第49話 情報の共有さえ…………
真っ先に考えたのは、ジャン・ジゼルにアームが憑いてるのか、と言うことだった。しかしそれはなかった。
ジャン・ジゼルに風の精霊アームは憑いていなかった。
ならばジャン・ジゼルを狙った動きがあると考えてたオレたちの読みは、的外れだったと云う事だろうか。むしろ逆に誘蛾灯として使われた?
精霊を蛾あつかいするのもなんだが、あいつらがやってることはそういうことだ。
ならば今アームはどうなってるのか。精霊を蛾のように扱えるなんて、アームからの攻撃が絶対にないと考えていなければ、起こせない行動だ。
先程までとはまた違った意味で、不穏な気配を感じる。てかマズイだろ。
今はここまでにしておこう。あいつらの手口を探るのが先だ。
そうだ。誘蛾灯として使われたことだ。そこから──。
放っておけない恵風が焦り、その焦りを不憫に思ったオレたちが動いて、二匹目のドジョウとなってしまったわけなのか?
そこまでわかった時に、弟さまが握手を拒まれた。ジャン・ジゼルにその手を振り払われたのだ。
子供の手を振り払ったために、視線がジャン・ジゼルに集まる。
「申し訳ありませんが、急に体調が悪くなりました。ここで失礼いたします」
次は真理ちゃんの順番というところで、ジャン・ジゼルの握手会は突然に終了した。
こりゃ孝介さんに怒られれちゃうかな。客寄せパンダとはいえ、今となってはジャン・ジゼルは世界的な権威だ。
そこへお父さんがオレたちの元へやって来た。
「どうした。真司の次は寛司か」
随分な言われようだがこれは致し方ない。去年木下と喧嘩して、どえらい迷惑をお父さんにはかけている。もっとも、木下の親父とジャン・ジゼルとでは、迷惑をかけても反響の度合いに相当な違いが出そうだが。
「あ、心外だな、お父さん。オレ、手を振り払われて傷心なのに」
そういって弟さまはジャン・ジゼルが消えた関係者用の出入り口を眺めている。すでにジャン・ジゼルの姿は影も形もなかった。
このイベントの係員の人が並んでた人たちに急病なので申し訳ないと謝っている。こちらにもすげなくされた張本人が居るという事で、係員の人が謝りに来るが、謝られるままに気にしてないことを伝える。
本当に気にしてないからだ。あいつは客寄せパンダに過ぎない。
むしろ気にすべき奴は別にいる。その気になる奴が、オレは気になって気になって仕方がない。
「とりあえず、お父さん。オレたちはちょっと百貨店の方に行くよ」
「お? そうか? 三人で行けるか?」
「行けるに決まってるじゃん」
「わかった。気をつけて行けよ」
「「おっけ~」」「失礼します」
だが外へ向かう振りをしてオレたちは、催事場の最初の展示ブースである蓄電の箱のところで回れ右をする。展示スペースの隅にひっそりと身を寄せる。
真理ちゃんに、とりあえず今わかってることを説明する。
位相のずれは、最初ジャン・ジゼルがやってるのかと思ったけど、解析を進めたらジャン・ジゼルの片眼鏡が発信源だったこと。
位相のずれを片眼鏡から断続的に放射していたこと。
しかしそれはアームではなく、アームは片眼鏡に憑いていなかったところまで説明したら、弟さまにちょっと待ってと遮られた。
「説明はオレがする。それより兄さま」
「応」
「兄さまはとにかく、奴等に連絡が行く前に解析をかけろ。無防備な状態でどれだけ情報を引っ張れるか、それが鍵だろ」
「了解。じゃあ説明は任せた」
そうなのだ。
ダブルの解析に気づくような相手だ。時間が経てば経つほど対策を打たれる。なのでオレは控え室のほうに向けて解析をかける。精度は落ちるが解析は出来るのだ。あいつらは弟さまの手を振り払って、それでお終いだと考えている。
だが甘い。
弟さまの手を振り払って、それで安心だと思ったら大間違いなのだ。
悪いがどんどん解析させてもらうぞ。オレってワルだぜ。
オレはダブルの解析を発動する。寛司お薦めの接触発動ではない。久しぶりの、自分の流儀でもあった遠隔発動だ。精度こそ落ちるが手広く情報を集められる、かつてのオレの一番好きなやり方だった、得意技だ。
奴等の関係者と思しき者が早速いた。
通路を行く、フランス人の護衛が二人。
「動くのがいればそれは精霊という話だったが」
「精霊ってあんなにでかいのか?」
「子供にしか見えんが」
フランス流の小ボケをかましてるのか、皮肉な笑みが日本ではあまり見ない物なので新鮮だ。しかし精霊の存在を知ってることが確定した。こいつらにも解析の手は伸ばしておく。だが先だ。もっと先の大物から情報を得ないと。
オレは解析の網を伸ばす。
というか寛司はオレのがこういうのが得意だから、説明役を買って出たのかもしれないな。今頃真理ちゃんに説明してるのだろうが、目の前のことだけど、今のオレには見えてない。ひたすらダブルの解析に集中してる。
ん。余計なことを考えてしまってるが。
これはオレの性分だ。致し方ない。直す気もない。
ちなみにここまで全開でダブルの解析を使用したことはない。いつもは常に絞って極力プライベートなことは収集しないよう制限を設けてるのだ。
だが今回は違う。知り得ることは貪欲に知って行く。その姿勢で解析をかけている。とにかく集められるだけ情報を集めて、そのあと分析をかけて行く。
アームにはまだ出会ってないから、齟齬はそれほど発生しないと思う。
フランス語の習得も後でしないといけないと思いつつ、更に先を急ぐ。
「何でこんなことになってるんだ?」
「さぁな。社長もアミックのとこに行っちまったからな」
「アミックか。あいつは宇宙人らしいから、下手を打っても光速航行みたいなので、すぐケツをまくれんだろ?」
「完全な光速航行なのかな。ほぼワープって話だったと思うが」
思わずオレは立ち止まってしまった。
ジャン・ジゼルは間違いなくフランス人だった。だがやはり取り巻きは……。
間に合わなかった。
そう考え始めようとした矢先に男がひとり出て来たのだ。
あれだ。あれがオレの会いたかった奴だ。間違いない。
片眼鏡をかけた外国人。だがジャン・ジゼルのかけてた片眼鏡とちがって、実用性を重視したシンプルさが、知的で硬質なイメージをこちらに与えていた。
その男が催事場を見渡す。そして──。
オレたちを見つけた。
逃げ切ったと思ったら解析をかけられ続けてるので、やむなく当人が出て来たと言ったところだろう。
「真司くん、誰、あの人」
真理ちゃんが訝しがったので、オレはあの男、アミックの正体を教えてあげた。
「あれが黒幕。黒幕の宇宙人だ、と思う」
すると真理ちゃんがスクッと立ち上がった。
「真理ちゃん?」
「大丈夫。ここは催事場。人がいっぱいいる。わたしが行くから、二人はいろいろと見張ってて。絶対そっちのがいいから」
困った時には質問しようという幼稚園の教え、いやオレたちの方針でもあったな。それを素直な真理ちゃんは実行して聞きに行く、ということなのだろう。
「いいの?」
と訊くオレに真理ちゃんが頷いた。そして弟さまも賛成票を投じる。
「でも真理ちゃんの案は一理ある」
これで二対一か。
「オレたちが後方待機で気合いを入れればいいだけって話か」「そう」
オレたちのひそひそ話に耳を傾けるわけでもなく、その男はジッとオレたちを見定めていた。待ってくれてるのだろうか。場を弁える程度には、地球のことを軽んじてるわけではないらしい。
だが厳しさはある。他の手段をオレたちに選ばせない気概を感じる。
早くここに来い、そう促してるようだ。
やはりあれが、おそらくアミック。アミック・スゥだ。
惑星セプトからの来訪者。
地球にオーバーテクノロジーをもたらした男。
「あ」
真理ちゃんが動き出した。
「行ってくるわ」
「おっけ~。ちゃんと見張ってるから」
弟さまはすぐに返事したが、オレは間抜けな声しか出せず、その機会を逸した。
真理ちゃんの背中が、気合いが入ってたからだ。
そして真理ちゃんが、アミックと対峙した。
◇
口火を切ったのはアミックだった。
「君のお友達は、セドリックメロディ病は大丈夫かい」
真理は確信する。この人は精霊のことを知っていると。
「大丈夫です」
もう治りましたと添えるべきか。真司くんなら添えて、煙に巻くようなことをするだろう。でもそれじゃこの人に情報を与えてしまう。蛍ちゃんの情報まで調べ出すかもしれない。それは悪手だ。
真理はそう判断した。
黙る。
「それじゃよかった」
アミックからも返事が返される。いまさら気づいたが日本語だ。この人は日本語を操っている。そのことに真理は背筋が凍るような思いをした。
この人は恐ろしい。
本当に恐ろしい。
なぜ日本語を覚えたのか。
ゆるやかにコントロールされた風が催事場を回っているはずだった。真理もそのことは充分わかっている。だがその風が今は冷風にしか感じられない。それもとびきり冷えた風にだ。
恵風に憑いてもらえば良かったと、今さらながらに思った。ジッと促されて余計な動きをすることが出来なかったのが、ここに来て痛い。
恵風がいれば、こんな冷たい風を感じることもなかったのに──。
いや、それでも大丈夫だ。
わたしの後ろには真司くんと寛司くんがいる。
ダブル遣いの二人だ。
この二人を信じられなかったら、今この場に立っていることはない。今も真司くんは解析を進めてるはずだ。時間を稼ぐに越したことはないのだ。
そしてあの二人は誰も気づかない中、見野山病院では恵風とさえ戦って抑え切った。その実績がある。しかも被害も出さずにだ。そして今はそんな戦った恵風と一緒になって、なかよく行動までしている。
真司くんと寛司くんは、そういうダブル遣いなのだ。
わたしは、ダブル遣いの二人を信じる。
そして意を決して訊いた──。
「わたしからも質問いいですか?」
「どうぞ」
「あなたは宇宙人ですか?」
その質問に、アミックは相好を崩した。だが眼は、眼だけはまったく笑っていなかった。
身体言語と実際とが、どちらも制御されてることの証として、その片鱗をわたしたちにこれでもかと見せつけていた。
所用があるのですが、つづきを読みたいだろうなぁと、二本投稿してくれと思ってくれてる人もいるだろうなぁと、ものすごい勢いで読んでくれてるアクセスを見てビビる茶の字です。本当にありがとうございます。
がんばるだけ頑張ってみますが、さて、いつ帰ってこれる事やら。




