第55話 先回り
「待って待って。展開するの待って」
真理ちゃんにそう言われて、寛司は深度一を展開するのを止めた。
予定では手を繋いで駆け出した瞬間から、深度一を身体だけに展開する予定だった。
「いま思いついたんだけど、つかず離れずで逃げた方が、相手を警察に誘導できるよ」
「あ、そういうことね」
(兄さま。と云うようなことを真理ちゃんが言ってるんだが)
(今は殿でオレが抑えることが出来てる、理想的な状態だ。その余裕はあるから、いいよ。でもやばくなったらすぐに作戦開始)
(おっけ~)
「じゃあ、はいこれ」
「ん? なぁに?」
「これを渡したかったから。てのもあったんだ」
真理ちゃんが弟さまと手を繋ぎながら逃げている。弟さまがダブルで大人の大きさになってるから、まるで親と子のようだ。その走ってる真理ちゃんから弟さまに何かが手渡された。
「これは?」
「あいつらの使ってた銃弾。そのわたしの頸に中ってたやつ」
「拾ってたの?」
「うん」
「お手柄だよ。オレたちの頭の中に、そのお仕事をしなきゃって感覚は全くなかった」
「それと」
「それと?」
真理ちゃんが息を切らせながら言う。
「助けてくれてありがとう」
「大した事してないよ。いつもの状態固定だし。オレも兄さまに助けてもらったし」
「真司くんに?」
「兄さまがオレに深度一をかけてくれたんだ」
「寛司くんがしてたんじゃなかったんだ」
「真理ちゃんは、算数と社会の問題を同時に考えながらできる?」
真理ちゃんは走りながらしばし考える。
「無理。解けても答えを同時に書けないし」
「そういうこと」
そうか。真司くんはそういうことをやってたのか。あの一瞬で阿吽の呼吸で自分を守る寛司くんを守る。そういう事をしてたんだ。よく一瞬でそんなこと思いついたし、実行できたなと感心した。
あの時何が起きてたのか、やっと知ることができた。なるほどなぁ。
ようやく真理ちゃんは大いに納得した。
前を塞がれた。ビルを回りこむオレたちの動きを先読みしたんだろう。
つまりあいつは知恵があると云うことだ。
舐めてかかってはいけない。
「兄さま」
「ああ、あいつはギグズ。アミックの部下だ。セプト人だぞ」
解析を始めたアミック情報の中に、眼前に立ち塞がったあいつの情報は入っている。しかしまた分析は中断だ。
「了解」「あの人も…………」
「展開」
「応」「ん」
オレの合図で身体に深度一を展開した。遅滞ない一瞬での攻防だ。
だがそのオレたちの動きにアイツは対処してきた。わずかな時間差で、ギグズが銃を構える。
「おいおいおいおい。マジかよ」
「でも大丈夫。透過するよ」
基本通りなら、真理ちゃんの言う通りだ。さっきの銃での攻撃は、弾丸は弟さまの体内を透過させることが出来た。位相のずれから更にずれた位相のずれ、今となっては深度一と呼称してる状況から、さらに深度を深めたような代物だ。オレたちの身体に中るはずがない銃弾だった。
だが銃声が轟くと同時に、オレたちの方へと銃弾は飛んできた。やや低い軌道だ。火線としてはオレたちに中ることはない。しかも速度が遅い。銃弾なのに速度が遅いのだ。
「兄さま」
「ああ。やはりオレたちの深度一の方が優秀だ。あいつらの深度一より、オレたちのが速い」
「でも銃弾が進んでるってことは、あいつら、あの弾丸に深度一をかけてるって事になるぞ?」
その寛司の予測を聞いて、オレはかなりびびった。
「そんなこと出来るのか?」
「出来なきゃ銃弾は止まってるだろ。オレたちは加速した世界にいるんだぜ」
そう。確かにそれがオレたちの世界。青い世界は恵風のもたらした、精霊世界の叡知の塊。それをダブルで再現したもの。
「なんか見た感じ、あの弾丸が食い破ってるように、わたしには見えるんだけど」
「「深度一を?」」
だが真理ちゃんにそう言われると、そういう風にしか見えない。確かに銃弾がこの世界の理を食い破ってるというか、食い散らかしてるというか、無理矢理こじ開けてる感じだ。そんな感じで進んできてる。
「警戒だ。遅いから多少はオレたちの深度一の影響下にあると見ていいが、それでもそれを食い破る仕掛けが、あの弾丸にはある」
「真司くん、アレじゃない。壁に張り付いてた時に、壁から追い出された攻撃。それがあの弾丸だったんじゃないかな」
真理ちゃんがそう言った。
そして確かに真理ちゃんの言う通りのように思えてくる。
あの時はオレたちから見えないよう、ビルの上の方に撃ち込んだのではないか。だから警戒してるオレたちも気づかずに、その攻撃をまんまと許してしまったのではないか。
視線誘導か──。
かつて宝探しゲームで、オレが所属するグリクラグループでみんなの視線を下の方に誘導しといて、上にお宝を隠したあの時の事例を、今度は逆にオレたちが喰らったような気分だ。
実際こいつら裏口から出て来たわけだし。
見事に喰らったな。じゃあ、まずい。真理ちゃんの推測でたぶん正解だ。
「警戒。仕掛けはわからんが、おそらく深度一を解除されるぞ。アレは多分そういう弾丸だ」
「だからオレたちを狙ってないと」
「おそらく炸裂した波動を周囲に散らすことで、深度一も解除する代物だ」
「もしそれがそうなら、本当にものすごい科学力ね」
真理ちゃんの言う通りだ。
深度一を科学で操る。出来損ないとか、散々なことをオレたちは言ったが。
(言ったのは兄さまね)
(了解)
オレが出来損ないと散々罵ったが、まがりなりにも深度一を科学で再現出来るなら、それはもう尋常ではない科学の研鑽だ。
人類からどれだけ先を歩いてるんだって話だ。
「兄さま、真理ちゃん、警戒」
弟さまの呼びかけで引き戻された。そしてオレたちが走るその前方で、火線を引いた弾丸がアスファルトに炸裂した。
遅れてぬめり気を帯びた嫌な感覚が、オレたちの身体の中を吹き抜ける。
「兄さまっ」
「ああっ」
消えていた。
確かにオレたちの身体の中に隠して張っていた深度一が、たった一発の弾丸の余波で、完全に食い破られていた。
◇
真司たちのまだ知らない魔気弾。
ギグズによって放たれた、この魔気のこもった一発の弾丸で、真司たちは深度一だけでの対応では限界があることを突き付けられた。
そして深度一が解除される。
前方にはギグズ。そして後方からは追っ手の七人が迫っている。
◇
「やばいな」
真司は想像以上の科学力の差に、ことごとく上を行かれて丸裸にされるのではないかという恐怖を覚えた。
ダブルの、全面開放も考えないといけない。
寛司と真理ちゃんを守るのは決定事項だ。だが、ダブルは──。
ダブルに関してだけは──。
まだ肚が揺れていた。
大まかな流れは物語の最後まで決まってるのですが、真司くん達もそうですが、ギグズお兄さんまで勝手に動き出したので、さてさて、どうなることやら。ライブ感ってこんな感じなんですかね。
昨晩投稿せずに悩んで、悩んだあげく、この流れに乗っちゃえと乗っちゃいましたんで、もう遅いけど。
作者が困った方が読者が喜ぶの方向に転がってくれればいいのですが。
う~ん、ライブ感。恐ろしい子。




