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第1章 幼稚園時代
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第48話 発覚

 ジャン・ジゼルが登壇したときは、会場から一斉にフラッシュが焚かれ、まばゆくて目が開けてられないぐらい(まぶ)しかった。

 そしてジャン・ジゼルの講演が始まったわけだが、オレたちは全くその話を聞いていなかった。ただただ周囲に眼を配る。関係のない大人達からすれば、オレたちは落ち着きのない子供にしか見えなかったことだろう。


「来た」

「来てるね」

 真理ちゃんが聞き耳を立てる。

 時折、断続的なブレが生じてるのだ。位相が揺れている。


「仕掛けてきたのね」


 声を小さくして尋ねる真理ちゃんに、オレたちは肯く。


(真理ちゃんと手を繋いでてくれ。いざって時に、すぐ位相のずれに連れてけるように)

(了解)

(オレは社長の周囲を警戒する)

(じゃあオレはいつも通り全体視で)

(頼む)


 そうして弟さまと真理ちゃんが手を繋いだのがわかった。オレはオレで位相を揺らす発信源を探ってゆく。だがわからない。そもそも本当に位相がずれてるのか、それがわからない。


(解析をかけてみるか)

(いや、相手が動いたときに解析をかけるべきだ。ある意味ガチな精霊と精霊憑きと戦うんだからな。こちらから仕掛けるのは敵を利するだけだ。だって敵はオレたちがいるってことを知らないんだし)

(なるほど。そうだな。向こうが動いてひっそりカウンターか)

(その方がアームを引き剥がすのは楽になると思う)


 敵はオレたちに気づいてもいない。発信源を見つければオレたちの勝ちだ。


 オレは講演してるジャン・ジゼルの姿を追った。時折講演の台から(まろ)び出て、衛星のミニチュアを掲げては懸命に説明をしている。おそらく今、送電の謎をおもしろおかしく説明してるのだろう。会場からは笑いが起こっていた。


 そのジャン・ジゼルは聞いてた通り優男だった。しかも若い。二十九歳という若さが、この男がこれからどれだけ地球の文明を押し進めるのか、その期待を集める理由にもなっている。

 そしてフランス人らしく洒落っ気はあるようで、左目に片眼鏡をかけていた。スーツもテラッテラに輝いてて良い布でスーツを仕立ててるようだ。



 ◇



 位相のずれの浅い場所から、何か変なのが聞こえてくることに恵風が気づいた。


「言葉かな? 言葉が飛び交ってるようだ」


 だがその言葉がわからない。真司達の使ってる言葉ともまた違う。

 この星は多言語で、ジャン・ジゼルはフランス人と言っていたから、そのフランス人の使う言語なのだろうかと思って聞き流してると、ハタと気づいた。


 これは精霊世界で、精霊同士でやりとりしてるときの階層で交わされている階層じゃないか、と。

 人間同士がやりとりする、精気の中での会話でもない。こちらの世界では空気だったか。いや、そこはまあいい。とにかく、俺たち精霊の領域で言葉が交わされてるのだ。

 だがこれは、精霊言語ではない。


 見つけた。恵風はそう思った。


 すぐに真司の下腹をこんこんとノックする。

 真司が薄くポッケの入り口を開いた。


「いるぞ」


 恵風はそれだけを告げた。


「恵風、お前は外に出るな。アームを説得する切り札だ。敵にお前が認識されたら手間が増える」

「……了解」


 怒られてしまった。真司も焦ったのだろうか。わたわたとポッケを塞いでいる。だが俺が動くだけの価値はあった。

 未だに何かが交わされている。一定の周期で、一定の強さで、そして放射状にそれは放たれている。

 みんなに呼びかけるときに使う精霊の連絡手段と同じだった。

 懐かしい気持ちがする。

 こんなやりとりを昔はしてたのだ。みんな集まれ~とか、みんなで悪戯しようぜ~とか、そんな他愛もない遊びをするために使ってた呼びかけの手段。

 これはもう絶対に精霊がからんでなければ起こりえない事態だった。

 恵風は我知らず、手の平を開いたり握りしめたりした。

 充分に力が入る。

 俺はここまで回復した。


 アーム、待っていろ。



 ◇



 講演はつづいていた。

 しかしこれだけ位相のずれを連発されると、位置の特定なんか楽勝だと思えたんだが、未だにオレはアームの憑いてる奴の位置が特定できない。

 それは弟さまも同じで、全体を俯瞰して観ているはずなのだが、未だに発見の一報が来ない。

 やはり解析をかけないと、感知だけでは限界があるのだろうか。

 あるんだろうな。

 オレは解析をかけたい誘惑にかられた。でもそれは駄目だとわかっているので、言葉を口にして堪えることにした。



(なあ弟さま)

 呼びかけるとすぐに返事があった。


(なんだい(あに)さま)


(これさ、位相のずれというか、位相のぶれって感じじゃないか?)

(そうだね)

(しかもこう間断なくぶつけられてるって言うか、さ)

(うん。変な使い方だよね。ずらすでもなく青い世界にするわけでもなく、途中でやめて、また元に戻して、その繰り返し。意味がわからない)


 オレと弟さまは顔を見合わせた。


(いや~な感じがする?)

(する)


 やっぱりするのか。そりゃするよな。こんな意味もないことずっとされ続けてるんだもん。導ける答えは一つしかないもんな。

 おそらくアームは、恵風以上にオツムがぶっ飛んでる。

 そしてすぐ近くにアームが居ることも、これでほぼ確定したと思っている。


 それにしても、喜ばしいのにゲンナリしてるのは何でだ。


 そうこうしてるうちにジャン・ジゼルの講演が終わった。いよいよ握手会が始まる。途中からはある意味この握手会がいちばん敵が動きやすい状態だということに、オレも弟さまも気づいていた。

 アームが仕掛けてくるならこの瞬間。

 それは真理ちゃんも同様なようだった。


「たぶん、ここだよ」


 多くは語らない。でもそれだけでオレたちの意思の疎通は図れていた。


 お客さんが握手をするたび、ジャン・ジゼルにありがとうございましたと頭を下げている。それに対応するジャン・ジゼルも、手をクパクパとしてフランス流にだろうか、茶目っ気たっぷりに挨拶を返していた。


「お、浅野の小父さんだ」

 弟さまがそう声を出した。

 浅野の小父さんが感極まって情熱的に握手を交わしている。サングラスを外して握手するその姿に、周りにいたお客さんが、あれ、財務大臣じゃね、と気づきだしていた。

 その後に爺ちゃん、お父さん、叔父ちゃんとつづいてる。やっぱりみんな話を聞きに来てたのね。

 弟さまは気づいてただろうけど、オレはここでその姿を見るまで気づかなかった。ずっとジャン・ジゼルを注視してたもんな。

 そんな風に物思いはしながらも警戒は怠っていなかった。


(兄さま)

(何だ)

(入り口近くとかで物盗りが起きたら、催事場一番奥のここからじゃ不利だなとは思ってたんだが、なんにも起きなかったな)

(そうだな)

(だから確実にこっちに居るぞ)

(狙いは道具じゃなくて、ジャン・ジゼル本人だということか)

(そうだ)


 弟さまのこういう勘は当たりそうだな。

 何か色々と知ってるようだし。あの超臨界水みたいな存在の尻尾もなにか掴んでるみたいだったし。話せば記憶を消されるから、迂闊に口に出来ないけれど。

 まあいい。アレが相手ではないと、敵を絞ろうと、弟さまは言外に言っていた。まずはアームを利用する憑かれた奴を捜すのが先決なのだ。

 ここは弟さまの勘を信じよう。


 だがそれでも何も起こらずに、オレが握手する順番にもうすぐなりそうだった。




「おい真司」

 いきなり呼ばれた。


 出るなと言ってたのに、話しかけて来やがった。幸い会場が会場なだけにみんなジャン・ジゼルに夢中になっているが、あまりにむこうみずな恵風の行動だった。

 オレは慌てて列を離れて、手を拭くふりをしてポッケに手を入れる。ハンカチを取り出すついでに鉄の棲み家も持ち出す。

 これで握手をする汗を拭こうとしてるように周りの人には見えるだろう。

 その間にも恵風が告げる。


「調べろ。解析かけろ」


「それは社長か」

 返事はさせずに鉄の棲み家をポッケにしまう。

 するとすぐに肯定のノックが一度、そうだと言わんばかりにオレの下腹を叩いた。


 オレは弟さまを見る。

 弟さまは無言で頷いていた。恵風がわざわざ言い出したのだ。喫緊の事態が起こってるのかもしれない。

 つまり恵風は、アームとの接触を優先しろと、そう判断を下したのだ。


 ジャン・ジゼルがオレの姿を見て屈んでくれ、そして手を差し伸べてきた。

 オレはその右手を握る。握ると同時にダブルを発動した。


(解析)


 握手をしてくうちに自分の顔が青ざめるのが自分でもわかった。

 そうして解析を分析し始めると、今度は弟さまがジャン・ジゼルと握手を交わす番となった。

 そして、寛司も青ざめる。だがそれも一瞬だけだ。弟さまは気丈だった。オレを見てたから覚悟してたのだろう。


 オレたちは恵風の言ってたやばい物がわかったのだ。

 それにしてもこいつらか。

 こいつらがずっと動いてたのか。

 上から下にずらす位相。だから恵風は空に向かいたがってたのだ。


 位相のずれは、ジャンがやってたのか…………。


 寛司がにこにこしながら握手を交わしている。

 だが突然にその握手してた寛司の手が振り払われる。

 周りがどよっと(どよ)めいた。


(兄さま。こいつ、解析に気づいたぞ)


 マジかよ。オレの時には気づかなかったのに。

 いや、気づいてて泳がされたのか?

 それが二人目の弟さまが現れて方針を変えた、そんなところか。一人なら対処出来るが二人だとどちらかに逃げられてしまう可能性が増すもんな。

 なるほど。いい判断だ。

 しかも解析に気づくか──。


(恵風と同じか)


 オレと寛司は、ダブルの解析に気づいた、二人目の男を静かに見上げた。


追記

たくさんのアクセスに驚いてます。第1話から読もうかと興味を持ってくれた方も多いようで有り難い限りです。ですが最近始めた「出来たら投稿」と違って、当時は文字ジャンキーでガッツリ読みたいと思ってた自分の嗜好のままに投稿してたので、長いです。物語をよく知りたい方か、自分も文字ジャンキーだよって方にしか勧めません。

 ただ、すべてを読んでくれてる方には、物語における布石とか、隠された布石とか、存分に楽しめるものとなってることは断言します。書いてて面白いなぁと思ってたので。

 それと最近ちらほらおられる、全話を読んで、続きを楽しみにしておられる方にも、感謝を。

 あなたがいるから追いつかれたら楽しんでもらえるよう、続きを書くのを頑張ってます。

 必ず面白くなります。楽しんで下さい。断言しちゃったよと顫えつつ。

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