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ダブル  作者: 茶の字
第1章 幼稚園時代
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第60話 嘘も方便

「復元は復元。欠損部分の復元。あった物を元に戻すだけだ。でも兄さまの創造は何もない状態から創造する。これは大きな違いだぞ」

「そうなのか?」


 恵風に尋ねられてもオレにもわからん。オレは弟さまがそう云うならそう言う物だろうと常々思ってる。だから反対意見を聞きたいならば恵風の選択は間違いだ。


「真理ちゃんはどう思う」

「わたしは寛司くんが創造したのを見たことないから。復元なら何度かあると思うけど」

「例えば?」

「大きくなるのに失敗して破けた服を直してたり」


 寛司がギョッとした。


「見てたの?」


 オレも知らない。そんなことがあったのか。


「初江さんの自転車のモーター部分をのぞこうとしてネジ山壊しちゃったり」


「それも見てたの?」


「それは創造ではないのか?」

「わたしは復元のがしっくり来るけど。たまに状態回復とも云ってるよね、二人とも」

「「あ、そうだね」」


 驚いた。オレたちより真理ちゃんのがよっぽどしっかりダブルを知っている。オレたちは正直その場のノリが優先される。すると真理ちゃんがオレの方を見た。なぜに──。


「だからこんがらがるんだよ」

「あ、ごめんなさい」

 オレは素直に謝っといた。隣で寛司も頭を下げている。

「一分計を送還しても元通りにだったり、そんな事もしたりもしてたけど」

「そうそれだ」

 と恵風が相槌を打った。

「でもそれも状態回復の延長なんだよね。わたしは復元はそういうことだと思ってる。そして寛司くんは、これまで一度も何もない状態から何かを作り出したことはないというのも本当なんだよね。

 逆に真司くんも、一度も大きくなったり小さくなったりしたことはないし…………。これも事実。

 だからね、無理にダブルの能力を試したり探ったり、無理に力を入れることはないと思うの。きっと真司くんと寛司くんにあわせて、ダブルも成長していくんだと思うよ」

「「そうなのかな?」」

「そうよ」

「言い切るんだね」「結構強気だよね、真理ちゃん」

「だってわたしも精霊魔法が使えるようになったもん」


 真理ちゃんがドヤ顔で腰に手を当てた。


「だから創造系が出来ないとか大きくなれないとか、そんなことは今詳細に分析する必要なんてないの。あるがままで今の自分を大事にしよう。恵風だってそうだよ。いつか精霊世界に帰れるようにって、わたし思ってるもん」


 恵風がふわりと飛び上がって、ばつの悪そうな顔をした。


「なんかすまなったな。真理」

「いいよいいよ」

「でも俺が精霊世界に帰る時は、アームも一緒だ」

「わかってるわよ。ね?」

 オレと弟さまもうんと肯いた。


「そういえば、オレからも報告あった」

「ん?」「なぁに、寛司くん」

「超臨界水だけど、これがアミックの記憶消去に制限をかけて来たぞ」


 オレはアバババと慌てて周囲を見渡した。いきなり何云っちゃてるの、この子。ごめんさいねー超臨界水。この子とってもチャレンジャーなの。


 だが青い世界は青世界のまま、静謐を保っていた。


「あれ? 何も起きないな」

「大丈夫だろ。記憶消去をかけてる時、これでもかと色々試したから」

「「「試したの?」」」

「試した」

 オレたち三人にあっさりと弟さまは肯いた。

「大丈夫なのかよ」

「だから制限をかけて来たって言っただろ。まさに出会ってからの一連のことにしか消去させてもらえなかった。それ以外に行こうとしても、ダブルを広げさせてもらえなかった」

「強烈だな」

「何が?」

「話とか、ダブルを押さえ込めてるとか、完全にオレたちの上位互換じゃないか? 話を聞いてると」

「まあ、こいつの設定した一線を越えなければ、あとは好きにさせてくれるみたいだし、超臨界水のことはオレはもう気にしないことにした」

「いやホントご免なさい。この子チャレンジャーどころかフリーダムで」


 だがオレに対して返事はなかった。寛司に対しても報復はなかった。それでもオレはキョロキョロと辺りを見渡す。本当におかしな存在だ。居るということはこれで全員に共有されたが、それだけだ。それ以上はつかませてくれない。手も出してくれない。見える形では全く捕まえられないわけだ。

 現れた時にはいつもこっそり、既に事を終えている。


 ──難儀なことになった。


「それで兄さま。エー・トゥールの解析なんだけど」

「あー、わかった。もうちゃっちゃと済ましちゃおう。オレはとっても疲れたよ」


 そうしてオレはダンのエー・トゥールを手に取った。少し引っかかるが構わず取った。


「ん? 血がついてるな」

「神経に直接接続してるんだよ。牡型だな」

「げ。神経に刺してるの?」

「そういう仕様なんだろ。当人たちは慣れたもんだろ数ナノミリみたいなもんだし」

「弟さまはわかってたのね」

「いまこの部分の解析を分析したからね」


 なるほど。オレは手を抜いていた。ごめんよダンさん。お詫びに治しといてあげる。状態回復である。

 オレがそんな無駄なことをしてる時にも、弟さまはアミックのエー・トゥールを手に取ってもう調べにかかってる。オレもすぐに解析にかかった。

 かかったのだが──。


「ぶち壊してー。なあ真司。これは地球のじゃないからぶち壊していーよな」

「おいおい。物騒なこと言うな」


 こんなことを言い出すのは毎度の恵風だ。どうしてこう恵風は敵の物となるとぶち壊したがるんだろうか。しかも迷わず自分の欲望を口にするところにまるで自制がない。これさえなければ相当治ってきたと言えるのだが、つくづく精素切れで存在自体をかけて精霊魔法を遣わせてしまったことが失敗だった。


「もうこのエー・トゥールはオレたちの物だ。だから壊すのはダメだ」

「でもどうせ送還するんだろ?」

「する。でもお前の精霊魔法をつかったら痕跡が残るかも知れないからな」

「エーーっ」

「オレとしてはお前の痕跡は一切残したくない。お前は切り札だ。お前が消してもいいのかも知れない。だがそれを後から解析されるかも知れない。こんなとこで使って違う消し方だと思われるより、今まで通りの消し方で、こいつらに欠片も情報を与えない方がよっぽど大事なんだ」

「うー、わかったよ」


 そうしてようやくオレは分析に入った。

 ダンのエー・トゥールは耳に入れる、インナーイヤー型だった。形としては小さい。これで音楽を聞く以外に何ができるんだと思えるほどの小ささだ。材質は地球でもおなじみのプラスチックや銅を使ってるが、内蔵してるエネルギーが例の煌子力から生み出された電気であった。しかも蓄電してるのは鼻くそみたいな大きさ程度しかない蓄電装置だった。ここからエネルギーを供給して、深度一と相手の聴覚に直接作用する聴覚操作が組み込まれていた。

 これだけでもうチートである。音楽を聞く道具だと地球上の誰もが思ってるインナーイヤー型のイヤホンで、害を為す者はすぐに排除できるのである。

 個人専用にカスタマイズされて、嵌めこんだ先で神経に接続するというのが地球製とはちがうというのはわかるが、付ける前まではわからんな。本当にただのイヤホンにしか見えない。


「弟さまはどうだ?」

「ああ。材質は地球と同じだね。プラスチック製だよ。でも組み込まれてる性能が桁外れだね。蓄電と解析作用。通信、映像展開。そっちと一緒じゃないかな」

「そうだな。オレは思わず蓄電に興味が行ったが」

「叔父ちゃんなんか喜びそうだもんな」

「そうだな。地球でもよく使われる通常の素材で蓄電機能が組み込めることが立証されたわけだしな」

「しかしこれで宇宙とも通信できるのか」

「すごいよね」


 改めてセプトの科学技術に感嘆する。

 すると恵風が自慢気に言った。


「じゃあ俺たちはもっと凄いな」

「ん?」「何が?」「すごいの?」

「俺たち精霊は、宇宙でもそんな物を使わずに通信してたからな。しかもそいつらみたいな浅い所じゃなくて」


 まだ気にしてたらしい。浅くたって事が足りればそれでいいじゃないか。


「しかしそれは本当か?」

「本当かとは?」

「それがホントなら、宇宙にお前が出た時にアームに話しかけてみたりしたか?」

「あ…………」

「遊ぶのも大概にしとけよ。鳥と張り合ったり、飛行機と競争してたり、毎度同じ遊びしてるの見せられるのも大変なんだからな」


 真理ちゃんが、恵風そんな遊びしてたんだ、と感心するやら呆れるやらで反応に困ってる。


「今度試せよ。精霊の伝達手段を」

「わかった」

「でもそれで返事がなかった場合、アームは相当危機的な状況にあると言えるな」

 弟さまが言った。

 オレも頷く。すると真理ちゃんが言った。

「でもセドリックメロディ病の人は出て来てない。まだどこかで生きてるんだよ。わたしたちが想像もつかない方法で」

「そうだね。習性として人に憑くのが日常みたいだったから、これだけ人のいる地球だ。必ず人に憑いたらセドリックメロディ病になるはず。だからまだ希望はあるんだぞ」


 オレはへこんでる恵風の背中を叩いた。


「さて、ここまでだ。今度はアミックやダンの都合から考えようか」

 弟さまがそう言ってこれを節目とした。


 最初に題材を提示してくれたのは真理ちゃんだった。すぐにまとめて話すべき事を、その方向性を示してくれるのはとってもありがたい。オレたちは散漫だから──。


「で、どうなのかな? 魔気弾の話は聞いたけど、アミックさん達にエー・トゥールの注文しても届くのは実際難しいでしょ?」

「そうだね」

 頷いてオレがぐるりと辺りを見渡した。東京駅を中心に、日本の心臓とも言える数々の精神と文明が集約されている。

 この広い東京駅のどこに宇宙船が停まるスペースがあるかってことだ。セプトの連中はこれまでだって身を隠して浸透しようとしてきたんだ。上層部にばれるのもマズイわけだし、新規のエー・トゥールを届けると言っても、届けられるまでにこことは別の人気(ひとけ)の居ないところに宇宙船を着陸させるだろうし、そこからここ東京まで届けるのにも時間がかかるだろう。


「しばらくは大丈夫だよな」

「そうだね」

「東京駅にはさすがに宇宙からの宅配便ですなんて出来ないだろうし」


 やはり三人の見解は一致していたようだ。オレも安心である。


「じゃあ(あに)さま、早速送還しようか」

「応」


 それが一番だった。

 最初の予定通りここでエー・トゥールは痕跡すら残さずに消す。これで残るはジャン・ジゼルの持つエー・トゥールだけとなるのだが、彼に渡されたエー・トゥールは通信だけの地球産の工業製品と同じ程度の能力しか与えられていない。

 セプト人もさすがに地球人には自分たちの使うエー・トゥールを配らなかったと云うことだ。特にジャン・ジゼルはジゼル電気の象徴だ。その道具はジゼル電気の特注品ということでマスコミや地球の人々には受け入れられるだろうが、それでも衆目に晒されて万が一を考えたら、ジャン・ジゼルに本来のエー・トゥールを貸与する気にはならなかったんだろう。


 そしてオレたちはエー・トゥールを送還した。



 ◇



 寛司は送還しながら、恵風は鋭いことを言ったと思っていた。(あに)さまとオレの送還は、ゲームを見て送還という着想を得たからこれまで送還といっていたが、オレ個人としては分解という指摘をされて、その指摘の方が、しっくり来ると思ってしまった。

 もっとも、創造系の話については全く首を縦に振ることは出来なかったが、それでも恵風は恵風で、恵風なりに物を見て考えてるのがわかった。

 ほとんど毎日お気楽な姿ばかり見てたから、時々こうしてキリッとなった時の恵風は、さすがは地球に派遣されただけのことはある精霊なんだなと思う。


 だがそれはそれだ。

 分解ならば、分解しよう。おそらくセプトの連中は諦めない。兄さまたちには言わないが、その思いがオレにはある。おそらく奴等は、今後なりを潜めて準備を進めるだろうと思う。次にオレたちに遭遇できるかは難しいと考えるだろうが、遭遇できなければ呼び寄せればいいのだ。地球をネタに、オレたちを(おび)き寄せる方法なんかは、あいつらならすぐに考えつくだろう。

 そうなった場合、おそらく素直な兄さまには難しい事になると思う。兄さまにはあいつらへの躊躇いもあるだろう。だからオレなのだと思う。


 オレが今この時に存在している意味は。

 超臨界水がオレに手を出してこない意味は。

 オレはいっぱい嘘を吐いてるから平気だ。

 オレは人間だが、野性の人間ではないのだから。オレは最上寛司。兄さまのダブルによって生まれたドッペルゲンガーであり、影法師である。

 オレが事を構えればいいのである。それが超臨界水がオレを見逃す最大の理由だとしか考えられない。ならばやるだけである。



 ◇



「兄さま」

「うん?」

「真理ちゃんは守ってもらえるよう交番に残して、オレと兄さまとで探索しよう。東京駅界隈の監視カメラの(たぐい)を」

「げ。そう来たか」

「面倒だがやるしかないだろ」

「そうだな。一つでも残したら、セプトの連中に利用されそうだ」

「そういうこと。だから真理ちゃん」

「はい?」

「元の交番にいったん戻ろう。それからこう言おう。なくし物を探してる間、真理ちゃんを守っててもらえますかって」

「その間に記録媒体を処理するのね」


 真理ちゃんの理解は早い。

 すると恵風がひらりと飛びながら言った。


「だったら真理の精素は抜いとけ。意識あったまま交番でジッとしてるのは辛いぞ」

「そうだね。真理ちゃん、悪いけど空に向かって風槍が撃てなくなるまで撃ってくれる?」

「わかった」


 そして真理ちゃんが風槍を三発ほど撃って、体内に残してた精素をすべて消費すると、弟さまと手をつないで元の交番へと戻っていった。


「恵風お前ももう戻れ」

「応」


 恵風がオレのポッケの中に入り、鉄の棲み家にいつも通りに憑いた。


「さて弟さま。アミックとダンだが、オレがダンを催事場の方に運んでくよ」

「了解。じゃあオレがアミックをビルの屋上にでも捨ててくるよ」

「おいおい」

「冗談だよ。どうせこいつらを運ぶのはついでの作業だろ」

「ああ」


 やるべきことは映像の処理。オレたちが来たこと居たことを、痕跡も残さず消去すること。これだけである。


 そうしてオレたちは交番のおまわりさんにいったん真理ちゃんを預かってもらい、それからすぐに深度一を展開して、エー・トゥールがなくなって探し回ってたアミックとダンをそれぞれ担いで、西へ東へ散っていった。


 だがいざ記録媒体を解析で探りつつ各監視カメラを確認してみると、映像の消去をしようと思ってたその映像が既に存在していなかった。全てのレンズがなくなってて記録媒体の体を為していなかったのだ。


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