第68話 付与してちょーだい
本日二本目です。物語がわかりやすくなるよう分けました。前話もお見逃しなく。よろしくお願いします。
「隊長」
ミランダさんが動いた。
「彼がくるる人なら報告すべきです。くるるの名前が出た時点で、艦隊長の判断を仰がなければいけない案件です。我々の独断で事を進めたら、我々陸戦隊だけが責を問われます」
だが隊長のジェラルドが難しい顔をしているようだ。
オレとしても正直くるるなんて知らない。ただ単にアミックの情報に、セプトが昔くるるにこてんぱんにやられたという情報があっただけ。それを利用させてもらっただけだ。
うん、向こうの四倍遅い時間がもどかしい。暇だ。マジ暇だ。
それにしてもくるるの魔法使いすげーな。セプトをやっつけてるのか。
それだけでも魔法使いの魔法を見てみたいと思ってしまう。
魔法がこの世にあったんだ。いや恵風に見せてもらったけれどもさ。でも遠い世界で魔法が科学を凌駕しているなんて、ロマン以外の何物でもないだろうが。
そうだ。今度恵風にも一度本気でやって見せてもらおうかな。
地球じゃやばそうだから宇宙かな。
陸戦隊の宇宙船をコピーして宇宙に遊びに行くのも楽しいかも。
陸戦隊はまだ相談をしている。ていうか副隊長のミランダさんの献策が凄いな。隊長が肯くだけで反論が出来ないでいる。
もういいや。
「警告はしたよ。じゃあね」
足止めどころか追い返せそうなので、そのまま地下に透過しておさらばした。
さて寛司と真理ちゃんを探して合流すれば、ほぼおしまいだね。あとは経過を様子見して、あいつらが宇宙に撤収するのを見届けるだけ。
オレはフーッと大きく息を吐いた。肩の荷が下りた気分だ。
◇
ぐんぐん透過して行くと駐車場に出た。オレがどこの駐車場だろうと辺りを確認していると、ポッケから恵風がぽんぽんと叩いて呼んで来た。
オレはとりあえずオレたち自身にもう一度深度一をかけ直す。全体だとあいつら陸戦隊が透過して来たときに気づかれちゃうかも知れないからね。
「どうした恵風」
「真理と寛司を探すのか?」
「そうだけど」
「じゃあ。それを俺にやらせろよ」
なんか知らんけど決意を込めた顔を向けられた。いやお前にそんな顔をされてもなぁ。
「そもそもお前じゃ真理ちゃんと会話が出来ないだろ」
「なら俺に言葉を覚えさせろ」
「は?」
「わからんか。じゃあホイ、付与してちょーだい」
何それ。さっきのオレの真似?
「こうじゃないのか」
「いやそうじゃなくて。言ってることはわかってる。でも何言ってるんだ?」
恵風はもう、多少なら日本語を理解している。それは知ってる。
オレと弟さまのごっこ遊びもたくさん見てるし。
「つまりだな、お前達はダブルで精霊言語を覚えた。だったら逆も可能じゃないのか?」
「逆? わからん」
「だーかーら-、解析してお前たちが覚えられるんなら、解析したのを俺に付与してくれたら俺も日本語覚えられるんじゃねーのって話だ」
「おーっ。そういうことか。でもやったことないぞ」
「じゃあやってみろよ」
「いいのか? 実験台第一号になっちゃうぞ」
「かまわん。ほれ」
恵風が狂ったオツムを差し出してきた。
そうなんだよんぁ。恵風、頭が狂ってんだよなぁ。精素切れを起こして自分の頭の精素を使っちゃって精霊魔法を発動しちゃったからなぁ。肝心なとこのネジが飛んでるんだよなぁ。大丈夫なのかな?
だが恵風は差し出した頭を引っ込めるつもりはないらしい。むしろぐいぐい差し出してくる。なかなか可愛いヤツだ。
ちょっと髪の毛を引っ張ってみる。おー、さらさらだ。
「イテ。イテーな」
「や、ゴメンごめん。ちょっと触ってみたくなっちゃった」
「もう。ちゃんとやってくれよ」
「おっけ~」
もう一回やってくれと言うお約束かなと思ったが、そこは我慢してとりあえずやる。恵風の頭にコツンと指先を触れ、精霊言語からの日本語を付与してみた。
出来たと思うんだけど。どうだろう?
「喋ってみろよ、恵風?」
だがこちらを見上げてわかってない顔をした。ダメだったか。
「まあ仕方ないな。オレが大丈夫でも恵風のオツムが大丈夫じゃないからな」
にこにこしながらそのまま頭を撫で、恵風のわからない日本語で辛辣な言葉をかけて上げてたら、その手をパシリとはね除けられた。
「どゎ~れのオツムが大丈夫じゃないだ」
「あ」
恵風がオレを睨み上げてくる。
「しゃべったー。しゃべったー。恵風がしゃべったー」
アルプスの少女ごっこをしたら、ごまかされないぞと恵風に詰め寄られた。
「いや、よく出来た。さすが恵風。日本語を習得したな」
「よしわかった。この件を真理に報告する」
「あ、わかった。ちょっと待て」
そう言ってもう一度恵風の頭に触れる。
「これでいいだろ」
お詫びをかねて、ついでに英語とドイツ語、それから覚え立てのセプト語も付与する。付与させてもらいましたっ。
「でもなんだって、こんな」
うん? と恵風がふわりと飛んでオレの正面に停止した。
「真司は忘れてるかもしれないが、あいつらは浅い階層でずっと交信してるんだ」
「うん」
「その意味もわからない鳥のさえずりを、俺はずーっと聞き流してきたわけだ」
「ほうほう」
「でもって俺が日本語、英語、ドイツ語、セプト語を操れるようになったわけだ」
「あっ」
思わず呻き声が出てしまった。だがオレも気づいた。
「これからはオレがあいつらの情報を流してやれるってことだ。あいつらの深度一より深い、本当の深度一の階層でな」
そうなのだ。そういうことなのだ。
恵風が胸を張って飛んで、オレに胸張りポーズを右に左にぶんぶん見せまくる。
「鳥のさえずりも~俺にかかれば~ちょろいもん~~」
オレはやられたよとボディランゲージで肩をすくめてみせた。おかげでますます恵風が調子に乗っている。
オレは大きく息を吐いて、そのまま恵風の胸張りダンスを眺めやった。
まったく──。
と溜息のひとつも吐きたくなるだろうが。
オレはセプトのことを鳥のさえずりと言えちゃうお前の気楽さが羨ましいよと思いつつ、そのもたらされる絶大な恩恵に身顫いした。
追記
話的には今後の節目となる重要事項が二つもあると、サッと読みたい時間のない人には盛り込み過ぎとなるだろうし、以前からのガッツリ読むのが好きな方には読み応えを求めて一気に読みたかった、となるだろうし……。難しいですね。二つに分けましたがどっちが良かったのか、未だに悩みます。




