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第1章 幼稚園時代
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第43話 手控えと芋掘り遠足 その三

 芋掘り遠足の予定は結構ゆるゆるだった。

 午前の十時頃に着いて、それからお昼まで芋掘りをし、お昼ご飯を食べ、それから三時まで遊んで幼稚園に四時頃帰るというスケジュールだった。

 バスをバス停に停めなおして再びくじら組のみんなが畑前に集まった後、山本先生が今度こそ行きますよ~と芋掘り畑の前に全員を連れてってくれた。

 そうして案内役の農家の小父さんから、オレたちは芋掘りの基本的なやり方を実演で見せてもらった。

 そしてオレはとんでもないことを知ってしまった。

 なんと芋掘りではシャベルを使うのだ。シャベルである。シャベルなのだ。

 オレと弟さまは一分計を作ってしまったと言うこともあるが、とにかく駆けっこばかりしてるので砂場遊びをした事がない。だから園児の基本とも言うべき砂場でする王道の遊び、シャベル遊びをしたことがないのだ。


 なんということでしょう。


 そのシャベル遊びを遊びでなく、本格的に存分に味わえる機会を得たのです。

 それも芋掘りだ。おいしい美味しい芋を食べられる、芋掘りでだ。

 燃えないわけがない。

 ほってホッテ掘りまくって、食ってくって喰いまくってやるのだ。


「やり方も教わったので、早速やってみましょう~」

「「「「「おお~~~~」」」」」


 山本先生の号令を合図に、各グループのみんなが唱和した。


 早速オレも各グループ毎にわかれて場所決めすると、芋があるだろう辺りにシャベルを突き刺した。それから丁寧に周りを掘ってみる。

 すると知美ちゃんが隣でいきなりひっくり返った。お(しり)から豪快に(うね)の間にドテンと落ちた。そのままあわあわとあとじさる。


「どうしたの」

「む、虫がいた、虫が。びかびか光ってる」


 どれどれと覗きこむと、七色に光る名も知らない虫が蔓の隙間をごそごそと移動していた。まるでゴキブリに七色の色が付いたような虫だ。


「もう行ったよ」

「む、無理」

「仕方ない。父に報告するしかないな。知美ちゃんは虫が出て芋掘りをあきらめた料理人志望です、と」

「ぶえ?」

「きっと料理人の風上にも置けないので弟子失格の烙印を押されることでしょ~」

「た、楽しそうに言うなっ。わかったわよ。やるわよ。やればいいんでしょ。まったく。おねーちゃんも情報で先に教えとけって話よ」


 そうゴネつつシャベルを土の中に突き刺して行く。がんばってね。


 オレは知美ちゃんのお臀の形になった土をシャベルで崩して隠してあげて、それから自分のお仕事に戻った。

 芋の周りを掘り起こしたら、次は芋を引っ張る番だ。オレは嬉々として蔓を持つ。


「うんこらしょ~、どっこいしょ~、よっこらしょ~、どっこいしょ~」

 やばい。蔓を持って引っ張るのが楽しい

「うんこらしょ~、どっこいしょ~、よっこらしょ~、どっこいしょ~」

 するすると網の目のように張り巡らされた蔓が引っ張り上がる。この感触がたまらない。


 そして泥をまとわせながらこの世に姿を現した芋を見て、オレは生まれて初めて芋を掘ったことを実感した。

 大きくもなく、小さくもない、そんな普通のお芋。

 でもこれがオレの初めての芋掘りだった。感動だ。オレ、感動してる。


 するとオレの隣に掘れたね~と言って立つ影があった。

 振り返ると前田くんだった。

 わんちゃんグループは二畝向こうなのに。何でここにいるんだろ。


「俺がしないといけない事だった」


 突然に前田くんが謝ってくる。

 なんだ? さっきの加藤くんのことか? 別にどうでもいい。もう済んだことだ。


「大丈夫さ」


 そう言って土のついた手でポンポンと前田くんの肩を叩いた。

 でも前田くんは自分のグループに戻らない。


「ん?」


 すると知美ちゃんの隣で芋を掘ってた真理ちゃんが言った。


「前田くんさ、本当に気にしなくていいよ。藤平さんも言ってたけど、真司くん、本当に慣れてるからね。ゲロの処理」

「そうなの?」


 前田くんが真理ちゃんに訊いた。


「私もつい最近吐いて、真司くんのお世話になったよ」


 そのひと言でオレは焦った。


「あ。あーっ。そうだね。すっかり忘れてたわ」


 やばい。位相のずれの話ではないですか。そこには触れちゃいけないよ、真理ちゃん。


「忘れてたの?」

 真理ちゃんにジトッと見られたので、頷いておいた。本当に忘れてたし。

「ね。こういう人だから大丈夫。前田くんも気にするだけ無駄だよ」


「なるほど。真理ちゃんのことも忘れるくらいだから、俺がいくら悪い気になっても、微塵も影響を与えないってことか」

「うん、そう」

「当人が忘れてるから」

「そう」

 と当然のように真理ちゃんが肯いた。結構ひどい。いや、忘れてたのは事実だけど。

「だから芋掘りしよう。ホラ前田くんも、戻ってもどって」

「ん。そうするよ。じゃあな真司くん。ありがとねー」


 前田くんはこうして戻っていた。

 だがオレの興味はもうそこにない。次の獲物に取りかかるぜ~と舌なめずりしてシャベルを持つと、オレの左隣で緑川くんがそれはもう掘ってホッテ掘りまくってる。おかげで掘り起こした土の量が大変なことになっている。


「どうしたの?」

「いや、蔓を引っ張ったら切れちゃったからさ」


 あ~、それでひたすら掘ってるのか。

 緑川くんのお宝は、未だ土の奥にその姿を隠している。


「でないねぇ、お芋」


 すると向こうの畝で木下が、加藤くんにゲロゲ~ロと言って騒ぎ出した。今日はおとなしくしてると思ってたら、やっぱり日に一度はこうして誰かしらを虐め出すんだな。

 先生はお昼の場所と準備で、ポットに冷たいお茶を用意したり大きな天幕を張って、日陰の場所を用意してる。

 なら先生の手を患わすまでもない。オレが加藤くんを木下から守る。

 オレはもう基本的に木下の相手はしない。あいつが本格的にオレを避けるからだ。だから誰かしらにアイツがちょっかいをかける度に、オレはそれを飲みこんでしまうことにしてるのだ。


 そもそも悪い奴の思考法がオレにはない。だがアイツにはある。でもオレはアイツには負けない。だから飲みこんでしまう。腐れ縁にしてしまう。

 そんな園児超理論だ。今だから出来ること。


「出たっ、でっかいのが出たっ。それもこんなにたくさんっ」

「おおっ」


 緑川くんの芋は大漁だった。あえて誤字を()てるのがポイントだ。


「ようし、緑川くん、その手でオレのほっぺを撫で撫でしてくれ」

「いいの? 泥が付くよ」

「だからだよ」

「じゃあ」

「おっと、ちょっと待った」

「うん」

「派手に行こう、派手に。みんなに聞こえるようにね。芋掘りついでにどろんこ遊びだよ。ほい」


 オレは右のほっぺを緑川くんに差し出す。


「はい、つけたよ」


 そうじゃないんだよなぁ。緑川くんの素直さがここでは裏目に出てる。

 今度は左のほっぺを差し出す。

「芋掘りついでにどろんこ遊び、みたいな感じで景気よく行こう。景気よく。みんなに聞こえるようにね」

 こそっと囁いたら、緑川くんが大きく肯いた。


「芋掘りついでに~どろんこ遊び~」


 緑川くんが大きな声を出して、オレのほっぺたに畑の土を塗りたくった。

 そうだ。ここはもっと盛大に行こう、もっともっと盛大に。


「あははははっは~」


 オレは大きな声を出して笑い転げた。いっぱい汚れちゃうけど構うもんか。それが目的なんだから。するとお返しをよこせと緑川くんが屈んでくる。

 緑川くんにもオレのやりたいことがわかったようだ。


「お返しだ~緑川くん~」


 そうして緑川くんを餌食にすると、それからはもう二人で近くにいる男子に手当たり次第に土をほっぺに付けまくる。付けまくって遊んだ。

 これでもう木下も加藤くんにキタネ~とか言って虐めてられなくなる。だってみんな泥んこになるから。

 こうして道化になる事で、イヤ~な感じの雰囲気を吹っ飛ばし、くじら組を大いに盛り上げるのだ。

 女の子も羨ましそうにしてたんで、とりあえず目の合った馬場ちゃんに付けてあげた。

 両手で盛大に、べたべたと何度も、左右のほっぺに塗りたくる。


「うわ~。馬場ちゃん子役なのに~」

「ふはははは。オレは芸能人だろうと差別しない主義なんだよ」


 誰が言ったのか知らないが、ナイスツッコミありがとう。


「ついでに木下。お前もだ」


 巻きこんでやった。


 みんなから痛快な笑いが起こったが、嫌だという拒否反応は起きなかった。

 喧嘩のように二人でやり返し合ってると、みんなが楽しそうにヤレヤレーと煽ってきた。

 さすがにこれだけの騒ぎになると先生たちも気づく。でも何故か先生たちも、オレたちふたりを止めようとはしなかった。


 すると赤樫くんが涙目で木下と一緒になって、オレに土を付けに来た。


「ふはははは。赤樫くんも参戦かっ。ウェルカム・トゥ・ディス・クレイジータイム」


 みんなの歓声が響き渡る中、ゆー、たっぼい、たっぼい、たっぼい、たっぼい、と弟さまの小さな歌声が聞こえて来た。誰も知らないツッコミをアリガト~。


 しかしなんで涙目なんだ、赤樫くん。オレはこんなに楽しくて仕方ないのに。


「真司くんにこれだけは言っとく」

「お、おう」

「馬場ちゃんが初めて話した男子は俺なんだぜ」


 はぁ? と思ってる間に木下と一緒に赤樫くんからダブルで土をべちべちこすりつけられた。

 うん、これもダブル攻撃だ。ダブルじゃないけど。


「手だってつないだことある」


 その絶叫が悲しげに響くと、すかさず女の子の声がした。


「でも赤樫くん、馬場ちゃんと初めて握手をした男子はだれだーっ?」


 振り返ると梅子ちゃんだった。おんなじイチゴグループの梅子ちゃんにつっこまれて赤樫くんが轟沈した。

 隣にいる木下を恨めしげに見る。


 なるほどね。

 オレが馬場ちゃんのほっぺに土を付けたのが赤樫くんの琴線に触れたのね。すまん。そこは全く考慮していなかった。

 でも、あはははと笑って、馬場ちゃんも楽しそうだぞ?

 そう思って馬場ちゃんを見てたら、その馬場ちゃんにお返しの土を盛大にこすりつけられた。


「アウチ」


 オレが、やーらーれーたーと倒れると、くじら組のみんなが笑った。

 見てみろよ赤樫くん。馬場ちゃんも楽しそうだぞ。

 そうして大笑いしてる馬場ちゃんの隣に立って、赤樫くんもようやく満足そうに笑い出した。

 木下も満足そうに笑ってる。


 オレはこれはこれでありだと思ってたので、ぺたんと畝の隙間に坐りながら一緒になって大きな声で笑った。


 ◇


 木下は思う。

 最上真司はむかつくヤツだ。むかつくヤツだが。俺がむかつくだけの価値がある男だ、と。

 だからついでに土をもうひとかけしといた。

 ざまぁみろ。


初めてブクマされて嬉しく思ってたら、消えたのを知って凹んでました。

ダブルはなろうの中でも本当に毛色が違いますからねー。

だからこそ絶対面白くするんだからっ、初めてブクマしたのは自分だぞと、そう思ってもらえるよう、見つけたのは自分だぞと、そう誇ってもらえるよう頑張っちゃうんだぞと、そう思うことにしました。

魁けた、いつかの読者さん。どうもありがとう。

露と消えるか。あー、いい夢を見ました。

本日はもう一本投稿します。そして、手控えを挟んだ意味を後にわかってもらえるよう、進みます。

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