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第1章 幼稚園時代
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第40話 間口を広げて

 恵風が驚くべきことを告げた。

 この状況で生き残ってる精霊がいるとしたら、それはアームだと断じたのだ。


「アームってのか。何故そいつだと言い切れる」


 恵風が肩をすくめた。


「それこそお前の類推から導き出したんだがな」

「そうなのか?」「詳しく」「わたしも知りたい」


 心なしかオレと弟さまより、真理ちゃんのがワクワクしてる。

 さすが人類で初めて精霊の髪の毛を()いてあげた女の子。恵風のお友達は自分にとっても近しいお友達なのだろう。


「簡単だ。真司の類推がほぼ正しいと俺は思ってる。ところどころ記憶が削れてるんで自信はないが、それでも俺の覚えてるところは一致してる」

「ほう」「裏打ち来たな、(あに)さま」


「おそらくこちらで言うところのセドリックメロディ氏に憑いた人物は、イースだと思う」

「「「イース」」」

「そして基点と言ったベリンダ氏に憑いたのがミーカ」

「「「ミーカ」」」

「そしてお前達のお友達、蛍の父、徹に憑いたのがこの俺、ケーフこと恵風」

「いや、ノリで来ちゃったが、ちょっと待て。お前、覚えてたのか」


 この質問に恵風は頷いた。

 オレは恵風は自分の仲間の名前も覚えてないと思ってたのだ。だって司令官のお名前忘れちゃってるし。

 まさか部下の名前を覚えてるとは思わなかった。それとも同僚とはそういうものなんだろうか。わからん。大人の世界だ。


「たぶん、これだけは忘れちゃいけないという俺の生存本能だろうな。合流できる仲間を忘れたら、一緒に逃げ帰ることも出来なくなる。いや、そもそも一緒に行動できる仲間を忘れたら、生存がますます覚束(おぼつか)なくなるという危機感かな」


「精霊も群れで行動するのか?」「こんなに強いのにか?」

 ほら、ここは精素ってのがない世界だからと真理ちゃんがフォローした。

「「ごもっとも」」


 とオチがついたところで、まぁ、そこは置いておこうとなった。

 今はアームに至った経緯だ。


「しかしなるほど。まさか恵風が覚えてたとはな。よくぞ覚えてたってやつだな、こうなって来ると。はい、真理ちゃん、どうぞ」


 真理ちゃんが手を挙げていた。


「アームさんはこちらの世界に送り込まれた一番最初の精霊ってことでいいのかな?」


 恵風がそうだと肯いた。


「じゃあアームさんの得意技は何? それがわかれば、アームさんの痕跡を追えると思うの。と言うか追うわ」


「よかったな、恵風」「この世界で金沢財閥の力を動かせるなら、ほぼほぼ痕跡はわかると思うぞ」


 恵風が初めて穏やかな顔をした。


「そうなのか?」


「しかも真理ちゃんがその気だからな」「オレなら後は寝て待つわ」

「え? それは寛司くんちょっと酷くない?」

「いやいや、受け言葉でしょ。兄さまが、ああ言ったら次は落とさないと」


 真理ちゃんが弟さまに疑惑の眼を向けてたが、まあ、そこは良しとしよう。流してあげてね。

 しかし恵風が覚えてたのなら話は早い。


「それで恵風。アームの得意技をさっそく教えてくれ。頼む」

「それは順風だ」

「「「順風?」」」

「精霊世界において、アームの作戦遂行率は驚異的だ」


「どう驚異的なの?」

 真理ちゃんが尋ねた。


「その順風の能力でもって失敗なし。成功率十割を誇る大精霊だ」

「マジかよ」「チートじゃん」「失敗なしって凄いね」


 そしてだからこそ難しくなったとオレは思った。

 成功率十割を誇ると言うことは、失敗をしていないということだ。ノーラの方でも自信を持って異世界探索に送り出したに違いない。

 だがそれでも行方不明になっている。


「しかし単体で送り出した理由は何だ? こうして一人ずつ送り出すより、チームを組んだ方が」


 恵風が首を振った。いや、最後まで言わせろよ。


「あー、それは無理だ」

「一応聞こうか。なんでだ?」

「オレたちは群れて遊ぶのは好きだが、任務とか仕事は一人でやりたがるんだ」

「それはまた何故?」

「だって好きなようにやりたいじゃん」


「「「あーーーっ」」」


 ここに来て協調性の問題ですか。

 そうですか。

 精霊は自由に動きたがりそうだもんな。特に風の精霊は、あっちにふわふわ、こっちにふわふわ、今も恵風はひとつ所にいないもんな。ジッとすることが出来ないようだし。

 まぁ、子供のオレにこんなこと言われたくないだろうが、子供だ。


「裏打ちされた実力あってこそだろ?」

「寛司」


 なんか恵風が弟さまの言葉に感激してた。


「で、アームはお前みたいな攻撃魔法は使えるのか? 恵風」

「使えるぞ。俺と似たようなもんだ。それどころか俺と二人で組めば、簡易な宇宙開闢(かいびゃく)風だって起こせるんじゃないかな」

「げ」「マジかよ」「地球史、終わっちゃうね」

「俺たちも消えちゃうけどね」


「「「それ、ダメなヤツじゃん」」」


 てへっと恵風が舌を出した。


 宇宙開闢、ビッグバンだなんてとんでもない。

 しかしなるほど。その気になればそれぐらいやる気概で乗りこんでは来てたのか。つまり、ノーラはそれだけ危険視していたことになる。


「位相のずれは、それほど危険なのか?」


 正直、オレも寛司も楽勝だから、バンバン使ってるんだけれども。


「上司に報告するなら、お前たちの起こす位相のずれは報告対象じゃないな。危険じゃないし。むしろまったく同じと言ってもいい」


 真理ちゃんが、わ、すごいと手を叩いた。

 確かにすごい。精霊の精霊魔法を、精素のない人間であるオレたちが、ダブルでそれを再現出来てしまうというのは、とってもおかしな話だ。


「だが俺の報告したいのは別にある。やはりどこかで位相のずれがおかしいのだ。

 この位相のずれの調査のために、オレたちは遣わされた。精霊が一番精素の動きに敏感だから…………。

 だがこの世界には精素がない」


 そして恵風は悩んだ。


 そもそも位相のずれという精素をもって為す技を、精霊が調査できないと言うことが、根本的におかしな事が発生している原因なのだろう。

 そもそも精素がこの世界にはないのだから。

 ここでもこちらの世界と精霊世界とでの齟齬がある。


「なあ、恵風」

「なんだ」

「お前が今日から空へ探索を始めたじゃないか」

「ああ」

「そこに条件を一つ足してもいいか?」

「物による。何をだ?」

「お前が探索から帰って来たら、その部分に関してのみ、解析をかけさせることを条件にしたいんだがな」


 恵風が腕を組んで漂いだした。羽の動きも止まってるぞ。なのになぜ飛ぶ。

 弟さまが真理ちゃんにそれを指を差して教えてあげると、真理ちゃんも驚いて手を出しかけては引っ込め、また手を出しかけ、恵風に触りたがっている。

 不思議だし、可愛らしいもんな。

 そして真理ちゃんは断念した。恵風の思索の邪魔をしてはいけないと結論を出したのだろう。


 そうして恵風が腕組みを解いて、その場に静止した。


「いいぞ。

 むしろ俺からも頼みたいところだ。俺にわからないこの世界のことが、お前たちの目を通せば、アームの痕跡を、何かを発見できるかも知れない」


 オレたちは頷き合った。

 これで話は決まりだ。


「だがな、恵風」

「なんだ」

「もしかしたら恵風の仲間はその調査で、まだオレたちが至ってないところに辿り着いて、姿が見えない状態になっているのではないかって可能性もある。

 透明になったか、位相のずれに囚われたか、誰かの中に入ってセドリックメロディ病を発症させないで過ごしているんじゃないかとか。

 それならそのやり方はどうなってるとか。

 考えられることは多々ある」


「そこまで広げて考えるのか、兄さま?」

「ああ。間口は広く取ろう。そもそも恵風にききたいんだが、アームの順風というのはアームの固有能力か?」

「精霊それぞれが持ってるが、あいつのは強力だ。他の追随を許さない」

「例えば?」

「俺が手伝った人間の漁を、アイツの手柄に根こそぎかっさらわれたことがある。

 俺が塵風で魚を海の底から海上へと誘導したのに、アイツの順風で魚だけを漁船に運ばれちまってな。さすが大精霊アーム様ってなってたわ」


 なんか言ってて腹が立ってきたのか?

 恵風が怒りのシャドーボクシングを始めた。


「やっぱ、アイツなら助けるのやめようか」


 そんな恵風を放っておいて、オレは弟さまに言った。


「やはり間口は広げて考えよう、弟さま。そうでないとアームが何を起こすか、対処が出来なさそうだ」

「そうだね。しかしこうなってくると、いるだけでチートみたいに運が向く感じのアームが生きてる可能性が出て来たのに、何で恵風がやばいと感じるほどの予感が働くんだろうな」


 言われてみれば確かに。

 すると真理ちゃんが言った。


「恵風がやばいって感じたのは、アームさんがもっと位相をずらさないとこっちに戻って来れない状態なのではないかとか、自力ではもう出来ない事態に陥ってるとか、そう言うことじゃないの?」

 真理ちゃんがそう言った。


「精素切れに関しては、どうにか頑張って()ってもらうことを祈るとして、位相を更にずらすのか。こっちは普通にありそうだね」


 だが恵風は首を振った。

 それは、ありえない、と。


「もし仮にそんなことをしたら、そこではお前たちが作り出した位相のずれのように、アームとて自在には動けないぞ。どこかしらに必ず欠陥がある。あるはずだ。

 最適のずらし方という物を研鑽したはずなんだ。

 もう覚えていないけど」


 あ、この野郎。

 前回のを教訓に、笑われるのを警戒して、恵風が物言いに予防線を張りやがった。

 残念だ。なのでスルーしよう。


「そうなのか? でもなるほどな。精霊の技は精霊が一番詳しい。そこまで文明を積み上げているってわけだな」

「うむ」


 しかし現状では打つ手がないな。ここは地道に恵風に空の探索をしてもらうしかないようだ。

 オレは伸びをして、頭をワシャワシャと掻きむしった。


「あー。これまでオレが何回か位相のずれを起こした時に、アームが来てたかも知れないとかあったらいいのにな」

「それを言ったら、セドリックメロディ病の患者は生まれてないでしょ」


 なるほど。真理ちゃんの言う通りだな。セーフじゃないの、となるな。


「とにかくだ」

 と恵風が言った。

「異常を見つけるのが俺の任務だ。それはこちらの世界の話でもあるし、あちらの世界で俺が受けた任務でもある」


 お、なかなか前向きなことを言うね、恵風は。


 でもその異常がダブル遣いのオレたちなら、どうなんだろうな。

 オレはまだこの推論を捨てることが出来ない。

 この場合は恵風は既にオレたちに接触している。それどころか文字通り懐に飛びこんでさえいる。


 この場合だと、アームは誰にも憑かずに精素を使い果たしたとなる、か。

 それも想像できないな。

 順風という能力がチート過ぎる。


「う~~ん」

「どうした、兄さま」

「これはあれだな。マジで恵風には頑張って空を探してもらうしかないな。限られた時間だが、それでも少しずつ潰して行くしかあるまい」

「うむ」

「時々位相をずらしてさ、ノーラを呼んでみてくれよ。あるんだろ、連絡手段」


 すると何故だか、恵風ががっくりと来ていた。


 ん? なぜだ? 何か悪いこと言ったか?


 そういえば恵風は自分から空で位相をずらして精霊世界には帰ろうとしてないな。

 今日も普通に戻って来たし。


 すると真理ちゃんがオレの肩をポンポンと叩いた。


「病み上がりなんだし、無理をさせるわけにはいかないよ」

「真理ちゃんの言うことも一理ある。恵風が自信を持って回復するまでは、オレたちが位相をずらすことにしよう。幸いオレも兄さまも、位相をずらすことは簡単に出来るから」


 弟さままでそんなことを言うか。

 だが体力はもうあると思うのだ。

 つまり恵風は、帰る方法を忘れてしまってる。もしくは連絡手段を忘れてしまってる。そう見るべきかとオレは思った。


 ──もしかして、やばいとはそう言うことなのだろうか。


 ないな。これも妄想のひとつ、その(たぐい)だ。

 オレは気を取り直して、やれやれ振り出しだ、と言った。

 状況はわかった。これはありがたい。だがその結果、地道に進んで行くしかないのだと、より明確になった。

 肩を落とすべきか、喜ぶべきか。


「ただ、アームに何か遭ったとだけは、そうは考えたくないものだな」


 オレがぽつりとつぶやくと、恵風がしずかに首肯(しゅこう)していた。


追記

誤字を見つけると悲しくなります。打鍵の速度に変換が追いつかないのは、この暑さのせいとわかってるのですが。

勢い止めると文章変わっちゃうので。都度確認はしてるつもりなのですが、この体たらくです。

今回も改マークを付けることになりました。

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