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第1章 幼稚園時代
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第41話 手控えと芋掘り遠足 その一

本日二本目です。前話もお見逃しなく。

「おはようございます」

 今日も薫風(くんぷう)幼稚園に登園すると、くじら組の副担任である小菅先生に挨拶された。先に挨拶するんだ競争を密かにしてるのだが、オレはまだ一度も勝てたことがない。

 お母さんの姿を観てすぐに挨拶できる小菅先生と、お母さんの後ろに座ってるオレの位置的な不利を、いつか覆したいと思ってる。

 ただこの小菅先生には何気にいつもお世話になっている。木下との喧嘩の時も、裏でいちばん走ってくれてたのは、小菅先生だとお母さんから教わった。

 きちんとご挨拶なさいと言われて、いつもと違って自転車から降ろされ、きちんと腰まで頭を下げて「おはようございます」とご挨拶したのはいい思い出だ。

 さて、手控えなのでみんなにザッと触れたい。手控えの意味がわからないお友達には、ぜひこの機会に手控えの意味をしらべてもらいたい。


 まずは内田くんかな。

 オレの喧嘩ごっこ友達にして、最近は木下のお守り役というか、唯一の男友達として、くじら組において木下の介護に忙しい男だ。

 面倒くさいマイ・ルールで世間の空気悪くするような奴だけど、内田くんのおかげで木下はいまも薫風幼稚園に通えてるのだと思う。

 最近は苦労性な男の子に見えなくもない。


 内田くんと来たら、おんなじ天才グループの絵里ちゃんにも触れないわけにはいくまい。

 絵里ちゃんは相変わらず豪傑である。そして男前である。

 木下を見捨てずに、一緒に遊んであげてる面倒見の塊のような女の子である。最近は木下と一緒にサッカーをするために、みんなとの間をつなげまくって大車輪の活躍である。

 そして真理ちゃんとも相変わらず仲がいい。時折真理ちゃんちに遊びに来ては、帰りがけにウチに寄って真理ちゃんと一緒に、寒天ミルクシリーズを食べたりする。


 そして土井垣桜ちゃんだ。

 土井垣桜ちゃんは例の木下の家で、土井垣パパ共々喧嘩の仲裁人になってもらって、オレからすればいわば恩人のような立ち位置なのだが、相変わらず意地悪をしてくる。ただ、三月までは薫風幼稚園に通えることになったよと、もじもじしながらも教えてくれたりもして、意地悪ばかりじゃなくなったのは、いい傾向だった。

 借りが何の話なのかは、まだ聞けてない。たぶん、一生の謎になると思う。


 我がグリクラグループの知美ちゃんにも触れておこう。彼女は正式にウチのお父さんの弟子になった。こないだ餃子の皮を一から作ってる時に、一緒に作り出して、作り方を教わったから弟子みたいですよね、と有無を言わさず弟子を自称するようになったのだ。

 ちなみにお父さんは全く意識をしていない。知美ちゃん、目的のためには手段を選ばない、恐ろしい子、なのである。


 恵風は毎日のように空で探索してくる。だが未だ成果はない。時々飛行機が邪魔だと言ってもっと上空まで飛び出してるようだが、果たしてどこまで飛び出してるのやら。

 地球が丸いのを見たかと聞いたら、丸いぞと当たり前のように答えてたので、それ以上は聞くのをやめといた。

 さすがは風の自称大精霊。空気がなくても大丈夫なのね。



 さて田中くんだ。

 田中くんはオレたちが一番最初にくじら組でお友達になった男の子だ。相変わらずズボンの後ろに垂らしてる革のキー入れが格好いい。そして最近オレは気づいた。


「田中くんのベルト、格好いいよね」

「これ? これね、お父さんが作ってくれたんだ」


 すさまじい衝撃がオレを貫いた。

 いつの間にそんな事になってたんだ。オレは田中くんのベルトをマジマジと見る。柔らかそうな革だ。

 そして何より驚いたのがベルト穴だ。ベルト穴がひとつしかない


「それね。オレ専用だからお父さんがそうしてくれたの」


 何と言うことでしょう。

 田中くん以外に誰にも使わせないのだから、田中くんの身体の大きさに合わせて穴はひとつだけあればいい。

 物凄い潔さです。物凄い一品物です。よく見るとベルトの端の切り口であるコバも、斜め上に優雅に切れ上がっている。

 これが切れ長の目か。見たことねー。かっこいいぞ。一点物だぞ。


 やはり田中くんのお父さんには一度会っておかなければならないと、心を新たにしたのだった。



 さて、わんちゃんグループの田中くんに触れたら、彼にも触れないわけにはいかない。同じわんちゃんグループの前田銀くんだ。

 お父さんが携帯電話の会社に勤めてて、オレたちくじら組の中で唯一スマホを持ってる男、それが前田くんだ。

 犬好きがクラスでは有名だが、実はくじら組で一番現代ツールを使いこなしてる男でもある。

 マジすごい。

 調べ物なんかパッパと調べて、すぐにみんなに教えてくれる。

 一緒に見野山病院にお見舞いにも行ってるし、気のいい男なのである。



 蛍ちゃんのお父さん、徹さんは元気になった。今は立石醤油でバリバリ働いている。

 弟さまは相変わらずもてるし、その身体能力の高さに、年中、年長の人からも男女問わずに声がかかる。

 山本先生にはあいかわらず彼氏ができない。とっても美人なのに。


 ◇


 十月の初旬に、オレたちは芋掘り遠足に行った。

 その名の通り、芋を掘るための遠足である。オレは芋を掘ったことがないので、実はこの遠足をとっても楽しみにしていた。


 芋はいい。芋は美味い。大学芋最高。うちでも季節の商品として、そろそろショーケースに並んでる頃だろう。


 だから意気込んでオレはバスに乗った。バスの座席は先頭がいい。景色がいい。後ろがいい弟さまとはここでは気が合わない。オレは迷わず先頭に座った。一番槍である。


 すると山本先生がオレの脇に立ち、

「真司くん、そこは先生の席だから、後ろの方に座りましょうね」

 と山本先生にたしなめられた。

「じゃあ先生と一緒に座る」

 オレは譲らなかった。譲り合いの精神? 何それ、園児に効くの?

 崇高なる一番槍を、そう簡単に譲るわけにはいかない。

 その打開策である。完璧であった。


「先生の隣に?」

 山本先生が重ねて尋ねたので大きく肯いた。ジッと見つめられたので、誤解されてもいけないと、でも彼氏にはなりませんよと先回りしたら、金沢真理ちゃ~んと先生が真理ちゃんを呼んで、オレと一緒に後ろに座って上げてねと厳命されてしまった。


 なぜだ。


 オレの一番槍計画は(つい)えた。

 せめて二番槍と、山本先生の後ろの席に座った。真理ちゃんは苦笑いしてたけど。でもごめん。いかに真理ちゃんと言えど、譲れるのはここまでです。


「真司くん、そこ、小菅先生が座るところだからね」


 オレの二番槍計画は潰えた。



 そんなことがあって無事バスは出発した。バスの向かった先は日野市だ。日野市ではいい芋が取れるらしい。一昨年も大量だったと、知美ちゃんの姉である美雪おねーさんから話は聞いた。

 美雪おねーさんは相変わらずゲームしてる。園庭で最初はみんなと遊んでるのだが、時間が経つといつの間にかいなくなって、下駄箱の前でいつもゲームしてる。

 知美ちゃんによると、給食の時間になったらとっととキリン組の教室に入ってお腹いっぱい食べたいために、一番はやく教室に入れる場所を確保してるのだそうだ。

 さすがは洋食屋の長女である。食にはかなりこだわりがあるようだ。

 そうしてそんな美雪おねーさんの情報通りに、一時間ほど多摩川の川沿いをゆるりと走ると、待ちに待った芋掘りの現場に辿り着いた。


 弟さまがバスから降りる時、

「新撰組、御用改めである」

 と名乗りを挙げて、御用改めごっこを始めた。

 ちなみに改められたのはオレである。意味もなく弟さまと梅子ちゃんと秋穂ちゃんと彩花ちゃんに、

「その頭にかぶってるのは何だ」

「日除けの帽子です」

「その手に持ってるのは何だ」

「カバンです」

「その肩にしょってるのは何だ」

「水筒です」

「カバンの中には何が入ってるのだ」

「イチゴ寒天ミルクです」


 (のち)に、御用改めで差し押さえられることになった。


 代わりに彼女たちが持って来た果物と物々交換になったけど。

 御用改め、恐るべしである。


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