら、ここに何かを入れてた気がすると思った。それが何かはわからない。わからないが身体が覚えてるので赴くままにダブルで創造してみたら、ポッケに銃弾が生まれた。そう思った瞬間ポッケからその銃弾が消えた。


 何だ。


 いや、何だもクソもないな。思い当たることはある。

 そこから数珠つなぎに考えが繋がって行く。そして至った結論はおそらく恵風は封じられてるということだった。それをやったのは他でもない、例の超臨界水だ。

 オレが魔気のことをすっかり忘れてたから、もう大丈夫と安心してたら、オレのポッケからいきなり銃弾が出て来て向こうも驚いたってところだろうか?

 そう言えばさっきオレは魔気の情報を弟さまに送ったな。


「…………」


 今の銃弾は単なる複製だ。創造した物の気配はなんとなく皮膚感覚でわかるから創造したのだが、さて、オレはいつこんな物を見たのだろう。


(弟さま。オレ、魔気弾を創造したよ)

(さっきの解析結果でか?)

(はぁ?)

(…………いや、今はそれより韋駄天だな)


 韋駄天?

 状況が送られてきた。弟さまからの主観だが。

 おいおい。いつの間に片づけて、いつの間に移動するみたいなことになってるんだ?

 一瞬だぞ。すげーな。

 それにしても弟さまも話を変えたな。どうやら弟さまも理解したようだ。

 そしてそれはこの妨害してる存在とも大いに係わりがあることが判明したようだな。


 魔気弾のことだ。

 これの記憶を消されていた。オレも、弟さまも。

 おそらく弟さまが所持してるのをオレは見せてもらっていて、地下の魔気という存在に気づいて、それをオレの身体が覚えていた。記憶ではなく身体で覚えていた。それをオレが複製してしまったと言うところだろう。つまりオレも弟さま魔気の知見を持っていた。

 でなければオレが創造した物を消してしまうわけがない。つまりオレも弟さまも、もう魔気のことは多少知ってたはずだ、というわけだ。

 だがそれを忘れていた。

 ならばこの深度一の者とオレたちを会わせたくない。もしくは恵風を深度一に行かせたくないと、そういう意思が働いてると言うことになる。


 この思考を消されないと言うことは、当たってるな。

 何なんだ、お前は。何が目的なんだ。


 オレは真理ちゃんを助けるのが目的だ。


 この何を押しても駆けつけなければならないこの時に、何故お前はオレの邪魔をするのか。こんな時こそ魁けねばならないのだ。それでも邪魔をするか。ならばお前は敵だ。こっそりひっそり出来るからって勝手にあちこち手を回しやがって。オレたちの思い出もいじくりやがって楽しんでるのか。お前がオレのことを勝手に決めるな。

 選ぶのはオレだ。

 手に入れたのもオレだ。

 オレにやらせろ。

 オレに行かせろ。

 オレは一番槍、先駆け大好き最上真司だぞ。

 お前が敵ならオレを殺せ。出来ないなら黙ってろ。

 恵風のことならここから出さない。これは誓おう。それが最大限の譲歩だ。聞いているか、超臨界水っ。


 オレは腹を割った。せめて真理ちゃんの時間が止まってることを祈るしかない。

 それしか出来ないわけだが、さて──。


 これだけ挑発したというのにオレの記憶が消されることはなかった。だがブースト深度一はなくなってない。だとするとここら辺が譲歩の限界ということだろうか。

 ふむ。

 銃弾の複製は消されたままだが、ブースト深度一は健在。

 つまりこれは今オレの邪魔をしてるのは超臨界水とは別の存在ということになる。そしてその存在に超臨界水が手を貸していたと、そういうことにもなる。

 何が望みなんだろう。

 何を基準にオレたちの邪魔をしてるのか。

 残る異変は一つしかないが、正直見ず知らずのヤツの思惑なんかより、オレには真理ちゃんの方が大事だ。


 いいさ。恵風を関わらせないだけだ。それは初期設定でもある。超臨界水とも約束した。このまま恵風が息を顰めたままというなら問題はない。そうだろう?

 そして魔気と恵風のことに関してオレは考えた。加速世界の中だけあって、時間はたっぷりとあった。


 おそらく去年の十二月に新たな精霊を派遣しなかった、恵風の上司のことを。



 ◇



(兄さま)

(どうした)

(透過を封じられた。いてー。このおかしな深度一なんだが、何だ? 全く前に進めんぞ。オレ韋駄天してたはずなのに)

(待ってろ。状態回復)

(おお、さんきゅ。でも何だ? 解析できないぞ。通してくれない)

(そっちもか)

(兄さまの方もか?)

(ああ、ほぼ同じ。ずっと足止め喰らってた。そしてアレが出て消えた)

(アレ? アレがコレしてるのか?)

(さっきまでな。魔気の知識は残されてたけど魔気弾の記憶は飛ばされてた。ついでに手慰みに創造した魔気弾も消された)

(マジかよ)

(ああ。でも今は違う。超臨界水とは折り合いがついた。今これをしてるのはおそらくノーラだったかモーラだったかって奴だ)

(ノーラな。にしてもこのタイミングで恵風の上司が出て来たのかよ。それで恵風は?)

(寝てるのか封じられたのか。でも出さないぞ。超深層水ともそこを約束して折り合いをつけた。初志貫徹の取引だな。だから恵風は起こさない。成り行きのままに寝かせとく)

(そうだね。あっちこっちから手を出されたらどうしようもないもんな)

(オレたちは真理ちゃんを助けたいだけなのにな)

(そうだね。敵が多いなぁ)


 弟さまが溜息を吐いた。そこにオレは弟さまの焦りを感じた。


(でも敵対してるのはセプトだけだ。ノーラは放っとく)

(いいの?)

(ノーラはわかってないだけだ。むしろオレたちに完全に敵対してもおかしくないのに攻撃はしてこない)

(邪魔してるぞ?)

(でも殺す気ではないだろ?)

(それはそうだが……。動けんのは困るなぁ)

(考えてもみろ。セプトよりうまい深度一。精霊のいないこの世界で精素をなぜか保有する人間。これだけでも自分の派遣した精霊をどうにかしてるのではないかと疑義を持たれるには充分じゃない?)

(あーっ。そして極め付きがオレたちのダブル、か)

(極め付きか。目利きから生まれた言葉だったな。書画、茶道具、古物、刀剣、に極札(きわふだ)を付けて確かな物だ、間違いないと目利きが証明することで保証され品となるんだよな。そしてそれらの保証された品々に極札が付いたことから、極め付きという言葉が生まれた……。

 願わくばノーラがきちんと見極めることが出来るといいが)


 そうしたらすぐにでも動ける。

 しかし事態が動いてないし、このままでは動けないな。


(解析が通らないと、こんなに不便なんだな)

 解析して分析して解除しちゃう。この黄金パターンが使えない。

(でも真理ちゃんの時も止まってるでしょ。これなら)

(通るのは魂の回廊だけ)

(このすんごい深度一にも左右されてないから、恵風に言わせればもっと深いところで魂の回廊は交わされてるってことだよな)

(恵風か。あいつ本来精霊と深度一は相性良いって言ってたよな)

(言ってたね)

(精気を身体の表面に展開しようか)

(それ、オレたちがセドリックメロディ病になっちゃわない?)

(じゃあ時軸を固定とか出来ればいいんだけど)

(やってみた。失敗した)

(はえーよ、弟さま)

(深度一を通さない。成功した)

(え?)

(向こうがやってることの真似。解析できないなら通さなければいい)

(マジかよってマジだな。動けるようになった。さすがは弟さま。技名つけろよ)

(え? じゃあいやだよ拒絶で)

(なげーよ)

(じゃあ状態拒絶で)


 そしてオレたちは自分の足で動くこととなった。

 まずは自分の身体を埋もれてた冷蔵庫から立ち上がる。


「いて」


 太股が切れていた。

 状態拒絶では傷がつくらしい。ということは状態固定より浅い深度の能力なんだろうな。とりあえず状態回復ですぐ治す。

 オレは改めて周囲を見やった。ブースト深度一はまだまだ展開されている。ノーラはオレたちをここに(とど)めて動かしたくないようだな。


(兄さま。位相拒絶に名前変更。それだけのようだ)

(わかった)


 深度一にいるのにその状態を拒絶してる。でも周りは深度一。相手の意図する状態になることを拒絶することでこうなっている。これを状態固定すればいいのかな?

 やってみたい衝動に駆られる。でも今は止めておこう。手札を切るには早過ぎる。ようやく対処法を見つけたばかりなんだ。

 これを止められた時に試すべき、隠し手札だ。

 解析を通さない相手なのだ。解析並みの深さにいるということは充分考えられる。これはつまり、オレたちのダブルにも上位下位の、浅い深いの差異があると言うことだろうか。

 そういうことなんだろうな。

 一律同じ深さでダブルは発動してるわけではない。

 難しい簡単だと感じるダブルがある。そしてこれは簡単だと感じるダブルだから浅いところで発動してるのは間違いないと思う。


 ならばこの空間でわからないところ。わからないけれど、そのわからないところを発見できれば、おそらくそこにノーラが居る。

 位相拒絶をしたまま深度一へ位相をずらそうとしたら、動けなくなった。


 おいおいおい。やばいなこれ。


(弟さま)

(ん?)

(位相拒絶すると他のダブルが遣えないぞ)

(え? マジ?)


 しばしの空白の後、本当だ、と弟さまが驚いていた。


(ノーラの位相のずれには何かオレたちが及ばない秘密がある)

(じゃあ靴に付けてた攻撃型エー・トゥールで韋駄天したら?)

(状態固定が使えないから首が折れて死ぬな。そもそも身体が負荷に耐えられずに潰れそうだな)

(や、やらなくてよかった)

(安心するなよ、弟さま。つまりこれからは)

(あ、言葉にしなくていいよ。わかってるから)


 そうか。わかってるのか。

 つまりこれからは肉体だけで戦わないといけなくなったと言うことに。


 すると突然にブースト深度一が消えた。通常の空間に今は復帰してる。セプトの連中も赤い深度一を展開してない。

 何だ? どういうことだ? 何が起きてる?

 考えてる間にまたブースト深度一が展開した。

 オレは状況に違いは起きてないかと周辺に眼を配った。すると弟さまから声がかかった。


(兄さま提案がある)

(何だ)

(真理ちゃんを救いに行くのは兄さまだけで行ってくれ)

(その心は?)

(オレが兄さまに位相拒絶をかけ続ける)

(おいおい、それじゃ弟さまが無防備になるぞ)

(どこかに身を隠すよ)

(ノーラには丸見えだぞ?)

(それでもだ)

(今みたいな事が、またあるかも知れないぞ?)

(他力本願かよ、兄さまが)


 う。それを言われると辛い。

 でも気にかかることもあるのだ。それは本当だ。


 頭上の層に違和感がある。上にも位相が実はもう一層あり、その位相をずらせるのではないか。そんな予感を帯びた違和感だ。ブースト深度一が消えた時にそんな風に感じたのだ。だが今は真理ちゃんだ。そのこともわかる。

 だからこそ弟さまと二人で行くべきだとも思う。

 さっきみたいにこのブースト深度一が消えたら、違和感の元へと移動するなら韋駄天ですぐ出来るはず。

 そもそもノーラが位相のずれに十何秒も間を開けたのは何でだろうか。何か起きたのだろうか。超臨界水か? 何でだろう。試しに行ってみたくなる。確認した方がいいのではないかと、後顧の憂いを潰しにかかりたくなるのだ。

 そもそもこの謎を解いてから地下六階に向かっても、時間が流れてないのだから真理ちゃんは現状維持のはず。ならばノーラの件こそ先に片づけて……。


(行けよ兄さま。オレも協力する)

(いやしかし、二人で行くべきだとオレは思う)

(二人で行ってもダブルで動くことも出来ないんじゃ意味ないだろ)

(出来るようになるだろ。ノーラを説得して、ダブルが遣えるようになれば)

(無茶言うなよ。ノーラ頼りかよ。まだどんな人物なのかもわからないのに)


 と言ってる矢先に動けるようになった。


(何だ? 二度目だな。とりあえず身を隠す場所を確保するよ)


 オレはその答えを弟さまに返せなかった。



 ◇



 兄さまは希望に燃えて事を為す。兄さまはそういう人だ。

 そしてオレは、オレはこれが今生の最後と思って事を為す。今この時がその時なのだろう。わかるのだ

 元々オレは長生きは出来ないと思っていた。医学的には人間だが、野性の人間ではないオレだ。超臨界水が兄さまの元には現れて、オレの元には現れなかった。これが何よりも雄弁な状況証拠だろう。超臨界水は兄さまを死なせたくないのだ。

 だからこそだ。だからこそオレは自分がどれだけ無防備になろうと、兄さまが事を為すまでは必ず位相拒絶を張り続けてみせる。

 そう思っている。

 野性の人間でないオレの、気概という物をここに示すのだ。



 ◇



 二つほど下の層へと階段を歩いて降りた。通路をぽつぽつと歩き、待合室の扉を開けたらそこに弟さまが居た。

 地下四階の訓練層。その訓練場で訓練してる人間をモニターで見ることが出来るのがこの待合室だ。だが訓練層で、その待合室と言っても動ける者はオレたちしかいない。元からここにいたセプトの人間は、皆動きを止めていた。


「人がいるじゃないか。この状況で隠れられるのか?」

「だから兄さまに服をこいつらに合わせて欲しくてね」

「気乗りはしないが」

「ほら早く」


 オレは仕方なしに弟さまの服を待合室で待機してる奴等の制服と合わせた。


「新品みたいだよね。もうちょっとくたびれた感じで」

「自分でやれよ」

「あ、そう。じゃあ」


 と言って弟さまが制服に手を触れ、汚れや皺を付けはじめてみせた。

 正直言うと、オレはそれは出来ないだろうと思っていた。だってそれはダブルでの状態回復や復元ではないから。


 恵風が言ってたな。

 弟さまがやってるのは状態回復や復元ではないのではないか、と。


 これを目の当たりにしてオレもその見解に正当性を見出してしまった。そんな気分だ。

 弟さまは、実は元からこれが出来ていたんじゃないかという疑惑。オレたちが誕生したあの日、オレはオレがそこにいろと思って力を込めた。ならばオレが出来ることは弟さまにも出来るのが自然ではないのか?


「しっかりしろ、兄さま」


 弟さまに言われて我に返った。

 オレはごまかすように、大きな窓のある場所へと近づくと、そこから下層に広がる濃密なブースト深度一を見下ろした。

 この青い煌めきがなかったら何が見えるのだろう。訓練場は反対の方にあるようなのに、眼前にはブースト深度一の姿しか視認できなかった。

 異様な深度一だ。オレたちのダブルの解析すら通さない深度一。

 尋常ではなかった。


「お前こそ、だ。オレがこの中に入ったらどうなるかわからないんだぞ」

「だがそこにいるんだ、真理ちゃんは」

「どこに隠れるんだ?」

「この人混みにまぎれるよ。楽な姿勢で動けない振りして」

「動き出したらどうするんだ。さっきも動き出したろう。すぐに見つかるぞ」

「それが何だってんだ」

「わかった。じゃあいい」


 そう言ってオレは寛司の顔に触れた。


「鏡がないからわからないだろうが、ジェラルドのオッサンのマスクに換えといた。あの人はバカだからこんなトコにいても、そんな格好をしていても、誰も疑問には思わないだろうさ」

「そうなのか。すげーな、そのおっさん」


 弟さまが愉快そうに笑った。オレもちょびっとだけ笑った。

 そうしてひとしきり笑った後、弟さまがキリッと顔を引き締めていた。

 オレももう、話すことは何もない…………。


「行けよ兄さま。任せとけ。キッチリ位相拒絶はかけるからさ」


 オレは小さく肯いた。

 言っても無駄だとわかってたからだ。


「行けよっ」

「行くさっ」


 オレは弟さまの腹を子供の力で殴ると、そのまま踵を返してブースト深度一の青い煌めきの中に飛び込んだ。


「「ダイブッ」」


 弟さまの声とオレの声が重なっていた。

 潜れー、と励ましてくれてるようだった。オレはこの声を忘れちゃいけない。

 なぜかそう思った。


台風が物凄いことになってますね。ちょっと物が飛ばされてて家鳴りも凄いです。皆様もお気をつけて。

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