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第1章 幼稚園時代
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第65話 一瀉千里

 バルーンの目がオレの姿を追っている。

 ギョロリとそんな目で見られたらおっかないじゃないか。勘弁してよ、大人でしょ。子供をびびらせちゃいけないんだぞ。

 お遊びはここまでにして、それにしても──。

 目を動かせるのか……。大した物だ。

 だが身体はついてこない。動かそうとしてるのだろうがオレの時の流れについて来られない。ならば問題はない。

 そのままバルーンに触れて解析をかける。そしてすぐに状態固定をかけてバルーンの目を見上げてみたが、最早バルーンの目は、オレが小刻みに動いてもその動きを追うことはなかった。


 しかしやはりそうか。


 自分の身体に深度一をかけるのは、オレたちだけの専売特許じゃないことが確定した。セプトの連中にも個々人に向けて深度一をかける技術がある。

 そりゃ長いこと宇宙を航海してきてるんだ。オレたちみたいな子供でも思いつくようなことは実験しててもおかしくない。バルーンは自らの身体だけを深度一に潜り込ませていた。

 しかしそうなると、バルーンの認識をどこでしてるのかとなるが、さて、黒い塊の宇宙船が深度一の発生源で確定なのは、弟さまが既存の深度一を送還してるので確定してるとして、バルーンという個人だけに深度一を設定できるというのが興味深い。

 あんな無骨な黒い塊が、そんな繊細なことをしてるのかって話だ。

 そもそも地球をぶっ壊すような勢いで強襲かけて来たわけだし。


 ──ああ、これか。


 指輪型のエー・トゥール。これにバルーンの生体情報が入っているようだった。そしてこのエー・トゥールで深度一には敢えて入らなかったわけか。


 ──試されたな。見破れるかどうかを。


 でもすぐに送還しちゃうからこの情報は送らせないよ。状態固定もかけてるしね。


 それにしてもこの指輪、装飾が三十過ぎの小父さんが嵌めるにはちょっと恥ずかしくないか? まるで樹木の蔓が密林のように絡んで中央の家紋から伸びて輪を形作っている。セプトではこういうのが流行ってるんだろうか。派手だった。

 まあいい。さらにバルーンの考えを読み解いて行く。

 振動波や熱波、超音波、等々を発生させることが出来る。これがエー・トゥールの基本性能みたいだけど、知りたいのはこれじゃない。もっと奥か。

 そして見つけた。欲しかった情報をだ。

 バルーンと言うより、セプトの面々はそれぞれ生体情報をリンクしてサーバーに送っており、その生体情報で全身をケアしていて、そのおかげでピンポイントで深度一に潜らせているらしい。

 大した基本性能だ。汎用型は使い勝手に広がりが出来るのが素晴らしい。


 オレがそんなふうに感心してると、弟さまから連絡が来た。



 ◇



 最上寛司だ。双子の弟だ。

 オレは困っていた。つかず離れずで二人の男がオレの動きを牽制し合っており、今は本気でオレを倒す気があるのかと疑問を感じている。

 しかし動きは速い。

 深度一で動いてるのか? とも思う。

 しかしもっとも気にかかったのは、あの黒い塊の宇宙船が地下に身を潜めてから、まだ一分ぐらいしか経ってないだろうにということだった。たった一分である。ここまで早く動けるものだろうか。思考はやはりそこに戻る。黒い塊の宇宙船が地中に鎮座し、どうなってるのだろうとこちらが深度一を解いてしまった間も、向こうは張り続けてタスクを展開したのだろう。そうでもなければここまで早くオレを認識できるわけがない。


 だが厄介なことをしてくれた。

 オレたちが深度一を解いても地中に存在できるのかと、異物に対して色々と試さねばと思ってる間に、ちゃっかり時間を有効活用してたわけである。

 こちらもセプトが知らないことを有効活用してきたわけだが、セプトもこちらが確かめたい事に時間を使ってる間に準備をすすめて来たわけである。


 オレは鎌をかけた。


「仲間を放置してオレにかかずらうか。黒い塊の宇宙船といい、仲間を見捨てて攻撃するのが好きなんだな」


 オレがクイッと顎で指し示すと、男たちがダンを見つけた。

 驚いた表情をよぎらせたので、気づいてなかったようだ。

 ということは遠距離攻撃の者はいないとオレは判断した。いたらダンを見つけていたはずだ。それに気づいてなかったと言うことは、遠距離攻撃者の指示でダンを見捨ててたのではなく、遠距離攻撃の担当者はいないことを意味するわけだ。

 さて、この後の選択はどうする?


 一人がダンを運び始めた。もうひとりが健気に殿(しんがり)をつとめる気のようだ。でも行かせない。足かせが出来て折角動きが鈍ってくれたのだ。オレは迷わず兄さまのように接触無用の状態固定を三人にかける。

 ピタリと動きが止まった。

 そこへとことこ歩いて殿の男にキッチリ状態固定をかけ直してから、オレは少し考え、殿の男には訊きたいことがあったので、口だけ動けるようにした。だが質問しても要領を得ないので、用は済んだと迷わず体力を衰弱させることにした。具体的に言うと、赤血球を減らして体内に酸素が行き渡らなくしたのだ。

 これを全員に平等にかける。目に見えてみんな顔色が悪くなる。貧血だけで済めばいいけど、とにかくもう、これで今日はずっと三人ともバテバテだろう。

 海上公園で兄さまが小菅先生に治療を施したのとは逆のことをしたのだ。


 と言うことでひと段落ついたので(あに)さまに呼びかける。


(兄さま、いま大丈夫か)

(ああ、大丈夫だ。ていうか呼び出されといて悪いが、緊急で弟さまに頼みたい事があるんだけど、大丈夫?)


 さすが兄さま。緊急事態を連絡してこなかったようである。


(いいよ。なぁに?)

(弟さま。アミックの解析を詳しく分析してみてくれないか?)

(頼む寛司)

 珍しく恵風からも来た。

(兄さまはやったのか?)

(オレはちょびっとしか触れてない。アミックには)

(エー・トゥールの送還してたろ? その時触れてたよね)

(ちょびっとだけね)


 とりあえずアミックの全解析を魂の回廊を通して送ると、兄さまからも今わかったことと言って情報が送られてきた。

 うん、いつも通りの兄さまだ。向こうの深度一とか興味深いこともさらっと分析し終えている。早いな。さすが兄さまだ。

 しかし兄さま、記憶飛ばされてないか?


 オレは兄さまの物言いが気になった。

 でも飛ばされたのは兄さまも気にしないほどのわずかな部分のような気もする。

 となるとオレが動いたから、そこまで飛ばされなかったと云う事になるのかな?


 整理しよう。

 オレを襲って来たのは二人だった。一人は何もわかってないダンを回収しようとした。もう一人はオレに止められて質問に対して別のことを話しかけて来たが、名前や何を知ったかを立場を弁えた上でのらりくらりと訊いて来たので、面倒臭くなって状態固定をかけて赤血球攻撃ついでに軽く記憶を消しておいた。

 オレの手の内を秘匿したかったというのもあったが、明らかにオレの足止めが相手の狙いだったからだ。

 だが兄さまは足を止め、恵風と話をした。確かにアームの件は大事なことだ。だが優先すべきはそれじゃないと超臨界水は警告を発したかったのではないか?

 それがアミックに関する記憶操作ではないのか。


 アミックの話を早々に切り上げさせて、東京駅に向かわせたかったが、オレが向かったので、そこまで記憶を飛ばさなかったと言うこと、かな?


 兄さまはアミックにちょびっとしか触れてない。でもそれでも充分に解析は出来るはずだ。兄さまを舐めちゃいけない。

 そして真理ちゃんに何かが起こってる。それが確定したわけだ。

 何しろ真理ちゃんを催事場に運ぼうとしてるアミックを、オレが発見したのだから。



 深度一解除。



 オレは自分の深度一と同時に、セプトの宇宙船が密かに放っている深度一を解除した。東京駅のざわめきが瞬時に戻る。

 そしておまわりさんに向けて叫んだ。


「拉致だっ」


 おまわりさんも突然にいなくなった真理ちゃんとオレに気づく。

 そしてオレが指さす方向に、アミックが真理ちゃんを肩に担いでるのを見つけ、おい待てと追いかけ始めた。

 だが真理ちゃんはぐったりしてる。起きてもいいのに起きてこない。


 何かされたのか?


(兄さま、緊急事態。アミックが真理ちゃんを攫った。今東京駅の交番近く)

(すぐ行く)


 兄さまからの返事は迅速だった。


(挟み撃ちに出来ると思う。そのまま深度一を出さずに人目に触れるようにして)

(了解。そっちはどうなってる)

(今警察や一般の人たちが気づき始めて騒ぎになり始めてる)

(おっけ~。すぐ片づける)

(交戦中かよ?)

(ああ)


 よく見とけばよかった。返事と同時に確認する。確かに状態固定をかけただけで止まっている。

 つづけて兄さまからの説明も来た。


(バルーンっていう小父さんとな。オレだけに深度一をかけてたら、目だけを動かしやがった。でも動きは遅い。オレたちのように自分だけに深度一をかけてるようだが、時々その深度一がずれて動きがいきなり止まる)

(いつでも倒せる状態だね)

(もう倒した。更に状態固定かけた。本当は身体を超重くして、さっきの黒い塊の強襲の意趣返しをしたかったけど…………)


 そこで話が途切れた。


(どうした? 兄さま)

(まずい。追撃だ。狙撃手がいる。弟さまの言った通りだな。二人ほどいるぞ)

(大丈夫なのか?)

(深度一に入ってなかったんだろう。ようやく入って来たんじゃないか? この舐めっぷりはオレたちにやられた奴じゃないな。おそらく宇宙船からの応援だろう。それより弟さまこそどうだった。そっちも一人だけじゃなかったんだろ?)

(ダンを回収していったから放っておいた)

(なるほど)

(それよりそっちだ)

(問題ない。射線から居場所は突き止めてる。催事場の上層からだ。もう状態固定をかけて、重くした。両手に両足に五十キロずつ奴等の黒い装甲をつけてやった)

(もしかしてバルーンって小父さんも)

(いや、バルーン小父さんには状態固定だけ。情報抜くのにパニックになられちゃ叶わん。でも狙撃手の方には皮膚の下につけてやったから、取り除くのが大変だろうな。例えセプトの科学技術を持ってしても。ほい解析)


 オレにも兄さまからの解析が届いた。バルーンって小父さんの持つ情報だ。なのでこちらからも現在の情報も送っておく。


 その間にも、おまわりさんが先に動いてるので、オレは後から目立たぬようにアミックと真理ちゃんを追う。

 兄さまから連絡が来た。


(なるほど精霊に手ひどくやられてるな。アームやるな。ことごとく切り裂いてるぞ)

(でもって姿を隠してるね。どこに隠れたのやら)

(本船の誰かに憑いたのかもな。とりあえずアミックでもこの程度か。案外知らないな)

(アームが凄いってことだろ)

(ああ。でもって鍵になるのはクーリエってお姉さんだな。アームはクーリエの船に潜伏してるはず)

(うん。とりあえずアームの件はここまでだ。真理ちゃんを助けるぞ、兄さま)

(了解。もう向かってる。いま催事場の前だ)



 ◇



 オレは弟さまからの情報を見て、真理ちゃんが動いてないことが気になった。

 何をされたのだろう。深度一にいない以上、真理ちゃんは自由に動けるはずなのだ。

 とにかく、セプト側は黒い塊の宇宙船がやってきたのを機に、あちこちで物事を同時に動かしたようだ。

 これは遅延行為も計算尽くだったということになる。

 それでもって本命は動いてない真理ちゃんだったというわけか。

 セプト側はあの質量攻撃の強襲で、オレたちが離ればなれに散らされたその優位を効果的に利用してきている。アミックの記憶を飛ばすだけでは足りなかったようだ。最早その優位性はない。それどころか俯瞰して一気呵成にあちこちでタスクを進めさせている。そして真理ちゃんの件にいたっては自らが動いている。アミックはやはり切れ者のようだ。二人ですべて対処するには──。


 これは中々にキツイ。


ブックマークがある……。


見つけてくれてありがとう。勇気をくれてありがとう。楽しんでもらえたら幸いです。私は私で全力を尽くします。へし折れそうだった背中を押してくれて本当にありがとうございます。

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