第39話 切り札の名前さえ、俺はもう忘れてしまった
本日二話目です。先達の真似してやってみたかったこの台詞。ついに言えました。
「なあ、恵風」
とオレは言った。
「なんだ」
「そろそろお前の仲間のことも教えてくれないか」
「…………」
「でないとお前は考えることも出来るかも知れんが、オレたちが考えられん」
恵風が疑心の眼でオレたちを見た。
「ならばダブルの解析とやらで調べれば良いではないか」
「あっ。そう来る? そう来ちゃう? それはオレちょっと悲しいなぁ」
「そのバカにした物言いはよせ。寛司はまったくふざけてないだろうが」
弟さまがすかさず反論した。
「あ、それ、オレが真理ちゃんに精霊言語を通訳してるからそっちに忙しいだけで、思ってることは兄さまと一緒だから。双子だし」
「なに? じゃあ、お前も悲しいのか?」
「悲しいというか、ちょっと凹むよな。まだ信用してもらえないのかって」
「それはどういうことだ?」
弟さまがお手上げだとばかりに、オレにどうぞと譲ってくれた。
丸投げである。まぁいいけどさ。意思の表明は大切だからね。
「オレたちはダブルで確かに解析できる。それこそ生まれた時から、オレたちを取り出してくれた小野先生は、オレたちは意図せずとも解析してしまった」
顔をしかめて後悔を示すと、弟さまが後を引き継いでくれた。
「そのおかげで日本語はおろか英語ドイツ語とか、小野先生が体得してきたこれまでの知見や生き方を、それこそ指針として刻み込んでしまった」
その弟さまの告白に、真理ちゃんが驚いた顔をした。
真理ちゃんにもここまで詳しく話したことはないからね。
これは良い機会でもある。
「でもその時に決めたんだ。オレたちは他人を解析できる。
でも他人の同意なしに解析を分析して、プライベートなことまで踏みこまないようにはしようって」
「本当か? 寛司」
弟さまはただ「本当だ」とだけ言った。
「だから恵風、お前のことも、戦った時は戦う際の情報しか引き出してないし、その時でさえお前の戦闘情報は参考にしたが、丸裸にして開陳したりはしなかったぞ」
「マジかよ、寛司」
「その困った時にオレに振るの、だんだん癖になってるよね、恵風」
「あ、いや、うむ。確認は大事だよ?」
「わかってる。邪魔はしない。オレは真理ちゃんに通訳してるから、どうぞ、どんどん話を進めてくれ」
オレが間に入って上げた。
「でもころっと転がされるなよ。弟さまはお前の記憶にあった情報はチーズと一緒で、虫の食った痕のように虫食いの穴だらけだって判断してたろうが」
「あ。そうだったな」
「お前が自分の身体の精素を削ってまで、オレたちと戦った理由はもう察しが付いてる。お前が負けた体を装って、ダブルの物質創造でつくった物体になら精素を補充できるようになってるって事もわかってる」
「お、おう」
「でもな。もうそろそろお前の口から、お前の話を聞きたいんだ。それぐらいの信頼関係はもう築けたんじゃないのか? オレたち、結構お前の前でもバンバン手の内をさらしてるんだが。
ちなみにそこらへん、真理ちゃんはどう思う」
真理ちゃんがちょっと考え込んだ。そして口を開く。
「わたしはもう恵風とはお友達になってるつもりだよ。だからわたしも恵風の事情を教えてもらって、出来ることなら手伝って上げたいなって思うよ」
いい子だろ、恵風。
思わず真理ちゃんにほだされそうになっちちゃうだろ。
さぁ、どんどんゲロってくれ。
弟さまに転がされるなよとは言ったが、オレだってワルなんだぜ~。それは何度も言ってるのをお前も聞いてるよな~、恵風。最後にオレが真理ちゃんをぶつける意味を考えろよー。
そうしたら──、
恵風が殊勝な顔をして言った。
「…………わかった。話そう」
恵風のその言葉に、オレたちは顔を見合わせて、それぞれハイタッチした。真理ちゃんのお部屋に、小気味いい音が響く。
でもあれだ。
事ここに至ると、純粋な気持で言ってたものが不純に見えちゃうから、悪ふざけは程々にしないと行けないな。その事を学んだ。
ごめんよ、恵風、それから真理ちゃん。
「オレがこの世界に送られた四人目だという話はしたな」
「ああ」「「うん」」
「送り出した者、お前の言うところの精霊世界の責任者のことは、もう顔も、名前すら思い出せない」
弟さまが手を挙げた。
「なんだ寛司」
「それ多分だが、ノーラって奴じゃないかな?」
「ん?」「何でそんなこと知ってんだ、弟さま? オレもわからんぞ」
「見野山病院で戦った時、恵風が一度だけ、その名前を叫んだんだ。覚えてないか」
「覚えてない」「わからん」
「恵風はこう言ったんだ『ノーラのお守りを使ったのに』ってさ」
オレは思いだした。
「そう言えばそんなこと言ってたな」
攻守交代。オレは恵風に問うた。
「ノーラのお守りのノーラ。こいつが精霊世界の責任者じゃないのか? じゃないと切り札みたいなのを使ったのに、オレたちにまるで影響が出なかったってのは、変じゃないか? どんな効能か知らないが」
オレは弟さまを見た。
「言いたいこと、わかるか?」
「それはダブルの解析で調べろってことか?」
「そうだ。事ここに至っては、恵風もわかってないようだし、触れた方が良いだろ」
「了解。いいな、恵風?」
恵風が黙って頷いた。
許可が出ると、すぐに弟さまは解析に入った。そしてものの数秒で答えは出る。
「あー、残念だが駄目だ。情報が穴ぼこだらけだ。ノーラのノーはわかるが、そっから先は読めん。恵風は精素の使いすぎ。記憶媒体の精素までつぎこんで精霊魔法を発動するとか、マジで命かけ過ぎなんだよ」
「ということは、かろうじて残ってた言葉が、切り札であったノーラのお守りという単語だけだった、ってわけか」
オレのつぶやきを受け止めて、恵風が途端に悲しそうな顔をした。
だが重要な人物でなければ、強力すぎる精霊魔法が使える恵風が、戦闘時に切り札として使うような道具にはなり得ないはず。
普通に上司である可能性は極めて高いと思う。
「そんなに落ち込むなよ、恵風」
「そうそう」
「ノーラさんに会った時に、こんなになっても頑張ったんだって、胸を張って言えるようにしよう」
その真理ちゃんの言葉に恵風が胸を打たれたようだ。
チョロいとは言わない。
実際それだけ恵風は身体を張った。
やがて恵風が、ノーラか、とぽつりとつぶやいた。
「今は覚えておくだけにしよう。切り札の名前さえ、俺はもう忘れてしまった」
オレと寛司が眼を見交わし合った。
互いの眼がキラキラしてる。
「うわ、言ってみてー」「何その主人公みたいな台詞」
「「切り札の名前さえ、オレはもう忘れてしまった」」
恵風が顔を真っ赤にしたが、真理ちゃんは笑うのを堪えてる。
「いいんだぜ、真理ちゃん。我慢するのは身体によくないよ」「そうそう。思い切り笑って上げよう。それが恵風のためだ」
それでも笑わない真理ちゃん。
うん。初志貫徹だな。真理ちゃんは恵風を励ましてたんだもんな。了解した。
「おい、恵風。オレたちと恵風の思い出だ。忘れるなよ。大事な思い出だ」
オレが告げると、恵風がわかったと言った。
「真司と寛司が笑ったことを、俺は一生忘れない」
そっちを一生忘れないのかよ。恵風は男の子なのか?
(大精霊だろ。そう言ってたじゃん)
その大精霊の眼がこんちくしょーと泣いていた。
でもオレから言わせれば何を言ってるんだかって話だ。そんな主人公みたいな台詞。オレたちは言ったことがない。言えるシチュエーションに立ったことがない。
こんちくしょーは、こっちの方だ。
「まあいいや。恨まれたって、オレたちが羨ましかったのは事実だ。な、弟さま」
「ああ。かっこいよな。そんな台詞。渋すぎる」
「わかった。もう話を戻せ」
「戻すも何も、お前が忘れちまったら、思い出してやれるのはこの場にいないんだぜ。お前が話せよって話だ、恵風。だってお前の仲間を知ってるのは、お前だけなんだぜ」
「精霊世界の大精霊なんだろ、どうせ先達も」
と弟さまが持ち上げると、ああ、と恵風が頷いた。
「精霊の生き様から死に様まで、後先を知ったなら、いつかおまえはモーラに話を、いや、報告をしなくちゃな」
「それが供養ってもんだ」
「そうだな。オレしか、伝える者がいないのだから」
「おっと恵風。もう一人を忘れてやるなよ。生きてる可能性がある一人だ。大事にしてやろうぜ、その可能性を」
恵風がくすりと笑った。
「そうだな」
大きく頷いた。
「せめてその生き残ってる奴の名前だけでもわかれば、探しやすいんだがな」
恵風以前にこの世界に送り込まれた三人の精霊。
その三人が誰に憑いたのかがわかれば、必然的に生き残ってるのが誰なのかはわかるが、それは現状わかりようがない。
「それならわかるぞ」
恵風が思わぬ発言をした。
「何だ?」「何でわかるんだ?」「精霊の特徴がセドリックメロディ病の患者さんに出てたの?」
オレたちが次々に質問を試みる中、恵風がうつむいて思索に入った。
この思索を邪魔してはいけない。
オレたちは息を飲んで恵風がつぎに何を言うのかを待った。
「生き残ってるのは、おそらくアームだ」
そう恵風が告げた。
本日アクセス数がすごい事になってて驚きました。見つけてくれてありがとう。でもこの出来たら投稿の形式にしたのはつい最近なので、以前の話は読み応えたっぷりの、文字ジャンキーか、この物語の世界を本当に知りたい方にしかお薦めしません。内容と布石はいっぱいあることだけは断言しておきますが。
とにかく、がんばります。




