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ダブル  作者: 茶の字
第1章 幼稚園時代
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第63話 これがセプトか

 オレはビルや町の監視カメラを見つけ出しては確認をしていた。本来なら宇宙人であるセプトの連中に後日利用されないように、オレと弟さまとで監視カメラの映像を削除して行くつもりだったのだが、監視カメラを発見する毎に不思議とその手間が必要ない状態になっていた。監視カメラはレンズを抜かれて、何も映していなかったのだ。

 オレはアミックの足を掴んでずりずりと引きずっている。ダブルで大きくなれないオレは、アミックを抱えるほど大きくないので、仕方なく横倒しにしてダブルの身体強化で有無を言わさず引きずってるのだ。野蛮である。状態固定をかけてあげてるからアミックには傷一つないはずだが、人に見せたくない光景ではある。見せたらオレが人非人(にんぴにん)に見えちゃうからね。

 こういうときは大きくなれるダブルを持ってる弟さまが羨ましい。弟さまは何でもないことのようにアミックの片割れであるダンを肩に担ぎ、東京駅丸の内口の北の方へと颯爽と去って行ってしまった。

 それでもオレも何だかんだでアミックを催事場近くへ運んで上げたのだから、引きずってることを例えアミックが知ったとしても、これはチャラにしてもらってもいいなと思った。


 ジゼル電気のデモンストレーションを開いてる催事場入り口付近は、相変わらず人がいっぱいで混み合っている。オレは催事場の脇へと道を外れて、アミックをそこに寝かせた。これでいひと仕事終わりである。なのでオレはまた監視カメラを探しに出かけた。

 しかし、その先もどこに行っても監視カメラは全てレンズが抜かれていた。


(弟さま)

(応)

(そっちもレンズがない?)

(ないね)

(オレはちょっと西の方に行ってみる)

(オレたちが移動した範囲外でも、どうなってるかってことだね)

(そう)


 そこで話を切ってすぐに西に向かう。魂の回廊でも話した通り、移動した以外の場所でもレンズが消えてるかどうかが気になったのだ。

 その結果は消えていた。一帯のレンズを奪って、どこの部分を消したかったのかという、そういう痕跡を辿れないようにしたいと思ってたので、まさにこれはこちらの意に沿う展開となっていたが不思議なことだった。

 こんなことをする輩に、思い当たる節はあるのだが。

 まあ予断は止しておこう。今は事実だけを拾うべきだ。

 そういえばさっき見た催事場の入り口付近も、テレビ局とか新聞記者の人たちがいなかったな。オレたちが来た時にはあんなにいたのに。


 怪訝に思って確認のために振り返ると、オレの視界に何かが光った。


「ん? 深度一にいるのに光るか?」


 オレが気をつけて全体を俯瞰してみると、それは催事場の方ではなく空が瞬いてることに気づいた。

 そして上空を見上げる。


 何だろう──。


「虹が輝いてる?」


 虹がゆっくりと七つの色を辺りにばらまいていた。オレたちの深度一の青い空にスパークする虹の光彩は、まるで尾を引く線香花火のようだった。


(弟さま、空見て見ろよ。線香花火みたいだぞ)

(うん? 本当だ)

(七色だよな)

(うん。キレイだね)

(でも変だよな。深度一だし)

(心なしかゆっくりとだけど、線香花火が大きくなってない?)

(イヤ~な感じだなぁ)

(あ、やっぱり?)

(今、弟さまはどこら辺?)

(百貨店爺ちゃんのビルから西へ、うん、そのちょっと先のビル辺り。ちなみにレンズはなかった)

(そうか。オレは催事場からやっぱり西へ行ったビルんとこだけど。結構離れてるな)

(あに)さまはアミックは置いた?)

(うん。催事場の裏口近く)

(それはまたご親切に。じゃあオレもここら辺でダンを解放するかな)


 しばし魂の回廊が途切れたので建物の影にでもダンを立てかけたのだろう。


(まだ続いてるね)

(ああ。深度一でも線香花火が出来るなんて、セプトの科学ってどんなことになってるんだろうね)

(あに)さまは何だと思う?)

(あいつらの兵器かな? もしかしたら煌子力かも)

(煌子力を直接ぶつけに来てるわけか。消し炭だね。オレたちなんか)

(あた)らないだろ。冗談もほどほどに)

(まあ命中したら大変だよな。あいつらがオレたちの位相まできちんと潜れることになる)

(うん。ところで弟さまよ、真ん中なんだけど黒くない?)

(そうだね。ていうか、オレたちが深度一を展開してるのに、こんな勢いで近づいて来れるのって相当スピード出してるような…………)


 オレも目を凝らした。もう間違いない。間違いないだけに問題点がひとつ発生した。


(寛司。三人がバラバラだ)

 あえて鉄の棲み家にいる恵風は面子に入れない。恵風には最後まで正体を隠しきってもらいたいからだ。だから三人とする。

(うん、それならオレたちはまだいいけど、真理ちゃんはどうする。真理ちゃん精素もないぞ。この状態で動けないから何が起きてるかもわかってない)

(やばいな。真理ちゃんからの視点って、結構大事なんだけど)


 もう黒い点がハッキリ見える。虹の線香花火がバチバチと飛び散っている。落下地点は東京駅か? アミック達がやられたから、全てを消しに来たのか?


(なあ兄さま。本格的にまずいぞ)


 弟さまの言う通りだった。アミック達は基本世界にジワジワと染み入るように浸透してくことだった。それなのにその大前提が覆されている。

 あの黒い塊はそういう動きだった。

 浸透戦略で地球に入り込むんじゃなかったのか。アミックは少なくともそう動いていたのに。

 いま黒い点は急速にその面積を拡大しながら、四方に虹の光彩をバチバチと荒ぶらせている。もはや点ではなく面だ。オレたちにアミックが破れ去ったと聞いて、その矜持がそれを許さなかったのだろうか? だからいっそのこと味方もろとも潰れてしまえと、そういうことなのだろうか。だとしても振れ方が極端に過ぎるだろう。


(正気の沙汰じゃないな)

(地球が壊れちまうんじゃないか?)


 巨大な質量がぶつかっただけでも大変な被害が予想されるのに、その物体が大気圏突入時に燃え尽きもせずにそのままの質量で地球に衝突する。それは絶大なインパクトだろう。もしそうなったら、果たして地球は無事でいられるのだろうか。普通の隕石の落下速度がどれぐらいなのかは知らないが、本来なら深度一の状態から空を見上げても、隕石が動いてるように見えることはまずないだろうと思う。

 そして頭上の影はゆっくりとだが、それでも確実にどんどん大きくなって行く。


(やっぱり…………、大気圏に入っても燃え尽きそうもないな)

(セプトの科学力だぞ、兄さま。恒星間航行するような奴等だ。そんなのはとっくの昔に克服してるんじゃないか)

(でもそうも言ってられなくね?)

(…………)

(やっぱそうだ。狙いはここだっ。東京駅だっ)

(でも兄さまっ。ここは深度一だぞ。ほぼ時が止まってる状態なんだぞっ)


 わかってる。それでもあいつらは物凄い勢いで地球に落ちて来ている。いや、落ちて来ているでは生ぬるい。最短距離を突っ込んで来ている。全てを消し飛ばす隕石みたいなものだぞ。


(それに間違いないと思うけど、あの黒いのはたぶん、ほぼ光速だ)

(光…………? そういや小耳に挟んだよね。あいつらの恒星間航行、ほぼ光速で移動してるとかどうとか。一秒間に地球七周半だったっけか。光が進むのは)


 弟さまがゴクリと唾を飲むのがわかった。やはり、落ちて来てるという認識は最早古い。オレがそれをハッキリと口にする。


(あれはもう特攻だ。突貫をしかけて来てる)


 黒い塊が、ますます威圧感を増していた。


 だがどうすればいい。あんなのどうすればいいんだ。

 ふたりでバラバラに迎撃するか。それとも一つ所に集まって二人で対処するか──。

 だがどっちもろくな迎撃はできない。まだあの黒い塊を解析もしてないのだ。なら精霊魔法で応戦するか。風槍、風刃、いずれもリミッターを外してそれで迎撃したら東京駅は壊滅だろうな。仮に破壊できても破片が広範囲に散らばるだろうから。

 受け止める方向しかない。だがあの大きさを? みるみる黒い点が大きくなり、今はシルエットが月よりも大きい。


 何てでかさだ。


 だがそれでもオレは南へと、有楽町方面へと走り出した。泣き言をぼやいてる時間が惜しい。


(弟さまも走れ。神田方面だっ)

(わかった。でも何でだっ)

(深度一の網を広げようぜ。オレと弟さまで深度一を大きく展開して、もしあれが狙い通りの東京駅以外の所に落ちても深度一を展開して対処できるよう、オレたちがカバーできる範囲に幅を持たせるんだ)

(なるほど。確かに真っ直ぐ東京駅に落ちてくる保証はないもんな)

(しかも悪意でもって、わずかにでも進路をずらされたらそれでお終いだ。東京都なんか一発でなくなっちゃうぞ)


 それは日本の中枢部分を失うのと同義だった。

 オレは息を切らして走る。有楽町方面から深度一を広げ、弟さまは神田界隈から深度一を広げる。それでせめて三駅分から五駅分ぐらいの広さは確保する。これが少しでもずれれば、深度一の範囲外ということで、大地そのものに大質量が衝突することになる。

 あんな真っ黒い塊が地球に(あた)ったら、かつて爺ちゃんから聞いた、山東京伝の妹であるおよねちゃんと浅間山の噴火のお話以上に、地球上は粉塵で覆われることになりそうだ。


 今や黒い塊は頭上を覆うほどだった。向こうの方で煌子力が七色に光彩を放ってるのだろうが、最早その姿は見えない。ゆっくりと黒い塊が突貫してくる。

 いや、これも違うな。

 これはもう強襲して来ているのだ。

 地球を破壊する気概で、セプトの科学の(すい)を丸ごと地球にぶつけに来てるのだ。

 オレたちが位相をずらして東京から透過させないと、巨大隕石が落ちて来たのと同じような崩壊が日本を、地球を襲うことになる。


 異常だ。


 この強襲も異常だが、思考も異常だ。

 いや、今でさえオレたちが深度一を展開して時の流れが遅くなり、他の人や物がほぼほぼ止まってるのに、それをこんな勢いで接近できることが異常なのだ。

 それもとっびきりの黒い塊。質量兵器でだ。

 深度一の利点がほとんど通用しない。オレたちがしてるのはただ時間を引き延ばしてるだけ。対処する間は与えてくれてない。


(兄さまっ)


 弟さまの悲痛な声がした。こんな呼びかけ、今まで聞いたこともないな。だが言いたいことはわかってる。オレたちは兄弟だ。


(わかってる。やったことなんかないっ。でもやるしかないっ。あいつの強襲位置が確定したら、地球の反対側まで深度一を伸ばしきるぞっ。

 気合いだっ)

(了解っ)


 ひとりでなら難しいかもしれない。でも二人でなら──。

 オレたち二人のダブルでなら────。




 黒い塊が何十棟ものビルを黒い塊の中に吸い込んでゆく。そしてオレのすぐ近くのビルも黒い塊に一部が引っかかり、その姿を飲みこまれていた。


(オレも飲みこまれるよ)

 弟さまから魂の回廊を通して連絡が来た。

(マジかよ)

(びびってる暇はない、だろ?)

(ああ。今んところ成功してる)


 そう。成功しているのだ。

 深度一を引き伸ばして東京駅周辺に林立するビル群を、あの大質量に押し潰させずに、無事透過させている。被害は出てないのだ。そしてついに東京駅の駅舎も飲みこまれる。あの美しい煉瓦の外観が、見る影もなく黒い塊に飲みこまれ、そして消えた。


(兄さま、オレが先に延ばすぞ)

(応)


 弟さまが黒い塊に飲みこまれたまま連絡をよこして来た。そして位置を確定された深度一が横から縦へと、その効果範囲を変形させて行く。

 大した理性だった。よく正気を保って為すべき事を為している。

 だがオレの眼前で、黒い塊の動きがピタリと止まった。それはもう唐突な停止だった。


(止まれるのかよっ)


 そしてゆっくりと自ら深度一を展開したようで、下降して行く。

 黒い塊の全景が把握出来ない。それほどに大きい。だがその黒い塊は強襲こそオレたちによって防がれたが、次にはオレたちの行為をご苦労さんと嘲笑うかのように、自らの意思でオレのすぐ脇を透過していった。


(何と言うか、馬鹿げたことになってるな?)

(あいつら自身で透過したよね)

(それも留まる方向でな)

(巨体に合わせて無理矢理位相のずれを力任せに広げたんだろうが、地下街大丈夫かな)

(もっと深いところまで潜ってる)

(うん、確認した。けど、相当深いな。もうすぐオレがさっき潰した深度一発生源辺りだぞ)

(そうか)


 そう言ってオレは自分の足下を見た。この下に奴等が息を潜めようとしてるのだ。

 全幅六百メートルほどだろうか。その巨体を今なおゆっくりと沈めて行く。重さとしか言いようがない宇宙船だった。そして宇宙船とも呼ぶのもおぞましいほど凶悪な質量の塊だった。それが今、丸の内壊滅を防がれても、それが何だと言わんばかりに丸まる東京駅界隈の地下深くに身を隠した。


「これがセプトか」


 オレは衝突を防げた喜びよりも、こんなものが東京駅の地下深くに何食わぬ顔で鎮座したことのほうが不安だった。


毎日投稿一ヶ月。ふうう。

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