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第1章 幼稚園時代
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第56話 ウォーク・チェイス

本日二本目です。前話もお見逃しなく。

 ギグズの放った弾丸は、自分たちの頭上のビルの壁に着弾すると、オレたちの身体を覆っていた深度一が、どこともわからぬ場所へと引き剥がされて行った。狙いが外れたわけではない。狙い通りに着弾させ、その効果も遺憾なく発揮されていた。


 オレたちは丸裸だ。これで通常の拳銃もまたオレたちに効く。銃で狙われるのは恐い。何より痛い。だが基本、オレたちは腹を狙われていた。致命傷ではないが重傷。もしくは危篤状態になろうが話だけは聞けるようにする。

 そんなところだろうか。

 セプトの科学があれば匙加減でどうとでもされるような気がする。

 例外は真理ちゃんだった。真理ちゃんだけは頸筋を狙われた。刀であればそこを刎ねるだけで致命傷になる。そんな場所へと銃弾を撃ち込まれていた。

 やはり宇宙人かと直裁に聞いたことが、対応の違いを生み出してるのだろうか。


 だがしかし──。


 怖がってばかりもいられないのだ。向こうが矢継ぎ早に対策を取るなら、こちらもその都度目先を変えてやるだけだ。人の流れが催事場を中心に流れてるので、休日だというのにこちらに流れてくる人は驚くほど少ない。


 遠くに見える東京駅の駅舎が、まるで常識の範疇から離れた深度一という状況の変化にも難なく適応し、夕焼けのような赤みを帯びたまま姿よく佇立している。

 何が起こっていようと東京駅は東京駅だ。

 対してオレたちはオレたちで居られるのか。


「張り直すぞ。今度は大規模だ」

 そして煉瓦も美しい駅舎から眼を外す。

「それと弟さま」

「応」

「赤い深度一を解析。ピンポイントで消せるようにしたい」

 半分ずれた物を半分ずらし直すような物だ。セプトに合わせた細かな作業がいる。

「了解」

 不要な言葉をそぎ落として弟さまが返事した。ちゃんと急ぎだとわかっている。早速解析を開始してくれる姿が心強い。

 そして弟さまと手を繋いでる真理ちゃんは黙って事態の推移を見つめていた。この抑制の利いた姿勢も実はとってもありがたい。やることがないのと騒がれるのは、この場合とっても迷惑なのだ。

 だが真理ちゃんのやってることといえば、全体をきちんと見て、実働部隊のオレたちを管理してくれていること。だからオレは問題ないと信じて、遅滞なく深度一を展開することが出来るのだ。ちなみに催事場も含めてここからビル三つ分ほどだ。行っけぇー。


 街路樹の葉ずれがゆっくりと遅くなり、青い世界の色味が増すと共に、完全に動きを止める。そうしてオレたちの周囲には青い世界が広がった。

 位相のずれ。恵風の精霊世界での呼称を尊重して、オレたちはそう呼んでたが、あいつらへの情報統制の意味も込め、今はもう深度一と呼んでいる。

 この深度一の効果はてきめんだった。セプトの連中が動きを止めていた。エー・トゥールも壊しているので、最早ピクリとも動かない。

 これでセプトの連中の目から逃れることは楽勝となった。オレたちはしっかりと状況を確認した後、連れ立ってあえて隣のビルに逃げ込んだ。

 むしろ直接交番に駆けこまないだけ、相当慎重に行動を選んでいたと言えるだろう。


 だがこれで大丈夫かと思ったら、また追いかけて来た。ドアを開くことが出来ずに透過も出来ないアイツらが、このビルの、飲食街へのドアガラスを銃で撃ち砕いた音がこちらの方まで届いたのだ。


「何でだ。視線は切った。そのためにこのビルに逃げ込んだんだ」

「エー・トゥールもない。追いかけようがないはずだ」


 オレも困ったが、弟さまも困惑していた。

 あいつらの科学には上限がないのだろうか。

 そして思い当たった。考えてみたら科学に上限は存在しなさそうなんだよな。常に進化し発展する。わずかずつでも隙間をこじ開けて科学の領域を広げる。そうやって文明は発展してきたのだ。


「しまったわね。拳銃とかダブルで送還しとけばよかったよね」

「「あ」」

 とオレと弟さまの声が重なった。

「真理ちゃん凄いな」「そんなこと思いもしなかったよ」

 だが考えたら当たり前だ。敵の武器がなければ命の危険が減る。オレはリスク管理が出来ていなかった。逃げることばかりに気を取られていた。幼いなぁと自戒したが、幼さばかりを嘆いていても仕方がない。

 オレたちは東京駅方面へのビルの出口へと先を急いだ。

 足音がしたのはその時だ。

 深度一で足音? こんな的確に? 動き出したのは今し方だぞ。

 オレたちは有り得ないはずの音に耳を澄ます。するとオレたちが通ってきた飲食街の曲がり角から、あいつらの姿が見えた。

 何故だ。

 なぜ深度一に入って動いた途端に追いかけられる。


「やられたな。深度一なら幾らでも逃げられると思ってたが、どうやらそこまで簡単な話じゃないようだ。通常空間なら、通常空間の物理法則でしか動けなくなる。深度一に移ったら、そこにオレたちが居るとばれる。妙な規則性というか、規則になったな。正直想像が付かん。あいつらが何をどうしてるのか」

「だが恵風でも位置を特定できない深度一を、セプトの連中が特定できるものなのか?」


 弟さまがそう言った。

 だが確かにそれはそうだ。恵風は毎日空を飛んで位相のずれを探してたのだ。それでも恵風は位相のずれの場所を発見できなかった。おそらく衛星軌道上から地球全体も観察してたことだろう。それでも位相のずれを見つけられなかったのだ。

 恵風の方が深度一の練度が上だとわかってるのに、セプトの連中には出来て恵風には出来ない。それは有り得ないと思った。


 仕掛けがあるな。


 その仕掛けを探すほかない。オレは覚悟を決めて、弟さまと真理ちゃんに先を行かせた。

 オレたちを追う追跡班の中にギグズがいるから視認はされてる。でもそれを伝える手段がないはずだ。エー・トゥールはすでに破壊されてるのだ。

 ならば取れる手段としては、あえて人混みに紛れる。そのためには通常空間に戻ろう。

 動けば動くほど、誰も動いてないから見つかりやすいのだ。

 そう思ってたら、また銃声がした。

 ギグズが銃弾を放った姿が遠くに見えた。するとギグズの周囲の深度一が砕けて通常空間に戻っている。こうやって深度一の範囲を狭めて、オレたちの居所を特定しつつ近づいて来てるのか。


 飲食店街にいる人々はまだ動かない。オレが深度一のままでいるから、向こうが通常空間に復帰しても、オレがずらしてる深度一の世界はまだ健在だから、オレたちが加速した世界にいると云う事になるからだ。

 だがあいつらの科学力ならオレたちを認識できてることも想定しなければいけない。


「深度一を解く。人混みに紛れよう」

「了解」「わかりました」


 通常空間に復帰。それからビルの中を通って交番に向かおう。そしてオレは解析を発動した。


「筋を変えましょう」

 真理ちゃんがそう提案した。

 あいつらが真っ直ぐオレたちの居た場所へと向かおうとしてるのがわかったので、オレたちは筋をずれて動こうと、そういうことのようだ。オレは真理ちゃんに任せることにした。


「深度一が解けたのを理解して、銃をしまっている。やはり的確に判断してるね」


 弟さまもそう報告してくる。

 するとこっそりと逃げながら、真理ちゃんがひそひそとオレたちに話しかけて来た。


「わたしたちの場所がわかった件だけど」

「「うん」」

「催事場を選ぶにあたって、この地区に何かの工作をしたのかも」

「どういうこと、真理ちゃん」

「泥棒対策みたいなもの。わたしたちのセキュリティとセプトでのセキュリティの概念に差異があって、向こうの方が進んでる可能性はあるよね」

「それは大いにあるね」


 と弟さまが言った。オレも頷く。


「差異というか、文明だよね。あいつら煌子力エネルギーを使ってるもんな」

「煌子力エネルギー?」

「解析でわかったんだ。あいつらの文明の根源。そのエネルギーがあるから恒星間航行も可能になってる」

「それ、再現出来る」


 真理ちゃんが尋ねた。なのでオレは首を振る。


「作り方はわからない。催事場の中にエンジニアはいなかったみたいだね。でも普段から煌子力を使ってるのはわかる」

「わかるんだ?」

「人工衛星上で煌子力のほんのわずか、本当鼻くそぐらいだけを電気にしてさ、地球に照射してるんだよ」

「うぇっ。手抜きなの? 手抜きみたいな感じで、あれだけの地域の電気を賄ってるの?」

 オレと弟さまは、うんと肯いた。

「あとは、実際に物に触れて解析すれば、(あに)さまなら再現は可能だね」

「そういうことだ。でもまあ、とりあえず、真理ちゃんの意見は案外当たってるかもね」

「理由は? 兄さま」

「地下を解析してみろよ、弟さま」


 地下ならいくらでも接触解析ができる。何せ大地に立っているのだから。

 すぐに弟さまの返事はやって来る。


「あ。でかい空間があるな。昔はなかったのに。……しかも深度一がかかってる」

「だろ? だからたぶん、オレたちが深度一を展開すると、地下のそれの範囲が引っ張られてオレたちの潜伏場所がばれてるんだと思う。オレたちの深度一のが綺麗で力が強いから」

「それで引っ張られるの?」

「そう。試さないけどね。試したら、また位置がばれる」

「でも、こんな人たちが地下でごそごそ何かしてるのって、なんか嫌だよね」


 そうだな──。

 先程の轍もある。同じ轍は踏まない。

 壊しちゃえ。


「えいっ」


 解析、送還。これだけだった。



 ◇


 ちなみにこの時クーリエ、阿鼻叫喚。


 ◇



 空間は残っても、深度一はこれで消えるはず。ごそごそすることは当面できなくなるはずだ。

 オレたちは安心してビルを出た。ギグズたちはまだ念入りに飲食店街を探索している。通常空間復帰は正解だったようだ。


 ビルの谷間から一人だけ歩いて来る姿があった。

 知らない男だ。そしてオレはこれまで全員のエー・トゥールを壊し終えたと、そう思っていた。だがひとりだけいたようだ。動ける者がまだ。

 目の前にいる男がそうだ。眼前にいる男が耳につけてるのは、間違いなくエー・トゥールだ。見逃してた。ここにいる奴等のエー・トゥールは、みんな片眼鏡かサングラスだと思ってた。


「君たち、催事場にいた子たちか」


 これは地下からの連絡が途絶えて戸惑ってる証拠だ。指示がなくなって確証が持てないのだ。そして地下のエー・トゥールが壊れたのを知らないので、自分の持ってるエー・トゥールが壊れたのではないかと疑っている。

 だからオレたちに確認しているのだ。


「何でしょうか?」

 弟さまが前に出て応対した。


「いや。探し人がいまして?」

「それが私たちだと?」

「ええ。大人一人と男女の子供。見た限りあなたたちしか居ないようなので」


 と言ったところでブラフを噛ましてきた。

 こいつはオレたちが対象だとほぼ確信している。だが自分のエー・トゥールも信用できない。だから深度一を発動すればわかると、とりあえず発動してみたのだ。


 深度一で動けることが出来れば、それは対象なのだから。

 人類の誰も到達していないその領域を、動ける者が他にもホイホイいるとは考えまい。


(弟さま、色だけ変えてくれ。透明に。出来るか)

(始めた)


 すると世界が赤くなりかけて、また透明になった。赤と透明の間を行ったり来たりと明滅した。

 男の目が、弟さまと空とを行ったり来たり見比べている。現状では透明だ。弟さまが見事に対処している。


「私は子供たちを連れて会社に顔を出しただけですよ。人違いでは」

 弟さまがそう話しかけた。いっぱいいっぱいだろうに。よくぞそこまで持ち込んだ。後は任せろ──。


 すると男は、そうですか、と言って二の句が継げずにいる。


 人がいないところを選んでるのは荒事を想定してたからだろう。ならばとオレは車を創造して車道を動かす。男の後ろから前へと車が走り抜けて行く。これなら運転席に人がいないこともわからない。そして車が動くと言うことは、弟さまが頑張って透明にしているこの空間が、深度一ではなく通常空間だと判断するのが普通だ。


 さあ、だまされろ。


 叔父ちゃんのライバル会社の車というのが遺憾だが、解析して手頃に覚えた車がこれしかないから仕方ない。

 あの時車屋さんに連れてってくれた爺ちゃんさまさまである。


 排気音に気を取られたようにオレが車に視線を向けると、男の目線も車の方へと誘導することができた。

 後は追い打ちである。オレは一分計を取り出した。

「ねえ、小父さん」

「何でしょう」

「お母さんに時計の針がここまで来たら戻れと言われてるので、もう戻らないと」


 一分計を見せて通常空間の振りをする。


「どうもすみません」

 男が人違いを認めて、オレたちに謝った。


 ──オレたちの勝ちだ。


 後は離れ際にエー・トゥールの破壊。イヤホン型のエー・トゥールはあっという間に丸裸に解析されて送還された。男が驚いた時にはもうすでに深度一をオレにかけられていた。


「ふう」

「お見事」

「すごいね、真司くん、寛司くん」


 真理ちゃんも何が起きてたのかわかったらしい。それも凄いんだぞ、真理ちゃん。

 しかしどうにかなった。オレは車を送還して痕跡を消し、一分計を服の中に入れると、さあ行こうと、二人をうながした。


 再び真理ちゃんの手を引いての逃亡である。今はまだ深度一を解けない。オレたちは駅の交番の近くまで辿り着いてから、ようやく深度一を解いた。


「今度はどうにか成功したね」

「日常で追いかけてくる以上、逃亡先を交番に変更したことに意味が出てくる。これだけでも保険は充分だけど、もう一つ」

「擬態用で作ったマスクを使って顔を変えてしまえってことだろ?」

「そう」

「え? マスクって一つだけじゃないの?」


 真理ちゃんがビックリしてオレに訊いて来た。なので教えておく。


「一つだなんて言ってなかったでしょ。剥がそうと思えば剥がれるって、そう教えたはずだけど」


 すると真理ちゃんが頬をぷっと膨らませた。


「そんな意地悪な言い方しなくても」

「「あはははは」」


 オレたちが声を上げて笑うとようやく真理ちゃんも肩から力を抜き、緊張を解いた。


「もう大丈夫」

 弟さまの言葉に真理ちゃんが大きく肯いていた。そうしてオレたちは交番に入った。


 ◇


 エー・トゥールは全て壊したはずだけど。まだジャン・ジゼルとアミックのがあるかな? でもあいつらは催事場の方で忙しいはずだ。ジゼル電気のデモンストレーションは、日本国内だけでなく、全世界が注目しているビッグイベントなのだ。

 自分自身の手でどうこうしようにも動けまい。


 オレが説明を大人になった寛司に任せて、外の方を眺めていると、追っ手達がビル街から出て来て三々五々に散って行くのが見えた。

 仮にオレたちに気づいても、追って来てたはずの顔と違うから気づけまい。

 マスクを作った甲斐がある。偽装成功だった。


 何と言うことでしょう。

 これがつづきを書き始めた時にポイントを見つけてしまった私の気持ちです。

 物語の都合上、子供の言葉で狂言回しをしてる段階で、文章に評価点をもらえるのも望外の喜びでした。本当にありがとうございます。おかげで今回ちょびっとあるまじき風景描写を入れちゃいました。精進します。白状しますと腰が抜けて椅子にもたれかかり、しみじみしてしまいました。重ね重ねですが、ありがとうございます。本当に嬉しかったです。

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