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第1章 幼稚園時代
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第50話 そんな悪いことは、頭になかったぜ

「あなたは宇宙人ですか?」


 その質問にアミックが相好を崩してるが、真理ちゃんはそんなことで質問から逃げることを許さない。大人のずるさなのか、宇宙人の狡猾さなのか、そこらへんの判断は出来ないが、真理ちゃんは同じ姿勢を保持して、事は終わっていないのだよと一歩たりとも譲歩せず、訴えている。

 真理ちゃんは凄かった。

 交渉ではオレたちよりよっぽど頼りになる。きちんとした交渉術を知ってる気がした。そしてそれは宇宙人相手にも立派に通用している。


 無駄だと悟ったのだろう、アミックは姿勢を正した。

 そして告げる。


「退散しよう」

「返事は?」

「言ったではないか。退散しよう、と」


 真理ちゃんはその答えを聞いて、苦しそうに頷いたが、オレからすればアミックの方がだらしなかったと思う。身体をぐねぐねさせてごまかす気満々で、それが大人が子供に見せる態度かと、催事場にいた周りの人たちは思ったんじゃないかな。

 相手がはぐらかそうとして来ても、真理ちゃんは同じ姿勢を貫き通したのだから、四歳にして、真理ちゃんの方がアミックより品格で(まさ)っていたと思う。


 それにしても、何故解析をかけたらバレたのかがわからない。今まで誰もダブル発動をわかった者などいなかったのだ。

 アームが憑いていないのに、人間の、宇宙人の力だけでわかったというのだろうか。


 いや、あの機械か。


 オレは退こうとするアミックのかけてる片眼鏡を観た。

 あれがただの片眼鏡でないことは、ダブルの解析でもうわかっている。


 ちなみにこんな風に真理ちゃんを見届けながら、考えを巡らしているのには、ちゃんと理由がある。もう面倒臭かったので催事場の建物自体を解析して、全ての解析のデータは取っておいたのだ。後は詳細に分析をすすめてけばいいわけだが、その前に、催事場の人の目を懸念して、アミックがここは退くと言った以上、精霊が憑いていないのに位相のずれを起こすことが出来た、あの機械のほうにこそオレは興味がある。


 解析を読み取ってくと、あの片眼鏡の名称がわかった。エー・トゥールというのか。advance tool、その頭文字を取ってエー・トゥール。

 補助具ということでassistive deviceとも呼ばれてもいるらしい。そしてジャン・ジゼルやアミックが付けてた片眼鏡が、視覚補助assistive device eyeでエー・ディー・アイと細分では呼称してるのね。


 まあいい。次だ次。


 オレはエー・トゥール関連を分析して行く。

 すごいな。神経に直接組み込まれていて、己の意思のままにその性能を発揮する補助具のようだ。


 するとアミックの付けてるエー・トゥールが、オレの解析を確認して、緊急警報をアミック配下の者達に発令した。

 自動? 防衛反応? てか動くのかよ。


「発動しろ」


 アミックがたったひと言放った。

 ひと言だけだ。

 その放たれたひと言だけで、途端に世界が色彩を変えて行った。透明な世界に色がついて行く。

 そしてオレはこの現象を知っている。最近では毎日のように繰り返して、恵風を空に解き放ってたりする。

 だがその色彩は見慣れた青ではなく、赤かった。赤い世界が広がり始めていた。位相をずらしてるのだ。そしてこれは位相を縦にずらす、例のこいつら独特の物だ。しかし気を向けるべきはそこだけではない──。


 完全にやられた。

 こいつら、連絡とれる手段があるのか。スマホも、無線の(たぐい)も持ってないと高を括っていた。


(退散って言葉にもね)

(ああ。まったくだ。そこもやられた)


 子供を騙し討ちにかけるような、そんな悪いことは、頭になかったぜ。


 信じやすいのは、オレたちがそういう環境で育ってきたからだろう。嘘を()いた大人なんて、今まで数えるほどしかいなかった。

 でも相手は宇宙人なのだ。

 敵でもあるのだ。

 敵ならば、相手を騙すことなど普通にやって来ることではないか。やられるまで頭の片隅にもなかったオレたちが幼いのだ。


(だが弟さま、動くなよ)

(ん? ああ、そういうことね。おっけ~。そんな悪いことは、頭になかったぜ)

(学んだことは、すぐに応用しましょう)

(ん。ワルだな。オレたち)

(そういうこと。我慢しろよ、弟さま)

(我慢じゃなくて状態固定かけようよ。そっちのが楽だぞ、(あに)さま)

(おお、天才かよ。そうする)


 そしてオレたちはアミックが赤い位相のずれを完成させるのを待った。オレたちのやる位相のずれより展開が遅い。てか、倍ぐらい遅い。


 だが効能はオレたちがするのと同じだ。人の動きが止まっている。おそらくすごく遅くなりながらも動いてるのだろう。

 そしてオレたちの動きが完全に止まっているのを見届けてアミックがニヤリとする。

 撤退を示唆していた歩みはすでに止め、今は動きの止まった真理ちゃんの方へと歩を進めてる。


(何する気だ、アイツ?)

(どっちにしろ油断したところを狙って撤退だ。もうこのジゼル電気のデモンストレーションに用はない)

(だな)


 そしてここも恵風準拠だとオレは思った。

 アミックにオレたちが魂の回廊で交わす言葉が聞こえてない。


(あ、おい兄さま)

 呼ばれてオレも気づく。

(おいおい、マジかよ)


 アミックが真理ちゃんを拉致しようとしていた。

 動けない真理ちゃんの腰を抱いて、無造作に持ち運ぼうとしてる。


(どうする、兄さま)

(いや、まだだ。様子見して、確定させてから虚を突く。目の前で動いたら、あいつに情報をあげるようなもんだ)

(そうだな。オレたちが隠してるように、アミックも隠し球があるかも知れない)

(解析を分析する時間が欲しいな)

(そうだね。矢継ぎ早で正直対処としてはなってないぞ。ぜんぶ後手だ)

(しかしアイツ、真理ちゃんをどこまで運ぶ気だ?)

(関係者用の控え室とかじゃないかな)

(さすがにそこまでは行かせないぞ)

(了解。にしても思ったよりこの位相のずれは広いな)

(オレたちより広い範囲を取ってるみたいだな)

(別にどれだけ広く範囲を取ろうが効能はおんなじで、時の流れが超遅くなって人には認識できなくなるだけなのにな)

(セプトの人間には、これが意味あるのかな?)

(それも後で解析してからだな。そろそろ追おうか。姿が見えなくなる)

(それじゃあ弟さま。恵風作戦だ、透過して行こう)

(応)


 と返事して、オレたち二人とも同時に気づいた。


((透過できなくね?))


 後ろの壁を透過して不意打ちをかけようとして、肝心の透過が出来なかった。

 すぐに他も試す。


(空中かけっこも出来ないぞ)

(沈みもしない)


 欠陥位相だった。位相のずれと言うが、こんなのは欠陥だ。欠陥位相だ。


(いや、兄さま。優位に立てる部分をようやく見つけた。そういうことだ)

(なるほど。物は考えようだな)

(実際そうだろ。これまでの展開、全部負けてるぜ)


 うん。全部先手を打たれてる。


(じゃあ弟さま。オレたちはオレたちの位相のずれを、オレたちの身体だけに展開。できるか?)

(やってみた。うん、出来る)

(じゃあこれで、いつも通りにやろう。弟さまが真理ちゃんの奪還。オレが足止め。お~けい?)

(了解)


 そしてオレたちは後ろの壁を透過する。そのまま壁の中を走り抜けて、あっという間にアミックの前面に展開する。


 襲撃場所は関係者用出入り口だ。ここで真理ちゃんをかっさらって、そのまま外にトンズラする。


(そうだ。弟さま)

(なんだい兄さま)

(空中歩行は見せないでおこう。手札は出来るだけ伏せておこう)

(了解。透過だけってことで)

(ああ。じゃあ行くぞ)


 そしてオレは壁から飛び出して、アミックの陰嚢(いんのう)を思い切り叩き上げる。オレたちの背の高さじゃ、ここが一番届く、人体にとっての急所だった。しかもかつて叔父ちゃんちでの実証実験付きだ。

 おちんちんは上から叩く分には痛くないが、下から叩くと立ってられないほど痛い。オレと弟さまは自分で試して悶絶した。人生で味わった中で、一番痛かった痛みだと言ってもいい。


 そしてアミックも悶絶した。

 宇宙人も急所は一緒らしい。


(真理ちゃんは取り返したぞ)


 弟さまが一瞬で真理ちゃんを取り返していた。まあアミックは人生の地獄を味わってるところだ。真理ちゃんどころではないな。


(よし、撤退)


 そして弟さまを先に走らせてオレが後衛につくと、いきなりバチンと位相が揺れた。

 何だこれは。動きずらいぞ。

 よくわからないが、アミックに何かをされたようだ。


「こんちくしょっ、と」


 オレもすかさずお返しする。

 痛みを堪えて立ち上がろうと頑張ってるアミックの足下(あしもと)から、いきなり風刃を立ち(のぼ)らせる。

 完全な牽制だ。だが見えない位置からのサイレント精霊魔法だ。これでアミックも迂闊に追いかけてこられまい。追いかけたら切り刻まれちゃうぞ。

 するとアミックの叫び声が聞こえて来た。


「何だこれは。魔気がないのに何故こんなことが出来る」

「おいおいどうなってんだ。何であのガキ達、深度一で動けてるんだ?」

「いいから追え」

「いやしかし……、消えたぞ」

「捜せ」


 オレたちは真理ちゃんに位相のずれをかけて壁を透過して、完全にアミック達から姿を隠した。


「絶対に探し出すんだ。最優先事案だ」


 デモンストレーションはどうするんですと騒ぐ部下に、アミックがそう告げるのが聞こえた。

 それを最後にオレたちは完全に外に出る。ビルとビルの間だ。すると真理ちゃんが弟さまに手を引かれながら、息も絶え絶えに言った。


「ちょ、ちょっと待って」


 真理ちゃんの珍しい懇願姿にオレたちは海援グループのビルの脇で立ち止まる。そして死角の壁に身を寄せる。位相のずれは当然かけている。もちろんオレたち製の青い世界だ。それでも用心は必要だ。

 そしてオレが周囲の警戒に入ると、背後で精素酔いで苦しむ真理ちゃんから久しぶりに、うげーっと吐く声がした。


 弟さまが尋ねる。

「大丈夫?」

「だいじょぶ。なにあいつらの、赤い位相のずれ。物凄い気持ち悪かった」

「意識あったの?」

「うん。位相のずれには、もうだいぶ馴れたんだと思う。動けはしなかったけど」

「精素が残ってたんだね。よかったよかった」


 そこでオレは話を切る。


「さて、真理ちゃん。悪いけど逃げるよ」

「逃げるの?」

「逃げるさ。これでも結構ギリギリで、懸命に逃げてたんだぜ」


 オレは真理ちゃんを背後に警戒しながらそう告げた。


「撤退戦?」

「ちがう違う。隠滅戦、隠匿戦って感じかな」


 出来ればオレたちの存在を奴等から消し去りたいぐらいだ。だから可能なかぎり痕跡を消す。オレたちが惑星セプトのことを分析したいように、あいつらからオレたちを分析できる材料を消したい。

 そういうことだ。


「敵は今まで誰にも気づかれなかったダブルにも気づくような奴らだ。加えて詐術も平気で併用する。園児のオレたちと大人では、ダブルの有利性が担保されなくなった今、甚だ不利でもあるしね」

「兄さま。ちょっとオレは大人になるよ」

「大人に偽装して逃げるのか」

「そう」

「じゃあ真理ちゃんを頼む」

「ん? 兄さまは?」

「もちろん殿(しんがり)だ。百貨店爺ちゃんのところに逃げ込むぞ」

「了解」「わかりました」


 口にした以上最善を尽くそうと頑張りました。

 どうにか「出来たら投稿」できました。本日二本目です。喜んでいただけたらいいのですが。もう直す体力もありません。

 皆様、よい夜を。お休みなさい。

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