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ダブル  作者: 茶の字
第1章 幼稚園時代
5/182

第5話 ある日の幼稚園

 今日は薫風幼稚園に入園する前日なので、家族全員で入園祝いで写真屋に来た。お父さんが眠そうだ。本日休むために、昨夜も仕事で遅くまで頑張ってたらしい。


 ありがとう、父よ。


 で、写真を撮る前に、母と祖父母はデパートで買い物に、オレと寛司は父に連れられて日比谷公園に来ている。

 平日の午前中だからか人はまばらで少ないように思える。

 父がオレたちのために、あんまんとパック牛乳を買ってくれた。日だまりの原っぱの(きわ)に座り、湯気が立つほかほかのあんまんを堪能する。

 ひとくち()むと、熱と甘みとが口中で一気に広がりはふはふといきをはきつつその餡の甘みを堪能する。この餡は、熱が広がった後から微かな塩味がして、その塩気が餡の甘みを引き立てている。

 うちの餡とはまた違った()し具合だ。

 うまいです。あんまん最高。

 すると隣から鼾がした。

 父が眠っていた。

 これは、ある意味時間差での春眠暁を覚えずってやつですな。


(いや、ちがうでしょ)

(え? でも誤差の範囲だろ)

(だって夜から朝の話だろ。朝から朝じゃ、全く綺麗に流れないし)

(む。そう言われるとそうだな。じゃぁナシの方向で)

(おっけー。で、どうする? お父さん起こす?)

(いやいや。そこはゆっくり寝てもらおう。こんだけ広いし、走る実験してみたくない?)

(ああ、そうだね。これだけ広い所で走れる機会は中々ないよね)


 寛司がニヤリとした。

 オレの意図を正確に読み解いたらしい。


 ということで、ダブルで筋力を強化して走ってみることにした。


「とりあえずテニスコートの脇を、人がいるから、ここは普通の状態で走ってみようぜ」

「おっけ~」


「よーい、どん」

 お父さんを置いて走り出した。

 風を切って走る。お母さんと走るとすぐ疲れたとか言われるが、オレも寛司も疲れたことなど一度もない。疲れるってどんな感覚なのかわからない。

 大人になれば体感するんだろうが、概念ではわかっても今は実感は全く出来ない。

 これもダブルを使う際の「あるある」いつものことだ。

 余計な事を考えてたら、また寛司に少しだけ負けた。

 寛司の集中力はすごい。

 ひとつひとつを、きちんと目的に沿って集中する。これが思索となると寛司も意識を広げるので自分と同じようになるが、運動をしてる時の寛司は一途だ。

 オレも見習わないといけない。


 だけれども走るのは大好きだ。自分の足で走るのは楽しい。

 オレと寛司は笑って、人がいなくなる隙を見計らった。

 その前に設定を決める。


「今度はお父さんをゴールにしよう」

「おっけー」


 再びダブルで筋肉を強化する。骨に状態固定をかけて、腱を太くして強化をし、筋繊維も心ばかり、プラス十マイクロメートルほど太くしてみる。


「よーい、どん」

 自らの合図に、真司は駆け出した。だがなぜか寛司が駆け出さない。

 呻き声も聞こえたので、変に思って真司はもとの場所にもどった。


「な~にやってんだよ、弟さまよ」

「やべっ。動けない」

「いつもと違う感じにしたの?」

 寛司が肯いて、目をつむる。

「間違ってない」

 自分に解析をかけたらしい。だが走り出そうとすると動けないようだ。

「どれどれ」

 真司も解析をかけてみる。多角的に物を見るのは紐解く際の基本だ。

「腱に状態固定かけてるじゃん」

「ああ、それ。切れたりしないようにね」

「このパターンじゃ動けないってことだな。壊れないようにする状態固定と、動いても壊れないようにする状態固定があって、それには多分、微妙な加減がいるんだろうな」

「なるほど。わからんが、わかるようにならないと動けないって事だな」

「探りさぐりやってんだから問題ないだろ。オレもそのパターンでやってみるか」

「試してみたいパターンなら、プロ野球選手に触って解析したいよな。爺ちゃんの友達監督みたいだし」

「ああ、それいいね。すごいエンジン積めそう」

「いや、足だけどね。でも、参考になるんだろうな」

「ま、いいや。人が居ないうちにやろうぜ」

「けど探ってたらすぐ人が来ちゃいそうだよね。ここの公園、人気みたいだよ」

 周りを見ると向こうに人影が見えた。しかも団体さんだ。

「そうだね。面倒くさいから、もういつものパターンでいいかな?」

「おっけ~」

「じゃあ改めて、よーい、どん」


 びゅんびゅんと風を切る。

 速い速い。足が軽やかに回る。それが推進力となってさらに風を切る。


(楽しいなぁ、弟さまよ)

(うん。こんな長い距離は初めてだし)


「「イエ~イ」」


 調子に乗って歓声を上げたら、お父さんにぶつかった。


「ほふっ」


 お父さんが悶絶した。オレたちふたりも、二人して原っぱに転がる。

 草が千切れ飛んで飛び散り、その中をゴロゴロと転がる。そんなことまでもが楽しくて、ついでにもうちょっと転がってみる。

 原っぱの感触が気持いい。


「「あははははは」」


 やばい。これ超楽しい。

 回転が止まって空を見上げると、どこまでも澄んだ青空が遠く広がっていた。

 瞼を閉じれば、そのスピード感がよみがえる。


「「はえー」」


 いつもより長い距離を走れたことでわかった。

 こいつは速い。これまでの比ではない。

 けれども実験でもっと強化出来る気もする。現状でも五十メートルを五秒ぐらいで走れてしまってるんじゃないかと思うけど。


(でもこれは幼稚園ではナシね)

 これまた弟さまからのオーダーだ。

(みんなで同調してやるから楽しいわけだしな。おっけ~)

 と返事をすると、


「おうっふ」

 と父の苦悶の声が聞こえた。


「「あっ」」


 二人はガバッと原っぱから起き上がる。入園用に揃えたスーツが、二人とも草まみれになっていたが、そんなことは気にしない。気にすべきは──。

 気の毒な父のもとにかけ寄る。


 父がひと息ついたことで、ようやっとのろのろと起き上がってる。眠っていたのをいきなりの体当たりを食らったのだ。たまらなかっただろう。

「お父さん大丈夫?」

「ごめんね。お父さんをゴールにしたらぶつかっちゃった」


 怒られることを覚悟して、二人は父を見た。

 父も見る。


 心配そうに覗き込んでくる息子達の姿を見て、吹き出しそうになった。

 おニューのスーツが台無しだ。

 よくもまあこれだけ腕白になれるものだ。

 二人のほっぺたには草汁までもが付いている。よっぽどの勢いで原っぱとこんにちはをしたのだろう。そうでなければ、ほっぺまで緑色にはならない。

 最もそのあおりで自分はもっと直截な痛みを受けたのだろうが、まあ、男の子はこれぐらいがちょうどいい、と宗也はそう思う。


「負けたくなかったからこうなったんだろう? で、結果は?」

「「同時だった」」


 何て楽しそうな顔で報告するのだろうか。

 嬉しい反面、父は我が身の災難を思う。

 せめてどちらか一方の威力であったならば、とも。


 そのまま親子で原っぱに寝転がって伸びをした。

 理由はわからないが、そのまま親子で笑いながら空を見上げた。


 だがしかし、写真屋さんの前で皆と合流したら、腕白小僧共はしっかり母に怒られていた。

「写真撮る前にこんなに汚して」



 真司は思う。

 ダブルで綺麗にしとけば良かった、と。


(泥をのけて、繊維を再生するか元に戻すだけだったもんね)

 まったくだ、と寛司に笑顔を向けると、

「こ~ら」

 と母にコツンと自分だけ叩かれた。


 ──り、理不尽だ。




 登園日が来た。

 以前家族の食卓時に、薫風幼稚園までどうやって通うかということが話題となり、オレたちは即座にかけっことリクエストしたのだが、その時、お母さんに私が疲れるから無理、と破棄された。

 その際、幼稚園まで子供達と駆けっこするお母さんの姿を想像なさいと促され、オレたちは何とも思わなかったが、爺ちゃん婆ちゃんとお父さんが、オレたちと同じように「あははは」と笑いながら走るお母さんの姿を想像したらしく、噴き出した。

 その後、オレたち以外の全員から、母が周囲の人からどんな目で見られるのかをこんこんと説明され、母が奇異の目で見られるのはあまりに忍びないと断念した由もある。

 それでもめげずに代案として、二人で駆けて行くといった案も投じたのだが、あえなく却下されもした。

 確かに子供が先に行き、お母さんが一人が通園してどうするのという話であった。

 しっぱい失敗。

 そうして喧々囂々の家族会議の結果、電動自転車で通園することが決まった。


 電動自転車。

 電動アシスト自転車が国内での正式名称だろうか。海外ではペデレックとも、EAPC(エレクトリカリー・アシステッド・ペダル・サイクル、電動式ペダル補助自転車)とも呼ばれている。


 その電動自転車である。


 なんという甘美な響きなのだろうと真司は思う。自転車なのに電動である。自転車なのに電動なのである。

 素晴らしい。

 マシーンである。

 作れる物なら自分で手作りしたい一品である。

 てか作るだけならダブルで出来るけど──。

 それをしないのは置き場に困るからだ。これはどうしたの、と大騒ぎになる事は目に見えている。我が家の平穏を壊す気はないので、この実力行使はお蔵入りなのであるが、現物さえあればさして問題ではない。

 その電動自転車は、お母さんが吟味に吟味を重ね、いまは我が家の庭先駐輪場に鎮座している。

 何回かお母さんの練習のために乗ったが、電動のおかげでお母さんのスタートもスムースである。これが普通の自転車だったらお母さんは筋肉痛で大変だったろうと思う。オレと寛司がよそ見をする度にお母さんが振り回されて、苦労しただろう。それは忍びないとも思うのだ。

 だがそれらの問題を解決したのが、この電動自転車である。スタート時の重さを感じさせない電動付き。双子を乗せても大丈夫。重くない。

 さらには低重心である。重心が低くなってるおかげで、オレたちがあちこちよそ見をしても安定性に優れ、遺憾なく進みたい道を進むことが出来、オレたちも景色を堪能出来る、それがお母さん専用のこのマシーン、電動自転車なのである。


 EAPC、EAPC。


 ちょっと国際大会でのUSAコールを真似てみました。



「で、お母さん、このマシーンの名前は?」

「名前?」

「名前付けるでしょ、普通。うちの店にだって枡屋って屋号があるし、オレたちだって真司と寛司って名前があるじゃん」

「え? いやよ」

 それは心底嫌そうな顔だった。


「「な、なんでっ」」


 じとっとした眼で見られた。

「だってあんた達、人様の前でもその名前で呼ぶでしょ」

「「うんっ」」

 満面の笑みで即答した。

「だからイヤなの」

「「ええっ」」

「例えば『真司と寛司号』なんて名前を付けられて、商店街で大声であんた達に『真司と寛司号』に乗せてよお母さん、なんて言われたらどうするの」

「「ん?」」

 何が問題なのかがわからない。

「私が抱っこしてあんた達を乗せるのよ」

「「別にいいじゃん」」

「抱っこして乗せてる間に私は周りから、うっわぁって目で見られるのよ。お母さんは羞恥心で、穴があったらどっかに入りたい気分になるわ」

「じゃあ初江号でもいいよ」

 と寛司が言うと、

「もっといやよ」

 とお母さんが拒否した。


 なぜだ。

 お母さんの感情の動きがわからない。

 どこに忌避する要因があるのだ。

 おねだりしてみるか。


 いや、やはり感情で物事を動かすのは、大人の対応としては下策なのだろう。体格は三歳児だけど。

 オレたちの感情とお母さんの感情では、当然お母さんの感情が優先される。養われてるのだから当然だ。だがそこに一石を投じたい。


(兄さまよ)

(ん? 何?)

(今思いついたけど、何かある度に名前を付けた方が、マシーンっぽくない?)

(お? おおっ)

 腑に落ちた。

(言われてみれば、工作機械や車や洗濯機だって、名称は何かある度に呼び名を変えてくもんだな。なんたらかんたら改とか、なんたらかんたら二号とか、数字が大きくなるとか)

(それそれ。それで行こう)

(なら、今はお母さんの許しが出ない号でいいか)


「わかった。今はそれで」

 寛司が返事をした。

「そう。ならいいわね。行きますよ」

 お母さんがお店の方へと自転車を回した。お父さんは仕事でいないが、枡屋にいる爺ちゃん婆ちゃんと従業員の皆さんにはご挨拶と言うことだ。

 土曜日と言うことで早出して仕込みの真っ最中だけど、今日は特別だ。行ってきますのご挨拶は、ちゃんとやらなければならない。


(しかし兄さま)

(ん? なに?)

(お母さんの自転車、足でちょこっと立ち乗りしただけでスイーって進むのな)

(おおっ。本当だ。思った以上に進んでお母さんびびってる)

(あ、普通に手押しに変えたね)

(恐かったんだね)

(そうだね。怖かったんだね。でも、今からオレたち、あれに乗るんだぜ)

(おおっ)


 そうだった。今から電動自転車に乗るのだ。あんな風にスイーっと進み出して、幼稚園までびゅんびゅん風切って行くんだ。

 それはかけっことは別の、マシーンのマシーンたる本義。自転車を更に進化させた人の知恵の結晶。それが電動自転車。

 何て素晴らしい。

 オレはご機嫌になって、枡屋の表に立った。


「真司。お母さん、お父さん達を呼んでくるからちょっと自転車見ててね」

「おっけ~」


 そんなこんなで枡屋の前で爺ちゃん婆ちゃんと従業員のお姉さん達がそろった。中にはなぜか東京駅地下の店の従業員のお姉さんもいたのだが、そこは割愛だ。

 とにかく、爺ちゃん婆ちゃんの万歳三唱と、従業員のお姉さん達の声援に一通りの挨拶を返し終えると、みんなお店に戻って行った。

 出かけようとすると、お向かいの金沢家からも人が出て来た。

 お向かいさんちのお嬢さんもいたが、それどころじゃない。早くお母さんの許しが出ない号に乗りたいのだが、お母さんが金沢の小母さんと真理ちゃんに気づく。


「お母さん、乗せて乗せて」

「もう仕方ないわね」

 お母さんがオレの脇に手を入れて持ち上げてくれる。後部座席にオレは収まった。続いて寛司もまえの座席に乗せられる。


「早く早く」

「はいはい」


 お母さんは返事をするが、薫風幼稚園には向かわず、車が来ないのをいいことに、旧街道を自転車を押して横切る。


「お母さん、漕いで漕いで」

 スイーっと進むのを体験したかったのだが、

「ほら、ご挨拶なさい。真理ちゃんとは今日から一緒の幼稚園なのよ」

 とお母さんが言った。


 お母さんは大人だ。あちらからの挨拶を待つのではなく、わざわざ自転車を押してまで挨拶に向かったわけか。

 たぶん客商売をしてるおかげでご挨拶が生活に根付いてるのだろう。

 自分はわずかな距離でもマシーンで走りたかったのだが、それは叶わなかったのだが、自分の考えの上を行くお母さんが立派に見えた。

 オレは子供慣れして、自制する側面が疎かになってるのかも知れない。

 お母さんが自転車を横に止めた。自然と車道と平行にし、オレたちの安全を確保した上で、通行の邪魔にならないよう配慮し、且つ何気なく全員の顔が見えるよう挨拶しやすい位置に止めている。

 流石である。

 この人が、オレのお母さんである。

 お母さんは、その行動に知性が溢れてる。

 すると、真理ちゃんが自転車に乗ってるオレたちを見上げていた。


「こんにちは。最上真司です」

「最上寛司です」

「「よろしくお願いします」」


「あらまあ、元気ですねぇ」

「本当に腕白で。これからよろしくお願いします」

「どうですか? 一緒に行きませんか?」

「すみません。夫がカメラを探してて、記念写真を撮ってから出ることになりますので、お気兼ねなくどうぞお先に」

「あら、わかりました」


 なら気を遣わせるのはまずい。

「お母さん、すぐに出発しよう」

「こら真司」

 やべ。これじゃ失礼に聞こえちゃうかな。

「また後でね、真理ちゃん」

 寛司がご挨拶すると、真理ちゃんがこくりと頷いた。


 おおっと思った。なるほど、相手の立場からの挨拶なら角が立たないわけだな。オレの失敗をすかさず学び取るとは、さすが寛司だ。

 オレだけ間抜けを晒してる気もするが、まあそれは次回に活かそうということで、前向きに自省を済ましてると、お母さんが自転車のスタンドを解除した。



「じゃあ金沢の小母さん、失礼します」

 とオレは挨拶した。

「あらあら、かわいいご挨拶ですね」

 今度は成功したようだ。よかった。

「失礼します」

「はい。また後で。真理をよろしくね」

「はい」

 しっかりと頷いている。

 寛司はそつがない。

「では初江さん。うちのことで待ってもらうわけにもいきませんので、どうぞお先に」


 ということで金沢の小母さんからの許可も出たので──

「お母さんの許しが出ない号、発進っ」

「ちょ、ちょっと真司? 何言ってるの?」

「行け行け、お母さんの許しが出ない号」

「ちょっと寛司まで。おほ、おほほほ。ごめんなさいね。それではお先に失礼します~」


 初江は思う。

 これでは真理ちゃんの家に許しを出さないみたいではないの。てか金沢財閥に許しを出すってどんな家柄だって話よ。

 初江は、過去最高の走り出しをして、その場を発った。

 恐くはなかったらしい。


「「じゃあね~」」


 真司と寛司は、真理に向かって大きく手を振る。

 真理も、胸の前で小さく手を振った。

 真理は男の子とはあまり話したことがなかったけれど、この二人からは粗雑な感じは受けなかった。

 どんどん小さくなってく影から、真理の耳に元気な声が届く。

「「EAPCイエイイエイ」」


 楽しそうにはしゃぐ同級生に、枡屋の女将が怒ってる声も聞こえて来た。


「ちょっとあんた達何言ってるのよ。何よさっきのお母さんの許しが出ないって」

「「お母さんの許しが出ない号だよ」」

「そうじゃなくて、もう」


 ちょっとクスッと笑ってしまった。

 それ以上は真理の耳にも遠くなって、聞こえなくなった。


「双子って楽しそうだね」

「のびのび育ってるわね。大人にも物怖じしないし。うらやましい?」

「釣り出そうとしてくる人じゃないよね」

「最上さんちはそうだね。お向かいさんにとっては財閥の家なんて珍しくないのよ。何より真司くんも寛司くんも家の中に枡屋さんがあるようなものだし、その枡屋さんでは従業員もお客さんも大人ばかりだし、大人に慣れてるのよね」

「いつもお客さん入ってるよね」

「老舗なのよ。江戸時代からあるらしいわよ」

「江戸時代?」

「お侍さんがいた時代よ」

「すごいね」

 真理は少し考える。

「お侍さんが、昔は一番偉かったんだよね」

「そうよ。昔はお侍さんが国を治めてたんだから」

「大人でもお侍さんじゃない大人の人は、お侍さんが恐かったりしたのかな?」

「それは悪いことをした人は恐かったかもね。でも悪いことをしてなかったら、恐くなかったそうよ。枡屋さんだってその頃からお侍さんにも御菓子を売ってたんじゃないかしら?」

「そうなんだ」

「それに何より、真司くんと寛司くんのお爺さんは、都議会の議員もしてるのよ。国ではないけれど、東京都を治めてって、ああ、そうか。大人慣れしてるのも当然かもね」

「……そうなの?」

「議員さんには陳情がたくさん来るからねぇ」

「ふうん」

「いい人も悪い人も、あの双子はお爺さんが捌いてる姿を間近で見てるだろうからねぇ。そりゃちょっとやそっとじゃ物怖じしなくもなるでしょうね」

「……へえ」

「枡屋さんは、おいしい御菓子を作るだけじゃないのよ」

「……そうなんだ」

 真理が母親を仰ぎ見た。

「ん? なに?」

「今度、枡屋さんの御菓子、食べてみたい」

「そうね。今日帰ってきたら一緒に買いに行きましょうか」

「ホント? 約束だよ」

「はい約束」


 真理は、薫風幼稚園でも真司と寛司のふたりを、よく見てみようと思った。

 そこに恐い大人に対する、ヒントがあるかもしれない。

 それにもちろん、御菓子も楽しみだ。


 そう決意を固めてると、真理の父、孝介が門前に出て来た。

「遅くなった。早速撮ろうか」

 父が三脚をセットする。デジカメのスイッチを押し、素早くこちらに駆けてくる。

 シャッター音が鳴り、とりあえず出来がどうかと記念写真を確認する。

「うん、念のためにもう一枚撮ろうか」

 真理は父と母の前に立ち、母が肩に手を乗せ、二枚目の記念写真を撮った。

「じゃあお父さん、行ってくるね」

 真理は父に抱っこしてもらい、子供用シートに収まった。

 これから初登園だ。

 少し恐いが、それでも大丈夫なような気もする。

 真司と寛司の楽しそうな空気の余韻が、真理のなかに色濃く残っていた。

 真理、と父に呼ばれた。


「なぁに」

「真理の長い人生で、これから色んな人に出会う。薫風幼稚園は真理の、その第一歩だ。素敵な友達がきっといっぱいできる。真理なら出来るさ」

「……うん」

 気のない返事をしたら、頭をわしゃわしゃと撫でられた。

「大丈夫だ。薫風幼稚園はうちの財閥の系列の幼稚園じゃない。真理に悪いことをしようとする人はいない。安心して行ってこい」

「うん」

「何かあったら先生が守ってくれる。パパとママもすぐに駆けつける」

「うん」

「大丈夫よ、あなた。真理とは約束したしね。帰って来たら枡屋さんでお菓子を買いましょうって」

「ああ。智道さんにでも会ったのかい?」

「いいえ。お孫さんの双子に、ね。胸がすくぐらい元気な子達だったわよ。ね、真理」


 真理が小さく頷いた。

 まだよく知らないけれど、心の底から楽しそうだったし、彼らだって薫風幼稚園はどんなところか知らないはずなのに、そんな幼稚園に行くのをウキウキしてた。


「そうか。じゃあ私も」

「あなたはお仕事頑張って下さいね」

「いやしかし、真理と約束したし」

「何かあった時にはという条件付きでしたでしょ。大丈夫よ。私も大丈夫に思えてきたわ」

「まあ、君が言うなら」

「と言うわけで行ってきます。ほら真理も」

「行ってきます」

「ああ。行ってらっしゃい」


 父に手を振って、真理たちも出かけた。


 薫風幼稚園。

 金沢財閥の系列幼稚園ではない幼稚園。

 名前しか知らない場所。

 取り立てて何が楽しみと言うこともなく、両親が行くことを望んだ幼稚園といった印象しかなかったが、今は──。

 今は、あの双子を見られる場所、というのも追加された。




 薫風幼稚園の入園式は、園庭に用意されていた。

 四つのクラスがあり、ひとクラスは二〇人ほどで、母に言われて真司と寛司は自分たちがくじら組だということを知った。

 真司は寛司と一緒に、園庭に設営された入園式会場の子供たちの座席に向かう。くじらの絵が描かれた一角があり、そこに適当に座る。母の初江は後ろの方の保護者席にいるだろうが、振り返ってないのでどこにいるのかはわからない。

 しばらく退屈してた。だがその後すごい発見があって願い事をお願いしに行き、その後に元の席に戻ると、たぶん先生だろう、知らない顔の女の人が並びだした。

 時間となり、薫風幼稚園に入園式が始まったのだ。

 園長先生のご挨拶の後に、来賓の祝辞と祝電の披露があり、祝電の披露で国会議員の浅野の小父ちゃんの祝電が読まれた時は、寛司と目を見合わせてニヤリとしてしまった。


(兄さまよ。ビックリしたな)

(うん。でもこれさ、浅野の小父ちゃん、オレたちをビックリさせに来たな)

(うん。ひと言も言ってなかったもんな。でもビックリした)

(今日あたり、小父ちゃん来そうだな)

(してやったりってドヤ顔で来るんだろうけど、お土産に、またどこかの名産品持って来てくれないかな)

(ああ、それ、そうなったらいいなぁ)


 それから先生の紹介があり、在園してる先輩達の歌やお遊戯を見せてもらった。


(兄さまよ、これってあれだよな)

(ああ。みんなで遊ぶアソビも運動もできるってことだな)


 家にいた時にはなかった、くじら組のクラスメイトと一緒に遊ぶというのは、それまで未知だった大人数での遊びが出来るようになるということであり、それはとても魅力的であった。


 新鮮だ。

 世界が拓けるというのは、こういう事を言うのだろう。


 力一杯歌い、力一杯お遊戯をし、そして園庭で思い切り遊ぶのだ。くじら組のクラスメイトともたくさん友達になろうと思った。



 こうして入園式は基本終わった。

 これからクラス毎に集まって、クラス写真を撮ることになった。

 そのクラス写真を撮るまでの時間。少しばかり時間が空く。

 そう思ってると、

「真司くん、寛司くん、滑り台行こう」

 と先程仲良くなった田中健太郎くんが誘いに来てくれた。




 この田中くんとの出会いは衝撃だった。

 くじら組の座席に座り、真司は暇を持て余して、隣にいる子はどんな子だろうと、つと横にいる男の子の足下をさりげなく見たのだ。


 そうしたら、ものすごい靴を発見してしまった。

 その靴はビカビカに磨き上げられた鏡のような革靴だったのだ。のぞきこむと自分の顔が映る。まさに黒い鏡だった。

 こんな靴は生まれて初めて見た。

 うちのお父さんも靴を綺麗にしてるけど、ここまで鏡みたいにはならない。


「すごい革靴だね」

 真司は話しかけた。

「え?」

「あ、オレ最上真司。隣にいるのが弟の最上寛司」

「こんにちは」

「あ、こんにちはぁ。俺は田中健太郎」

「田中くんか。で、その靴だけど凄いね。こんな鏡みたいな靴は生まれて初めて見た」

「これ、俺のお父さんが作ったんだぁ」

「マジで?」

「うん。お父さん、靴職人だもん」

「職人さんかよ。凄腕だね」

「よくいわれてるみたい。芸能人とかも頼みに来るんだよ」

「「すっげー」」


 というわけで田中くんにお父さんのところまで連れてってもらった。


 田中くんの人物像はというと、田中くんは口調がのんびりしてる。だがお父さんはバシッとしたスーツ姿が格好良く、スーツを着ててもわかるほど筋骨隆々だった。まるでスポーツ選手のようだが、田中くんのお父さんは靴職人だ。

 で、そのお父さんに、田中くんが入園式に履いて来た革靴のあまりの美しさに、作り方を教えて下さいと二人して頼んだら、いきなりのことに驚くお父さんに、田中くんが双子から頼まれたんだと笑って一緒に父親に頼んでくれた、そんなナイスガイだ。


 そうして田中くんのお父さんからは、靴作りは力が要るから、大きくなったらなという約束を得た。

 そうしたらなぜかお母さんがオレたちの後ろにやって来て、申し訳ありません、もうしわけありませんと平謝りに謝ってたが、大人の会話なのだろう。省みる気はない。ていうか靴、作りたい。


 そんな田中くんに真司は返事した。


「あとでねぇ。最初は弟さまとかけっこするんだ」

「わかったぁ」

 そう言い残して田中くんは、向こうで待ってる別のお友達のところにもどって行った。


(兄さまよ)

(なんだよ、弟さまよ)

(かけっこは無理だろ)


 言われて真司は辺りを見渡す。園庭の真ん中を中心に、子供達とその家族で、人がいっぱいだ。

 ちなみにうちのお母さんは、真理ちゃんのお母さんと話しこんでいた。

 まあそれはいい。


(確かに無理そうだな)

(うん。それとさ、お母さんにくじら組って教えてもらったじゃん)

(うん)

(そろそろ面倒くさくない?)

(何が?)

(オレたちが文字を読めるって事、そろそろ公開してもいいんじゃないってこと)

(いいのか?)

(テレビで文字を覚えたってことにすれば、問題ないでしょ)


 そう、確かに問題ない。そう思いつつ眼は薫風幼稚園を見渡す。

(あった)

(なにが?)

(人の居ない場所)

 園庭のはじっこに砂場があった。


(よし。じゃあ砂場に走り幅跳びして決めよう。オレが勝ったらまだ秘密。弟さまが勝ったら秘匿公開。おっけ~?)

(おっけ~)

(踏み切り線は砂場の縁ってことでよろしく。じゃあオレから行くぞ)


 目立たないように駆け出す。みんな写真撮影で園舎の前に集まってる。人垣になってるし、ちょうど背中向きなので、まず咎められることはないだろう。


 真司は砂場の縁に、靴の先っぽがあたるのを感じながら踏み切った。

 かけっこも楽しいが、走り幅跳びの(ちゅう)を飛ぶ感覚もとっても楽しい。

 足から着地。

 砂が思ったより散らないのは、自分の体重が軽いからだろう。

 入園式用にお父さんお母さんが汗水垂らして稼いで用意してくれたおニューのスーツも砂でいっぱいだ。イエ~イ。

 そして結構飛べた。印をつけて砂場から退()く。


(いいぞ~)


 寛司に合図を送ると、時を待たずにすぐさま寛司が駆けて来た。


 寛司の体勢が前傾だ。これじゃ遠くに飛べない。

 そう思った瞬間、寛司が前に飛び出しながら中空でとんぼを切った。


「おいおいすげ~」


 そのまま回転して砂場に着地する。だが足の裏から着地出来ずに、野球のスライディングみたいになって着地した。


「いってー。着地失敗」


 半ズボンスーツで剥き出しになってた足の脛あたりが、擦り傷になっている。


「結構ズルッと剥けちゃってるな」

 寛司が周りをきょろきょろ見渡した。

「兄さま、できる?」

「おっけ~」


 弟さまからのオーダーだ。

 真司がダブルを発動した。みるみる寛司の傷が治って行く。

 寛司がちょっと驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうな顔になってる。

 ようし、ズボンもついでに直しちゃおう。兄さまはすごいんだぞ。幅跳び競争は負けたけど。


(しっかしすごい方法思いついたな。弟さまよ)

(いやいやオレじゃないって。昔はとんぼを切って飛ぶ方法があったんだよ。より遠くに飛べるって)

(え? 誰情報?)

(小野先生)

(マジかよ。小野先生の検索したけど、オレ、もう思い出せないわ)

(本当に? なんでだろ)

(まあいいや。勝負は寛司の勝ちでいいけど、それ、オレもやってみたい)

(応、やろうやろう。遠くに飛べるぞ~)



 二人してもう一度砂場から離れる。今度はとんぼのお試しなので全力でなく軽く砂場に向かって走る。

 ひょいっと頭から前に放りこむように飛んでみた。そのまま前方にとんぼを切るつもりで頭を下に振る。

 すると簡単にくるっと頭が回った。そして最初に飛んだ時より前に、より飛ぶ感覚が残ると、足が簡単に上空を回って空も見えた。

 そのまま回転するままに足が砂場に着き、着地もあっさり出来た。


「おおっ。とんぼ成功」

「思ったより簡単でしょ?」

「ああ。しかもこれ面白いな。空が見える」

「へ~。そこまで余裕なかったわ。もう一度……」


 と寛司が言っていると、園庭の写真撮影の場所から、次はくじら組の皆さんですよ~。集合してくださ~い、と声がかかった。

 そちらの方向を見ると、誰かと目が合った。

 ん? 合うどころではない。睨まれてる。


(誰あいつ。弟さま知ってる?)

(さっき田中くんが木下くんって呼んでたな)

(そうか)

(どうする?)

(放っとく。でもあいつには気をつけよう。話したこともないのに睨んでくる精神構造はやばい)

(おっけ~)



 それからくじら組のクラスメイトと並んでクラス写真を撮った。

 みんなこれからよろしく。

 と思ってたら、前列に木下がいた。同じクラスだったのか。めんどくさいな。


(兄さま。真理ちゃんがいる)

(え? どこ?)

(一番前の列の左から三番目)

(あっ、いた)

(おんなじクラスだったんだね)



 入園式が終わり、お母さんが担任の先生に挨拶をしてる。

 山本先生という女の先生だ。ちなみに隣に立つ山本先生のお婆ちゃんみたいな先生は園長先生の奥さんで、小菅先生と言うらしい。

 閉会を宣言されてるし、全ての催しも消化したはずなので解散するはずなのに、なぜかお母さんはオレたちを待たせて先生の下へ挨拶へと向かったのだ。周りのお父さんお母さん達も先生を囲んでいるので、うちだけの特別な事ってわけではなさそうだけど、待たされてる身は退屈だ。

 だが帰りもお母さんの許しが出ない号に乗って帰りたいから待たねばならない。そろそろ話し終わらないかなと待っていると、正門から爺ちゃん婆ちゃんがやって来た。


「爺ちゃん婆ちゃん、こっちこっち」

 手を振ると爺ちゃんが気づいて破顔し、こちらにやって来た。


「何で来たの?」

 爺ちゃんが心外だといった顔をしたが、婆ちゃんが、

「せっかくだから昼は皆で外食をしようと思ってね」

 と言ってオレたちは舞い上がった。


「「おおっ」」


 これは嬉しい。

 喜ぶのにはわけがある。

 我が家は父の料理の腕がプロ級なので、お母さんの骨休みのために休日は外食といったよその家みたいなことはない。休日もあまり外食しないのだ。だから外でご飯を食べること自体が珍しい。よその食事がどんな物なのかも興味がある。


「オレ、ラーメン屋」

「オレは牛丼屋」

 リクエストしてみたら周囲の人から笑われた。

 爺ちゃんも苦笑してる。何かおかしなことを言っただろうか。食べてみたい物をリクエストしてみただけなのだが。

「もう和食屋さんを予約してあるから。ちなみに天麩羅もあるわよ」

「「おおっ。ナスの天麩羅食べたい」」

 婆ちゃんが、お好きなだけお食べと言ってくれた。

 入園式最高。イベントはまだまだつづいていたのだ。


「で、どうだったの? 幼稚園は」


「「とっても楽しそうだよ」」


「そう。なら良かったわ」

 婆ちゃんがオレたちの頭を撫でてくれた。


「新しい遊びも発見したしな、兄さま」

「そうそう。すんごい遊びだぞ、爺ちゃん婆ちゃん」

「ほほう?」

「あ、わかってないな。本当に凄いんだぞ」

「うん。爺ちゃん婆ちゃんも絶対驚く」

 寛司も太鼓判を押した。

 すると爺ちゃんがまたも、ほほうと声を上げた。そして言った。

「儂らはな、宗也と哲也を育て上げたんだ。もうすでに子育ての経験者だ。その儂らがちょっとやそっとじゃ驚くわけなかろうが」

「じゃあ見せて上げる」

 そう言ってオレは爺ちゃん婆ちゃんを砂場に連れてった。


「ほおう。砂遊びか」

「そうだよ。とっても楽しいんだ」

「ほう。どれどれ。何を作って見せてくれんだ?」

「うん? 何言ってるの?」

「何って、真司こそ何言ってるんだ? 砂遊びだろ?」

「兄さま、論より証拠だよ。爺ちゃん婆ちゃんここで待っててね」

「待ってて?」

 婆ちゃんまで困惑した。

 まあ、いいか。論より証拠って弟さまからのオーダーもあったしな。


 オレと寛司は一〇メートルほど距離を取った。

(兄さま。オレが最初やった時ぐらい思いっきりやろうよ)

(いいけど。怪我はするなよ。さすがに爺ちゃん婆ちゃんの前ではダブルは使えないぞ)

(大丈夫だろ。じゃあ、よーい、どん)


 二人して加速した。

 助走は寛司が怪我をした時のほぼ再現だ。三歩で全力疾走状態になった。

 砂場の縁の踏み切り線でふみきって、思いっきりとんぼを切る。

 さっきよりも回転にキレのあるのがわかる。

 やばい。超ラクに回る。空も綺麗だ。

 と、そのまま砂場の真ん中にふたり揃って見事に着地した。

 今度は成功。


「やったね」

「大成功、イエ~イ」

 寛司とハイタッチする。

 爺ちゃん婆ちゃんの方に振り返ると、爺ちゃん婆ちゃんは茫然としていた。


「「どうだった?」」


「どうだったじゃないわよ。砂場遊びじゃないじゃない」

「え?」

「砂場遊びだよね、兄さま」

「うん。砂場で遊んだ」

「イヤ、真司、寛司。これは砂場遊びとは言わないんじゃよ」

「「え?」」

「まったく。おっそろしいことをサラッとやりおって」


「え? すごい技でしょ。寛司が編み出したんだぜ」

「おい、兄さま」

「いいって、いいって。走り幅跳びでオレたちがこれをやれば、凄い記録を出せるぞ」

 あのなぁ、と爺ちゃんが呆れた声を出した。

「昔は大丈夫だったが、前方宙返りは、今は禁止されてるぞ」

「げ。じゃあオレ反則負けじゃん」

「いや。寛司の勝ちでいいよ。大会じゃないんだし」

「いいの?」

「おっけ~」

 もう文字が読めることを隠してるのは確かに面倒くさい。

「何がおっけ~じゃ。もうするなよ」

 兄弟そろって爺ちゃんからげんこつをもらった。


 痛かった。


 驚かせたのはオレたちだから、オレたちの勝ちのはずなのに、何故か爺ちゃんから怒られた。

 でもげんこつをくれた爺ちゃんは、不思議と満面の笑みを浮かべていた。


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