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第1章 幼稚園時代
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第61話 俯瞰記憶

 気がつけば俺は催事場の脇でぽつんと横たわっていた。俺はアミック・スゥ。ジゼル電気のデモンストレーションのために日本にやって来た統括責任者。それが何でこんな所で寝てるのだろう。俺はこんな所で寝た覚えはないのだが。そして俺は、見知らぬ日本人に親切にも起こされたわけだった。

 大丈夫ですと声をかけて立ち上がると、その日本人は気をつけてと言葉を残し、去って行った。

 その時には俺は違和感に気づいていた。俺がかけているはずの片眼鏡のエー・トゥールがないようなのだ。肌に風が当たってスースーする。手で触れて、俺はエー・トゥールを完全に失ってることを認識した。そうだ。これを東京駅で探してたような気がする。だが突然に何故こんな事になってる?


 不思議だった。


 そもそも俺は催事場でジゼル電気のデモンストレーションの差配をしてないといけないはずなのだ。そのために日本に来たのだから。

 何をやってるのだ。

 とにかくまずは仕事場に戻らねば。

 そうして何がどうなってるのかもわからないままで催事場に戻ると、俺を見つけた部下たちが駆け寄って来た。


「マークか。どうした」

「それはこちらの台詞です」

「何故だ。大盛況ではないか」

「はぁ。それはそうなんですが…………」

「何言ってるんですか? こっちはキャップはもどったかとジャン社長から連絡が幾度も来て、キャップを探してたんですよ」

「そうなのか。それはどれぐらいだ」

「えーと、せいぜい五分ぐらいですが」

「そうか」


 いやに短い時間だなと思った。それでも部下達が慌てている。

 ということはジャンの焦りがこいつらを(せわ)しなくさせたのかも知れない。


「ジャン社長の護衛の人たちを全員、外に展開させたそうじゃないですか」

「ほう」

「いや、ほうじゃなくて」

「わかった。とにかくお前達は任務に戻れ。通常通りに催事場を見て回れ」

「それはかまいませんが。大丈夫ですか?」

 マークが尋ねた。

「そうだな。とりあえず社長に顔を見せてこよう」

「それが良いと思います。みんなには片眼鏡をなくして困ってたとでも言っておきますから」

「ああ。頼む」


 そして俺は催事場を抜けて関係者通路の方へと向かった。


 俺が帰還した一報を受けて、続々と部下たちが戻って来た。だが誰も社長のジャン・ジゼルにはかしずかない。俺の前にズラリと並んだ。むしろジャン・ジゼルこそここでは異分子だ。奴だけが地球人なのだから。


「ダンがいないな」

「あいつにだけ連絡がつかないので」


 ふむ。

 ダンとは東京駅で会ったような──。


「まずは報告を聞かせてくれ」


 そして俺は報告を受けた。

 探してる一団がいて、その構成人員は男の大人ひとりと男女の子供であり、その一団をを捕り逃したと聞いた。さらに行方の全くわからなくなった男の子供がひとりいる、という報告も受けた。

 だが俺はそんな追跡命令を出した覚えはないのだが、全員が出張っているので、間違いではないのだろう。これが意味することは、俺はその一団を敵と認定し、追跡させ、俺自身も追跡したのだが返り討ちにあった。そして記憶とエー・トゥールを奪われた。そういうことになる。


「ちょっといいか」

「何だジャン。手短にな」

「通信機越しにお前は私に、その子供から手を振り払えと叫んだんだがな。どうもそれを覚えてないように見えるのだが」

「ほう。そんなこともあったのか」


 これが五分ぐらいの間に起こってたのならば、追跡するだけでも三十分から一時間はかからねばおかしいし、それが一般護衛の地球人に五分ぐらいと言わせるとは、どう考えても辻褄が合わない。つまりその一団は深度一に潜れる手段を持っていると推測できる。


「脅威だな」


 するとジャンが大きく頷いた。そして言った。


「お前が宇宙人だとバレタと言ってたではないか。脅威どころではないぞ」


 なるほど。状況はわかった。

 俺は控え室を見渡した。この関係者控え室は個々の荷物など持参した荷物しかない殺風景な部屋だった。だがその控え室には隅にモニターだけは用意しておいた。そのモニターを見やったが何も映ってない。事もあろうに催事場の中の様子も何もだ。


「おい。監視カメラの映像を回せ。なぜテレビに映ってない」

「映りません。確認したらカメラのレンズがみんな()くなってました」


 何だと?


「誰がやった」

「わかりません。いつの間にか映らなくなってました」

「これは重大だぞ。それは我々が深度一で相手に好き放題にやられたということになる」


 ざわっと場がどよめいた。


「しかも俺のエー・トゥールがない。結構お気に入りだったんだがな、あの片眼鏡」


 柔らかな物言いに聞こえただろうに、部下達の誰も笑わなかった。部下たちもひと当てして、相手の強さを実感したということか。つまり──。


「お前たちのエー・トゥールは予備か?」

 全員がいいえと返事した。

 ということは部下たちはエー・トゥールを奪われなかったということになる。我々を深度一で封じ込めてた時間があったというのにだ。

 やはり自分たちより高性能なエー・トゥールを持ってるのだろうか。

 我々より優秀な深度一を扱ったようでもある。


「その一団の持つエー・トゥールは是非とも手に入れたいな」

「は」

「それと、もう想像がついてるだろうが、俺にはその一団に接触した記憶がない。お前たちのエー・トゥールから記録を見せてくれ」


 ギグズが手を挙げた。発言を許可する。


「我々のエー・トゥールも記録がありません。ですので再生してお見せすることは出来ません」


 さてこれは、とぼやいて俺は言葉を失った。


「ふーむ。皆の記憶から記憶を取り戻そうと目論んだわけだが、肝心のその記録が全てなくなっていたと。そうなのだな? 不思議なことだが」

「はい」

「ちなみにその一団、強かったか?」

「ファーストアタックを切り抜けられました」

 俺の眼がピクリと動いた。

「おいおい、ギグズ。それは本当か?」

「はい」


 ファーストアタック。あれは初見殺しだ。深度一に入った時点でそれに対処できないと、もうどうしようもない。それを切り抜けたと云うことは、深度一に対処しただけでなく、手厚い攻撃の第二波、第三波にも対応したということになる。


「軍人でもないのに、そんな事が可能か? 大人と子供二人だったわけであろう?」

「命中しても苦もなく次の行動に移って、まるで痛みなど感じてないようでした」

「魔気弾は? 一団の深度一を解除するために使ったのであろう?」

「魔気弾で一団の深度一の解除には成功したと思います。でもすぐに世界が青くなって」

「ふむビルの影での戦闘か?」

「そうです」

 肯いてからギグズが付け足した。

「でもまるで魔法に反応してるようでした」

「その件でクーリエは?」

「いえ。未だ何とも。ただ、今は誰も話しかけられるような状態ではないらしいですが」

「そうか」


 クーリエが騒がないのなら精霊の線はない、か。


「キャップ。精霊なら我々に敵対して全てを壊しにかかります」

「そうだな。ギグズの言う通りだ。ならばこんな事が出来るのは。思い当たるのは一つしかいない。だがあんなのが存在してるのかどうか、そもそも敵なのか、味方なのか」

 いや、と首を振って思い直す。

「それはないか。敵の敵でもあるのかな? その方が自然か」

「隊長、あいつとは?」

「伝説さ。それはもういい。それよりみんな座ってくれ」


 物を考える時はくつろがせた方がいい。アミックのひと言で、それまで引き締まっていた空気がほどけ、護衛隊の面々八名が控え室のテーブルに座った。


「さて。お前たちはこの事態をどう考える。聞かせてくれ」


 口火を切ったのは引き続きギグズだった。ただし今度は同僚に対して話しかける。

「魔法にしては変だ。俺はそう思ったが皆はどうだ?」

「あの一団が魔法使いだとでも? だったらとっくに我々は死んでいるぞ。奴等のは魔法使いの領域じゃない。仮に魔法使いだったとしても、あれはひよこ魔法の領域だ」


 シューが反駁(はんばく)した。


「一人大人がいたわよね。あの大人が同盟のどこかの人物とか」

 とメアリーが冗談げに言えば、


「くるるならとっくに撃退されてるだろう」


 とベインが肩をすくめて、シューが作りかけた気まずい雰囲気を打ち消した。

 これでメアリーの思惑通りだろう。今は喧嘩の場ではなく、討論の場だ。ただシューに関しては、シュー自身が対魔法使い戦のスペシャリストだということがある。だから相手が魔法使いかもわからないのかと言外に揶揄されたように感じて、それで彼の矜持がギグズに対して琴線に触れたのだろう。

 だがそんなベインの配慮もよそに、コリンにはメアリーの考えは至極妥当に映ったようだ。


「マルメでもあるまい。どこか魔法に力を入れ始めた別の星か。まだ訓練されてない」

 と言った。すると、

「それでも子供があれだけ対抗できるんだ。気をつけろ」

「同盟に報告されたら」

「嘘も方便だろ」

 とグレンとハナダの兄妹が脇でやり合い始めた。


 ひとり会話に加わらないバルーンへと俺は目を配ったが、バルーンは肩をすくめてこの会話には加わらない。的外れだと言いたげにウインクした。

 同い年だからこその気安い反応だ。組織を離れれば仲の良い友人でもある。普段からつるんで話してるだけに、俺の求めた視点がわかるのだろう。


「わかった。お前達はそのまま待機だ。装備の充実を図ろう。依頼はギグズがしろ」

「わかりました。で、何を」

「戦闘型エー・トゥール。皆はそれが届くのを待て」


 全員が本当かと一瞬どよめいたが、以降は空気が重くなることはなかった。皆余裕が出来たのだ。おかげで雑談が進んでもはや見解をぶつけ合うような空気ではなくなった。

 それだけの物を隊長である俺が用意すると言ったのだ。


 誰もが信頼を置く、戦闘型エー・トゥール──。

 それは普段使いのエー・トゥールとは性能も出力も段違いの代物だった。


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